- 著者: Postel-Vinay S, Aspeslagh S, Lanoy E, Robert C, Soria JC, Marabelle A
- Corresponding author: Sophie Postel-Vinay (Drug Development Department, Gustave Roussy, Villejuif, France)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-11-17
- Article種別: Review
- PMID: 26578728
背景
2013年にScience誌が「Breakthrough of the Year」としてがん免疫療法を選出して以来、免疫チェックポイント阻害抗体(imAbs)はがん治療に革命をもたらしてきた。特に、抗CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4)抗体であるイピリムマブ(ipilimumab)は、転移性悪性黒色腫においてOS中央値10.1ヶ月 vs 6.4ヶ月(HR 0.66, p<0.001)を達成し、FDAの承認を得たHodi et al. NEnglJMed 2010。さらに、抗PD-1(programmed death-1)抗体であるニボルマブ(nivolumab)とペムブロリズマブ(pembrolizumab)、および抗PD-L1(programmed death-ligand 1)抗体であるアテゾリズマブ(atezolizumab)、デュルバルマブ(durvalumab)、BMS-936559は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、その他15種類以上の癌種で持続的な奏効を示し、2014年から2015年にかけてNSCLC扁平上皮がん(ニボルマブ、2014年12月)、NSCLC非扁平上皮がん(ニボルマブ、2015年10月)、PD-L1陽性NSCLC(ペムブロリズマブ、2015年9月)へと次々と承認されたBrahmer et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015。
しかし、これらのimAbsの臨床開発は、従来の薬剤開発パラダイムに適合しない多くの課題に直面している。具体的には、細胞傷害性化学療法時代に確立された3+3用量漸増と最大耐用量(MTD)同定の枠組み、あるいは分子標的薬時代のバイオマーカー駆動型患者選択戦略のいずれも、imAbsの特性には合致しない。このため、根本的な再設計が不足している。これまでの13の主要なimAbs第I相試験の経験から、以下のような課題が浮上している。第一に、MTDの特定が困難であり、従来のDLT(Dose-Limiting Toxicity)定義ではirAEs(immune-related Adverse Events)の遅延発現を捉えきれない点である。第二に、用量と効果の非線形な関係性、特に抗PD-1/PD-L1抗体では低用量で受容体占有率が早期に飽和し、それ以上の用量増加が有効性の向上に繋がらない点である。第三に、第I相試験の拡大コホートが「第I相登録試験」として機能するようになり、開発期間が大幅に短縮される一方で、その倫理的・統計的妥当性の検討が不足している点である。第四に、PD-L1発現などのバイオマーカーが奏効と有意に相関するものの、その特異性や感度が不十分であり、標準化された評価法が未確立である点である。第五に、従来のRECIST v1.1では擬似進行(pseudo-progression)や遅延奏効、解離性応答といったimAbs特有の奏効パターンを適切に評価できないため、irRC(Immune-Related Response Criteria)などの新規評価基準が必要である点である。
これらの課題は、次世代imAbs(抗OX40、抗CD137、抗ICOS、抗KIR抗体など)の開発を効率的かつ持続可能なものとする上で、喫緊の解決を要する。特に、高額な治療費を考慮すると、最適な用量とスケジュール設定は経済的コストの観点からも重要である。本レビューは、これらの未整理な課題を体系的に整理し、imAbsの効率的な開発のための新たなアプローチを提言することを目的としている。
目的
本レビューの目的は、2010年から2015年にかけて発表された抗CTLA-4(イピリムマブ、トレメリムマブ)、抗PD-1(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ピジリズマブ)、および抗PD-L1(BMS-936559、アテゾリズマブ、デュルバルマブ)の主要な第I相試験13件を詳細に解析することである。この解析を通じて、以下の7つの主要な課題を体系的に整理し、次世代imAbsの開発に向けた具体的な提言を導出する。
