- 著者: Weiping Zou, Lieping Chen
- Corresponding author: Weiping Zou (Department of Surgery, University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA; wzou@med.umich.edu); Lieping Chen (Departments of Dermatology and Oncology, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA; lchen42@jhmi.edu)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 18500231
背景
B7ファミリーはCD80 (B7.1) とCD86 (B7.2) の発見に始まり、これらがCD28を介してT細胞を活性化し、CTLA4を介して抑制するという「2シグナルモデル」が確立された。2000年代初頭にかけてB7ファミリーメンバーが相次いで同定され、1999年にDong et al. がB7-H1 (後のPD-L1/CD274) を報告し (Dong et al. NatMed 1999)、2000年にFreeman et al. がPD-1 (CD279) をB7-H1の受容体として同定した (Freeman et al. JExpMed 2000)。2002年にはDong et al. が腫瘍関連B7-H1がT細胞アポトーシスを誘導することをマウスモデルと多がん種ヒト組織で示し (Dong et al. NatMed 2002)、B7-H1が腫瘍免疫逃避の中心的メディエーターである可能性を初めて提示した。さらに2003年にはB7-H4 (VTCN1 [V-set domain-containing T cell activation inhibitor 1]、別名B7x、B7S1 [B7 superfamily member 1]) が複数のグループにより独立して同定され、T細胞抑制活性が示された。
しかし2008年時点ではこれら抑制性B7分子がどのような多段階的・協調的機構によって腫瘍内T細胞免疫を抑制するか体系的には整理されておらず、知識の gap in knowledge が存在していた。特に (1) B7-H1とB7-H4の発現誘導の細胞種特異的サイトカイン依存性と転写後調節機構、(2) B7-H1が腫瘍細胞自身への「逆シグナリング受容体」として機能するという視点、(3) B7-H4を媒介とするTreg-マクロファージ-T細胞抑制連鎖の全貌、がそれぞれ個別研究として断片的に存在するだけで、統合的なフレームワークが手薄であった。また複数のがん種にわたるB7-H1・B7-H4の発現率と患者予後の体系的集約も不足していた。
目的
腫瘍微小環境における抑制性B7ファミリー分子 (主にB7-H1とB7-H4) について、(1) ヒト多がん種にわたる発現パターンと臨床病理学的関連、(2) IFN-γ (interferon gamma)・IL-6・IL-10等のサイトカインによる発現誘導・調節機序、(3) T細胞免疫抑制の多様な機構の体系化、(4) がん細胞自身への逆シグナリングによる免疫殺傷抵抗性付与、(5) 免疫療法標的としての治療的戦略を論じることを目的とする。
結果
B7-H1 (PD-L1) の多がん種高発現とIFN-γ・PTEN依存的調節機序:B7-H1タンパク質は正常組織では稀にしか発現しないにもかかわらず、多くのヒトがん種で系統的に高発現が確認された (Table 1)。代表的な陽性率:肺がん n=87例中86例 (99%)、卵巣がん n=93例中82例 (88%)、多発性骨髄腫 n=82例全例 (100%)、腎細胞がん (RCC) n=196例中130例 (66%)、尿路上皮がん n=268例中142例 (53%)、胃がん n=105例中45例 (43%)、乳がん n=56例中24例 (43%)、食道がん n=41例中18例 (44%)。高発現がん種ではTIL数の減少・患者生存短縮との有意な相関が多変量解析で確認されており (RCC・卵巣がん・胃がん・食道がんで報告)、B7-H1が独立した予後不良因子であることが示された。
