- 著者: John LB, Devaud C, Duong CPM, Yong CS, Beavis PA, Haynes NM, Chow MT, Smyth MJ, Kershaw MH, Darcy PK
- Corresponding author: Darcy PK (Peter MacCallum Cancer Centre, Victoria, Australia)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23873688
背景
CD20、GD2、CD19を標的とするCAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法は初期臨床試験で有望な結果を示し、HLA非依存的な腫瘍認識という利点が確立されつつあった。しかし、腫瘍微小環境 (TME) には複数の免疫抑制機構が共存しており、CAR-T細胞の治療効果を制限することが課題として認識されていた。特に、PD-1/PD-L1経路は主要な負の免疫調節機構であり、T細胞活性化後に誘導的に発現するPD-1受容体が腫瘍上のPD-L1に結合することで、SHP2リン酸化酵素の動員→PI3K脱リン酸化→Akt阻害という下流シグナル抑制が生じ、T細胞の活性化・増殖・生存が低下する。Hodi et al. NEnglJMed 2010によるイピリムマブ (抗CTLA-4) の成功や、Topalian et al. NEnglJMed 2012やBrahmer et al. NEnglJMed 2012による抗PD-1抗体 (BMS-936558/ニボルマブ) の臨床有効性が報告され始めており、Pardoll et al. NatRevCancer 2012が示唆するように、チェックポイント阻害薬がCAR-T細胞の効果を増強できるという仮説が台頭していた。一方、Her-2は正常乳腺・脳組織にも自己抗原として発現しており、自己免疫毒性のリスクを内包した評価モデルとしても重要であった。CAR-T細胞療法とPD-1チェックポイント阻害の併用効果、特に自己抗原発現組織における安全性に関する包括的な評価は未解明であった。
目的
抗Her-2 CAR-T細胞と抗PD-1抗体の併用が、(1) 定着Her-2陽性腫瘍に対する抗腫瘍効果を増強するか、(2) その機序においてTMEの免疫細胞組成変化 (特にMDSC (myeloid-derived suppressor cell)・Treg) を伴うか、(3) Her-2自己抗原陽性の正常組織に対する自己免疫毒性が増大しないかを、Her-2トランスジェニックマウスの自己抗原モデルで包括的に評価する。
結果
抗原特異的刺激によるCAR T細胞のPD-1発現上昇とin vitro機能増強: Her-2陽性・陰性2種の腫瘍細胞株 (24JK-Her-2, e0771-Her-2 および各親細胞) がいずれも高レベルのPD-L1表面発現を示すことをフローサイトメトリーで確認した。抗Her-2 CAR T細胞を24JK-Her-2と一晩共培養すると、24JK親細胞との共培養比較でCAR+総T細胞のPD-1発現が有意に上昇した (11.86±3.14% vs. 6.45±0.45%、P<0.05)。この増加はCD8+T細胞 (9.23±3.77% vs. 3.40±0.58%) で顕著であったが、CD4+T細胞では有意差は認められなかった (2.31±0.38%)。同様の結果がe0771-Her-2腫瘍細胞との共培養でも確認された (Supplementary Fig. S2)。抗PD-1抗体 (250μg) 存在下において、24JK-Her-2刺激を受けたCAR T細胞ではアイソタイプ対照比較でKi-67 (増殖マーカー)、IFNγ (炎症性サイトカイン産生)、granzyme B (細胞傷害活性) がいずれも有意に増加した (P<0.05〜P<0.01) (Fig. 2B-D)。また、in vivoでの移入後追跡実験 (Thy1.1+ドナーT細胞使用) で、抗PD-1投与day2後に腫瘍部位での移入T細胞内IFNγ発現がアイソタイプ対照群比較で有意に増加した (Fig. 4A)。ただし腫瘍浸潤・血液中のThy1.1+T細胞の比率はPD-1遮断有無で差がなく、機能増強が数的増加とは独立した機序によることが示された (Fig. 4B-D)。