- 安全性と最大耐用量(MTD)の定義: 従来のMTD同定アプローチの限界と、imAbsに特有のDLT定義の再構築の必要性を評価する。
- 試験デザインと拡大コホート: 第I相試験における拡大コホートの役割の変化と、その倫理的・統計的妥当性を検討する。
- 患者選択とバイオマーカー: PD-L1発現などの既存バイオマーカーの限界と、より包括的な患者選択戦略および新規バイオマーカーの必要性を探る。
- 患者適格基準: imAbsの独特な安全性プロファイルに基づき、従来の第I相試験の適格基準を緩和する可能性を評価する。
- 薬物動態(PK)と薬力学(PD): imAbsの複雑なPK/PD特性、特に受容体占有率の早期飽和現象を分析し、最適な用量設定への影響を考察する。
- 奏効評価: 擬似進行や遅延奏効といったimAbs特有の奏効パターンを適切に評価するための、irRCなどの新規評価基準の必要性を検討する。
- 薬剤開発戦略: 上記の課題を踏まえ、imAbsの効率的かつ持続可能な開発のための新たな戦略を提案する。
結果
MTD同定の困難性とDLT定義の再構築(13試験中12試験でMTD非到達): 解析対象とした13の主要なimAbs第I相試験のうち、プロトコルで定義されたDLTを同定し、MTDを特定できたのはわずか1試験のみであった(トレメリムマブ、Ribas et al. JClinOncol 2005、MTD 10 mg/kg、15 mg/kgでDLT発現)。残りの12試験中10試験では、最大投与量(MAD)に基づいてRP2Dが設定され、2試験(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)ではPKデータに基づいてRP2Dが設定された(Table 1)。Camacho et al. (2009)のトレメリムマブ試験では、10 mg/kgコホートで4例の遅発性DLTが観察されたが、用量推奨には反映されなかった。従来の3+3デザインの目標DLT率が17-33%であるのに対し、imAbs全体のG3/4毒性率は約13%と低率であった(Hamid et al. NEnglJMed 2013で17/135 = 13%、Brahmer et al. JClinOncol 2010で19/207 = 9%、Topalian et al. NEnglJMed 2012で41/296 = 14%)。免疫関連有害事象(irAEs)は、イピリムマブで8-10週後に発現することが多く、サイクル1限定のDLT定義では捉えきれないことが示された。このため、サイクル1を超えた毒性をDLTとして扱うか、PK/PDに基づいた固定用量(例:アテゾリズマブ1200 mg q3w)を採用するアプローチが提案された。低DLT率を目標とする代替デザインとして、modified Toxicity Probability Interval design(mTPI)が推奨された。
試験デザインの革命とバイオマーカーの不完全性: imAbsの第I相試験は、従来のイピリムマブ試験(9-46例規模)から、現在では1,000例を超える大規模なものへと変化している(Topalian et al. NEnglJMed 2012で296例、Herbst et al. Nature 2014のアテゾリズマブで277例から拡張コホート344例、Lutzky et al. JClinOncol 2014のデュルバルマブで26例から760例)。ペムブロリズマブの開発は、このパラダイムシフトの象徴である。第I相試験(Patnaik et al. ClinCancerRes 2015、KEYNOTE-001)に複数の疾患特異的コホートを直接組み込むことで、ファースト・イン・マン(2011年)からFDAブレークスルー指定取得、条件付き承認(2014年9月、悪性黒色腫)、NSCLC承認(2015年9月)まで4年未満で達成された(歴史的平均約10年から60%短縮)(Figure 1)。一方で、1,000例を超える拡大コホートは、適切なサンプルサイズ設定と非有効性中止基準の事前規定が倫理的に必須である。PD-L1バイオマーカーは、奏効と有意に相関するものの、腫瘍細胞と免疫細胞のどちらで評価するか、閾値、抗体、評価法が標準化されていない。PD-L1陰性患者でも奏効が観察されることが一貫して報告されており(Topalian et al. NEnglJMed 2012ではPD-L1陽性ORR 36% vs PD-L1陰性ORR 0/17、しかし他試験ではPD-L1陰性にも奏効あり)、単独のバイオマーカーとしては特異性も感度も不十分である。治療中のPD-L1アップレギュレーションや、CTLA-4、フラクタルカイン、血中IL-18、インターフェロン-γ、活性化CD8+ T細胞動態などの複合的な動的バイオマーカー評価が必要である。
