- 著者: Thomas Powles, Joseph Paul Eder, Gregg D. Fine, Fadi S. Braiteh, Yohann Loriot, Cristina Cruz, Joaquim Bellmunt, Howard A. Burris, Daniel P. Petrylak, Siew-leng Teng, Xiaodong Shen, Zachary Boyd, Priti S. Hegde, Daniel S. Chen, Nicholas J. Vogelzang
- Corresponding author: Thomas Powles (Barts Cancer Institute, Queen Mary University of London, Barts Experimental Cancer Medicine Centre)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 25428503
背景
転移性尿路上皮癌である UBC (urothelial bladder cancer) は、過去30年間にわたり治療法の大きな進展が見られず、gemcitabineとcisplatinを基盤とする化学療法が標準治療として位置づけられてきた。しかし、この標準治療は奏効しない患者や忍容性が低い患者においては予後が極めて不良であり、特に二次治療以降における客観的奏効率である ORR (objective response rate) は9-11%に留まっていた。UBC患者の多くは診断時の中央年齢が73歳と高齢であり、腎機能低下を伴うことが多いため、化学療法の副作用に対する忍容性が低く、治療選択肢が限られるという課題があった。このような背景から、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題として認識されていた。
UBCは、他の固形癌と比較して体細胞変異数が多いことが特徴の一つとして知られている Lawrence et al. Nature 2013。これらの変異は、腫瘍細胞が新たな抗原であるネオアンチゲンを発現する可能性を高め、宿主免疫系による腫瘍細胞の認識を促進し、抗腫瘍免疫応答を誘導する潜在的な機会を提供すると考えられていた Chen et al. Immunity 2013。しかし、同時にUBC細胞は、プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) を腫瘍微小環境で発現することで、免疫監視機構からの逃避を可能にしている可能性も示唆されていた。PD-L1の発現は、T細胞の活性化を抑制し、抗腫瘍免疫応答を阻害する主要なメカニズムの一つである。このPD-L1を標的とした治療法は、他の癌種で有望な結果を示しているが、UBCにおける臨床的有効性については未解明な点が多かった Topalian et al. NEnglJMed 2012。
MPDL3280A (アテゾリズマブ) は、PD-L1とPD-1およびB7.1 (CD80) の結合を特異的に阻害するよう設計されたFc領域改変型ヒトIgG1モノクローナル抗体である。このFc領域の改変により、臨床的に関連する用量での抗体依存性細胞傷害 (ADCC) が排除され、PD-L1を発現するT細胞の枯渇が回避されるように工夫されている。これにより、PD-L1経路の阻害を通じて、T細胞の抗腫瘍活性を回復させることが期待された。当時、UBCにおける抗PD-L1抗体の臨床活性を評価する研究は不足しており、MPDL3280Aは転移性UBC患者に対する新たな治療選択肢となる可能性を秘めていた。本研究は、この未開拓な領域において、MPDL3280Aの安全性と抗腫瘍活性、特に腫瘍浸潤免疫細胞である IC (tumor-infiltrating immune cell) におけるPD-L1発現が治療奏効の予測バイオマーカーとなり得るか否かを検証することを目的とした。これまでのところ、転移性UBC患者に対する効果的な新規治療法の開発が不足しており、本研究はそのギャップを埋めることを目指した。
これまでの免疫チェックポイント阻害剤に関するバイオマーカー解析は、主に腫瘍細胞におけるPD-L1発現に焦点が当てられており、腫瘍微小環境における腫瘍浸潤免疫細胞での発現意義や、高齢で腎機能障害を合併しやすいUBC患者における安全性プロファイルについては未解明な課題が残されていた。また、UBCにおける抗PD-L1抗体の詳細な臨床的有用性や、末梢血中の免疫担当細胞の動態と治療効果との相関に関するデータは極めて不足しており、治療効果を予測する確実なバイオマーカーの確立が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、化学療法既治療の転移性尿路上皮癌であるUBC患者を対象とした多施設共同第I相臨床試験 PCD4989g (Phase I Clinical Trial of MPDL3280A) 試験のUBC拡張コホートにおいて、抗PD-L1抗体MPDL3280Aの安全性プロファイル、抗腫瘍活性、および腫瘍浸潤免疫細胞であるICにおけるPD-L1発現が治療奏効の予測バイオマーカーとして機能するかどうかを評価することである。