- 著者: Curran MA, Montalvo W, Yagita H, Allison JP
- Corresponding author: James P. Allison (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-03-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 20160101
背景
T細胞の活性化には、T細胞受容体(TCR)シグナルに加え、T細胞上のCD28と抗原提示細胞(APC)上のB7分子の結合による共刺激が必要であるとLinsley et al. J Exp Med 1991が報告している。しかし、T細胞が活性化されると、T細胞の増殖とサイトカイン産生を抑制するCD28/B7ファミリーの抑制性受容体も誘導されることが知られている。CTLA-4はT細胞活性化後に急速にアップレギュレーションされ、B7分子にCD28より高親和性で結合し、T細胞の増殖とサイトカイン産生を抑制する。一方、PD-1もT細胞活性化後に発現し、リガンドであるPD-L1およびPD-L2に結合することでT細胞のアネルギー、アポトーシス、疲弊を促進する。さらに、PD-L1がT細胞上でB7-1(CD80)に結合するという追加の共抑制経路も存在する。これらの複数のT細胞抑制経路の存在は、その経路のいずれかが破綻した場合に生じる重篤な自己免疫疾患が示すように、免疫応答の厳密な制御に不可欠である。
CTLA-4欠損マウスは生後4週で致死的リンパ増殖症を発症するのに対し、PD-1欠損マウスは長期間生存後にループス様症状(約50%の浸透率)を示すことがNishimura et al. Immunity 1999により報告されており、両経路が制御する免疫応答の性質と強度が異なることが示唆される。リン酸化阻害の観点からも、CTLA-4はPP2A (protein phosphatase 2A) を介してAktリン酸化を阻害する一方、PD-1は異なる機序を用いるなど、非重複的な制御機構が存在することが示されている。また、PD-1/PD-L1およびCTLA-4/B7相互作用は、T細胞の運動性変化を介して末梢性免疫寛容の維持に寄与するが、そのメカニズムは異なるようである。
当時、B16メラノーマにFvax(Flt3-リガンド発現照射腫瘍細胞ワクチン)またはGvax(GM-CSF発現照射腫瘍細胞ワクチン)を併用したモデルにおいて、抗CTLA-4抗体単独が腫瘍拒絶を促進することはvan Elsas et al. J Exp Med 1999により示されていた。しかし、CTLA-4とPD-1の抑制経路が非重複的であるならば、両者の同時遮断が相乗的な抗腫瘍効果をもたらす可能性があったが、その詳細な機序は未解明であった。特に、腫瘍微小環境におけるT細胞の挙動や免疫抑制細胞への影響については、さらなる解析が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、B16メラノーマモデルにおいて、Fvaxワクチンと組み合わせたPD-1およびCTLA-4の単独および併用遮断が、腫瘍拒絶率に与える影響を定量的に比較することである。さらに、腫瘍微小環境におけるT細胞の浸潤、組成、機能、および骨髄由来抑制細胞(MDSC)の比率に対する各治療法の影響を詳細に解析し、単独遮断では達成できない相乗効果の機序を解明することを目指した。特に、一方の共抑制経路を遮断した際に他方の経路が代償的にアップレギュレーションされる可能性に着目し、併用遮断がこの代償機構を解除し、腫瘍特異的T細胞の持続的な活性化と機能維持を可能にするメカニズムを明らかにすることを目的とした。また、Teff/Treg比およびTeff/MDSC比の改善が腫瘍微小環境の免疫抑制状態から炎症性状態への転換にどのように寄与するかを評価することも重要な目的とした。
結果
併用遮断による腫瘍拒絶率の相乗的改善: 高腫瘍チャレンジ条件(5 × 10⁴個のB16-BL6細胞、Fvaxワクチン設定)において、単独治療の生存率はFvax + αPD-L1で8%、Fvax + αCTLA-4で10%、Fvax + αPD-1で25%であった(Fig. 1B)。PD-1とCTLA-4の二重遮断では50%の腫瘍拒絶率を達成し、さらにαPD-L1の追加(三重遮断)により65%に上昇した。この効果は加算的ではなく相乗的であった。注目すべきことに、いずれの抗体組み合わせもGvaxとの組み合わせでは20%を超える生存率を達成できなかった(Fig. 1A)。これは、GvaxがFvaxに比べてより高いB7-1発現を誘導すること、腫瘍部位にMDSC蓄積を増加させること、およびtolerogenicサイトカイン(TGF-βなど)の産生を増大させることに関連すると考察された。