B7-H1発現誘導の最も強力な因子はIFN-γであり、ほぼすべての試験された腫瘍細胞株・正常上皮・血管内皮細胞・樹状細胞 (DC) でIFN-γ処理により細胞表面B7-H1が高発現した。Type I IFN (IFN-α/β) も肝細胞・単球・DCでB7-H1を誘導した。確立された腫瘍細胞株がin vitroでB7-H1をほとんど発現しない一方で同じ腫瘍のin vivo組織では高発現するという乖離は、TME (tumor microenvironment) 内でT細胞やNK細胞が産生するIFN-γがin vivoでのB7-H1発現を誘導している (適応型免疫抵抗性の初期概念) ことを示唆する。PTEN欠失 (PI3K-AKT経路活性化) が転写後レベルでのB7-H1タンパク質安定化に寄与することも示され、PTEN欠失膠芽腫 (n=10例全例でB7-H1陽性) ではPTEN正常膠芽腫に比してB7-H1が有意に高発現しT細胞傷害に抵抗性を示した。腫瘍関連DC・線維芽細胞・T細胞もB7-H1を発現し、腫瘍細胞のみならず複数の細胞種が免疫抑制に寄与することが示された。
B7-H4の発現パターンとTreg-IL-6/IL-10-マクロファージ連鎖による誘導機序:B7-H4 (VTCN1) タンパク質は正常組織では女性生殖器・腎・肺・膵の正常上皮に限局して微量発現するが、ヒトがん微小環境では広く検出される (Table 2)。卵巣がん n=216例中202例 (94%)、乳がん原発 n=173例中165例 (95%)、乳がん転移 n=246例中240例 (98%)、RCC n=259例中153例 (59%)、前立腺がん n=823例中120例 (15%) に認められ、卵巣がんでのB7-H4陽性腫瘍関連マクロファージ (TAM) 数とTreg数の間には有意な正相関が示された (Spearman r>0.6、p<0.01)。B7-H4+ TAMが多い卵巣がん患者では生存期間が有意に短縮し、独立した予後不良因子であることが多変量Cox解析で確認された (Fig 2参照)。
B7-H4発現調節の機序はB7-H1とは明確に異なり、IL-6とIL-10が単球・マクロファージ・骨髄系DCでのB7-H4発現を誘導する一方、DC分化サイトカインのGM-CSFとIL-4はこの誘導を顕著に抑制した。卵巣がんTMEではTreg細胞がIL-6・IL-10産生を誘導し、そのIL-6・IL-10がTAMのB7-H4発現を上方調節するという「Treg→IL-6/IL-10→B7-H4+ TAM→T細胞抑制」連鎖が卵巣がん組織と卵巣がん腹水由来細胞で実証された。IL-4・IL-6・IL-10・GM-CSFはいずれも腫瘍細胞上のB7-H4発現には影響を与えないことから、TAM由来B7-H4と腫瘍細胞由来B7-H4は異なる機序で制御されていると考えられた。B7-H4の受容体は当時未同定 (orphan ligand状態) であり、T細胞上で誘導される未同定受容体が存在することのみが示され、PD-1・CTLA4とは異なる機構でT細胞G0/G1期停止を誘導することが確認された。
B7-H1によるT細胞抑制の6つの機構:本Reviewが体系化した中心的知見として、B7-H1は少なくとも6種の独立した機構によりT細胞免疫を多段階で抑制することが提示された (Fig 3)。(1) アポトーシス誘導:B7-H1+ 腫瘍細胞株との共培養でヒト腫瘍抗原特異的T細胞のアポトーシスが増加し、抗B7-H1抗体でこれが有意に抑制された。B7-H1欠損マウスでは肝内CD8+ T細胞が蓄積 (正常より有意に増加、p<0.05) し、生理的なT細胞アポトーシスにおける役割が示された。(2) アネルギー誘導:IL-10処理DCがT細胞アネルギーを誘導するが、抗ヒトB7-H1抗体によって回復可能であった。B7-H1-PD-1相互作用はリンパ節でのT細胞プライミング相においても末梢組織でのエフェクター相においても機能し、両フェーズでのブロックがアネルギーT細胞を完全活性化T細胞に転換できることが示された。(3) 疲弊誘導:慢性ウイルス感染モデル (LCMV [lymphocytic choriomeningitis virus] Docileなど) でPD-1高発現・機能疲弊T細胞に対し、抗B7-H1または抗PD-1抗体処置が疲弊T細胞の機能を有意に回復させた。ヒトメラノーマ患者の腫瘍浸潤T細胞でもPD-1高発現が確認され、抗PD-1抗体が腫瘍抗原特異的T細胞増殖・機能を増強した。(4) 分子的シールド効果:B7-H1高発現P815腫瘍細胞は抗原特異的CD8+ T細胞による溶解に顕著な抵抗性を示した (wild-type P815に比べ溶解率が有意に低下)。この抵抗性はB7-H1-PD-1相互作用依存的であり「分子的シールド」と命名され、B7-H1の細胞内ドメイン欠失変異体では喪失し、T細胞側のPD-1細胞内ドメイン欠失では維持されたことから、腫瘍細胞側のB7-H1逆シグナリングが本質的役割を果たすことが示唆された。(5) IL-10産生促進:抗CD3抗体とB7-H1免疫グロブリン融合タンパク質によるT細胞刺激でIL-10の選択的産生誘導が確認された。