2種類の定着Her-2陽性腫瘍に対する強力な腫瘍増殖抑制と長期生存改善: 24JK-Her-2皮下肉腫モデル (Her-2トランスジェニックマウス、n=8/群) において、day7確立腫瘍 (20-30 mm^2) に対する治療の結果、抗Her-2 T細胞+抗PD-1抗体の併用群は腫瘍面積の最も強い抑制を示し (P<0.001)、生存解析で63%の長期生存率が得られた (Fig. 3A, B)。これはアイソタイプ対照との有意差 (P<0.001) をもたらし、単独療法との明確な優越性を示した。抗PD-1抗体単独群およびLXSNベクター形質導入制御T細胞+抗PD-1群には腫瘍増殖抑制・生存効果は認められなかった。この結果はPD-1阻害単独での効果ではなく、CAR T細胞との相乗効果であることを示す。e0771-Her-2乳癌同所性モデル (第4乳腺脂肪体内接種、n=8/群) でも、抗Her-2 T細胞+抗PD-1抗体群が抗Her-2 T細胞+アイソタイプ対照群、抗Her-2 T細胞単独群と比較して有意な腫瘍増殖抑制を示した (P<0.001) (Fig. 3C)。異なる組織型・接種部位・腫瘍モデルで同様の効果が再現されたことは、この併用戦略の汎用性を支持する。2つの独立した実験のデータを組み合わせても結果の再現性が確認された。
腫瘍微小環境におけるMDSCの著明減少が治療効果に相関: 治療day8での腫瘍浸潤免疫細胞の解析では、CAR T細胞+抗PD-1抗体群でCD11b+Gr-1+細胞 (MDSC) の割合が無治療対照群と比較して有意に減少していた (P<0.05) (Fig. 5B)。一方、CAR T細胞+アイソタイプ対照群ではこの差は認められなかった。フローサイトメトリーにより、腫瘍内のGr-1+細胞がPD-L1 (高発現) およびPD-1 (低発現) を共発現することが確認された (Supplementary Fig. S3)。これは抗PD-1抗体がMDSCに対して直接のPD-1遮断より間接的な経路で作用する可能性 (arginase I活性阻害を介したMDSC機能抑制、あるいはCAR T細胞機能回復に続く二次的MDSC減少など) を示唆する。また血液中でも治療day1においてCAR T細胞+抗PD-1群でMDSC (CD11b+Gr-1+) の有意な減少が認められた (P<0.05) (Fig. 5C)。対照的に、Treg細胞の割合は単独療法と比較して併用療法で追加的な変化を示さなかった (照射効果によるTreg低下はCAR T細胞治療群全体で同等に認められた) (Fig. 5B)。全体として、MDSC減少と強い抗腫瘍効果の相関は、MDSCがCAR T細胞免疫抑制の重要なエフェクターであり、抗PD-1抗体がMDSCを介した抑制を解除するという機序的理解を支持する。
Her-2陽性正常組織への自己免疫毒性の不在: 脳・乳腺組織のH&E染色による詳細な組織学的解析において、抗Her-2 T細胞単独または抗PD-1抗体との併用投与を受けたマウスに、T細胞浸潤・組織損傷・炎症等の自己免疫病理は認められなかった (Fig. 6)。正常乳腺・脳の形態はいずれの治療群においても無治療マウスと同等であった。
考察/結論
本研究はCAR-T細胞療法と抗PD-1抗体の併用が定着がんに対して強力な相乗効果を示す最初のエビデンスを提供した。特に重要な発見は、抗PD-1抗体の主要な作用機序の一つが腫瘍微小環境でのMDSC減少を通じた間接的な免疫抑制解除にあるという点である。PD-1が低レベルながらGr-1+細胞にも発現しており、arginase I阻害等を介したMDSCの抑制活性低下が抗腫瘍T細胞反応を増幅させた可能性が示唆される。これはCurran et al. ProcNatlAcadSciUSA 2010の報告とも一致する。
新規性: 本研究で初めて、自己抗原トランスジェニックマウスモデルにおいて、抗Her-2 CAR-T細胞と抗PD-1抗体の併用療法が、Her-2陽性腫瘍の増殖抑制および長期生存率を有意に改善することを初めて示した。この併用効果は、CAR-T細胞の機能亢進と腫瘍微小環境におけるMDSCの著明な減少 (P<0.05) と相関し、自己免疫毒性の増加なしに達成された。
