- 著者: David Liu, Jia-Ren Lin, Emily J. Robitschek, Gyulnara G. Kasumova, Alex Heyde, Alvin Shi, et al.
- Corresponding author: Genevieve M. Boland (Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA); Manolis Kellis (MIT)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33941922
背景
ICB (immune checkpoint blockade) はメラノーマ治療を変革した。抗PD-1単剤で40-45%の転移性メラノーマ患者が奏効するが、大多数は一次・適応・獲得耐性により疾患進行・死亡する (Robert et al. NEnglJMed 2015)。獲得耐性機序として、PTEN喪失・β-カテニン活性化・抗原提示機構欠損 (B2M変異)・IFNγ応答障害・ゲノム不安定性・アネウプロイディーなど多様なメカニズムが個別の研究で報告されてきた (Sharma et al. Cell 2017)。また、腫瘍内クローン不均一性がICB抵抗性と関連することが多施設コホートで示されており (Gerlinger et al. NEnglJMed 2012)、治療選択圧下で耐性クローンが選択的に増殖しうることが理論的に予測されていた。さらに、メラノーマ腫瘍微小環境の免疫細胞サブセット構成とICB奏効の関連も明らかにされてきた (Tirosh et al. Science 2016)。しかし、これら複数の耐性機序が単一患者内で時間軸に沿ってどのように出現し相互作用して臨床的「耐性」を確立するかは gap in knowledge として残っていた。特に、ICBへの完全奏効後に晩期再発した患者の9年規模の縦断的多モーダル解析は前例がなく、耐性進化の全体像を描いた研究は手薄であった。
目的
ICBに完全奏効後に晩期再発・死亡した特異な臨床経過を持つメラノーマ患者1例から収集した37例の縦断的腫瘍検体 (診断から急速剖検まで9年間) を対象に、免疫療法耐性の進化動態・ゲノム変化・腫瘍免疫微小環境の変容、およびNGFR (nerve growth factor receptor) 高発現腫瘍細胞の役割を統合的に解明する。
結果
患者臨床経過と37腫瘍検体コホートの構成:67歳男性、stage IIBメラノーマ。転移再発後、sequential ICB試験に参加し、初期はnivolumabおよびipilimumabに対してPD (RECIST -17%)、骨転移への姑息的放射線後、維持nivolumab (D182) から劇的完全奏効へ転換した。D221でRECIST部分奏効 (-45%)、D753で継続回帰 (-73%)、完全臨床奏効認定。D831に自己免疫腎炎が発症 (高用量ステロイド投与)、D1015に孤立性空腸転移切除、D1169に後頭骨脳転移切除+放射線治療。さらに約1.5年後に広範転移再発が出現し、nivolumab再投与・TLR9アゴニスト+anti-PD-1・カルボプラチン+パクリタキセルすべてに耐性を示し、再発から約1年・ICB開始から約6年で死亡した。最終的にn=37腫瘍検体 (原発n=1、治療前n=3、治療中n=18、進行後n=15) が分子解析に用いられた (Fig. 1)。
7腫瘍系統の共進化と共有ゲノム変異の同定:PyClone/PhylogicNDT解析により、618の共有変異 (UV損傷変異スペクトルに一致) と共通祖先ドライバー変異 (IDH1 p.R132C・MAP2K1 [MEK1] p.E203K・CTNNB1 p.R582W・ARID2 p.P1664S) が同定された。全腫瘍は染色体3q・6q・9・10・20のLOH (loss of heterozygosity) を共有し、CDKN2A/B・PTEN・IFNGR1・JAK2・ARID1Bを包含していた。BRAF・NF1・NRAS/HRAS/KRASのドライバー変異は検出されなかった。PyCloneは23クラスター (>3変異) を同定し、階層クラスタリングにより7系統 (lineage 0-6) を推定した。ICB開始時点で7系統がすでに共存しており、lineage 1 (n=8腫瘍)・lineage 2 (n=4)・lineage 3 (n=16) などの空間的・時間的多様性が示された。この所見は治療開始前から高度な腫瘍内不均一性が確立していたことを証明した (Fig. 1b)。
耐性系統 (lineage 3) の特徴と累積的ゲノム変化:空腸・脳の早期再発腫瘍および全治療後耐性腫瘍はlineage 3 (n=16腫瘍) に由来することが確認された。Lineage 3の特徴的変化は染色体15qの対立遺伝子欠失 (LOH) であり、MHC-I (major histocompatibility complex class I) 抗原提示に必須のB2Mを含む領域が欠失していた。さらに、n=33/37腫瘍でPTEN homozygous deletionが確認され (IHCで19腫瘍全例がPTEN陰性)、「早期耐性」クローンではWGD (whole-genome doubling)・CDKN2A homozygous deletionも累積した (Fig. 1c)。4つの独立したWGDイベントが同定され (lineage 0×1・lineage 2×1・lineage 3×2)、WGD腫瘍はアネウプロイディーが有意に高かった (Mann-Whitney U, p<0.001)。「晩期耐性」腫瘍 (急速剖検) では染色体11 LOHがさらに加算され、ATM・CHEK1 (DNA損傷センサー)・KMT2A (エピゲノム制御因子) を含んでいた。脳転移 (R2, D1169) は外科切除+放射線後に再発せず「進化的行き止まり」であった一方、空腸転移クローンが全晩期耐性腫瘍 (急速剖検脳転移を含む) の共通祖先であり、寡転移の積極的局所治療が後続の疾患制御に貢献しうることが示された。