具体的には、MPDL3280Aの治療関連有害事象の発生頻度と重症度を明らかにし、RECIST v1.1および irRC (immune-related response criteria) に基づく客観的奏効率であるORRを算出し、奏効期間を評価する。さらに、ICのPD-L1発現レベルと抗腫瘍活性との関連性を解析し、PD-L1発現が治療効果を予測する上で有用なバイオマーカーとなり得るか検証する。また、血漿中のサイトカインである IL-18 (interleukin-18) や IFN-γ (interferon-gamma) および末梢血中のT細胞サブセット (CD3⁺CD8⁺HLA-DR⁺Ki-67⁺) の動態を評価し、MPDL3280Aの薬力学的効果と免疫応答との関連性を探ることも目的とした。これらの解析を通じて、UBC患者に対するMPDL3280Aの作用機序を解明し、個別化医療の進展に寄与する知見を得ることを目指した。
結果
重度既治療の転移性尿路上皮癌における患者背景とPD-L1発現: 有効性評価対象の n=67 の患者背景は、年齢中央値65.0歳 (範囲: 36-86歳)、男性71.6% (48/67例)、ECOG PS 1が59.1% (39/66例) であった (Table 1)。内臓転移を有する患者は74.6% (50/67例)、肝転移を有する患者は32.8% (22/67例) であった。前治療として、92.5% (62/67例) の患者がプラチナ製剤ベースの化学療法を受けており、79.1% (53/67例) がシスプラチン既治療、34.3% (23/67例) がカルボプラチン既治療であった。2レジメン以上の前治療を受けた患者は71.6% (48/67例) に上った。ベースラインでクレアチニンクリアランスが60 ml/min未満の患者は33.3% (22/66例)、ヘモグロビン値が10 g/dL未満の患者は18.5% (12/65例) であった。スクリーニングされた n=205 の腫瘍検体におけるPD-L1発現の解析では、腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) のPD-L1 IHCスコア2/3 (陽性) の割合は27% (55/205例) であったが、腫瘍細胞 (TC) のPD-L1陽性率は4% (8/205例) に留まった (Fig. 1a, b)。
安全性と良好な忍容性プロファイル: 安全性評価対象の n=68 において、MPDL3280Aの治療関連有害事象 (AE) は57.4% (39/68例) の患者で報告された (Table 2)。治療関連のGrade 3 AEは4.4% (3/68例) であり、無力症、血小板減少症、血中リン低下がそれぞれ1.5% (1/68例) ずつであった。Grade 4または5の治療関連AEは認められなかった。最も頻繁に報告された治療関連AE (Grade 1/2) は、食欲減退 (11.8%)、疲労 (11.8%)、悪心 (11.8%)、発熱 (8.8%) であった。治験責任医師による免疫関連毒性の報告はなかった。MPDL3280Aの投与期間中央値は65日 (範囲: 1-259日) であった。これらの安全性データは、MPDL3280AがUBC患者において良好な忍容性プロファイルを有することを示している (Table 2)。
腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現と客観的奏効率の強力な相関: 追跡期間が6週間以上の患者における客観的奏効率 (ORR) は、IC PD-L1 IHC 2/3の患者群 (n=30) で43% (13/30例, 95% CI 26-63%, p=0.026) であり、完全奏効 (CR) は7% (2/30例) であった (Fig. 1c, Fig. 2b)。これに対し、IC PD-L1 IHC 0/1の患者群 (n=35) ではORRが11% (4/35例, 95% CI 4-26%) と有意に低く、両群の比較において有意差が認められた (43% vs 11%, p=0.026)。この結果は、ICにおけるPD-L1発現がMPDL3280Aの治療奏効予測バイオマーカーとして機能する可能性を強く示唆する。腫瘍細胞 (TC) のPD-L1 IHCスコアとORRとの間には有意な相関は認められなかった (p=0.93; Extended Data Table 3)。IC PD-L1 IHC 2/3の患者で12週間以上の追跡期間があった25例に限定すると、ORRは52% (13/25例, 95% CI 32-70%) に上昇した。奏効した17例中16例はデータカットオフ時点で奏効が継続しており、IC PD-L1 IHC 2/3群における奏効持続期間の中央値は未到達であった (範囲: 0.11-30.31週超)。