TIL中のTeff/Treg比の劇的改善: CTLA-4とPD-1の単独遮断はいずれも腫瘍内CD8+ T細胞浸潤を著明に増加させたが、αPD-L1単独の効果は限定的であった(Fig. 2A)。PD-1 + CTLA-4二重遮断はαCTLA-4単独よりもさらに高いCD8+ T細胞浸潤を達成した。CD4+ Teff浸潤の増加はαCTLA-4とαPD-L1で顕著であり、αPD-1の効果は主に絶対数増加に表れた(Fig. 2B)。各単独抗体はCD8/Treg比を改善したが、PD-1 + CTLA-4二重遮断はその比を単独療法より有意に高め、三重遮断は全ての単独療法を統計的に上回った(Fig. 2D)。αPD-1単独ではむしろTIL内Treg頻度の増加がみられ、Tregへの直接的抑制効果が乏しいことが示唆された。
代償的共抑制受容体アップレギュレーションの解除: 単独遮断後のTILにおけるCTLA-4およびPD-1の発現解析は重要な知見をもたらした。αCTLA-4投与後のCD8+ T細胞ではPD-1発現が著明に上昇し、αPD-1投与後のCD8+ T細胞ではCTLA-4発現が上昇した(Fig. 3B)。すなわち、一方の共抑制受容体を遮断すると他方の発現が代償的に増加するという「代償的アップレギュレーション」が起こり、単独遮断の効果を制限していた。二重遮断ではこの代償機構が解除され、CTLA-4/PD-1二重陽性のCD8+ Teffが75%以上を占める状態が達成された(未処置では30%未満)。同様の傾向はCD4+ Teffでも観察された(Fig. 3A)。これらの結果は、n=5-15 mice per groupで3-6回の独立した実験により得られた。
Teff/MDSC比の相乗的改善と炎症性微小環境への転換: MDSC(CD11b+Arginase-1+)との比率解析で、αCTLA-4、αPD-1、αPD-L1単独はそれぞれCD8/MDSC比を改善したが、PD-1 + CTLA-4二重遮断と三重遮断はこの比を単独療法の2倍以上に相乗的に増大させ、未処置腫瘍の10倍以上に達した(Fig. 4A)。CD4 Teff/MDSC比でも同様の相乗効果が観察され、三重遮断は全ての単独療法を統計的に上回った(Fig. 4B)。TIL内MDSC分率も組み合わせ遮断で有意に低下した。Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009が報告したように、MDSCはアルギナーゼ-1 (arginase-1) 活性を介してT細胞活性を抑制する重要なメカニズムを持つ。これらの結果は、n=5-15 mice per groupで3回の独立した実験の合計値である。
炎症性サイトカイン産生の増強と腫瘍内増殖: Ovaペプチドで再刺激された腫瘍およびワクチン排出リンパ節CD8+ T細胞において、PD-1 + CTLA-4二重遮断はIFN-γとTNF-αの双方の産生を単独遮断に比べて有意に増加させた(Fig. 5A)。αPD-L1の追加はこれを有意に増加させなかった。腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるIFN-γ/TNF-α二重産生細胞の頻度も組み合わせ遮断で最も高かった(Fig. 5C)。CD4+ TeffにおいてαCTLA-4単独または組み合わせ遮断が最も高いIFN-γ/TNF-α二重産生率を示した(Fig. 5D)。T細胞増殖(Ki67)については、CTLA-4遮断が最も強力な単独ドライバーであり、PD-1追加による有意な増大は観察されなかった(Fig. 5E, F)。これらのデータは、CTLA-4遮断がT細胞の初期活性化と増殖を主に促進し、PD-1遮断がエフェクターT細胞の持続的活性化と疲弊抑制を通じてTeff/Treg・Teff/MDSC比の改善に主に寄与するという、非重複的な作用分担を示唆している。これらのサイトカイン産生データは、n=5 pooled mice per groupで3-4回の独立した実験により得られた。
考察/結論
本研究は、PD-1とCTLA-4の組み合わせ遮断が、非重複的な作用機序を介して腫瘍微小環境を抜本的にリモデリングし、免疫抑制的状態から炎症性状態へと転換させることを前臨床的に実証した。相乗効果の中心的メカニズムは、(1) 代償的共抑制受容体アップレギュレーションの解除によるTeffの持続的拡張と機能維持、(2) Teff/Treg比の劇的改善、(3) Teff/MDSC比の相乗的改善、(4) 炎症性サイトカイン(IFN-γ・TNF-α)産生の増大、の4点にある。
