• 著者: Veronika Groh, Rebecca Rhinehart, Heather Secrist, Stefan Bauer, Kenneth H. Grabstein, Thomas Spies
  • Corresponding author: Veronika Groh (vgroh@fred.fhcrc.org); Thomas Spies (tspies@fred.fhcrc.org) (Fred Hutchinson Cancer Research Center, Clinical Research Division, Seattle, WA, USA)
  • 雑誌: Proc Natl Acad Sci USA
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10359807

背景

ヒトMHCクラスI関連分子であるMICA (MHC class I chain-related protein A) ・MICB (MHC class I chain-related protein B) は、細胞ストレスにより発現誘導される自己抗原として1990年代後半に詳細な解析が進んだ分子群である。Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1996が示したように、正常組織でのMICA/B発現は消化管上皮に限定されており、この限局した分布がその部位でのTCRδ鎖可変領域Vδ1 (T cell receptor delta variable region 1) を発現するγδ T細胞の頻度増加と相関していた。続く1998年のGrohらの研究 (Science 279:1737) ではMICA/BがVδ1 γδ T細胞のTCRを介したリガンドとして同定され、このγδ T細胞によるMICA/B認識がTCR接合部配列の多様性に依存しない「無条件的」性質を持つことが腸管上皮において初めて示された。

一方、従来の腫瘍免疫における細胞傷害性T細胞 (CTL) 応答は、腫瘍抗原由来ペプチドとMHCクラスI分子の複合体をαβ T細胞が認識するという高度に選択的な機構に依存している。しかしこのCTL依存的免疫応答は、腫瘍細胞でのMHCクラスI発現低下 (Ferrone & Marincola 1995)、特定ペプチドの高選択的結合制約 (Rammensee 1993)、および細胞内抗原プロセシング障害など複数の要因によって回避される。Jhunjhunwala et al. NatRevCancer 2021が後に包括的に示したように、腫瘍での抗原提示経路の異常は免疫監視回避の主要機構の一つであり、MHCクラスI非依存的な代替認識経路への関心が長年高まっていた。

さらに肺・結腸・腎細胞癌等の各種上皮癌で腫瘍浸潤リンパ球中のVδ1 γδ T細胞比率が末梢血に比べ増加するという観察が複数の研究グループから報告されていた (Zocchi 1990, Maeurer 1996等)。また培養上皮系腫瘍細胞株ではMICA/Bが広く発現することも観察されていた。しかし新鮮手術標本を用いた多癌腫にわたる系統的なMICA/B発現解析と、腫瘍由来Vδ1 γδ T細胞の機能的認識能の実証はgap in knowledgeとして不足しており、培養細胞株での観察が実際の腫瘍検体に外挿できるかどうかは未解決であった。

目的

新鮮手術切除標本を用いて肺・乳腺・卵巣・前立腺・結腸・腎細胞癌の6種類の上皮癌でのMICA/B発現を定量化し、MICA/B発現と腫瘍内Vδ1 γδ T細胞比率の相関を解析する。また、MICA/B陽性腫瘍から樹立したVδ1 γδ T細胞株・クローンを用いて、MICA/Bを発現する自己・他家腫瘍細胞に対する機能的認識・殺傷能およびIFN-γ (interferon-gamma) 産生を実証することで、MICA/Bが腫瘍関連抗原として自然免疫的腫瘍監視において機能する可能性を検証する。

