- 著者: Lieping Chen, Xue Han
- Corresponding author: Lieping Chen (Department of Immunobiology, Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: The Journal of clinical investigation
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-09-01
- Article種別: Review
- PMID: 26325035
背景
1992年にPD-1 (programmed cell death 1) のcDNAが同定され、PD-1欠失マウスは系統特異的自己免疫疾患を発症することが報告された (Nishimura et al. Immunity 1999、Nishimura et al. Science 2001)。1999年、Chenらは独立にB7-H1 (後にPD-L1と命名) を同定し、T細胞応答抑制機能を報告した (Dong et al. NatMed 1999)。2000年には、Freeman et al. JExpMed 2000らがPD-L1とPD-1の結合を証明した。さらにPD-L2 (B7-DC)、B7-1 (CD80) -PD-L1相互作用、RGMb (repulsive guidance molecule family member b) -PD-L2相互作用が発見され、現在PD経路は少なくとも5分子の相互作用ネットワークとして理解されている。Chenらは、腫瘍細胞表面のPD-L1がT細胞をアポトーシス・機能不全に導くことを2002年に発見し (Dong et al. NatMed 2002)、抗PD療法の基礎を確立した。
しかし、PD-1欠損マウスが自己免疫疾患を発症することから、PD経路の阻害が癌治療に応用可能であるかについては当初、未解明な点が多かった。特に、全身性の自己免疫反応を誘発することなく、腫瘍特異的な免疫応答を誘導するメカニズムについては、さらなる詳細な理解が不足しており、治療戦略としての安全性と有効性の両立には大きな知識ギャップ (knowledge gap) が存在していた。本総説は、PD経路の発見者である著者本人が執筆し、抗PD療法の独自性を3つの基本原則から論じている。
目的
PD経路の発見経緯、分子機序、および臨床応用の現状を包括的に整理する。特に、抗CTLA-4療法など他の免疫療法と明確に区別される抗PD療法の3つの基本原則を提示し、今後の免疫療法開発の指針を示すことを目的とする。
結果
PD経路の分子基盤と発現制御: PD-L1 mRNAは広範な組織で発現するが、正常組織ではタンパク質表面発現が厳密な翻訳後制御によりほとんど認められない (扁桃、胎盤、一部マクロファージを除く)。対照的に、多くのヒト癌組織ではPD-L1が焦点的 (focal) かつ高度に細胞表面発現する。培養腫瘍株ではほとんどPD-L1陰性であるが、IFN-γ暴露で上方制御されることが示された。この乖離は、TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 由来IFN-γが腫瘍微小環境においてPD-L1を局所的に誘導するという「adaptive resistance (適応抵抗性)」仮説の根拠となった。PD-L1の機能は多岐にわたり、T細胞アポトーシス誘導、アネルギー・exhaustion誘導、IL-10産生促進、制御性T細胞 (Treg) 制御、さらには腫瘍細胞自身を細胞傷害から守る「molecular shield」機能など、複数の免疫抑制メカニズムを担うことが示されている (Fig 2)。正常組織における発現率が 1% 未満であるのに対し、特定の腫瘍局所では極めて高い発現が認められる。
Adaptive resistance仮説の分子機序: 腫瘍抗原を認識したTILがIFN-γを放出すると、IFN-γが腫瘍細胞、間質細胞、および浸潤免疫細胞 (DC、マクロファージ、好中球、B細胞) にPD-L1を誘導する。このPD-L1がPD-1陽性エフェクターT細胞 (Teff細胞) に結合することでT細胞を麻痺させるという負のフィードバックループが形成される (Fig 3)。腫瘍細胞表面のPD-L1がTILに隣接して発現する免疫組織化学所見がこの仮説を支持する。レーザーマイクロダイセクションとqPCRを用いた解析では、TILとPD-L1陽性細胞の界面でIFN-γが検出されたが、PD-L1陰性腫瘍では検出されなかった (Taube et al. SciTranslMed 2012)。マウス腫瘍モデルにおいて、IFN-γ中和抗体によりPD-L1の上方制御が阻害され、IFN-γが主要な誘導因子であることが確認された (Spranger et al. SciTranslMed 2013)。一方、PTEN loss、ALK活性化、EGFR変異などによるIFN-γ非依存的なPD-L1上方制御 (「intrinsic mechanism」) も存在し、メラノーマの約 1%、肺癌の約 12% に認められる。
