- 著者: Suchit Jhunjhunwala, Christian Hammer, Lélia Delamarre
- Corresponding author: Suchit Jhunjhunwala; Lélia Delamarre (Genentech Inc., South San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 33750922
背景
がん免疫療法の根幹をなすCD8+ T細胞応答は、腫瘍細胞表面のHLA-I (MHC class I: major histocompatibility complex class I) による抗原提示に依存する。この提示プロセスは2段階からなる: 第一段階として樹状細胞 (DC: dendritic cell) による腫瘍抗原のクロスプレゼンテーションを経てリンパ節でナイーブCD8+ T細胞がプライミングされ、第二段階として腫瘍細胞上でのHLA-I直接提示によりエフェクターCD8+ T細胞が腫瘍を認識・殺傷する。免疫チェックポイント阻害 (ICI: immune checkpoint inhibition) は抑制シグナルを解除してこの抗腫瘍T細胞応答を回復させるが、臨床的有効性を示す患者は全体の一部に限られており、その理由として腫瘍による抗原提示障害が注目されてきた (Schumacher et al. Science 2015)。
腫瘍特異的抗原 (TSA: tumour-specific antigen) のうち最も免疫学的に重要なのはネオ抗原(点変異・インデル・遺伝子融合・選択的スプライシング由来)であり、ICI奏効や腫瘍浸潤リンパ球療法の有効性と関連することが複数の研究で示されてきた。がん免疫編集の概念は、免疫系が腫瘍の発生・進行を制御する一方で免疫回避クローンが選択されることを説明するフレームワークであり (Schreiber et al. Science 2011)、HLA-I発現の低下・消失がICI耐性と関連するという散発的な報告が蓄積してきた。しかしこれまでの研究は特定がん種での個別機序の同定にとどまり、APM (antigen processing and presentation machinery: 抗原プロセシング・提示機構) 障害の全体像を汎がんレベルで体系化した研究は手薄であった。ICB耐性はPD-L1発現やTMB (tumor mutational burden: 腫瘍変異量) などT細胞機能・免疫原性の観点から論じられることが多く、HLA-I抗原提示機構の障害を独立した耐性軸として位置づけた研究に gap in knowledge があった (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。またDC機能不全と腫瘍細胞固有のHLA-I調節機構、さらにはNK細胞の「missing-self」監視とその回避戦略を統合的に論じた文献も不足していた。本Reviewはこれらの知識の空白を埋めるため、HLA-I抗原提示障害の全機序を体系化し、免疫療法設計への含意を提示することを目的とした。
目的
HLA-I抗原提示障害に関わる多層的機序を統合的に体系化することを目的とする。具体的には、(1) DC機能不全 (cDC1リクルート阻害・mregDCによる免疫抑制・脂質酸化によるクロスプレゼンテーション障害) の機序、(2) 遺伝的 (HLA-I/B2M変異・LOH) ・エピジェネティック・転写・翻訳後の各レベルでのHLA-I発現調節、(3) HLA-I喪失腫瘍に対するNK細胞の「missing-self」監視機構とその回避戦略、(4) HLA-I独立型免疫療法 (NK細胞療法・CAR-T・CD3二重特異性抗体) の設計根拠、を包括的に論じる。
結果
cDC1機能不全による一次的プライミング障害:cDC1 (type 1 conventional DC: BATF3依存性1型古典的樹状細胞) は腫瘍抗原クロスプレゼンテーションに特化した主要なpAPC (professional antigen-presenting cell: プロフェッショナル抗原提示細胞) である。Batf3ノックアウトマウスはcDC1を欠損しており、抗腫瘍CD8+ T細胞応答とICI応答がともに完全に喪失する。腫瘍内cDC1密度はT細胞浸潤・患者生存・ICI奏効と正相関し、cDC1はCXCL9・CXCL10産生によるエフェクターCD8+ T細胞リクルートや、活性化T細胞からのIFNγ感知→IL-12産生→T細胞機能増強というフィードバックループを担う (Fig. 2)。腫瘍はcDC1の腫瘍内リクルートを複数の経路で抑制する。