先行研究との違い: 他の研究ではMHCクラスI拘束性T細胞を用いてPD-1阻害がT細胞の腫瘍浸潤を増加させることが報告されているが、本研究では抗PD-1抗体の有無で養子移入T細胞数と腫瘍浸潤T細胞の比率は変化しなかった。したがって、抗PD-1の効果は細胞数増加ではなく機能増強 (IFNγ産生の有意増加がday2に観察) を主たる機序とする点でこれまでの報告と異なる。
臨床応用: CAR-T細胞と抗PD-1抗体のいずれも単剤では一部患者にしか効果を示さないという現状の中で、この組み合わせが治療効果を劇的に高める可能性を示したことの臨床的意義は大きい。Porter et al. NEnglJMed 2011やLouis et al. Blood 2011の報告のようにCAR-T細胞療法は有望な結果を示しているが、Morgan et al. MolTher 2010が示すようなオンターゲット毒性も報告されている。本研究では自己抗原発現組織への自己免疫毒性増加が認められなかったため、用量・スケジュールの最適化を自己抗原モデルでさらに評価した上でのフェーズI試験への展開が提唱される。
残された課題: Her-2トランスジェニックモデルは正常Her-2発現レベルが腫瘍より低く、より感度の高い自己免疫検出モデルの構築が今後の課題として指摘される。また、PD-L1が腫瘍側に発現していたことが治療反応と相関するかは検討されていない点も課題として残る。MDSCの減少がCAR T細胞と抗PD-1抗体のどちらによるものか、あるいは両者の相乗効果によるものかを厳密に区別する実験は行われていない。Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009が報告するように、MDSCは多様な免疫抑制メカニズムを持つため、PD-1遮断がMDSCのどの機能を抑制したのかを詳細に解析することが今後の研究で必要である。
方法
本研究は非盲検の動物実験であり、特定のNCT番号は存在しない。primary endpointは腫瘍増殖抑制と生存率、secondary endpointはCAR-T細胞の機能と腫瘍微小環境の変化、および自己免疫毒性とした。統計解析には二元配置分散分析 (two-way ANOVA) およびStudentのt検定を用い、p<0.05を有意差ありと判断した。
腫瘍モデルと治療プロトコル:C57BL/6 Her-2トランスジェニックマウス (n=5-8/群) に2種類のHer-2陽性腫瘍を移植した。(1) 24JK-Her-2肉腫細胞を皮下接種 (1×10^6細胞、day7に20-30 mm^2腫瘍確立)、(2) e0771-Her-2乳癌細胞を第4乳腺脂肪体に同所性接種 (5×10^5細胞)。マウスはday7に5Gy照射後、抗Her-2 CAR T細胞またはLXSN (retroviral vector) ベクター対照T細胞 (1×10^7細胞/回、day0・1の2回) を投与し、抗PD-1抗体 (RMP1-14クローン, 250μg/回、day0・3・7) またはアイソタイプ対照と組み合わせた。さらにIL-2 (50,000 IU×9回) をday0〜4に投与した。腫瘍測定はキャリパーで週2回実施した。
CAR T細胞の特性評価:Her-2トランスジェニックマウス脾臓T細胞にscFv-抗Her-2-CD28-CD3ζ CARをレトロウイルスで形質導入した (平均39.75±8.23%導入効率)。多数はCD8陽性 (83.78%) で活性化/記憶 (CD62L^hi CD44^hi) 表現型を示した。
in vitro機能解析:24JK-Her-2共培養後のPD-1発現、Ki-67 (増殖)、IFNγ (サイトカイン)、granzyme B (細胞傷害活性) の細胞内染色をフローサイトメトリーで評価した。
T細胞機能・局在追跡:コンジェニックThy1.1+供与Her-2マウスT細胞を用い、in vivoでの養子移入T細胞の腫瘍浸潤・血液中比率および機能 (細胞内IFNγ) を評価した。
免疫細胞組成解析:治療day1・8後に腫瘍・血液を採取し、CD4+T細胞・Treg (CD4+CD25+FR4+)、MDSC (Gr-1+CD11b+)、Gr-1+細胞のPD-L1・PD-1発現をフローサイトメトリーで解析した。
組織毒性評価:乳腺・脳組織のH&E染色による自己免疫病理評価を実施した。