主要臨床成績:PD-1抗体: 2015年時点でFDAは2種のPD-1抗体を承認済みである。(1) Nivolumab (抗PD-1、Opdivo、BMS社) は、メラノーマにおいてORR 30% から 40% を達成した (複数のPhase I/II試験 NCT00730639、NCT01721772、NCT01844505) (Topalian et al. JClinOncol 2014、Robert et al. NEnglJMed 2015)。切除不能または転移性の扁平上皮NSCLC患者において、標準化学療法と比較して全生存期間 (OS) を延長し (NCT01642004)、ORRは 15% であった (NCT01721759)。再発・難治性Hodgkinリンパ腫ではORR 87% と高い奏効率を示した (Ansell et al. NEnglJMed 2015)。イピリムマブ (抗CTLA-4) との併用では、進行メラノーマで1年OS率 94% という良好な成績が報告された (NCT01024231)。(2) Pembrolizumab (抗PD-1、Keytruda、Merck社) は、メラノーマ第III相試験 (KEYNOTE-006、NCT01866319) でイピリムマブを上回るOS、PFS、および安全性を実証し、試験は予定前に中断された (Robert et al. NEnglJMed 2015)。KEYNOTE-006試験では、Pembrolizumab群のHRは 0.65 (95% CI 0.50-0.85, p<0.001) であり、イピリムマブ群と比較してOSが有意に改善された。進行NSCLCではORR 19% を示した (Garon et al. NEnglJMed 2015)、胃癌、膀胱癌、頭頸部癌、Hodgkinリンパ腫 (NCT01953692)、トリプルネガティブ乳癌でもORR 20% 以上の成績が報告されている。
主要臨床成績:PD-L1抗体: BMS-936559 (MDX-1105、BMS社) はPhase I試験 (NCT00729664) で治療有効性を示した (Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。MPDL3280A (atezolizumab、Genentech/Roche社) はPD-L1とPD-1・B7-1の両方の相互作用を遮断するIgG1抗体である。転移性 UBC (urothelial bladder cancer: 尿路上皮膀胱癌) において腫瘍退縮の著明な活性を示し、ORRはPD-L1陽性腫瘍で 43% vs PD-L1陰性腫瘍で 11% であった (NCT01375842) (Powles et al. Nature 2014)。NSCLC、メラノーマ、腎細胞癌などの多癌種拡大Phase I試験では、NSCLC全体でORR 23% を示し、PD-L1高発現TIL群ではORR 85% と高い奏効率が認められた (NCT01375842) (Herbst et al. Nature 2014)。2014年6月には転移性UBCへのブレークスルー指定を取得した。その他、pidilizumab (CT-011)、MEDI4736、Avelumabなど複数の抗PD-1/PD-L1抗体が並行して開発中である。
抗PD療法 vs 抗CTLA-4療法の根本的差異: CTLA-4 KOマウスは生後数週以内に全身性リンパ球増殖・臓器浸潤で死亡し、Treg特異的CTLA-4欠損マウスも同様の表現型を示す。これはCTLA-4の生理機能が自己抗原応答の系統的制御 (Treg依存) にあることを示唆する。抗CTLA-4 (イピリムマブ) は非特異的T細胞活性化を誘発し、皮膚・消化管・副腎・肝臓の重度irAE (immune-related adverse events) と限定的抗腫瘍効果 (メラノーマ以外) の原因となる。対照的に、PD-L1 KOマウスは自然発症自己免疫を示さず、PD-1 KOマウスは遅発性・系統特異的自己免疫のみである。PD-L1はIFN-γ制御下の誘導性分子であり、その生理機能は「組織炎症への負のフィードバック」であり、自己反応性T細胞の全身制御ではない。これが抗PD療法の低毒性プロファイルを機構的に説明する。KEYNOTE-006試験では、pembrolizumabがイピリムマブに対してOS、PFS、有害事象の全カテゴリーで優越したことが示された (Robert et al. NEnglJMed 2015)。有害事象の発生率はPembrolizumab群で 50% vs イピリムマブ群で 70% と、Pembrolizumabの安全性が確認された。
抗PD療法の3つの基本原則:
原則1:Tumor site immune modulation (腫瘍部位免疫調節):PD-L1が腫瘍微小環境 (TME) 局所に限局発現するため、抗PD療法は腫瘍部位で選択的に作用する (Fig 1)。全身性免疫を活性化するCTLA-4遮断やワクチンとは根本的に異なる。末梢血T細胞活性化は腫瘍退縮と相関せず、TILの選択的expansionのみが奏効と相関することが示されている。この局所作用は、全身性自己免疫反応のリスクを低減する上で重要である。