(1) β-カテニン経路の活性化がCCL4/CCL5の腫瘍細胞分泌を抑制してcDC1リクルートを阻害し、ICI耐性をもたらす(マウス・ヒトメラノーマおよび肝がんで確認)。(2) 低酸素腫瘍細胞からのCOX2依存的PGE2 (prostaglandin E2) 産生がNK細胞の機能・生存を障害してcDC1の腫瘍内蓄積を妨げ(ヒトがんでCOX2発現と腫瘍内NK・T細胞は逆相関)、DC成熟も抑制する。(3) 腫瘍細胞からのVEGF分泌がDC前駆細胞のcDC1への分化・成熟を阻害する。(4) IL-6・TGFβ・IL-10(腫瘍細胞・制御性T細胞・M2マクロファージ・MDSCsから産生)がDCを忍容化 (tolerogenic) 表現型へ転換する。加えて、mregDC (mature DCs enriched in immunoregulatory molecules: 免疫調節分子に富む成熟DC) という新規DC集団が腫瘍内で同定され、cDC1の免疫賦活機能を抑制してリンパ節でのT細胞活性化を制限することが示された。さらに腫瘍内cDC1では酸化型脂質の蓄積がERストレスセンサーXBP1を活性化し、チャペロンHSP70が隔離されることでHLA-I-ペプチド複合体の細胞表面移行が障害され、クロスプレゼンテーション能が低下する機序も示された。DC機能不全を克服する治療戦略として、TLR3リガンドpoly(I:C)・STINGアゴニスト等のin situワクチン(腫瘍局所への自然免疫刺激送達)、VEGF阻害、FLT3LによるcDC1増加、CCL4腫瘍内送達(cDC1リクルート→ICI奏効改善)が前臨床モデルで有効性を示した。
HLA-IおよびB2M遺伝的喪失の汎がん的頻度:HLA-I座は19,000以上のアレルを持つヒトゲノム最大の多型性座位であり、変異解析にはカスタムアライメントが必要である。TCGA >7,500例のカスタム解析でHLA-I遺伝子の非同義変異が3.3-4%に同定された(がん種別では最高14%の胃がん)。B2Mの非サイレント変異はより低頻度の0.86%(胃がんで最高5.7%)であり、β2mタンパク質が119アミノ酸と小さいことに起因する可能性が指摘された。注目すべきはHLA-I・B2M変異がT細胞溶解活性の高い腫瘍で濃縮されており、免疫圧力による選択が示唆される点で、機能喪失型変異(ナンセンス・フレームシフト・スプライス部位)が優位であり、腫瘍抑制遺伝子としての性格と一致した (Fig. 3b)。特定のがん種ではB2M変異頻度が著しく高く、DLBCL (diffuse large B cell lymphoma: びまん性大細胞型B細胞リンパ腫) およびホジキンリンパ腫ではB2M変異・欠失が>25%に認められ、その約半数が両対立遺伝子性不活化 (bi-allelic inactivation) であった。これらのリンパ腫はB細胞(pAPC)由来であり、発生早期から免疫監視が機能するため抗原提示廃絶が腫瘍増殖に不可欠となった可能性が示唆された。MSI-H (microsatellite instability-high: マイクロサテライト不安定性高) 大腸がんではB2Mが182例中24%で変異(大多数が截断変異)し、MSI-H腫瘍全般でHLA-I・B2M変異が高度に濃縮されることが示された。遺伝的欠失のうちLOHはより高頻度で、汎がん臨床ゲノムデータセット (n=83,644) での解析でHLA-I LOHは全体の17%に検出され(がん種別で2-42%と広範囲に変動した)、NSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺がん) では約40% (n=36/90例)、胸腺上皮腫瘍では83% (n=30/36例) という高率が報告された。メラノーマICI非奏効者でのB2M LOH頻度は約30%であり、B2Mの完全喪失は非奏効者にのみ見られた。不可逆的な遺伝的HLA-I喪失に対してはHLA-I非依存型の免疫療法(NK細胞療法・腫瘍関連マクロファージ活性化・CAR-T・CD3二重特異性抗体・不変MR1 (MHC class I-related molecule) ベースTCR)が必要となる。APMコンポーネント (PLC: peptide loading complex) およびIFNγシグナル遺伝子セットのホモ接合欠失・截断変異は10,967例のTCGAで合計約9% (956例) が何らかの変異を持ち、これはLOH・ミスセンス変異を除いた机上最低限の推計であることに留意する必要がある。