先行研究との違い: これまでの研究では単独の共抑制経路遮断の効果が主に報告されてきたが、本研究は、一方の共抑制受容体を遮断すると他方の発現が代償的にアップレギュレーションされ、単独遮断の効果を制限するという重要なメカニズムを明らかにした点で、先行研究と異なる。これは、腫瘍内T細胞が複数の共抑制ブレーキを同時にかけられており、一つを外すだけでは不十分であることを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、PD-1とCTLA-4の併用遮断が、単独遮断では達成できない相乗的な腫瘍拒絶率と、腫瘍微小環境におけるTeff/Treg比およびTeff/MDSC比の劇的な改善をもたらすことを新規に同定した。特に、CTLA-4/PD-1二重陽性Teffの蓄積は、T細胞が機能的・増殖的に抑制されることなく拡張し、エフェクター機能を継続できることを示唆する。また、Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002が報告したようにB16メラノーマはPD-L1をほとんど発現しないため、αPD-L1の追加効果は腫瘍細胞への直接作用ではなく、B7-1/PD-L1経路の遮断によるCD4/TregおよびCD4/MDSC比の改善が主なベネフィットであると考察された。
臨床応用: 本知見は、イピリムマブ(抗CTLA-4)とニボルマブ(抗PD-1)の組み合わせ療法の開発に直接的な科学的根拠を提供しており、臨床的意義は多大である。この組み合わせは現在、進行性メラノーマ、腎細胞癌、非小細胞肺癌など多癌種で標準治療の地位を確立している。本前臨床研究が単独遮断では達成できない相乗的腫瘍拒絶率とTMEリモデリングを実証したことは、その後の臨床開発の礎となった。
残された課題: 今後の検討課題として、Gvaxとの組み合わせでは有効性が得られなかった理由をさらに詳細に解明する必要がある。GvaxがMDSCの蓄積やtolerogenicサイトカインの産生を増加させる可能性が示唆されており、ワクチン誘導免疫の質や腫瘍微小環境への影響が、組み合わせ治療の相乗性に決定的な影響を与えることが示唆された。また、組み合わせ治療で高まる自己免疫合併症リスク(irAE)についても本論文で早期に注意喚起がなされており、免疫関連有害事象の管理が臨床普及の鍵となる。これらのlimitationを克服するための研究が今後の方向性となる。
方法
動物モデルと治療プロトコル:C57BL/6マウス(4~6週齢雄、Jackson Laboratories)を使用し、Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerの動物実験委員会によって承認されたプロトコルに従って飼育した。B16-BL6またはB16-ovalbumin(Ova)細胞をマウスの側腹部に皮内移植した。高腫瘍チャレンジ条件として、5 × 10⁴または1.5 × 10⁵個のB16-BL6細胞を移植した。治療は、FvaxまたはGvaxワクチン(1 × 10⁶個の照射済み遺伝子改変B16細胞)を対側側腹部に皮内投与し、抗体をday 3、6、9に腹腔内投与した。抗体はαCTLA-4(9D9, 100 µg)、αPD-1(RMP1-14, 250 µg)、αPD-L1(9G2, 100 µg)を単独および2剤・3剤組み合わせで投与した。生存曲線は、各群5~15匹のマウスを用いた3~4回の独立した実験の合計で評価した。
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)解析:腫瘍接種後day 16に腫瘍を摘出し、Liberase(Roche)とDNase(Roche)で消化後、Ficoll勾配(Histopaque 1119; Sigma)を用いてリンパ球を分離した。フローサイトメトリーにより、CD8+ T細胞、CD4+ Teff(FoxP3-)、Treg(CD4+FoxP3+)、MDSC(CD11b+Arginase-1+またはCD11b+GR-1+)の比率と絶対数を測定した。CTLA-4、PD-1、PD-L1、ICOS、4-1BB、KLRG1などの活性化・抑制マーカーの発現も評価した。細胞はFoxP3染色キット(eBioscience)を用いて固定・染色し、LSRII (BD Bioscience) サイトメーターで解析した。
サイトカイン産生解析:B16-Ovaモデルにおいて、腫瘍排出リンパ節およびワクチン排出リンパ節からT細胞を分離し、OvaペプチドパルスDCで36時間再刺激後、TH1/TH2/TH17 CBAキット(BD Bioscience)でIFN-γ、TNF-α、IL-10、IL-4の産生を定量した。TILは、Ova/B16ペプチドパルスDCで8時間再刺激後、細胞内サイトカイン染色で評価した。Ki67染色でT細胞の増殖を評価した。統計解析にはt検定を用いた。