結果

多種類の上皮癌新鮮標本でのMICA/B腫瘍関連発現:癌腫種を超えた普遍的発現を実証:フローサイトメトリーを用いた新鮮腫瘍細胞懸濁液の解析では、乳腺癌2/10、肺癌2/6、卵巣癌5/6、前立腺癌2/4、腎細胞癌2/2、結腸癌4/5の標本でmAb 6D4との有意な反応性が確認された (Fig. 1B-G)。陽性標本では約40–70%の腫瘍細胞が中等度〜高度のMICA/B発現を示した。mAb 2C10を用いた解析でも同様の結果が得られたが、結腸癌1例と腎細胞癌1例でmAb 6D4陽性ながらmAb 2C10陰性であり、これらではMICBが優勢に発現していた可能性が示唆された。免疫組織化学では、乳腺癌7/20 (対応正常乳腺6/6は全例陰性、Fig. 2A, B)、肺癌2/2 (Fig. 2C)、卵巣癌2/3 (Fig. 2F)、前立腺癌2/2、腎細胞癌2/2 (Fig. 2E) で腫瘍細胞に特異的な陽性染色が確認された。腫瘍細胞に特異的であることは、隣接する結合組織が一貫して陰性であることから確認された。初期の広範な組織スクリーニングでは皮膚・肺・扁桃・肝臓・腎臓・副腎・卵巣・前立腺の正常組織は全て陰性であり、消化管上皮のみが一貫してMICA/B陽性を示した。末梢血単核球もフローサイトメトリーで陰性であった。癌腫間で発現頻度に不均一性が認められた (特に乳腺癌はフローで2/10と比較的低頻度) ものの、MICA/B発現は癌腫種を越えた共通の腫瘍関連特性であることが新鮮手術標本で初めて系統的に実証された。

MICA/B陽性腫瘍で腫瘍浸潤Vδ1 γδ T細胞比率が有意に高い:in vivoでの機能的相関:Table 1に示すように、MICA/B陽性腫瘍 (n=13: 乳腺2・肺2・卵巣3・前立腺2・腎1・結腸3) における全γδ T細胞中Vδ1 γδ T細胞比率は35–100% (mean 63%) であった。一方、MICA/B陰性腫瘍 (n=9: 乳腺6・肺2・前立腺1) では2–40% (mean 17%) にとどまった。陽性群のVδ1比率は陰性群の約3.7倍であり、Wilcoxon rank-sum検定でP<0.0001と統計的に高度有意であった。全腫瘍でのγδ T細胞/CD3+ T細胞比率は1–16% (mean 4.4%) であり、末梢血の正常範囲 (0.5–15%、mean 5%) と同等であった。すなわち腫瘍内γδ T細胞総数には差がなく、Vδ1 γδ T細胞サブセットが選択的にMICA/B陽性腫瘍に集積ないし拡張していることが示唆された。この生体内での相関は、MICA/Bが腫瘍内でVδ1 γδ T細胞の誘引・選択的維持を積極的に促している可能性を示す重要な状況証拠である。代表的な個別症例として、卵巣癌OT-183-83では全γδ T細胞の80%がVδ1陽性であり、同種の乳腺癌BT-238-29では100%に達した。

腫瘍由来Vδ1 γδ T細胞株がMICA/B transfectantおよび多様な異種腫瘍細胞を特異的に認識・殺傷:乳腺・肺・卵巣・結腸癌由来4株のVδ1 γδ T細胞株 (BT δ1・LT δ1・OT δ1・CT δ1) は、全て51Cr放出アッセイでC1R-MICAおよびC1R-MICB transfectantに対して強力な細胞傷害活性を示した (Fig. 3A-D)。この殺傷はmAb 2C10 (anti-MICA) またはmAb 6D4 (anti-MICA/B) 処置により完全に阻害されたが、アイソタイプ対照IgGおよびHLA mAb W6/32では阻害されなかった。同一腫瘍由来のCD8+ αβ T細胞株 (BT αβ) はC1R-MICA/MICBに対して傷害活性を示さなかった (Fig. 3E)。Vδ2 γδ T細胞株 (OT δ2) もC1R-MICA transfectantへの増強反応を示さなかった (Fig. 3F)。卵巣腫瘍由来OT δ1株は、卵巣癌 (OV-1063・SW626)・前立腺癌 (DU145・PC-3)・結腸癌 (HCT116・Lovo・DLD-1・SW480)・肝癌 (HepG2)・子宮頸癌 (HeLa) の多様な腫瘍細胞株 (全てMICA/B陽性確認) を殺傷し、いずれもmAb 6D4ブロッキングで阻害された (Fig. 4A, B)。さらに卵巣癌由来Vδ1 γδ T細胞クローン (OT δ1.1) が、事前培養なしに融解した自己卵巣癌・他家乳腺癌・他家肺癌・他家卵巣癌の新鮮腫瘍細胞に対してIFN-γを産生し (ELISA定量)、mAb 6D4ブロッキングにより完全阻害されることが確認された (Fig. 4C)。これらの結果は、腫瘍由来Vδ1 γδ T細胞が自己・他家腫瘍細胞のMICA/Bを腫瘍種・MHC多型・ペプチドリガンドの制約を受けない形で無条件的に認識することを実証した。

