• 著者: Cristina Puig-Saus, Barbara Sennino, Songming Peng, Clifford L. Wang, Zheng Pan, Benjamin Yuen, Bhamini Purandare, Duo An, Boi B. Quach, Diana Nguyen, Huiming Xia, Sameeha Jilani, Kevin Shao, Claire McHugh, John Greer, Phillip Peabody, Saparya Nayak, Hoover J, Said S, Jacoby K, Dalmas O, Foy SP, Conroy A, Yi MC, Shieh C, Lu W, Heeringa K, Ma Y, Chizari S, Pilling MJ, Ting M, Tunuguntla R, Sandoval S, Moot R, Hunter T, Zhao S, Saco JD, Perez-Garcilazo I, Medina E, Vega-Crespo A, Baselga-Carretero I, Abril-Rodriguez G, Cherry G, Wong DJ, Hundal J, Chmielowski B, Speiser DE, Bethune MT, Bao XR, Gros A, Griffith OL, Griffith M, Heath JR, Franzusoff A, Mandl SJ, Ribas A
  • Corresponding author: Cristina Puig-Saus (cpuigsaus@mednet.ucla.edu); Antoni Ribas (aribas@mednet.ucla.edu) (Jonsson Comprehensive Cancer Center, University of California Los Angeles, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-03-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36890230

背景

抗PD-1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬(CPI)は、転移性黒色腫(メラノーマ)患者の一部において劇的かつ長期的な臨床奏効をもたらす。この治療効果は、主にT細胞受容体(TCR)が腫瘍細胞上の体細胞変異に由来するネオアンチゲン(がん特異的変異抗原)を認識し、腫瘍を攻撃することによって媒介されると考えられている。これまでの先行研究において、ネオアンチゲンががん免疫療法の極めて重要な標的であることが示されており Schumacher et al. Science 2015、PD-1阻害薬の治療効果が腫瘍特異的な変異抗原を標的とするT細胞応答と密接に関連していることも報告されている Gubin et al. Nature 2014。さらに、ミスマッチ修復欠損(dMMR)を伴う腫瘍におけるPD-1阻害の有効性 Le et al. NEnglJMed 2015 や、非小細胞肺がんにおける腫瘍変異負荷(TMB)とPD-1阻害薬に対する感受性との相関 Rizvi et al. Science 2015 など、変異抗原の存在が免疫応答の引き金になることが実証されてきた。さらに、クローナルなネオアンチゲンがT細胞の免疫応答性を誘導し、免疫チェックポイント阻害への感受性を規定することも報告されている McGranahan et al. Science 2016

しかしながら、抗PD-1療法を受けた患者の体内において、実際にどのようなネオアンチゲン特異的CD8+ T細胞応答が誘導されているのか、その包括的なランドスケープや動態の全貌は未解明であった。特に、治療に奏効した患者と非奏効の患者との間で、ネオアンチゲン特異的T細胞の多様性(ポリクローナリティ)や持続性にどのような差異が存在するのかという点については、臨床検体の制約やHLA(ヒト白血球抗原)の高度な多様性が障壁となり、詳細な比較解析が困難であった。また、個別化TCR-T細胞療法の開発に向けて、非ウイルス性のCRISPR-Cas9を用いた相同組換え修復(HDR)技術により、T細胞受容体アルファ鎖定常領域(TRAC)座位へ正確にTCR遺伝子を挿入する技術の確立も望まれていた。

これまでのアプローチでは、抗PD-1療法におけるネオアンチゲン特異的T細胞応答の正確な動態を解明し、治療奏効を規定する細胞免疫学的因子を特定するための研究アプローチが強く求められていたものの、臨床検体から直接かつ高精度に抗原特異的T細胞を単離・解析する技術が不足していた。また、治療奏効例と非奏効例を直接比較した高解像度なTCRダイナミクスのデータが圧倒的に不足しており、どのようなクローン動態が実際の抗腫瘍効果を規定しているのかという核心的問いに対する解が未解明なまま残されていた。

