- 著者: Rech AJ, Vonderheide RH
- Corresponding author: Robert H. Vonderheide (rhv@exchange.upenn.edu)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-12-10
- Article種別: Commentary
- PMID: 24327693
背景
腫瘍免疫逃避のメカニズム研究は、免疫系が長期にわたって腫瘍増殖を抑制できる一方で、免疫圧力に耐える腫瘍クローンの選択が不可避に生じるという「cancer immunoediting」の概念を土台に発展してきた (Schreiber et al. Science 2011)。この逃避機構の一つとして、免疫チェックポイント経路の活性化が注目され、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte antigen 4) を遮断するイピリムマブが転移性メラノーマで承認されたことを契機に、PD-1 (programmed cell death protein 1) /PD-L1 (programmed death-ligand 1) 経路への治療的介入が集中的に研究されるようになった (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)。
PD-1は主にT細胞上に発現し、CTLA-4が初期T細胞活性化の振幅を減弱させるのとは対照的に、既に活性化された末梢T細胞の機能を制限する。そのリガンドであるPD-L1およびPD-L2は炎症下で腫瘍細胞を含む多数の細胞種で上方制御され、抗腫瘍免疫応答を広く抑制する。抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体は、メラノーマ・NSCLC (non-small cell lung cancer) ・その他の悪性腫瘍で客観的奏効を示すことが示された (Topalian et al. NEnglJMed 2012; Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。進行NSCLC患者の初期臨床結果では、腫瘍細胞上のPD-L1発現がPD-1阻害への応答と相関する可能性が示唆されており、PD-L1誘導の病態生理の解明が治療戦略上の急務となっていた。
しかし、腫瘍細胞においてPD-L1を誘導する具体的な上流機構については、この論文が書かれた時点では十分に理解されていなかった。がん遺伝子シグナルが細胞自律的にPD-L1を制御するのか、腫瘍浸潤T細胞から産生されるIFN-γ (interferon-gamma) が適応的に誘導するのか、あるいはその両方が並存するのかという知識のgap in knowledgeが存在していた。EGFRがNSCLCで最も頻度の高いドライバー変異の一つであることを踏まえ、EGFRシグナルと腫瘍免疫微小環境の接点を解析することが求められていた。
目的
本解説論文の目的は、Cancer Discovery同号に掲載されたAkbayらの一次研究論文の主要知見を科学的に文脈付けし、腫瘍細胞におけるPD-L1発現の二重制御モデルを整理・提示することである。具体的には、(1) EGFRなどのがん遺伝子シグナルによって駆動される腫瘍細胞内在性PD-L1誘導機構と、(2) CD8+ T細胞浸潤とIFN-γに依存する適応性PD-L1誘導機構の両者を対比し、それぞれがどのような臨床的・生物学的含意を持つかを論じる。さらに、EGFR変異NSCLCにおけるPD-1経路阻害の前臨床的有効性を踏まえ、今後の免疫療法・分子標的療法の組み合わせ戦略や患者選択バイオマーカーの開発に向けた方向性を提案することも目的に含まれる。
結果