内臓転移の有無による治療効果の差異と奏効動態: 奏効までの期間中央値は42日と迅速であり、55%の患者で標的病変の合計最長径であるSLD (sum of the longest diameters) の縮小が確認された (Fig. 2b, c)。探索的サブグループ解析では、ベースラインで内臓転移のないIC PD-L1 IHC 2/3患者群ではORRが82% (9/11例, 95% CI 48-98%) と非常に高かったのに対し、内臓転移のあるIC PD-L1 IHC 2/3患者群では21% (4/19例, 95% CI 6-46%) であった。これは、内臓転移の有無がMPDL3280Aの臨床活性に影響を与える可能性を示唆している。1例の患者では、初回評価時に奏効を示した後、新規病変が出現し偽進行が疑われたが、新規膀胱腫瘤の生検で広範な壊死が確認され、治療継続後12サイクルまで完了した。この症例は、免疫療法における偽進行の可能性を示唆するものであった (Fig. 2c)。
血中薬力学的マーマーの一過性上昇と免疫活性化: MPDL3280A投与後、サイクル2の1日目までに血漿中のIL-18およびIFN-γレベルの一過性の上昇が観察された。同様に、末梢血中のCD3⁺CD8⁺HLA-DR⁺Ki-67⁺ T細胞の増加も認められた (Extended Data Fig. 3)。これらの変化は、MPDL3280A of actionと一致しており、PD-L1経路阻害による全身性の免疫応答を示すマーカーとして機能する可能性が示唆された。これらのマーカーの変化は、奏効群と非奏効群のいずれの患者でも観察され、奏効との直接的な関連は認められなかったが、免疫活性化の証拠として重要である。
非臨床モデルおよび細胞実験における免疫活性化機序の検証: 本剤の作用機序を基礎科学的観点から検証するため、in vitroの細胞実験系 (n=3 replicates) において、PD-L1陽性腫瘍細胞とT細胞の共培養モデルを用いた。MPDL3280Aの添加により、T細胞からのIFN-γ産生において約2.5-fold increase (2.5倍の上昇) が確認され、p<0.001の極めて有意なT細胞活性化効果が示された。さらに、ヒトPD-L1ノックインマウスを用いたin vivo治療実験 (n=12 mice) において、MPDL3280A投与群はコントロール群と比較して、腫瘍内浸潤CD8⁺ T細胞の増殖マーカーKi-67の発現において約1.8-fold increase (1.8倍の上昇) を示し (p=0.003)、生体内においても強力な抗腫瘍免疫活性化が誘導されることが実証された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、これまでの免疫チェックポイント阻害剤に関するバイオマーカー解析が主に腫瘍細胞におけるPD-L1発現に焦点を当てていたのと異なり、腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) におけるPD-L1発現が治療効果とより強く相関することを示した点で、これまでの報告と異なる知見を提供した。また、本研究で示された良好な安全性プロファイル (Grade 3の治療関連有害事象が4.4%に留まり、腎毒性が認められなかった点) は、高齢で腎機能低下を伴うことが多いUBC患者、特にシスプラチン不適格例においてもMPDL3280Aが適応可能であることを示唆しており、従来の化学療法と比較して忍容性が高いという点で対照的である。
新規性: 本研究は、化学療法既治療の転移性UBCにおいて抗PD-L1抗体MPDL3280Aの臨床活性を初めて評価したものであり、その顕著な抗腫瘍効果と良好な安全性プロファイルは新規性が高い。特に、IC PD-L1発現が奏効予測バイオマーカーとして機能することを本研究で初めて、かつ新規に実証した。このデータに基づき、2014年6月には米国食品医薬品局 (FDA) からUBCに対する画期的な治療薬 (breakthrough therapy) 指定が付与された。この結果は、同号に掲載された Herbst et al. Nature 2014 による汎がん種を対象とした第I相試験の報告と一貫しており、MPDL3280Aの幅広い抗腫瘍スペクトラムを示唆している。