目的

本研究の目的は、抗PD-1療法を受けた転移性黒色腫患者(奏効例および非奏効例)の末梢血および腫瘍組織から、個別化したDNAバーコード付きネオアンチゲン-HLA(pHLA)ライブラリを用いて、ネオアンチゲン特異的CD8+ T細胞を単細胞レベルで高精度に単離し、そのTCR配列を同定することである。さらに、非ウイルス性CRISPR-Cas9 HDR(homology-directed repair)遺伝子編集技術を用いて、健康ドナー由来のT細胞のTRAC(T cell receptor alpha constant)座位に同定したneoTCRを再構成し、自己腫瘍細胞株に対する特異的な反応性および細胞傷害活性を検証する。これらを通じて、抗PD-1療法の奏効例と非奏効例におけるneoTCRのポリクローナリティ、特異性、および経時的な持続性を比較解析し、効果的な抗腫瘍免疫応答を規定する細胞免疫学的相関因子を明らかにすることを目的とする。

結果

奏効例におけるネオアンチゲン特異的TCRの高度なポリクローナリティ: 抗PD-1療法に奏効した患者7例(n=7 patients)の解析において、ネオアンチゲン特異的CD8+ T細胞応答は極めて高いポリクローナリティ(多クローン性)を示すことが明らかになった。奏効患者群では、同定されたネオアンチゲン1変異あたり中央値5個(範囲1–23個)の異なるTCRクロノタイプが存在し、患者1例あたり中央値41個(範囲7–61個)のneoTCRクロノタイプが同定された (Fig. 1b, c)。これに対し、治療に反応しなかった非奏効患者群4例(n=4 patients)では、標的変異あたり中央値2個(範囲1–6個)のクロノタイプしか検出されず、患者1例あたりの同定数も中央値6.5個(範囲2–14個)と有意に低値であった (Fig. 1b, c)。標的変異あたりのneoTCRクロノタイプ数の比率を比較したところ、奏効群は非奏効群に対して有意に高い多様性を有していることが示された(p=0.0434、両側不対t検定)(Fig. 1c)。この結果は、効果的な抗腫瘍免疫応答の確立には、単一のT細胞クローンによる攻撃だけでなく、同一の変異抗原を複数の異なるTCRクローンが多角的に認識する「ポリクローナルな応答」が重要であることを示している。

免疫優性変異への応答集中とTMBとの非線形性: 各患者において実際にT細胞応答が検出されたネオアンチゲンは、腫瘍が有する全変異数のうち極めて限定された一部の変異(1患者あたり1–13個の変異)に集中しており、明確な免疫優性(immunodominance)が観察された (Fig. 1b)。奏効患者群における非同義体細胞変異数(TMB)は中央値506個(範囲177–3,507個)であり、非奏効群の中央値132個(範囲31–977個)と比較して高い傾向にあったが、実際にT細胞が認識したネオアンチゲン数は両群間で有意な差を認めず、TMBの総数と実際の免疫応答の広がりは線形相関しなかった (Fig. 1b)。例えば、最も多くの変異を有していた患者1(3,507個の変異、1,243個が発現)において、実際にCD8+ T細胞が標的としたのはわずか11個の変異のみであった (Fig. 2c)。この知見は、腫瘍内に存在する膨大な変異のうち、ごく一部の免疫優性な変異抗原に対する集中した免疫応答が治療効果を規定していることを示唆している。