EGFRシグナルは腫瘍微小環境に広範な免疫抑制状態を形成する:EGFR変異を有する3種のマウス肺腫瘍モデルは、正常肺組織と比較していずれも免疫抑制マーカーの著明な増加を示した。具体的には、CTLA-4・PD-1・PD-L1の発現上昇が確認され、CD8+ T細胞とFoxp3+ Tregの比 (CD8+/Foxp3+比) が有意に低下していた (Fig. 1)。IL-6およびTGFβといった免疫抑制性サイトカインも腫瘍微小環境で上昇しており、複合的な免疫抑制ネットワークが形成されていることが示唆された。CD8+/Foxp3+比は免疫活性化の代理指標として機能し、複数の悪性腫瘍において患者生存の改善と相関することが知られており、その低下はEGFR駆動型腫瘍における免疫逃避の深度を反映する。これらの所見は、EGFRシグナル自体が腫瘍微小環境の免疫抑制的再構築を能動的に駆動することを示している。
EGFR特異的なPD-L1誘導機構の同定:ヒトNSCLC細胞株を用いた実験では、EGFR変異を持つ細胞株においてのみEGFR阻害剤処理によりPD-L1発現がフローサイトメトリーで低下が確認された。一方、KRAS変異を持つ細胞株では変化を認めなかった。また、変異EGFRを不死化気管支上皮細胞に強制発現させるとPD-L1が上昇したが、変異KRASでは上昇しなかった。EGFRとKRASの変異はNSCLCにおいて逆相関することが知られており (Imielinski et al. Cell 2012)、この選択性は生物学的に重要な意味を持つ。EGFRが直接かつ特異的に腫瘍内在性PD-L1誘導を活性化することが本研究で初めて示された。さらに、EGFRのエルロチニブ耐性変異に関連するモデルでもPD-L1上方制御が確認されたことから、EGFR阻害薬に対して耐性を獲得した患者においてPD-L1が免疫逃避経路として機能する可能性が提示された。
抗PD-1抗体がEGFR変異肺腫瘍モデルで有意な生存延長を示す:EGFR変異マウス肺腫瘍モデルに治療関連用量の抗PD-1抗体を反復投与した結果、腫瘍増殖速度の低下と生存期間の延長が確認された。生存期間は治療開始後7週間延長され、これは治療開始時点からの生存期間の約50%改善に相当する。治療腫瘍では腫瘍細胞アポトーシスが増加し、浸潤CD8+ T細胞の絶対数が増加した (Fig. 1)。さらに、ex vivo刺激時のIFN-γ産生能が向上しており、CD8+ T細胞エフェクター機能の増強が機能的に確認された。腫瘍微小環境中のIL-6およびTGFβレベルもPD-1遮断により低下し、これらのサイトカインがCD8+ T細胞機能を阻害し追加の非細胞自律的抑制機構をリクルートするという点で、PD-1遮断が多面的に免疫抑制を逆転させることが示された。
PD-L1二重制御モデルの定式化と患者選択への含意:本解説の主要な概念的貢献は、PD-L1発現が2つの異なるメカニズムによって制御されるという二重制御モデルの提示にある (Fig. 1)。第一は腫瘍細胞内在性機構であり、EGFR等のがん遺伝子シグナルが直接かつ構成的にPD-L1を誘導する。第二は適応性機構であり、CD8+ T細胞浸潤に伴うIFN-γがT細胞活性化の負のフィードバックループとしてPD-L1を誘導する (Spranger et al. SciTranslMed 2013)。この2つの機構は相互に排他的ではなく、腫瘍の種類や遺伝子背景によって相対的寄与が異なると考察された。特に、EGFR変異NSCLCでは既存のT細胞浸潤がなくともPD-1遮断が有効である可能性があり、一方でT細胞炎症型腫瘍微小環境を持つメラノーマはBRAF変異の有無に関わらずPD-1遮断に応答する可能性が論じられた。
CTLA-4高発現Tregの残存と併用遮断の可能性:EGFR変異肺腫瘍において、抗PD-1抗体治療後もCTLA-4を高発現するTregが高割合で残存することが確認された。PD-1とCTLA-4の併用遮断がメラノーマ患者で単剤より有効である可能性が示唆されつつあることを踏まえ、EGFR変異肺腫瘍における両経路の同時遮断が今後の重要な研究課題として提起された。
考察/結論