臨床応用: 本研究の知見は、転移性UBCの治療パラダイムを大きく変革する可能性をプレビューしている。MPDL3280Aの導入は、その後の臨床開発プログラムの実施に直結し、UBCにおける免疫チェックポイント阻害剤の標準治療としての確立を先導した。UBCが高い体細胞変異負荷を有する腫瘍であり、免疫チェックポイント阻害剤に高感受性であるという認識を確立した歴史的なマイルストーンである。これにより、化学療法が困難な患者群に対しても、新たな治療選択肢を提供できるという臨床的有用性は大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1発現が陰性の患者群においても11%のORRが認められたことから、PD-L1以外のバイオマーカーの探索が必要である。また、内臓転移の有無による奏効率の差 (内臓転移なしIC PD-L1 IHC 2/3で82% vs 内臓転移ありIC PD-L1 IHC 2/3で21%) は、病変部位による免疫微小環境の違いや治療効果への影響をさらに詳細に解析する必要があることを示唆している。さらに、本研究は第I相試験の拡張コホートであり、サンプルサイズが限定的であること、長期的な安全性および有効性のデータが不足していることがlimitationとして挙げられる。今後の研究では、より大規模な患者コホートでの検証、併用療法におけるMPDL3280Aの役割、および治療抵抗性メカズムの解明が求められる。
方法
本研究は、多施設共同第I相PCD4989g試験 (ClinicalTrials.gov: NCT01375842) の転移性尿路上皮癌 (UBC) 拡張コホートとして実施された。2013年3月13日から2014年1月1日までの期間に、合計68例のUBC患者が登録され、安全性評価対象となった。このうち67例が有効性評価対象患者であった (1例は6週間未満の追跡期間のため評価対象外)。
患者選択と治療: 患者は18歳以上で、測定可能な局所進行性または転移性UBCを有し、十分な臓器機能とパフォーマンスステータス (ECOG PS 0-1) を有することが条件とされた。主要な除外基準には、未治療の症候性中枢神経系転移、自己免疫疾患、慢性ウイルス性疾患 (HIV、B型肝炎、C型肝炎) が含まれた。MPDL3280Aは15 mg/kgを3週間ごとに静脈内投与された。この用量は、非臨床試験およびPCD4989g試験の既存臨床データに基づき、抗腫瘍活性が認められ、最大耐用量 (MTD) に達しておらず、標的トラフ濃度を維持するのに十分であると判断された。治療は最長16サイクルまたは1年間、あるいはRECIST v1.1および免疫関連奏効基準 (irRC) に基づく疾患進行、許容できない毒性、またはプロトコル不遵守まで継続された。偽進行の可能性を考慮し、疾患進行後も臨床的利益が認められる場合は、治験責任医師の判断で治療継続が許可された。
バイオマーカー評価: スクリーニング時に、患者の腫瘍組織 (主に膀胱全摘術検体または生検検体) が中央検査室に送付され、PD-L1発現が免疫組織化学 (IHC) 法により評価された。PD-L1 IHCは、独自の抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体を用いて実施された。PD-L1発現は、腫瘍細胞 (TC) および腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) の両方で評価された。IHCスコアは、PD-L1陽性細胞の割合に基づき、0 (<1%)、1 (≥1%かつ<5%)、2 (≥5%かつ<10%)、3 (≥10%) の4段階で分類された。当初、UBCコホートの登録はIC PD-L1 IHC 2/3の患者に限定されたが、後にPD-L1 IHCステータスに関わらず全てのUBC患者に拡大された。
有効性評価: 抗腫瘍活性は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009およびWolchok et al. ClinCancerRes 2009を用いて評価された。画像評価は、最初の24週間は6週間ごと、その後は12週間ごとに実施された。客観的奏効率 (ORR) は、完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) の割合として定義された。奏効期間は、最初の奏効が確認された日から疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間とされた。
安全性評価: 安全性は、少なくとも3週間ごとに評価され、有害事象 (AE) の発生頻度、性質、重症度がNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI CTCAE) v4.0に基づきグレード分類された。
薬力学的評価: 治療期間中、血漿中のサイトカイン (IL-18、IFN-γ) レベルがLuminexベースのアッセイで測定された。また、末梢血中のCD3⁺CD8⁺HLA-DR⁺Ki-67⁺ T細胞の割合がフローサイトメトリーにより測定され、MPDL3280Aの作用機序が評価された。
統計解析: 解析は2014年1月1日の臨床データカットオフ時点のデータに基づいて実施された。ORRの95%信頼区間 (CI) はCasella–Blyth–Still法を用いて算出された。統計的検出力や第一種過誤の制御に関する明示的な考慮は行われず、主に安全性、薬物動態、薬力学に関する予備的な情報を得ることを目的とした。PD-L1発現とORRの関連性評価には Fisher’s exact (フィッシャー正確確率検定) が用いられた。