- 著者: Robert A. Watson†, Orion Tong†, Rosalin Cooper, Chelsea A. Taylor, Piyush K. Sharma, Alba Verge de los Aires, Elise A. Mahé, Hélène Ruffieux, Isar Nassiri, Mark R. Middleton, Benjamin P. Fairfax (†equal contribution)
- Corresponding author: Benjamin P. Fairfax (benjamin.fairfax@oncology.ox.ac.uk) (MRC Weatherall Institute of Molecular Medicine, University of Oxford; Department of Oncology, University of Oxford, Oxford, UK)
- 雑誌: Science Immunology
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 34597125
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は、CTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte-associated protein-4) およびPD-1 (programmed cell death protein-1) を標的とする抗体療法として、転移性メラノーマ (MM) をはじめとする多くの癌腫の治療に革命をもたらした Postow et al. JClinOncol 2015。しかし、ICBによる臨床的恩恵には患者間で著しい異質性が存在し、その奏効を予測するバイオマーカーは依然として不足している Goodman et al. MolCancerTher 2017。腫瘍内に浸潤するT細胞 (TILs) の多さがICB奏効と相関することは広く認識されているものの Tumeh et al. Nature 2014、治療前および治療中のT細胞浸潤の程度を決定する因子は未解明な点が多い。特に、末梢血CD8+ T細胞のクローン動態がICB応答にどのように寄与するのか、またどのT細胞サブセットやクローンがICBに対して最も感受性が高いのかについては、その分子機序が不明であった。
先行研究では、ICB治療後の末梢血中の大クローン (レパートリーの0.5%以上を占めるクローン) の数が、長期的な臨床アウトカムと関連することが報告されている (Fairfax et al. Nat Med 2020)。しかし、この相関の背景にある分子メカニズム、すなわち、特定のT細胞サブセットがICBによってどのような転写変化を受け、それが臨床的恩恵とどのように結びつくのかは、詳細に解明されていなかった。ICB応答におけるCD8+ T細胞の役割は中心的であるが、その応答は有糸分裂やIFN-γ誘導に代表される細胞傷害性の増加など、複数の要素から構成される。これらの応答がT細胞の表現型やクローン間でどのように異なるのか、また、de novoで出現するクローンと既存のクローンから派生する応答のどちらが優勢であるのかは、個別化されたICB戦略を構築する上で不可欠な知見として求められていた。特に、末梢血の免疫プロファイルが腫瘍認識と制御において重要な役割を果たす可能性が示唆されているにもかかわらず、この領域は比較的未開拓であり、ICB応答の決定因子としての末梢免疫環境の重要性をさらに深く理解するための知識ギャップが残されている。
目的
本研究は、ICB治療を受けている転移性メラノーマ患者の末梢血CD8+ T細胞を対象に、単一細胞V(D)JおよびRNAシーケンス (scRNA-seq) を用いて、以下の目的を達成することを目指した。(1) ICB治療によって引き起こされるCD8+ T細胞サブセットおよび個々のクローンレベルでの転写変化の異質性を詳細に定量し、ICB感受性の高いサブセットを特定する。(2) クローンサイズとICB感受性の関係を解析し、特にTCRシグナル伝達経路を含む遺伝子発現変化がクローンサイズとどのように関連するかを明らかにする。(3) 治療前 (ベースライン) の末梢血CD8+ T細胞における細胞傷害性スコアおよび大クローン数が、ICB治療後の無病生存期間 (PFS) を予測するバイオマーカーとなりうるかを、大規模な独立コホートで検証する。これらの解析を通じて、ICB応答の分子決定因子に関する理解を深め、末梢血由来の予後バイオマーカー探索に貢献し、転移性メラノーマにおけるICB応答を決定するベースラインのCD8+ T細胞免疫環境の重要性を強調することを目的とした。
結果
7つのCD8+ T細胞サブセットの同定とICB後のECサブセットにおける顕著な転写変化: 22,445個の末梢血CD8+ T細胞から、naïve、CM、EM、EC、mitotic、γδ、MAITの7つのサブセットを同定した (Figure 1B, C)。GOBP解析により、EMとECサブセットではIFN-γシグナル伝達およびT細胞活性化/共刺激経路が高く、naïveおよびCMサブセットでは翻訳およびミトコンドリア代謝機能が優位であることが示された (Figure 1D)。ICB治療後の差次的遺伝子発現 (DE) 解析では、ECサブセットが全てのサブサンプルサイズにおいて、naïve、CM、EMサブセットよりも有意に多くのDE遺伝子を示すことが明らかになった (p<0.0001、Wilcoxon検定) (Figure 3A)。ECサブセットに特異的に誘導される経路には、NFκB、MAPK、TNFシグナル伝達などの炎症性免疫経路が含まれ、他のサブセットでは観察されなかった (Figure 3B)。ICB後のサブセット比率変化では、CMおよびnaïveサブセットが有意に減少し、EMおよびmitoticサブセットが増加したが、ECサブセットの比率自体に有意な変化はなかった (Figure 2A, B)。しかし、ECサブセット内では拡大したクローンの比率が約1.5-fold増加していた (Figure 2D)。
