• 著者: Bertrand Routy, Emmanuelle Le Chatelier, Lisa Derosa, Connie P. M. Duong, Maryam Tidjani Alou, Romain Daillère, et al.
  • Corresponding author: Laurence Zitvogel (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France); Guido Kroemer (Paris Descartes University)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-11-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29097494

背景

免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、PD-1/PD-L1軸やCTLA-4を標的とするモノクローナル抗体で、進行メラノーマ・NSCLC・腎細胞癌 (RCC) 等において持続的な奏効をもたらす治療として確立された (Robert et al. 2011; Borghaei et al. 2015; Topalian et al. 2012)。しかしPD-1ブロッカーに対する一次耐性は60〜70%の患者で認められ (Motzer et al. 2015)、その原因としては腫瘍変異量の低さ、抗原提示欠損、局所免疫抑制などが提唱されてきたが、決定的なメカニズムは未解明であった。

一方、マウスモデルでは腸内細菌叢が化学療法や免疫療法の効果を修飾することが示されており、CTLA-4ブロッカーの抗腫瘍効果がBacteroides fragilisの存在に依存するという報告 (Vétizou et al. 2015 Science) や、シクロホスファミドと腸内細菌の関係 (Viaud et al. 2013 Science) が明らかにされていた。しかし、PD-1ブロッカーに対する腸内細菌叢の影響については臨床的なエビデンスが不足しており、具体的な因果関係を実証した研究は存在しなかった。本研究は、抗生物質 (ATB) 使用とICI効果不全の関係、および腸内メタゲノミクスによる奏効予測菌種の同定を目的とした。

目的

ATB使用が進行上皮性腫瘍患者のPD-1ブロッカー効果を減弱するかを評価し、腸内細菌叢組成とICI奏効との相関を明らかにするとともに、糞便微生物叢移植 (FMT) 実験で腸内菌叢の因果的役割を証明し、奏効促進菌種の投与によるICI耐性克服の可能性を前臨床モデルで検証する。

結果

ATBがPD-1ブロッカーの抗腫瘍効果を有意に減弱させる: マウスモデルでは、MCA-205肉腫およびRETメラノーマを担う特定病原体フリー (SPF) マウスに14日間の広域抗菌薬 (アンピシリン+コリスチン+ストレプトマイシン) を投与したところ、PD-1 mAb単剤またはCTLA-4 mAbとの併用療法の抗腫瘍効果が有意に損なわれた (P<0.001, ANOVA; Fig 1A, 1B)。臨床コホートとして進行NSCLC (n=140)、RCC (n=67)、尿路上皮癌 (UC, n=42) の計249名を解析した。このうち69名 (28%) がPD-1/PD-L1 mAb投与前2ヶ月以内または投与後1ヶ月以内にATBを使用していた。ATB使用群では未使用群 (n=180) と比較して、全患者を合わせたPFS (無増悪生存期間) およびOS (全生存期間) が有意に短縮していた (P<0.001 log-rank; Fig 1C)。NSCLC単独でATB群はOS中央値で非ATB群の約半分以下となり、NSCLC (Fig 1D) およびRCC (Fig 1E) 個別の解析でもATB使用群の不良予後が確認された。多変量Cox回帰解析ではATBが腫瘍変異量・ECOG performance status (PS) 等の古典的予後因子から独立してICI耐性の予測因子となることが示された。さらにNSCLC検証コホート (n=239) でもATB使用時のOS短縮が再現された。

腸内メタゲノミクス解析がAkkermansia muciniphilaをICI奏効の細菌マーカーとして同定する: NSCLC (n=60) およびRCC (n=40) の計100名の患者から治療開始前の糞便サンプルを採取し、1サンプルあたり >2000万リードのショットガンシーケンシングによる定量的メタゲノミクスを実施した (9.9百万遺伝子リファレンスカタログを使用)。RECIST 1.1基準に基づく臨床奏効 (奏効群R vs 非奏効群NR) で糞便細菌叢を比較したところ、R群ではFirmicutes門が有意に豊富で、Akkermansia属およびAlistipes属等の細菌が過剰代表されていた (Fig 2B)。臨床奏効と最も有意に相関したコメンサル菌は Akkermansia muciniphila であり (全患者 P=0.004; ATB除外後 P=0.003)、PFS >3ヶ月の患者でも有意に豊富であった (全コホート P=0.028; ATB除外後 P=0.007; Fig 2C)。