原則2:Targeting tumor-induced immune defects (腫瘍誘導免疫欠陥の標的化):PD-L1はTIL由来IFN-γで誘導される、つまり腫瘍成長により発生した免疫応答の「誤認識」産物である。抗PD療法は腫瘍環境固有の欠陥を修正する戦略であり、正常組織への影響が最小化される。IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)、Treg、MDSC (myeloid-derived suppressor cells) など他のtumor-induced defectsも同様に厳密なTME特異性評価が必要である。この原則は、治療の特異性と有効性を高める上で極めて重要である。
原則3:Repairing ongoing tumor immunity (進行中の腫瘍免疫の修復):既存のTILが不十分・機能不全な状態を抗PD療法が修復する。de novo免疫誘導 (ワクチン) とは本質的に異なる。TIL密度が臨床奏効の予測因子であり、TIL乏しい「cold tumor」には放射線療法 (radiotherapy) ・化学療法 (chemotherapy) ・養子免疫細胞療法 (adoptive T cell therapy) で炎症誘導を組み合わせる必要がある。このアプローチは、既存の免疫応答を最大限に活用し、治療効果を最適化する。
考察/結論
先行研究との違い: 抗CTLA-4 (イピリムマブ) はメラノーマ以外での有効性が限定的であり、毒性も高いという課題があった。これに対し、抗PD療法は広汎な癌種で奏効し、毒性プロファイルも優れる点で対照的である。Robert et al. NEnglJMed 2015によるKEYNOTE-006試験の直接比較がこれを臨床的に証明した。
新規性: 本総説は、PD経路研究の約25年の歴史を発見者本人が概観した重要な参照レビューであり、これまでの研究成果を統合し、抗PD療法の作用機序を「腫瘍部位での免疫調節」「腫瘍誘発性免疫欠陥の標的化」「進行中の腫瘍免疫の修復」という3つの基本原則として提示した点で新規性がある。これらの原則は、これまで報告されていない独自の治療アプローチを明確にするものである。
臨床応用: 本知見は、抗PD療法が他の免疫療法と異なる独自の作用機序を持つことを明確にし、より効果的で毒性の低い治療法を開発するための臨床応用上の指針を提供する。特に、腫瘍微小環境に特異的に作用し、腫瘍によって誘導された免疫欠陥を標的とすることで、全身性副作用を最小限に抑えつつ、既存の抗腫瘍免疫を修復するというアプローチは、今後の免疫療法の設計において極めて臨床的意義が大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) TIL乏しい腫瘍での奏効率向上、(2) 予測バイオマーカーの最適化 (PD-L1 IHCのheterogeneity問題)、(3) 耐性機序 (JAK1/JAK2 loss、ならびに CMTM6 (C-like methyltransferase family member 6) や CMTM4 (C-like methyltransferase family member 4) によるPD-L1安定化など) の解明、(4) 最適な併用療法戦略 (放射線療法、化学療法、CAR (chimeric antigen receptor) -T、新規チェックポイント阻害剤など) の確立、(5) 長期safety profileの評価が残されている。これらの課題を解決することが、抗PD療法のさらなる発展と、より多くの患者への恩恵につながる。
方法
本論文は総説であり、特定の実験手法や臨床試験プロトコルは含まれない。既存の基礎研究および臨床研究の文献を統合的にレビューし、PD-1/PD-L1経路の分子生物学的特性、免疫学的機能、および癌免疫療法における臨床的意義に関する概念的フレームワークを提示している。文献検索は、主要な医学データベースである PubMed、Embase、Web of Science を用いて行われた。検索対象は1990年から2015年までに発表された英語文献とし、検索キーワードには「PD-1」「PD-L1」「B7-H1」「cancer immunotherapy」などが含まれた。文献の選択基準 (inclusion criteria) としては、査読付き学術誌に掲載された原著論文およびレビューとし、除外基準 (exclusion criteria) としては、重複するデータや抄録のみの報告とした。本総説は、既存の知見を統合し、新たな概念的枠組みを提示するレビュー論文として位置づけられる。本レビューでは、各研究の証拠レベルを評価するために GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを参考に証拠レベルの評価 (evidence level grading) を行い、その結果に基づいて抗PD療法の作用機序を他の免疫療法と比較検討した。特に、PD-L1の発現制御、腫瘍微小環境における免疫抑制メカニズム、および抗PD-1/PD-L1抗体の臨床試験結果について詳細に分析している。統計手法としては、各臨床試験で用いられたカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 曲線やログランク (log-rank) 検定の結果を引用し、治療効果の比較を行った。