IFNγ/JAK経路・NLRC5障害による可逆的HLA-I低下:IFNγシグナルはHLA-I抗原提示の中核フィードバックループを構成する(Fig. 3a)。IFNγ→IFNγR(IFNγR1/IFNγR2ヘテロダイマー)→JAK1/JAK2→STAT1→NLRC5(HLA-Iトランスアクチベーター: MHC class I transactivator、CITAとも呼ばれる)→HLA-I重鎖・B2M・APMコンポーネントの転写誘導、という経路の障害はICI耐性と強く関連する。マウス腫瘍モデルおよびヒトメラノーマ細胞株のゲノムワイドCRISPRスクリーンにより、STAT1・JAK1・JAK2・IFNγR1・IFNγR2がICI応答・T細胞認識に必須であることが確認された。ICI獲得耐性を生じたメラノーマ4例のうち2例でJAK1および/またはJAK2の新規変異が後天的に生じており、抗CTLA-4治療への耐性もIFNγ経路遺伝子の喪失と関連した。JAK1機能喪失変異の頻度はがん種間で異なり、子宮体がんで最高(約8%)と報告され、JAK1の反復性変異は低いIFNγ応答シグネチャーと相関した。ただし多くの場合ヘテロ接合変異であり、ホモ接合欠失ではなく相対的なシグナル減弱が生じることが示唆された。NLRC5のコピー数喪失は7,730例のTCGA解析で28.6%と高頻度であり、これは単一遺伝子変異・欠失よりも広範な患者集団でHLA-I発現低下に寄与しうる。胚発生期に発現する転写因子DUX4が特定のがん種で再活性化され、IFNγ誘導性HLA-I発現を阻害し、また抗CTLA-4免疫療法耐性との関連がメラノーマで確認された。IFNγシグナルはHLA-I誘導・抗腫瘍効果と並行してPD-L1上昇やがん細胞生存促進などの腫瘍促進的作用も持つため、IFNγシグナルが保たれた腫瘍では抗原提示は維持されつつPD-L1上昇等の別機序で免疫回避が生じている可能性がある。可逆的な機序であるため、IFNγ経路の治療的回復(IFNγ+ICI併用・放射線によるNLRC5誘導)が治療戦略として検討される。
エピジェネティック抑制・転写制御とNBR1介在オートファジー:HLA-I発現は転写レベルにおいてもエピジェネティックな機序で広範に抑制される。胃がん患者の87.23%で少なくとも1つのHLA-I遺伝子プロモーターに腫瘍特異的高メチル化が検出され、大多数の症例で対応遺伝子の発現低下と相関した。食道がん87例の70.1%でも同様のHLA-I遺伝子プロモーター高メチル化が確認されており、消化器がんでの頻度が特に高い (Fig. 3a)。ゲノムワイドCRISPRスクリーン(赤白血病細胞株K-562)では、PRC2 (polycomb repressive complex 2: ポリコームリプレッサー複合体2) がAPMコンポーネントおよびNLRC5を基礎条件・IFNγ応答条件のいずれでも転写抑制することが同定された。これはPRC2が正常な幹細胞・神経前駆細胞の発生においても担う機能であり、これらの系譜から発生した腫瘍がこの機構を流用して抗原提示を抑制しうることを示す。DLBCL(胚中心B細胞様サブタイプ)ではEZH2 (enhancer of zeste homolog 2、PRC2の触媒サブユニット) の変異がHLA-IおよびHLA-IIの両者の発現低下と関連しており、EZH2阻害薬によるHLA-I発現回復が実験的に示された。膀胱がん(移行上皮がん)の72例中11例 (15.3%) で免疫組織化学によりHLA-Iの完全喪失が確認され、HLA-I遺伝子に加え他のAPMコンポーネント遺伝子も協調的に発現低下していたことは、APM遺伝子群の共通マスターレギュレーターが障害された可能性を示唆した。翻訳後レベルの新規HLA-I排除機構として、PDAC細胞がカーゴ受容体NBR1を介した選択的マクロオートファジーによってHLA-I複合体をリソソームへ誘導・分解し、表面HLA-I発現を低下させることが初めて報告された。この現象はヒトPDAC細胞株のリソソーム分画でHLA-Iが濃縮されることで示され、かつ全9例のPDAC患者手術検体での免疫組織化学で確認されたことで高い再現性が証明された。マウスPDACモデルではオートファジー阻害により腫瘍内T細胞浸潤が増加し、通常ICI単剤では無効なPDACでICI感受性が回復した。なお腫瘍ではHSP90が変異タンパク質を安定化させてプロテアソームによる分解を防ぎ、結果としてネオ抗原の生成・HLA-I提示を阻害するという機序も報告されており、APMの上流でもペプチド供給が制御される。