Eligibilityの緩和とPK/PDの複雑性(受容体占有率64-70%で早期飽和): imAbsの第I相試験では、拡大コホート段階での適格基準の緩和が現実的であると提言された。従来の第I相試験ではECOG PS ≤1、LDH正常、脳転移なしが要件とされたが、アテゾリズマブ治療を受けた予後不良の尿路上皮がん患者で安全性プロファイルの悪化なし、BMS-936559治療を受けたPS 2患者で追加毒性なし、脳転移患者でも奏効や臨床的有用性が観察されること(脳神経毒性増加なし)が報告されている。これらの知見は、imAbsの安全性プロファイルが従来の化学療法とは異なることを示唆している。PKプロファイルは、全てのimAbsがIgGクラスであり、半減期t½中央値16日(範囲9-21日)と比較的共通している(Table 3)。CmaxとAUCは用量依存性を示す。しかし、PD特性では、ニボルマブで0.3-10 mg/kgの全範囲でPD-1受容体占有率が中央値64-70%に飽和し(Topalian et al. NEnglJMed 2012)、BMS-936559(PD-L1)でもCD3+ PBMC上で65%以上のPD-L1受容体占有率が全用量で観察された(Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。これは、1-2 mg/kg以上の用量では標的飽和が早期に達成され、それ以上の用量増加が有効性の増加に繋がらないことを示唆している。この知見が、アテゾリズマブやデュルバルマブで固定用量(例:1,200 mg q3w、体重ベース不要)が推奨される根拠となった。
奏効評価の刷新と次世代imAbsへの教訓: imAbsでは、従来のRECIST v1.1では適切に評価できない特異な奏効パターンが約10%の患者で観察される。これには、治療初期に腫瘍が拡大した後に縮小する「擬似進行(pseudo-progression)」、数ヶ月後に奏効が現れる「遅延奏効(delayed response)」、一部の病変が縮小し他は増大する「解離性応答(dissociated response)」が含まれる。これらのパターンを誤って「進行性疾患」と判定すると、治療継続によるベネフィットを失う可能性がある。悪性黒色腫の開発で標準化されたWolchok et al. ClinCancerRes 2009が提案されたが、腫瘍増殖率(TGR)や疾患制御率(DCR)、「早期進行」の再定義などの代替エンドポイントの検討も必要である。次世代imAbsの開発に向けて、以下の6つのパラダイムシフトが提言された。1) MTDから「Minimum Immunologically Active Dose」概念の導入、2) PK/PDに基づいた「Optimal Immunological Dose(OID)」の設定、3) 第I相拡大コホートを「第I相登録試験」として利用する場合の倫理的なサンプルサイズ設定、4) 動的かつ複合的なバイオマーカー評価、5) Fcγ受容体多型などのPD変動の探索、6) irRCを超えた包括的な奏効基準の確立である。
考察/結論
本レビューは、グスタフ・ルシー研究所のDITEP(Département d’Innovations Thérapeutiques et Essais Précoces)チームが、免疫チェックポイント阻害抗体(imAbs)の第I相試験13件を系統的に解析し、従来の薬剤開発パラダイムが直面する6つの主要な課題とその再構築を提示した重要な方法論的論文である。
先行研究との違い: これまでの薬剤開発方法論に関する研究、例えばEisenhauer EA et al. (Drug Discov Today 2011)による早期相試験の統計的側面や、Le Tourneau C et al. (JNCI 2009)による用量漸増デザインの体系化とは異なり、本レビューはimAbsに固有の課題に焦点を当てている。具体的には、(a) MTDの非同定、(b) 用量-効果の非線形性、(c) 第I相拡大コホートによる開発加速、(d) 動的バイオマーカーの必要性、(e) 受容体占有率の早期飽和、(f) 擬似進行といった6つの側面で、従来のパラダイムから逸脱する点を本研究で初めて統一的な視座でまとめた点で新規性がある。
新規性: 本研究は、imAbsの臨床開発における従来のドグマの崩壊と、それに代わる新たなアプローチの必要性を体系的に提示した点で新規である。特に、ペムブロリズマブの開発パラダイム(第I相試験で1,200例以上の拡大コホートを組み込み、4年以内にFDA承認を達成し、歴史的平均開発期間を60%短縮)は、新規な規制科学上の先例として、その後の抗がん剤開発、特にCAR-T細胞療法やBiTE(bispecific T-cell engager)などの次世代免疫療法の開発加速に大きく貢献した。