クローンサイズとICB感受性:大クローンにおけるTCRシグナル経路の顕著な誘導: クローンサイズを4つのカテゴリー (<0.1%、0.1-0.5%、0.5-1%、>1%) に分類した結果、クローンサイズが大きいほどICB前後でDE遺伝子数が多いことが示された (small < medium < large < very large) (Figure 3C, D)。特に、ECおよびEMサブセット内でクローンサイズを0.5%をカットオフとして二分した場合でも、大クローンは小クローンよりも有意に多くのDE遺伝子を示した (p<0.0001) (Figure 3E)。大型ECクローンに特異的に誘導されるGOBP経路には、T細胞活性化、増殖、共刺激、TCRシグナル伝達、IFN-γ産生が含まれ、これらは大型EMクローンや小型ECクローンでは観察されなかった (Figure 3F, G)。一方、小クローンで誘導されるGOBP経路はリボソーム遺伝子や翻訳活性に関連しており、終末エフェクターT細胞における翻訳抑制と整合する結果であった。
細胞傷害性クローンのICB後の持続性:ベースラインの細胞傷害性スコアが高いクローンは消退しにくい: ベースライン (d0) で細胞傷害性スコアが高い小クローンは、d21への持続率が高く、消退率が低いことが示された (p<0.05) (Figure 4C)。大クローン自体は小クローンよりも細胞傷害性が有意に高く、持続率も高かった。ECサブセットに限定しても、d21で細胞傷害性を示すクローンはd63+での持続率が高い傾向にあった (p<0.05) (Figure 4F)。安定/拡大クローン (d21からd63+へ) では、KLRF1、KLRC2/3、TIGITなどの細胞傷害性および長期持続性マーカーが高値を示し、STAT1が低値であった (Figure 4G)。ICB治療全体として細胞傷害性は増加し、特にcICBはsICBよりも約1.8-fold大きな細胞傷害性スコアの増加を示した (Figure 5A)。
バルクRNA-seq解析 (n=131 patients) によるPFS予測:d0細胞傷害性スコア高値がPFS改善と相関: 患者のd0細胞傷害性スコアは健常コントロールよりも有意に高値であり、全身性免疫効果を反映していることが示唆された (Figure 5A)。継続奏効患者は、d0およびd21の両方で非奏効 (進行) 患者よりも高い細胞傷害性スコアを示した。Kaplan-Meier解析では、d0細胞傷害性スコアが中央値以上である群でPFSが有意に延長することが示された (ログランク検定 p<0.05) (Figure 5B)。d21の細胞傷害性スコアも同様の傾向を示した。対照的に、mitoticスコア (d0およびd21) とPFSの間には有意な相関は認められなかった (p=0.78およびp=0.69、ログランク検定)。
d0低細胞傷害性+低大クローン数の患者群が最悪のPFSを示す: 大クローン数と細胞傷害性スコアは正の相関を示した (Spearman ρ=0.87, p<2.2x10^-16) (Figure 5C)。患者をd0の大クローン数と細胞傷害性スコアの中央値に基づいて4群に分類した結果、低細胞傷害性かつ低大クローン数の患者群 (群4) は、他の全ての群 (群1: 高cytox/高large、群2: 高cytox/低large、群3: 低cytox/高large) と比較して有意に短いPFSを示した (群1 vs 群4: p=0.019、群2 vs 群4: p=0.023、群3 vs 群4: p=0.010) (Figure 5D)。6ヶ月アウトカム予測のLDAモデルでは、AUC 0.69を示し、細胞傷害性または大クローン数のいずれかを単独で除去してもAUCの変化は最小限であったが、両方を除去すると大幅に低下したことから、両者の補完的な相互作用が示唆された。Riaz et al. Cell 2017 の外部腫瘍コホート (n=26 patients) でも、低細胞傷害性かつ低大クローン数の群で全生存期間が最短であった (Figure 5E)。
腫瘍関連TCR (TA-TCRB) クローンはECサブセット、大クローン、高細胞傷害性に偏在: Pruessman et al. のメラノーマ内TCRデータ (n=199例) と一致するTA-TCRBを保有する細胞は、ECサブセットに有意に多く (Fisherの正確検定 p<0.0001)、大クローン (>0.5%) の比率が有意に高く (Figure 5F, G)、d0およびd21の両方で細胞傷害性スコアが有意に高値であった (Figure 5H)。一方、VDJdbのウイルス反応性TCRを保有する細胞では、EC比率の過多、大クローン比率の差、細胞傷害性スコアの差は認められなかった。この結果は、腫瘍反応性TCRがEC、大クローン、高細胞傷害性という属性に特異的に集積することを示唆する。
考察/結論