CRISPR-Cas9 HDRによるTRAC座位への正確なneoTCR再構成と強力な抗腫瘍活性: 非ウイルス性CRISPR-Cas9 HDR法を用いて、同定したneoTCRを健康ドナーから得たT細胞(n=3 donors)のTRAC座位にノックインした結果、極めて高効率かつ機能的なneoTCR-T細胞の作製に成功した。奏効例から得られた57個のneoTCR(57/57)すべてが、再構成後に自己腫瘍細胞株に対して特異的な反応性(活性化マーカーの上昇やサイトカイン産生)を示し、そのうち34個(34/57)は強力な直接的細胞傷害活性を示した (Fig. 3)。例えば、患者1由来のUBE2J1(ubiquitin conjugating enzyme E2 J1)、NUP188(nucleoporin 188)、WDR1(WD repeat domain 1)変異を標的とするneoTCR-T細胞は、自己黒色腫細胞株M495に対して特異的に反応し、エフェクター対ターゲット(P:T)比5:1の共培養(n=4 replicates)において、約60%の特異的腫瘍細胞殺傷能(60% target cell killing)を発揮した (Fig. 3a)。この強力な細胞傷害活性は、対照群であるNeo12 TCRを発現させたT細胞と比較して有意な差を認めた(p<0.0001)。また、非奏効例から単離された5個のneoTCR(5/5)についても、同様に再構成を行うことで、自己腫瘍細胞株(M485、M486、M488)に対して特異的な4-1BBの上方制御(p<0.005、n=3 replicates)および強力な細胞傷害活性を示すことが確認された (Fig. 4d-i)。これらの機能検証実験において、標的ペプチド-HLA複合体による刺激を行ったところ、IFNγ産生におけるEC50(half-maximal effective concentration)値は、強力な細胞傷害活性を示すクローンにおいて0.9 nMから4.7 nMの範囲(0.9-4.7 nM)であり、極めて高い抗原感受性を有していることが示された (Extended Data Fig. 5j)。

末梢血および腫瘍組織における同一TCRクロノタイプの長期持続と循環動態: 縦断的な解析により、抗PD-1療法奏効例においては、同一のネオアンチゲン特異的TCRクロノタイプが、治療前から治療中、さらには治療後(最長111+ヶ月)にかけて、末梢血(PBMC)および腫瘍組織(TIL)の両方から反復して検出されることが実証された (Fig. 2)。例えば、患者1においては、NUP188、UBE2J1、WDR1変異を標的とする複数のTCRクローンが、治療開始後428日以上の長期にわたり、血液中および腫瘍局所の両方で持続的に検出され、その頻度はCD8+ T細胞100,000個あたり100–1000個(100-1000 cells per 100,000 CD8+ T cells)の範囲で動的に推移していた (Fig. 2c)。一方、非奏効例においては、同一クロノタイプが連続するサンプルから反復して検出されることは極めて稀であり、クローンの持続性が著しく欠如していた (Fig. 4a-c)。この結果は、抗PD-1療法の持続的な効果が、全身を循環し腫瘍局所へ浸潤し続けるネオアンチゲン特異的T細胞クローンの長期的な維持と相関していることを示している。

考察/結論

本研究は、転移性黒色腫患者における抗PD-1療法の治療効果が、限定された免疫優性変異を標的とするネオアンチゲン特異的CD8+ T細胞の高度なポリクローナリティ(多クローン性)および経時的な持続検出と強く相関していることを明らかにした。

先行研究との違い: これまでの研究において、ネオアンチゲン特異的T細胞応答が免疫チェックポイント阻害薬の奏効に重要であることは示唆されていたが Schumacher et al. Science 2015、奏効例と非奏効例におけるTCRクロノタイプの多様性や動態を直接比較した包括的な解析は行われていなかった。本研究は、奏効例が非奏効例と比較して、標的変異あたりのneoTCRポリクローナリティが有意に高いこと(p=0.0434)を明らかにし、単一のクローンによる応答ではなく、同一変異に対する多角的なクローン動員(ポリクローナリティ)が長期奏効の維持に寄与しているという新たな視点を提供しており、これまでの単純な変異特異的T細胞の有無のみに着目した知見とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、非ウイルス性CRISPR-Cas9 HDR法を用いて、患者由来のneoTCRを健康ドナーT細胞のTRAC座位に正確にノックインする技術を駆使し、11例の患者から得られた多数のneoTCRの機能を高効率に再構成して実証した。特に、奏効例由来の57/57、非奏効例由来の5/5のすべてのneoTCRが、再構成後に自己腫瘍細胞に対して特異的な反応性を示した事実は、本プラットフォームの確実性と有用性を本研究で初めて証明したものである。

