• 著者: H.R. Ali, S-E. Glont, F.M. Blows, E. Provenzano, S-J. Dawson, B. Liu, L. Hiller, J. Dunn, C.J. Poole, S. Bowden, H.M. Earl, P.D.P. Pharoah, C. Caldas
  • Corresponding author: H.R. Ali (Cancer Research UK Cambridge Institute, University of Cambridge, UK)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25897014

背景

PD-L1 (CD274) はPD-1に結合し、T細胞の活性化を抑制して免疫寛容を誘導することで、腫瘍の免疫回避機構において中心的な役割を果たす。近年の臨床試験において、メラノーマ、腎細胞がん、非小細胞肺がん、膀胱がんなどの様々な固形腫瘍において、PD-L1阻害治療が持続的な臨床奏効をもたらすことが Hodi et al. NEnglJMed 2010Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012Powles et al. Nature 2014Herbst et al. Nature 2014 などの先行研究によって示されてきた。さらに、腫瘍細胞や免疫細胞におけるPD-L1発現レベルが、これら抗PD-1/PD-L1抗体療法の治療効果予測バイオマーカーとして機能することも明らかになりつつある。しかし、乳がんは一般的にT細胞を介した免疫応答に乏しい非免疫原性腫瘍と考えられており、乳がんにおけるPD-L1蛋白発現の正確な頻度や臨床病理学的意義、遺伝子レベルの背景は未解明であった。乳がんは生物学的に高度に不均一な疾患であり、一部のサブタイプ(特にbasal-likeやトリプルネガティブ乳がん)では腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が豊富であることが知られていたが、PD-L1発現との詳細な関連データは著しく不足していた。

目的

大規模かつ詳細な臨床情報およびゲノムデータが統合された乳がんコホートを用いて、検証された抗体を用いた免疫組織化学(IHC)染色により乳がんにおけるPD-L1蛋白発現の正確な頻度を算出すること。さらに、PD-L1発現と乳がんの分子サブタイプ、CD274遺伝子のコピー数異常、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の密度、および患者の長期的な疾患特異的生存期間との関連を明らかにすることを目的とする。

結果

PD-L1抗体アッセイの特異性検証: IHC染色の信頼性を担保するため、MDA-MB-231(PD-L1陽性)およびMCF7(PD-L1陰性)の乳がん細胞株を用いて抗体の検証を行った。ウエスタンブロット解析では、MDA-MB-231において約50 kDaの糖鎖修飾PD-L1蛋白を検出し、インターフェロンガンマ(IFN-γ)刺激により両細胞株で発現増強を確認した。さらに、siRNAを用いたCD274ノックダウンによりウエスタンブロットで70%以上の蛋白減少を認め、これに比例してホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)細胞ペレットにおけるIHC染色シグナルも著明に低下した。ヒト扁桃および胎盤組織を用いた染色でも既報と一致する適正な染色パターンが得られ、抗体の高い特異性が実証された。

乳がんにおけるPD-L1蛋白発現の全体頻度: SEARCHおよびNEATコホートの合計3,916例の有効データにおいて、PD-L1蛋白発現は極めて稀であることが示された。1%以上の陽性細胞を基準とした場合、免疫細胞でのPD-L1陽性率は6%(235/3916例)、腫瘍細胞での陽性率はわずか1.7%(66/3916例)であった。腫瘍細胞または免疫細胞のいずれか一方でもPD-L1陽性を示した症例は全体で6.3%(245/3916例)に留まり、乳がん全体におけるPD-L1発現の希少性が確認された (Supplementary Figure 6)。

分子サブタイプおよびbasal-like腫瘍への濃縮: 分子サブタイプ解析において、PD-L1発現はbasal-likeサブタイプに著しく濃縮されていることが判明した。METABRICコホートでは、basal-like腫瘍に相当するIntClust 10の39%(17/44例)が免疫細胞でPD-L1陽性(1%以上)を示し、他サブタイプと比較して有意に高頻度であった(p<0.001)。SEARCH/NEATコホートにおいても、代替IHC分類によるbasal-like腫瘍の19%(56/302例)が免疫細胞で陽性であった(p<0.001)。さらに、免疫細胞におけるPD-L1陽性細胞割合の増加(1%未満、1-5%、5-10%、10%超)に伴い、basal-like腫瘍が占める割合がそれぞれ8%、20%、33%、47%へと段階的に増加する強い量反応関係が示された (Fig 2)。

CD274遺伝子コピー数異常およびmRNA発現との相関: METABRICコホートを用いた統合ゲノム解析において、CD274遺伝子のmRNA発現量とコピー数状態には極めて強い正の相関が認められた(Kruskal-Wallis検定, p=0.0001)。CD274遺伝子の増幅(amplification)は5例にのみ認められた極めて稀なイベントであったが、そのうち4例(80%)がIntClust 10(basal-like)サブタイプに属していた。また、コピー数増加(gain)を示した65例のうち、57%(37例)がIntClust 10であり、遺伝子レベルのゲノム異常がbasal-like腫瘍におけるPD-L1過発現の主要な駆動機構の一つであることが示された (Fig 1)。PD-L1蛋白発現とCD274 mRNA発現量の間には有意な正の相関が確認された(腫瘍細胞蛋白発現とmRNA発現でSpearman r=0.17, p=0.0005; 免疫細胞蛋白発現とmRNA発現でSpearman r=0.15, p=0.002)(Supplementary Figure 3)。また、PD-L1陽性例はゲノム切断点の多さと有意に相関していた(免疫細胞陽性 p=0.003、腫瘍細胞陽性 p=0.004)。