腫瘍関連B7-H1+ DCもT細胞のIL-10産生を誘導した。(6) Treg誘導・Treg機能増強:B7-H1+ 血管内皮細胞・胃上皮細胞がin vitroでFOXP3 (forkhead box P3)+ CD4+ Treg細胞の誘導を促進した。IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)+ DC由来活性化Treg細胞が標的DCへのB7-H1発現を誘導し、B7-H1依存的なT細胞抑制を増幅する連鎖が腫瘍担癌マウスで示された。非ホジキンリンパ腫では腫瘍内Treg自身がB7-H1を発現し、PD-1+ 腫瘍浸潤T細胞の機能を部分的にB7-H1-PD-1経路を介して抑制していた。これら6機構が階層的かつ補完的に機能することで、T細胞免疫のプライミング・エフェクター・疲弊の全段階にわたる抑制が成立するというモデルが提唱された。
B7-H1の「逆シグナリング」:がん細胞への抗アポトーシス効果と免疫抵抗性付与:B7-H1はAPCやT細胞上でのリガンドとして機能するだけでなく、がん細胞では受容体として機能し、T細胞由来の免疫介在性細胞死シグナルに対する抵抗性をがん細胞自身に付与する (Azuma et al. Blood 2008)。B7-H1発現がん細胞はFasL誘導アポトーシス・スタウロスポリン誘導アポトーシス・CD95 (FAS) 抗体誘導アポトーシスに対し、B7-H1非発現細胞に比べ有意に抵抗性を示した。この抵抗性はB7-H1の細胞内ドメイン依存的であり、細胞内ドメイン欠失B7-H1発現腫瘍では逆シグナリングが失われ免疫傷害感受性が回復した。in vivoでも細胞内ドメイン欠失B7-H1発現腫瘍は野生型B7-H1発現腫瘍に比して養子免疫療法に対し有意に高い感受性を示した。PTEN欠失膠芽腫ではPTEN依存的なB7-H1高発現と免疫抵抗性の増大が連動しており、腫瘍細胞のゲノム異常 (PTEN欠失) がB7-H1を介した免疫逃避を促進するという機構が示唆された。これらのデータはB7-H1が「ユビキタスな抗アポトーシス受容体」としてがん細胞に発現し、免疫介在性破壊に対する抵抗性を幅広いアポトーシス刺激に対して付与する可能性を示す。
治療的含意:抗B7-H1/PD-1遮断・B7-H4標的化・組み合わせ療法:本Reviewがまとめた前臨床治療戦略として、(1) 抗B7-H1または抗PD-1中和抗体:複数のマウス腫瘍モデルで抗B7-H1抗体がT細胞浸潤増加・腫瘍退縮を誘導し、抗CD137 (4-1BB) アゴニスト抗体や腫瘍細胞ワクチンとの組み合わせで相乗的抗腫瘍効果が示された。TGF-β遮断との組み合わせでは腫瘍退縮が相乗的に増強された。抗PD-1抗体はB7-DC (PD-L2) とPD-1の結合も遮断しうるためより広範な免疫活性化をもたらす可能性がある一方、PD-1欠損マウスでの自己免疫疾患自然発症を踏まえた副作用リスク評価が必要とされた。(2) B7-H4標的化:ヒトB7-H4に対する有効な中和抗体は当時未整備であったが、siRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドによるB7-H4発現抑制がTAMの免疫抑制能を解除し、卵巣がんヒト異種移植モデルで腫瘍抗原特異的T細胞のエフェクター機能を回復させ腫瘍増殖を抑制した。(3) 組み合わせ遮断:単一経路の遮断では限界があるとして、B7-H1/PD-1遮断とCTLA4遮断・Treg除去・VEGF遮断・B7-H4遮断・IDO阻害・アルギナーゼ阻害の組み合わせが複数の免疫抑制機構を同時に解除する戦略として将来への展望として示された。
考察/結論
本Reviewは抗PD-1/PD-L1療法の臨床開発が始まる直前の2008年に、B7-H1とB7-H4を中心とした抑制性B7ファミリーの腫瘍内発現・誘導機序・6種のT細胞抑制機構・腫瘍細胞への逆シグナリングを体系化した基礎的貢献論文であり、その後のチェックポイント阻害療法の生物学的根拠の礎となった。
これまでの研究ではIFN-γが腫瘍免疫を促進する文脈で注目されてきたが、本Reviewはこれと対照的な側面を提示した。IFN-γはMHC分子・抗原提示機構を上昇させてT細胞応答を促進する一方で、B7-H1発現を誘導してT細胞抑制を招く「二刃の剣 (double-edged sword)」として機能することが示された。このIFN-γ→B7-H1誘導→T細胞抑制という逆説的フィードバックループは、T細胞が腫瘍を攻撃しようとするほど腫瘍がPD-L1を上昇させるという「適応型免疫抵抗性」概念の前身にあたる。既報のIFN-γ療法が多くのがん種で有効でなかった臨床的観察の分子的説明を初めて体系的に提供したことが本Reviewの大きな意義であった。