ERAPs変化によるペプチドレパートリーの質的変化:HLA-I抗原提示の量的低下とは別に、ペプチドレパートリーの質的変化も免疫回避に寄与しうる。ERAP (ER aminopeptidase: 小胞体アミノペプチダーゼ) 1・ERAP2はERでのペプチドトリミングに関与し、HLA-I結合に最適な長さのペプチド供給を担う。ERAP遺伝子の変異はTCGAで0.6-0.8%と低頻度だが、発現量はがん種間で大きく変動し質的なペプチドレパートリー変化が生じうる。マウスを使った実験ではERAP欠損DCのHLA-I上ペプチドの約75%が野生型DCと共有されており、残りの25%は新規または消失したペプチドであることが質量分析により示された。ERAP1阻害はメラノーマ細胞株での腫瘍抗原MART1 (melanoma antigen recognized by T cells 1) の提示量を約2-fold増加させ(p<0.05)、MART1特異的T細胞応答を増強した。一方でERAP2の低発現は膀胱がんluminalサブタイプでICI下のOS (overall survival: 全生存期間) 改善と関連した(HR=0.58、95% CI 0.37-0.91)。免疫プロテアソームサブユニット(β1i・β5i)の発現はTCGAメラノーマ472例でOS改善と相関し、過剰発現させたメラノーマ細胞株は自家TIL (tumour-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) によるT細胞応答を増強した。TAP (transporter associated with antigen processing) 遺伝子サイレンシングはHLA-I表面発現を部分的に低下させる一方でクリプティック抗原の提示を可能にし、4T1乳がんマウスモデルで腫瘍免疫原性の増強が観察された。ペプチドレパートリーの質的変化の予測は計算手法的にも困難であり、iNeST (individualized neoantigen-specific immunotherapy: 個別化ネオ抗原特異的免疫療法) の設計において未解決の課題である。
NK細胞「missing-self」監視と腫瘍の回避戦略:NK細胞は固有の活性化・阻害受容体レパートリーを持ち、HLA-I発現の消失を「missing-self」として認識して腫瘍を殺傷するという免疫監視機能を担う(Fig. 4)。阻害性KIR (killer cell immunoglobulin-like receptor: キラー細胞免疫グロブリン様受容体) とHLA-Iの相互作用が消失すると、NK細胞の活性化シグナルが優位となり腫瘍殺傷が生じる理論だが、腫瘍は複数の戦略でこのNK細胞監視を回避する。(1) HLA-E(HLA-Iシグナルペプチドに依存して発現する非古典的HLA-I遺伝子産物)がHLA-I非依存的に腫瘍細胞・DC・マクロファージで過剰発現し、NK細胞およびCD8+ T細胞上のNKG2Aへの阻害シグナルを強化する(早期乳がんでHLA-IとHLA-Eの発現が解離することが示されており、HLA-I喪失に乗じた回避機構として機能)。(2) NKG2Dリガンドである MICA・MICBが腫瘍細胞表面からシェディングされ、可溶型となってNKG2Dを遮断し活性化シグナルを消失させる。また制御性T細胞(Treg)もNKG2Dの低下に寄与する。(3) NK細胞上でPD-1・TIGIT・CD112R (PVRIG) ・CD96といった免疫チェックポイントが上方制御され、腫瘍細胞のネクチンリガンド (CD155/NECL5・CD112/Nectin 2) がこれらを活性化して阻害シグナルを供給する。(4) HLA-Gが発現し、NK細胞上のILT2・KIR2DL4受容体を介した阻害シグナルを供給する。腫瘍内NK細胞頻度は複数のがん種で予後因子となっており、メラノーマでは抗PD-1治療への奏効・OSの予測因子として確認された。患者の生殖系列HLA-IおよびKIR遺伝子型の組み合わせもNK細胞教育・腫瘍内浸潤能を規定することが示唆されており、HLA-C1/C2ヘテロ接合NSCLCではホモ接合患者に比べて腫瘍内NK細胞浸潤が増加していた。NK細胞療法(同種NK輸注・NKG2Aを標的とするmonalizumab・NK細胞エンハンサー・活性化受容体アゴニスト等)がHLA-I喪失腫瘍に対する新規アプローチとして探索段階にある。
考察/結論
本Reviewの最も重要な新規な貢献は、HLA-I抗原提示障害を「可逆的 vs 不可逆的」という治療実装の観点から体系的に二分類した点にある。これまで報告されていない知見として、PDAC細胞でのNBR1介在選択的オートファジーによるHLA-I翻訳後排除という全く新規の機序を腫瘍免疫回避戦略の一翼として位置づけたことが挙げられる。この機序はn=9のPDAC患者全例で確認され、オートファジー阻害によってICI感受性が回復することを示した点で、直接的な治療標的としての可能性を示す。