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) との強力な相関: 腫瘍微小環境における免疫動態を評価したところ、PD-L1蛋白発現は腫瘍内のCD8+細胞傷害性T細胞およびFOXP3+制御性T細胞の浸潤密度と極めて強い正の相関を示した(いずれの比較においてもSpearman r=0.3, p<0.0001)。この結果は、乳がんにおけるPD-L1発現が、腫瘍浸潤リンパ球の攻撃に対する反応的な適応免疫抵抗(adaptive immune resistance)として誘導されている病態を強く示唆している。

疾患特異的生存期間 (DSS) との予後関連解析: コホート全体ではPD-L1発現と予後の間に有意な相関は認められなかったが、ER陰性乳がんのサブグループにおいて、免疫細胞におけるPD-L1高発現(10%超)は疾患特異的生存期間の改善傾向と名目上生存に有利なハザード比を示した。多変量解析において、ER陰性疾患における免疫細胞PD-L1高発現群は、ハザード比 HR 0.53 (95% CI 0.26-1.07, p=0.08) であった (Supplementary Table 5)。一方で、ER陽性乳がんにおいてはPD-L1発現と予後の間に関連は全く認められなかった。また、CD8+ T細胞浸潤の予後効果に対するPD-L1発現の有意な相互作用(interaction)は検出されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、過去の小規模な研究やRNAレベルでの評価(例えば、SchalperらによるRNA FISHを用いた最大60%の発現報告や、Sabatierらによるマイクロアレイデータに基づく20%の過発現報告など)と比較して、厳格に検証されたIHCアッセイを用いることで、乳がんにおける実際のPD-L1蛋白発現頻度が全体として極めて稀(免疫細胞6%、腫瘍細胞1.7%)であることを正確に示した。この結果は、乳がんにおけるPD-L1発現が非常に高頻度であるとしていたこれまでの報告と異なり、臨床試験のデザインにおいて重要な基準となる信頼性の高いデータを提供するものである。

新規性: 本研究は、5,763例という未曾有の大規模臨床コホートを対象に、PD-L1蛋白発現を系統的に評価した本研究で初めての報告である。特に、PD-L1発現がbasal-likeサブタイプに著しく濃縮されていること、およびCD274遺伝子増幅がほぼbasal-like特異的に生じていることをゲノム・蛋白レベルの双方で統合的に実証した点は、これまで報告されていない極めて新規性の高い知見である。

臨床応用: 本知見は、乳がん患者全体に一律に免疫チェックポイント阻害薬を適用するのではなく、basal-like/triple negative乳がんの特定のサブセット(約19%)に標的を絞って治療を開発すべきであるという明確な指針を与え、将来的な臨床応用への道を拓いた。実際に、その後の臨床試験において、PD-L1陽性triple negative乳がんに対する免疫療法併用の有効性が証明されたことは、本研究が示した治療標的としての臨床的意義を強く裏付けている。

残された課題: 本研究のlimitationとして、組織マイクロアレイ(TMA)を用いた解析であるため、腫瘍内における免疫浸潤やPD-L1発現の空間的不均一性を完全に捉えきれていない可能性が挙げられる。また、解析が原発巣中心であり、実際に免疫チェックポイント阻害薬が投与される転移病巣におけるPD-L1発現動態は評価されていない。今後の検討課題として、全切片を用いた空間的解析や、同一患者における原発巣と転移巣のペア検体を用いたPD-L1発現の比較検証が必要である。

方法

本研究では、SEARCH(Study of Epidemiology and Risk Factors in Cancer Heritage)人口ベースコホート(N=4,079)、NEAT(National Epirubicin Adjuvant Trial)ランダム化比較試験(N=1,684、ClinicalTrials.gov識別子: NCT00003577)、およびMETABRIC(Molecular Taxonomy of Breast Cancer International Consortium)ゲノムコホート(N=418)の合計3つの独立した乳がん研究コホートから得られた原発腫瘍検体を用いた。組織マイクロアレイ(TMA)を用いて、検証されたウサギモノクローナル抗PD-L1抗体(Cell Signaling Technology, #13684)を用いた免疫組織化学(IHC)染色を実施した。PD-L1発現は腫瘍細胞および免疫細胞においてそれぞれ独立して、陽性細胞割合に基づき0(1%未満)、1(1-5%)、2(5-10%)、3(10%超)の4段階でスコア化した。分子サブタイプは、METABRICコホートではコピー数異常と遺伝子発現プロファイルに基づく統合クラスター分類(IntClust)を用い、SEARCHおよびNEATコホートでは臨床病理学的代替IHCマーカー(ER、PR、HER2、CK5/6、EGFR)を用いて分類した。統計解析には、CD274コピー数と遺伝子発現の関連評価にKruskal-Wallis検定、カテゴリ変数間の関連評価にPearsonのカイ二乗検定、連続変数間の相関にSpearmanの順位相関係数を用いた。疾患特異的生存期間(DSS)の解析には、研究コホートで層別化したCox比例ハザード回帰モデル(Cox regression)を用い、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法により5年および10年の絶対生存率を算出した。