腫瘍由来Vδ1 γδ T細胞クローンはTCRδ鎖接合部配列の高多様性を示す:乳腺・肺・卵巣・結腸癌由来のVδ1 γδ T細胞クローンについてδ鎖cDNA配列を直接解析した結果、38クローンから12種類の異なるδ鎖が同定された (乳腺6/10・肺2/11・卵巣3/7・結腸1/10クローン)。これらの接合部配列 (CDR3領域) には明確な類似性が認められず、多様なjunctional sequence combinationがMICA/Bを認識できることが示された。この結果は、MICA/Bが特定のTCR配列を必要とする従来の抗原提示様式とは異なり、幅広いVδ1 γδ T細胞クロノタイプによって普遍的に認識される「汎用的ストレスリガンド」として機能することを裏付けている。なお自己・他家腫瘍を認識する細胞クローンを1週目からバルク培養リンパ球より直接ソーティングで樹立した点は、腫瘍に選択的に集積していたVδ1 γδ T細胞が腫瘍抗原MICA/Bへの反応性を既に in vivo で獲得していた可能性を示している。

考察/結論

本研究はGroh・Spiesグループ (Fred Hutchinson Cancer Research Center) によって1999年に発表された、MICA/Bを多種類の上皮癌における腫瘍関連抗原として新鮮標本で初めて系統的に実証した先駆的論文である。これまでの研究ではMICA/Bの発現は消化管上皮に限定され、感染や傷害等のストレスシグナルとして腸管上皮γδ T細胞の監視に機能すると考えられていた。本研究で初めて、肺・乳腺・卵巣・前立腺・腎・結腸の6種類の上皮癌の新鮮手術標本においてMICA/Bの腫瘍関連発現が実証され、その発現が癌腫種を越えた普遍的な特性であることが明らかになった。この知見は、MICA/B誘導が腫瘍の恒常性・増殖に関連する条件 (増殖シグナル・代謝ストレス・DNA損傷等) によって引き起こされる可能性を示し、MHCクラスI関連分子が「ストレスリガンド」として進化した機能の腫瘍における発現拡張として解釈できる。

既報のCTL依存的腫瘍免疫と対照的に、本研究で新規な発見として特筆すべきは二点である。第一に、MICA/B陽性腫瘍でのVδ1 γδ T細胞比率 (mean 63%) が陰性腫瘍 (mean 17%、P<0.0001) に比べて有意に高いというin vivoでの相関であり、これはMICA/Bが腫瘍浸潤Vδ1 γδ T細胞の選択的集積・維持を誘引している状況証拠を提供する。第二に、腫瘍由来Vδ1 γδ T細胞がMHC多型・抗原プロセシング・特定ペプチドリガンドへの依存なしに多様な腫瘍細胞のMICA/Bを無条件的に認識するという機能的実証であり、これはαβ CTLによる腫瘍免疫とは根本的に異なる機構である。Zou et al. NatRevImmunol 2008が論じたような腫瘍微小環境での抑制シグナルが問題となる文脈においても、MICA/B認識を介したVδ1 γδ T細胞の自然免疫的機能は、MHCクラスI発現低下等でCTLからの回避を成功させた腫瘍細胞に対しても有効な代替的監視経路として機能し得る。

本研究で示されたVδ1 γδ T細胞応答はNK細胞に類似した自然免疫的応答特性を示すが、NK細胞が阻害性受容体を介したMHCクラスI認識で攻撃を抑制されるのとは異なり、Vδ1 γδ T細胞ではそのような阻害効果は観察されなかった。この差異は、腫瘍がMHCクラスI発現上昇によりNK細胞を回避する戦略がVδ1 γδ T細胞に対しては成立しない可能性を示唆する。38クローンで同定された12種類のTCRδ鎖接合部配列の多様性は、MICA/Bが「非ペプチド性自己抗原」として多様なVδ1 γδ T細胞クロノタイプに普遍的に認識されることを裏付けており、これはV領域が共通する一方でCDR3が多様であるというgδ T細胞の独特な抗原認識様式を反映している。