本解説論文の中心的貢献は、PD-L1誘導の「がん遺伝子内在性機構」と「T細胞適応性機構」を統合した二重制御モデルを明示的に定式化し、その臨床的含意を論じた点にある。これまでの研究では、T細胞浸潤が多い「ホット」な腫瘍でPD-L1発現が高い傾向が観察されていたが、PD-L1誘導の上流機構は不明のままであった。Akbay et al. CancerDiscov 2013 は、EGFR変異が本研究で初めて腫瘍細胞自律的にPD-L1を誘導することを示した。これは新規の機構論的知見であり、T細胞浸潤の少ない「コールド」な腫瘍においても、がん遺伝子ドライバーによってPD-L1が発現しPD-1経路遮断の恩恵を受けうるというこれまで報告されていない視点を与える。
先行研究との違いとして、Spranger et al. SciTranslMed 2013 がメラノーマでCD8+ T細胞浸潤依存性のPD-L1誘導を示したのと異なり、Akbayらの研究はEGFR変異が直接PD-L1を誘導することを示した点で対照的である。このことは、腫瘍種および遺伝子背景によってPD-L1発現の病態生理が本質的に異なることを意味する。がん遺伝子駆動型PD-L1発現を示す腫瘍は免疫系からの選択圧を十分に受けていない可能性が高く、追加的な免疫療法に対してより良好に応答する可能性がある点もこれまでの研究とは異なる視点を提供した。
臨床応用の観点では、本解説はPD-L1発現機構を踏まえた患者選択の重要性を提言する。EGFR変異NSCLCにおいては、既存の免疫浸潤の有無にかかわらずPD-1遮断が有効である可能性が本知見から推定され、臨床的意義が大きい。さらに、EGFR阻害薬とPD-1/PD-L1阻害薬の逐次的・併用的投与戦略、あるいはCTLA-4とPD-1の同時遮断の臨床現場への応用が今後の臨床的含意として挙げられる。腫瘍ゲノムプロファイリングと免疫微小環境解析を統合することが個別化医療の次ステップとなることを本論文は提言した。
残された課題として、がん遺伝子駆動型とT細胞駆動型PD-L1誘導の相対的寄与が各腫瘍種でどのように異なるかを前向きに解明することが今後の研究の核心となる。また、EGFR変異肺腫瘍に対するPD-1とCTLA-4の同時遮断の有効性を評価する前臨床・臨床試験も今後の検討が必要である。EGFRシグナルが直接CD8+ T細胞の応答を遮断するという証拠は本研究では間接的に提示されているにとどまり、CD8+ T細胞枯渇実験による直接的因果証明も更なる検討を要するとされた。これらの未解決課題は、oncology-immunology interface における基礎・臨床研究の重要な方向性を指し示している。
方法
本論文は一次研究データを含まないCommentary (解説論文) であり、実験プロトコルや統計手法を持たない。解説の核心となるのは、Akbay et al. CancerDiscov 2013 の研究成果の批判的考察である。
Akbayらはin vivo・in vitroの以下のアプローチを用いた。(1) NSCLC患者で同定されたEGFR活性化変異およびエルロチニブ耐性変異に基づく3種のマウス肺腫瘍モデルにおいて、正常肺組織と腫瘍組織の免疫プロファイルをフローサイトメトリーおよびELISA法で比較し、CTLA-4・PD-1・PD-L1・CD8+/Foxp3+比・IL-6・TGFβを定量した。(2) 同モデルに治療関連用量の抗PD-1抗体を反復投与し、腫瘍増殖速度・生存期間・腫瘍細胞アポトーシス・CD8+ T細胞数・IFN-γ産生能をex vivo刺激アッセイで評価した。(3) EGFR変異を持つヒトNSCLC細胞株に対しEGFR阻害剤を処理し、フローサイトメトリーでPD-L1発現変化を確認した。(4) 不死化気管支上皮細胞に変異EGFRまたは変異KRASを強制発現させ、PD-L1誘導の特異性を比較した。
本解説ではさらに、メラノーマにおけるCD8+ T細胞浸潤依存性PD-L1誘導を示した Spranger et al. SciTranslMed 2013 を対比参照することで、がん遺伝子駆動型とT細胞駆動型の二重制御モデルを概念化している。EGFRシグナルがマウスメラノーマで制御性T細胞 (Treg) の抑制機能を増強すること (Zaiss et al. Immunity 2013)、エフェクターT細胞ケモアトラクタントを減少させること (Pivarcsi et al. PNAS 2007) を示した先行研究も参照されている。