腫瘍免疫微小環境の系統別・経時的動態:n=20腫瘍のRNA-seqによる13種免疫シグネチャーデコンボリューションで、系統とCD4+ T細胞・CD4+ Treg (制御性T細胞、FoxP3+) シグネチャーの発現に有意な関連が認められた (一元配置ANOVA, p=0.018、Benjamini-Hochberg FDR q=0.09)。Lineage 3腫瘍 (n=3) ではその他の系統腫瘍 (n=17) に比べてCD4+・CD8+ T細胞シグネチャーが低下傾向を示し、CD4+ Treg シグネチャーが高い傾向を認めた (naiveCD8+ T細胞シグネチャーで有意差あり p=0.004、未補正)。t-CyCIF (n=34腫瘍) では大多数の腫瘍が免疫学的「コールド」環境 (低レベルの免疫細胞浸潤) を示した。治療早期 (D27-62) の腫瘍辺縁部ではCD8+ effector T細胞・CD4+ FoxP3+ T細胞の割合が治療後期 (D76-109) より高い傾向を認め、治療中の免疫応答の動的変化が示された (Fig. 2)。
NGFR hi腫瘍細胞の高PD-L1発現・免疫細胞近接・血管擬態表現型:t-CyCIF (n=19腫瘍; n=10,386 NGFR hi細胞 vs n=124,763非NGFR hi腫瘍細胞) によるシングルセル解析で、NGFR hi細胞クラスターは他の腫瘍細胞に比べてPD-L1発現が有意に高かった (Student’s t-test, p=0.001)。空間富化解析では<1,000 μmの近接距離で免疫細胞がNGFR hi腫瘍細胞の周囲に有意に集積した (指数回帰z検定)。非内皮性NGFR hi細胞による血管様構造 (vasculogenic mimicry: 血管擬態) が複数腫瘍で観察された (Fig. 3a)。TLR9アゴニスト+anti-PD-1投与前後 (D1849→D1862) のペアd t-CyCIF比較では、NGFR hi S100+腫瘍細胞と免疫細胞の双方が増加し (Fisher’s exact test, p<0.001 both)、CD8+ T細胞 (p=0.001未満) と非T細胞免疫細胞の割合も同時に上昇した (Fig. 3g)。scRNA-seqではNGFR hi細胞で低酸素・TNFα/TGFβ・EMT (上皮間葉転換)・P53経路が富化し、NGFR lo細胞でOXPHOS (酸化的リン酸化)・細胞周期・MYC経路が富化した (Fig. 3i)。脳転移 scRNA-seqでも同様のNGFR hi vs lo差異が再現された。
急速剖検における転移部位特異的NGFR hi空間パターン:急速剖検n=11検体 (肺n=4・皮下n=4・脳n=2・副腎n=1) を解析した (Fig. 4)。肺・皮下転移間でNGFR hi細胞比率やCD8+/CD4+ T細胞比率に定量的差異はなかったが、肺転移でKi67+腫瘍細胞が有意に高かった (p=0.003)。NGFR hi細胞の空間分布は部位特異的な2パターンを示した: 皮下転移では腫瘍辺縁への集積 (高polarity, Student’s t-test p=0.032)、肺転移では腫瘍全体への拡散 (高entropy, p=0.030)。免疫細胞とNGFR hi腫瘍細胞の近接は皮下転移でより強く (CD8+: p<0.001; CD4+ FoxP3-: p<0.001 vs 肺)、部位特異的な腫瘍-免疫細胞相互作用の差異が明確に示された。
考察/結論
本研究はICB完全奏効後に晩期再発した1例のメラノーマ患者から収集した37腫瘍・9年間の縦断的多モーダル解析により、免疫療法耐性の進化ダイナミクスを高解像度で描いた前例のない症例研究である。
先行研究との相違点:これまでの研究はPTEN喪失・B2M欠損・JAK1/2変異など個別の耐性メカニズムを独立に同定・報告していた (Sharma et al. Cell 2017)。対照的に、本研究はこれら複数の機序 (15q LOH/B2M喪失・PTEN homozygous deletion・WGD・CDKN2A喪失) が単一クローン (lineage 3) に収束して初めて持続的な臨床耐性が確立することを、縦断的に実証した。これは既報の「sequential acquisition」仮説に対して、複数の免疫回避機構が単クローン内に統合される「convergent multi-hit」モデルを支持する新たな視座を提供している。また、治療前から7系統が共存していたことは、ICB開始時点での腫瘍内多様性の程度を示す点でも既存の一断面解析とは異なる重要な発見である。