B7-H4に関しては、本Reviewが初めてTreg-IL-6/IL-10-TAMというシグナル連鎖によるB7-H4発現誘導メカニズムを提示した。これはTME内の複数の免疫細胞種が単独ではなく協調的ネットワークとして機能することを示す新規な知見であった。IL-6とIL-10がGM-CSFやIL-4によって拮抗される点は、TMEのサイトカインバランスが免疫抑制の程度を決定するという重要な概念を提供し、卵巣がんでの予後不良との関連と合わせてB7-H4が治療標的として有望であることを示した。この三者連鎖モデルはのちのTME多細胞相互作用研究のパラダイムとなった。
B7-H1の逆シグナリングによるがん細胞の抗アポトーシス機能はこれまで報告されていない視点であり、B7-H1が単なるT細胞抑制リガンドにとどまらず、がん細胞自身の生存を能動的に促進するという novel な機能を体系化した点が本Reviewの独創的貢献であった。B7-H1の細胞内ドメインがこの機能に必要であるという発見は、治療介入の設計において抗体によるPD-1/B7-H1結合遮断だけでなくB7-H1逆シグナリング経路自体の制御も考慮すべきことを示唆した。
臨床応用の観点では、前臨床データに基づいたB7-H1/PD-1遮断の治療的有望性が明確に示されたと同時に、自己免疫リスク (B7-H1欠損NODマウスでの糖尿病促進、実験的自己免疫性脳脊髄炎の軽度増悪)・妊娠への潜在的影響 (胎盤栄養芽層でのB7-H1発現)・agonistic効果のリスクが指摘された。これらは後の抗PD-1/PD-L1療法臨床開発で現実化したimmune-related adverse events (irAE、免疫関連有害事象) の予測として、本Reviewが治療的機会とリスクを同時に提示した点で先見性を有していた。
残された課題として、B7-H4の天然受容体の同定、B7-H3の腫瘍免疫における共刺激・抑制の二面性の解明、各腫瘍・病期における抑制性B7分子の相対的寄与の評価、そして単一経路遮断の限界を超えた組み合わせ療法の最適化が今後の検討課題として明示された。また各患者・腫瘍の個別TME評価の重要性、すなわち腫瘍ごとに主要な免疫抑制機構が異なるという個別化医療の視点が、2008年時点ですでに強調されていた点は注目に値する。これらの課題の多くはその後15年間にわたる腫瘍免疫学研究の中心的テーマとなり、nivolumab・pembrolizumab・atezolizumab等の抗PD-1/PD-L1療法の臨床承認という形で結実した。
方法
PubMed/MEDLINEデータベースを用いて2008年時点までに発表されたB7ファミリー関連論文・腫瘍免疫逃避関連論文を包括的に収集し、B7-H1とB7-H4を中心に腫瘍内発現・発現調節・T細胞抑制機構・逆シグナリング・前臨床モデル・臨床的相関を統合的にレビューした。
エビデンスとして採用した実験系は以下に分類される。(a) ヒト腫瘍組織を用いた免疫組織化学 (IHC): 凍結切片・ホルマリン固定パラフィン包埋切片でのB7-H1・B7-H4タンパク質発現を抗体 (ヒトB7-H1特異的モノクローナル抗体44含む) で検出し、TIL数・患者生存との関連をKaplan-Meier法およびlog-rank検定で評価した多施設コホート研究。(b) マウス腫瘍モデルを用いたin vivo実験: P815マストサイトーマ (B7-H1トランスジェニック株・P815抗原特異的T細胞移入)、B16-F10メラノーマ、DAI-3b (C3Hマウス由来急性骨髄性白血病 [AML、acute myeloid leukemia] 細胞株) モデル、NOD (non-obese diabetic、非肥満糖尿病) マウスを用いた抗体遮断・ノックアウト (B7-H1欠損・PD-1欠損) 実験。(c) ヒト腫瘍細胞株とT細胞の共培養系: T細胞アポトーシス・アネルギー・増殖・サイトカイン産生を標準的アッセイ (ELISA・フローサイトメトリー・51Cr放出アッセイ) で評価。(d) ヒト卵巣がん組織・腹水を用いた多細胞間相互作用解析: TregとTAMとB7-H4の三者相関をSpearman相関係数で評価し、Cox比例ハザードモデルで患者生存への影響を多変量解析した。(e) siRNA・アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたB7-H4ノックダウン実験: 卵巣がんマウス異種移植モデルで腫瘍増殖・T細胞機能への影響を評価。なお本論文はReviewであり、著者らが実施した一次研究 (Kryczek et al. J Exp Med 2006・Curiel et al. Nat Med 2003等) と文献上の知見を統合している。