本研究は、転移性メラノーマ患者の末梢血CD8+ T細胞におけるICB応答を単一細胞レベルで詳細に解析し、大規模なバルクRNA-seqデータで検証した画期的な研究である。本研究で初めて、EC (effector CD8+) サブセットがICB後に最も顕著な転写変化を示し、特に大クローンがTCRシグナル伝達やIFN-γ産生といった免疫機能に不可欠な経路を特異的に上方制御することを新規に同定した。この発見は、先行研究で報告された「末梢血中の大クローン数とICB奏効の相関」の分子メカニズムを直接的に説明するものであり、これまでの知見と異なり、ICB感受性がクローンサイズに依存することを示唆する。
本研究の新規性は、ICB後の有糸分裂応答の大きさがPFSと無相関であるという知見にもある。これは、ICB後の増殖応答を奏効のサロゲートとしてきた先行研究に重要な反論を提示するものであり、治療効果の評価において細胞傷害性に着目することの重要性を強調する。また、ベースラインで「低細胞傷害性かつ低大クローン数」の患者群がICB治療後に最も短いPFSを示すことを同定したことは、臨床応用において極めて重要な知見である。この患者サブグループは、ICB単剤療法では十分な恩恵を受けにくい高リスク群であり、腫瘍抗原提示促進やT細胞プライミング増強を目的とした前処置 (例: 放射線療法、TLRアゴニスト) とICBを組み合わせる個別化治療戦略の必要性を示唆する。
さらに、腫瘍関連TCR (TA-TCRB) がECサブセット、大クローン、高細胞傷害性に集積するという発見は、末梢血中の腫瘍反応性T細胞がICB応答のバイオマーカーとして機能する可能性を支持する。ウイルス反応性TCRとの明確な対比は、腫瘍反応性T細胞が特異的な機能的シグネチャーを持つことを示しており、これはこれまで報告されていない重要な知見である。
残された課題としては、より多くの患者数での独立検証、より長期 (6ヶ月以上) のクローン追跡による耐久性の評価、および他の腫瘍型への本知見の普遍性の確認が挙げられる。また、ICBによる遺伝子発現変化が癌の進行や他の時間的要因によるものと完全に区別できないというlimitationも存在する。しかし、患者プロファイルの顕著な変化と臨床的パフォーマンスの改善は、これらの変化がICBの効果によるものであることを強く示唆する。今後の研究では、腫瘍反応性クローンの長期的な動態と腫瘍量変化との相互作用、さらには生殖細胞系遺伝学などの非腫瘍関連因子がICB応答に与える影響を理解することが、治療成績のさらなる改善に不可欠である。
方法
本研究では、転移性メラノーマ患者8名 (イピリムマブ+ニボルマブ併用ICB (cICB) 群 n=4 patients、ペムブロリズマブ単剤ICB (sICB) 群 n=4 patients) から、治療前 (d0) および治療1サイクル後 (d21) に末梢血を採取した。採取した血液からCD8+ T細胞を磁気分離し、10x Genomics Chromium 5’ scRNA-seqおよびV(D)Jシーケンスを実施した。品質管理 (QC) を通過した22,445個のCD3+/CD8+ cells (うち17,909個がTCRシーケンスデータ保有) をSeurat v4を用いてクラスタリングし (上位16個の主成分 (PC) を使用、UMAPで可視化)、SingleRパッケージにより7つのCD8+ T細胞サブセット (naïve、central memory (CM)、effector memory (EM)、effector cell (EC)、mitotic、γδ、mucosal-associated invariant T (MAIT) cells) を同定した。
差次的遺伝子発現 (DE) 解析は、SeuratのFindMarkers関数および混合線形モデルを100回のブートストラップサブサンプリング (各サブサンプル n=1100 cells) で実施し、細胞数による検出力の差を補正した。遺伝子オントロジー生物学的プロセス (GOBP) エンリッチメント解析はXGRパッケージを用いて超幾何検定により行った。クローン解析では、TCR-β CDR3アミノ酸配列に基づいてクローンIDを定義し、クローンサイズを総細胞数に対する比率として算出した (<0.5%をsmall、≥0.5%をlargeと分類)。細胞傷害性スコアは、IFN-γ発現と相関する上位50遺伝子に基づいてAddModuleScore関数で算出した Ayers et al. JClinInvest 2017。
さらに、独立した大規模コホート (n=131 patientsからd0サンプル、n=109 patientsからd21サンプル、うち6名からはd63+サンプルも含む) のバルクCD8+ T細胞RNA-seqデータを用いて、各サブセットのスコアおよび細胞傷害性スコアを算出した。無増悪生存期間 (PFS) の解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定を用いた。治療前 (d0) の大クローン数と細胞傷害性スコアを組み合わせた線形判別分析 (LDA) モデルを構築し、6ヶ月時点での臨床アウトカム予測能を評価した (AUC算出)。外部検証として、Riaz et al. Cell 2017 の腫瘍TCRB-seq (T cell receptor beta chain sequencing) データ (n=26) 、Pruessman et al. のメラノーマTCRB-seqデータ (n=199例) (Pruessman et al. Nat Can 2020)、およびVDJdb (V(D)J database) のウイルス反応性TCRデータ (n=149 cells) を用いて、本研究の知見の普遍性を確認した。統計解析はRを用いて行い、Wilcoxon符号順位検定、Fisherの正確検定、Spearmanの順位相関係数など、適切な統計手法を適用した。