臨床応用: 本レビューの知見は、imAbsを従来の細胞傷害性薬剤と同じ枠組みで開発する誤りを回避するための具体的なフレームワークを臨床現場に提供する。臨床的意義としては、(1) 経済的負担を軽減するための固定用量や間欠的スケジュールの根拠、(2) 第I相で拡大コホートを保有する施設選定の重要性、(3) PD-L1単独に依存しない複合バイオマーカー開発戦略の必要性、といった実践的な指針が挙げられる。これらの提言は、患者のベネフィットを最大化しつつ、薬剤開発の効率性を高める上で極めて重要である。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) Fcγ受容体多型の前向き評価、(2) irRCを超えた普遍的な奏効基準の標準化、(3) imAbs併用療法(例:抗PD-1 + 抗CTLA-4、抗PD-1 + 化学療法、抗PD-1 + 分子標的薬)におけるDLT定義の再構築、(4) 小児腫瘍学におけるimAbs第I相パラダイムの調整、(5) 間欠的スケジュール(ワクチン様)と連続的スケジュール(分子標的薬様)のランダム化比較試験、(6) imAbsの長期安全性(irAEsの累積、自己免疫疾患誘発リスク)の前向きモニタリング、(7) 経済的に持続可能な用量・スケジュール最適化のための同等性試験が残されている。本論文以降、KEYNOTE-001やCheckMateシリーズの拡大、抗LAG-3抗体(relatlimab、2022年FDA承認)、抗TIGIT抗体(vibostolimab、tiragolumab)の第I相開発において、本レビューで提唱されたパラダイムが継承され、imAbsの方法論はがん薬剤開発の主要な参照点であり続けている。
方法
本論文は、免疫チェックポイント阻害抗体(imAbs)の第I相臨床試験における課題を体系的に整理することを目的としたナラティブレビューであり、システマティックレビューではない。著者らは、PubMed(検索カットオフ2015年10月)とClinicalTrials.govを「anti-CTLA-4」「anti-PD-1」「anti-PD-L1」「phase 1 trial」のキーワードで網羅的に検索した。検索は2015年10月までに行われた論文を対象とし、英語で書かれたヒトを対象とした臨床試験に限定した。その結果、以下の13の主要なモノセラピーimAbs第I相試験を抽出した。抗CTLA-4抗体として、Tchekmedyian et al. (2002)、Hodi et al. (2003)、Maker et al. (2006)、Weber et al. (2008)、Ribas et al. JClinOncol 2005、Camacho et al. (2009)の各試験。抗PD-1抗体として、Brahmer et al. JClinOncol 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012、Patnaik et al. ClinCancerRes 2015、Hamid et al. NEnglJMed 2013、Berger et al. (2008)の各試験。抗PD-L1抗体として、Brahmer et al. NEnglJMed 2012、Herbst et al. Nature 2014、Powles et al. Nature 2014、Lutzky et al. JClinOncol 2014の各試験である。
これらの抽出された各試験について、以下の項目を詳細に評価し、Table 1、Table 2、Table 3に集約した。
- 試験デザインとスケジュール: 用量スケジュール、Dose-Limiting Toxicity(DLT)の定義、G3/4毒性率、最大耐用量(MTD)または推奨第II相用量(RP2D)、コホートサイズ。
- 薬物動態(PK)特性: 半減期(t½)、Cmax、AUCの用量依存性。
- 薬力学(PD)特性: 受容体占有率、CD4/CD8比率、サイトカイン調節。
- 用量-奏効関係: 各用量レベルにおける客観的奏効割合(ORR)。
特に、イピリムマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブの4つの代表的なimAbsをケーススタディとして深く解析し、共通の課題と分子クラス間の差異を抽出した。さらに、用量設定のための統計的手法として、従来の3+3デザイン、modified Toxicity Probability Interval design(mTPI)、Bayesian continuous reassessment method(CRM)を比較検討した。本レビューでは、imAbsの特性に合わせた新たな薬剤開発パラダイムの必要性を強調し、安全性、用量・スケジュール、試験デザイン、バイオマーカー、患者選択、PK/PD、奏効評価の7つの主要な課題を体系的に整理した。特に、従来の細胞傷害性化学療法や分子標的薬とは異なるimAbsの薬理学的特性(例:用量と効果の非線形性、遅延性の免疫関連有害事象)が、従来の第I相試験デザインに与える影響に焦点を当てた。