これまでの研究ではICB耐性はPD-L1発現・TMBの低さ・免疫抑制性TMEの観点から論じられることが多く、これと異なり本Reviewは、APMの機能喪失が患者の約9% (n=10,967) においてゲノム変異として生じており、LOH(約17%)やエピジェネティック変化(胃がん87.23%・食道がん70.1%)を加えると実質的な貢献はさらに大きいと初めて包括的に定量化した。既報のメラノーマ非奏効者でのB2M LOH約30%という数値は、抗原提示機構の評価がICI適応患者選択において臨床的意義を持つことを示す重要なエビデンスである。
臨床応用の観点からは、可逆的なAPM障害(JAK/STATシグナル低下・PRC2によるエピジェネティック抑制・NBR1オートファジー・DNAメチル化)に対してはDNMTi (DNA methyltransferase inhibitor)・EZH2阻害薬・オートファジー阻害薬・放射線療法によるHLA-I発現回復とICIの組み合わせが設計根拠となる。放射線が膵臓がんモデルでNLRC5を介してHLA-I発現を誘導しICI感受性を回復させた知見は放射線+ICI併用戦略の橋渡しとして注目される。一方で不可逆的なB2M・HLA-Iの遺伝的喪失(比較的稀だが重要な患者集団)に対しては、CAR-T細胞療法・CD3二重特異性抗体・HLA-I非依存性の表面抗原認識・MR1ベースTCR・NK細胞活性化療法など、HLA-I依存性を持たない新規免疫療法戦略への橋渡しが求められる。高TMBのMSI-H腫瘍ではAPM障害(B2M変異・JAK変異)とネオ抗原高負荷が共存するという逆説的状況が生じており、この状況での免疫療法への応答は今後の検討が必要な課題として残されている。
残された課題として最も重要なのは、APM障害と他の免疫回避機構(PD-L1過剰発現・免疫抑制細胞の浸潤・ネオ抗原欠失)の組み合わせが患者レベルの療法耐性にどの程度寄与するかを定量化することである。またHLA-Iペプチドレパートリーの質的変化(ERAP発現変動・免疫プロテアソーム比率変化)を個別患者で測定する技術の開発も今後の展望として挙げられる。さらに、NK細胞教育を規定するHLA型・KIR遺伝型の組み合わせを患者選択バイオマーカーへ応用する研究や、APM障害の可逆性・不可逆性をin situで区別する臨床バイオマーカー(液生検等)の開発がfuture researchとして必要であると著者らは指摘する。limitation として、本Reviewで引用された多くの前臨床データはマウスモデルや細胞株に基づくものであり、ヒト腫瘍でのtranslationには慎重な検証が求められる。
方法
本論文はPubMed/MEDLINE索引文献の系統的レビューを基盤とし、TCGA (The Cancer Genome Atlas) データベースの大規模ゲノム解析を主要エビデンス源として用いた。HLA-I遺伝子変異の頻度解析にはHLA座特有の高多型性に対応したカスタムアライメントツールを使用し、対応正常組織を持つ腫瘍サンプル >7,500例を解析した。APMコンポーネントおよびIFNγシグナル遺伝子セットにおける機能喪失変異(ホモ接合欠失・フレームシフト・ナンセンス変異・スプライス部位変異)は計10,967例のTCGAデータ(cBioPortal使用)を対象としてオンコプリントとして可視化された (Fig. 3b)。HLA-I LOH (loss of heterozygosity: ヘテロ接合性喪失) の汎がん解析にはMontesionらの大規模臨床ゲノムデータセット (n=83,644) が引用された。NLRC5 (NLR family CARD domain-containing protein 5: MHC class I transactivator) 変異・コピー数異常の解析にはTCGA 7,730例と9,061例のデータセットが用いられた。DC生物学に関するデータはBatf3 (basic leucine zipper ATF-like transcription factor 3) ノックアウトマウス・ICI処置マウス腫瘍モデルを用いた複数の前臨床研究から引用した。IFNγシグナル経路コンポーネントの必須性はマウス腫瘍モデルおよびヒトメラノーマ細胞株でのゲノムワイドCRISPRスクリーンにより検証された(STAT1・JAK1・JAK2・IFNγR1・IFNγR2が対象)。IFNγ経路変異の臨床的意義はメラノーマICI臨床コホートの後ろ向き解析から引用し、ICI獲得耐性例4例を含む複数コホートを統合した。PDAC (pancreatic ductal adenocarcinoma: 膵管腺がん) 細胞でのNBR1 (neighbor of BRCA1 gene 1) 介在選択的オートファジーはn=9のPDAC患者手術検体の免疫組織化学・リソソーム分画解析を含む実験データにより検証された。ERAP遺伝子発現・変異データはTCGA解析およびメラノーマ・膀胱がん患者コホートを用いた後ろ向き解析から引用した。