本研究で初めて示された新規な知見:NGFR hi腫瘍細胞が高PD-L1発現・免疫細胞近接・血管擬態表現型を持つことを、ICB治療患者の in vivo t-CyCIF解析で直接実証した点は新規に本研究で示された。先行研究ではNGFR hiプログラムが標的療法耐性に関与することが示されていたが、ICB治療患者での高解像度な空間解析はこれまで報告されていなかった。本研究はNGFR hi細胞がT細胞を誘引しながらも殺傷を回避する「適応耐性の場」として機能することを初めて示唆した。さらに肺・皮下転移でのNGFR hi細胞空間パターンが部位特異的に異なることも、新規な発見として意義深い。寡転移 (空腸転移) の根絶が全晩期耐性腫瘍の祖先クローンを消去できなかった一方、脳転移 (D1169) の外科的根絶が「進化的行き止まり」となり後続再発を招かなかった事実も、寡転移の克服可能性を支持する新規の観察である。
臨床応用への示唆:空腸転移 (D1015) の外科切除後に晩期耐性クローンが出現したことは、臨床的「完全奏効」時点でもすでに潜在的な耐性クローン (lineage 3) が存在していたことを意味し、臨床的意義が大きい。このことは完全奏効患者であっても継続的な腫瘍モニタリングが重要であることを示す。また、寡転移の積極的局所治療が耐性クローンの根絶に寄与しうる可能性は、bench-to-bedsideの観点から外科切除や放射線治療の戦略的組み込みを支持する。さらに、NGFR hi腫瘍細胞や血管擬態構造を標的とした新規治療アプローチの臨床的探索も示唆される。
残された課題と今後の展望:本研究の最大の limitation は単一患者の詳細症例研究である点であり、この患者の腫瘍進化動態がBRAF/NRAS変異型など多様な遺伝型のメラノーマ全体を代表するかどうかは不明である。大規模コホートでの検証が今後の検討として必須である。また、D831の自己免疫腎炎に対するステロイド投与が免疫抑制を通じて晩期耐性クローンの出現を促進した可能性も排除できない。さらに、循環腫瘍DNA等の血液バイオマーカーとの統合縦断解析や、エピゲノムシーケンシングなど追加モダリティの統合が将来的な研究として指摘されており、より侵襲の少ない腫瘍モニタリング手法の開発が期待される。更なる検討として、NGFR hi腫瘍細胞が免疫細胞を誘引するメカニズムの解明と治療標的としての妥当性評価も重要な課題として残されている。
方法
67歳男性メラノーマ患者 (stage IIB結節型、広域切除・センチネルリンパ節生検陰性後に2.5年で転移再発) から、原発腫瘍・治療前・治療中・進行後・急速剖検の各時点を含む9年間にわたるn=37腫瘍検体を収集した。患者はsequential ICBの第2相試験 (nivolumab → ipilimumab → nivolumab維持) に参加した。
分子解析は全エクソームシーケンス (WES: whole-exome sequencing、目標カバレッジ >50×)、バルクRNA-seq、高多重蛍光免疫染色 (t-CyCIF: tissue cyclic immunofluorescence)、単一細胞RNA-seq (scRNA-seq;頚部腫瘍は10X Genomics 3’ v2; 脳転移はSmart-seq2 (a full-length plate-based single-cell RNA-seq method)) を実施した。WES解析にはGetz Lab WES analysis pipelineをBroad Institute Terra環境上で適用した。変異検出はMuTectアルゴリズム (一塩基変異) とStrelka (indel)、アノテーションはOncotatorを用いた。コピー数変異はCapSeg/Allelic CapSeg (二分割セグメンテーション法を改変) で算出し、腫瘍純度・倍数性はABSOLUTE (a Bayesian algorithm for tumor purity and ploidy inference) で推定した。
系統学的解析はPyClone (v0.13.1、Bayesianクラスタリング法、10,000 iterations) とPhylogicNDT (多次元Dirichlet過程) を相互補完的に使用し、変異クラスター同定・系統構造推定を行った。RNA-seqはRSEM (RNA-Seq by Expectation-Maximization) +Bowtie2 (hg19参照) でTPM/FPKM定量し、メラノーマscRNA-seq由来13種免疫シグネチャー (CD4+・CD8+ T細胞・Treg・NK・マクロファージ等) によるシングルサンプル免疫デコンボリューションを実施した。Hallmark遺伝子セット解析はGSEA (gene set enrichment analysis) をMSigDB Hallmark collectionに対して行った。scRNA-seqのダウンストリーム解析はSeurat v3.1.0およびscanpy v1.4.4を使用し、NGFR高発現プログラムのスコアリングはVISION (Visualization and Inference of Single-cell RNA-seq data On Networks) Rパッケージで実施した。統計手法はANOVA・Mann-Whitney U検定・Student’s t検定 (両側)・Fisher’s exact検定・指数回帰z検定を使用した。