臨床応用: 本研究の知見は、個別化がんワクチンや養子T細胞療法(TCR-T療法)の設計における標的選択基準に重要な臨床的意義をもたらす。腫瘍変異負荷(TMB)の総数ではなく、限定された免疫優性変異に対するポリクローナルなT細胞応答を誘導・増幅することが治療成功の鍵であることが示された。また、非奏効例から単離されたneoTCRであっても、体外で再構成することにより自己腫瘍細胞を強力に傷害できたことから、抗PD-1療法単剤では効果が得られない患者に対しても、個別化neoTCR-T細胞療法を臨床応用することで治療効果を期待できるというtranslationalな含意を有する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で確立された非ウイルス遺伝子編集による個別化TCR-T細胞療法の臨床試験(第I相試験)における安全性および有効性の検証が挙げられる。また、非奏効例において、機能的なneoTCRが存在するにもかかわらずin vivoで治療効果が得られなかった要因として、腫瘍微小環境における免疫抑制メカニズムの関与が考えられるため、これらの抑制経路を克服する併用療法の開発が今後の研究方向性として重要である。

方法

本研究は、抗PD-1療法(pembrolizumabまたはnivolumabなど)を受けた転移性黒色腫患者11例(長期奏効群7例、非奏効群4例)を対象とした。各患者の腫瘍生検組織および自己腫瘍細胞株からゲノムDNAおよびRNAを抽出し、全エクソームシーケンス(WES)およびRNAシーケンス(RNA-seq)を実施した。得られたシーケンスデータに基づき、患者固有のHLAクラスIアレル(6アレル)を同定し、体細胞変異に由来するネオアンチゲンペプチドのHLA結合親和性を予測アルゴリズム(NetMHCpanなど)を用いてスクリーニングした。予測されたネオアンチゲン候補(1例あたり最大243種類)に基づき、DNAバーコードおよび蛍光標識(PEまたはAPC)を付加した個別化ネオアンチゲン-HLA(pHLA)マルチマーライブラリを作製した。

患者の末梢血単核球(PBMC)および腫瘍浸潤リンパ球(TIL; tumor-infiltrating lymphocyte)からCD8+ T細胞を濃縮し、活性化マーカーであるCD39、CD103、CD95の発現およびpHLAマルチマーへの結合性を指標として、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によりネオアンチゲン特異的T細胞を単細胞レベルで分取した。分取した単一細胞からRT-PCRによりTCRα鎖およびβ鎖の可変領域配列を増幅し、次世代シーケンス(NGS)によりTCR配列(neoTCRクロノタイプ)を決定した。

同定されたneoTCR配列をコードする非ウイルス性プラスミドHDRテンプレートを作製し、CRISPR-Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP)とともに健康ドナー由来のT細胞にエレクトロポレーション法で導入した。これにより、内在性TCRをノックアウトしつつ、TRAC座位にneoTCRを正確にノックインした遺伝子編集T細胞(neoTCR-T細胞)を製造した。

作製したneoTCR-T細胞を、患者由来の自己黒色腫細胞株(M495、M489、M490、M485、M486、M488など)または同種MHC不一致の対照細胞株であるM202細胞株(M202)と共培養し、活性化マーカー(4-1BB、OX-40)の発現、脱顆粒(CD107a発現)、および各種サイトカイン(IFNγ、TNF、IL-2、IL-6)の産生量をサイトカインビーズアレイ(CBA; cytokine bead array)を用いて測定した。さらに、Incucyteシステムを用いたリアルタイムライブセルイメージングにより、核赤色蛍光タンパク質(nRFP)を発現させた自己腫瘍細胞株に対する細胞傷害活性を評価した。統計解析には、2群間の比較にStudent t-test(両側不対t検定)を用い、多重比較にはHolm-Sidak補正を適用した。