臨床的意義として、本論文が提供する知見は現在も重要な基盤となっている。MICA/B発現の多癌腫での普遍性は、腫瘍種非依存的 (tumor-agnostic) な免疫療法標的としての可能性を示す。腫瘍浸潤Vδ1 γδ T細胞の存在とMICA/Bとの相関は、免疫監視活性のバイオマーカーとしての可能性、およびex vivo増幅・養子移入を用いたγδ T細胞療法 (adoptive cell therapy) の臨床的基盤として後年の研究につながった。また可溶型MICA/B (sMICA/B) による免疫回避機構の発見やNKG2D (natural killer group 2 member D) リガンド−受容体軸の治療標的化研究もこの基盤の上に発展している。

残された課題として1999年時点で挙げられていた問題は、(1) MICA/BのT細胞受容体以外のリガンド同定 (後にBauerら1999年ScienceでNKG2Dが同定)、(2) 腫瘍内MICA/B誘導の分子機序の解明、(3) Vδ1 γδ T細胞のin vivo活性化フェノタイプと効果機能の確定、(4) TCRγ・δ鎖配列とMICA/B認識の関係の解析、(5) 乳腺癌での発現頻度が低い原因など癌腫間での発現不均一性の決定因子の解析であった。今後の検討として、腫瘍でのMICA/Bシェディング回避戦略と、Vδ1 γδ T細胞の臨床規模での増幅・機能最適化が重要課題として残されている。

方法

米国・ブラジルの複数施設で外科切除された乳腺・肺・卵巣・前立腺・結腸・腎細胞癌の手術標本を用いた。組織標本はコラゲナーゼtype III (100 μg/ml)・ディスパーゼ (550 μg/ml)・DNase I (200 units/ml) で12時間酵素消化後に100%と75%のFicoll/Hypaque密度勾配遠心で腫瘍細胞分画とリンパ球分画に分離し凍結保存した。サイトケラチン染色でMHC陽性腫瘍細胞純度≥80%を確認後に各アッセイに使用した。MICA/Bの発現はmAb 6D4 (anti-MICA/B、α1α2ドメイン認識) およびmAb 2C10 (anti-MICA特異的) を用いたフローサイトメトリー (FACStar flow cytometer、Becton Dickinson) で評価した。また凍結またはパラフィン包埋切片に対して免疫組織化学 (IHC) を実施し (Envision system、DAB (3,3’-diaminobenzidine) 発色、ヘマトキシリン核染色)、腫瘍組織と正常組織対照を比較した。腫瘍内リンパ球のVδ1 γδ T細胞比率はmAb δTCS1 (T cell subset antibody, anti-Vδ1) と抗TCRγδ-1を用いたフローサイトメトリーで測定し、MICA/B陽性腫瘍 (n=13) とMICA/B陰性腫瘍 (n=9) 間でWilcoxon rank-sum検定を用いて比較した。腫瘍浸潤リンパ球は照射C1R-MICA transfectant (IL-2 2 units/ml・IL-7 10 ng/ml・PHA (phytohemagglutinin) 0.5 μg/ml存在下) で1週間刺激後、mAb δTCS1を用いてVδ1 γδ T細胞をFACS VANTAGE (cell sorter) でソーティングし、乳腺・肺・卵巣・結腸癌由来のVδ1 γδ T細胞株 (BT δ1・LT δ1・OT δ1・CT δ1) を樹立した。比較対照として同一標本からCD8+ αβ T細胞株 (BT αβ) とVδ2 γδ T細胞株 (OT δ2) も樹立した。標的細胞として、ATCCより入手した腫瘍細胞株 (HCT116・Lovo・DLD-1・SW480 [結腸癌]、OV-1063・SW626 [卵巣癌]、DU145・PC-3 [前立腺癌]、HepG2 [肝癌]、HeLa [子宮頸癌]、U373 [星細胞腫]) を使用した。細胞傷害活性は51Cr放出アッセイで、IFN-γ産生は照射腫瘍細胞 (105 cells/well) との48時間共培養上清のELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で定量した。特異性確認にmAb 6D4・2C10によるブロッキング実験を実施した。38個のVδ1 γδ T細胞クローンのTCRδ鎖cDNA配列はVδ1特異的プライマーを用いたRT-PCR (reverse transcription-PCR) 後の直接塩基配列解析で決定した。