A. muciniphila検出率が奏効状態と強く相関し検証コホートで確認される: A. muciniphilaが糞便中に検出された患者の割合は、部分奏効 (PR) 群で11/16 (69%)、病勢安定 (SD) 群で23/40 (58%) と高く、進行 (PD)/死亡群では15/44 (34%) に留まった (P=0.007, Cochran-Armitage検定; Fig 2D)。NSCLC 27名・RCC 26名の計53名の検証コホートでもA. muciniphilaはPFS >3ヶ月患者で有意に豊富であることが確認された。さらに末梢血CD4+記憶T細胞のA. muciniphilaに対するTh1反応 (IFN-γ産生) がICI下での良好なPFSと相関し、IFN-γ産生が中央値 (18.1 pg/mL) 以上のNSCLC+RCC患者 (n=15) は中央値未満 (n=16) と比較してPFSが有意に延長していた (Fig 2E, F)。

FMTにより腸内細菌叢が因果的にICI効果を決定することが証明される: 臨床奏効および非奏効を示した計8名のNSCLC患者 (R群 n=4, NR群 n=4) 糞便をATB処置C57BL/6 SPFマウスまたは無菌 (GF) マウスに経口投与して「アバターマウス」を作製し (5〜7匹/群)、MCA-205腫瘍細胞を皮下接種した後PD-1 mAb (クローンRMP1-14) を投与した (Fig 3A)。奏効患者 (R) の糞便移植 (FMT) を受けたアバターマウスでは有意な腫瘍増殖遅延が認められたのに対し、非奏効患者 (NR) の糞便移植マウスでは効果が認められなかった (P<0.05, Student t検定; Fig 3B, 3C)。この結果はATB処置マウスでもGFマウスでも再現された。R-FMT群では腫瘍微小環境においてCXCR3+CD4+ T細胞の有意な浸潤増加 (Fig 3D) および脾臓CD3+CD4+細胞上のPD-L1発現上昇が認められた (Fig 3E)。さらにRCC患者7名 (R群 n=3, NR群 n=4) の糞便をBALB/cマウスに移植してorthotopic RENCA腎癌モデル (PD-1単剤耐性) に対してCTLA-4+PD-1の併用療法を実施すると、R由来FMTのみが生物発光イメージングで腫瘍生着を有意に抑制した (P<0.01; Fig 3F)。

Akkermansia muciniphilaの経口投与がICI効果をIL-12依存的に回復させる: ATBによるdysbiosis後にSPFマウスへA. muciniphilaを単独、またはEnterococcus hirae 13144 (E. hirae) との組合せで経口投与 (5回/3日ごと) すると、ATBにより抑制されたPD-1 mAbのRETメラノーマおよびorthotopic LLC肺癌に対する抗腫瘍効果が回復した (Fig 4A, 4B)。NR患者FMT後のアバターマウスにおいても、A. muciniphila単独またはA. muciniphila+E. hirae二重投与によってPD-1ブロッカー効果が有意に回復した (Fig 4C; P<0.001)。免疫学的機序として、A. muciniphila+E. hirae投与の48時間後に腸間膜リンパ節 (mLN) においてCCR9+CXCR3+CD4+ TCM (central memory) 細胞が増加し (Fig 4D)、腫瘍浸潤リンパ球中でも増加した (Fig 4E)。腫瘍内では肉芽腫形成と高いCD4/FoxP3比が認められ、CD4/FoxP3比と腫瘍サイズの間には有意な負のSpearman相関 (r<0, P<0.05) が観察された (Fig 4F, 4G)。A. muciniphilaおよびE. hiraeは樹状細胞からのIL-12産生を誘導した。IL-12をαIL-12p40中和抗体で遮断するとA. muciniphilaによるPD-1ブロッカー増強効果が消失し (Fig 4H)、本効果がIL-12依存的であることが示された。

考察/結論

① 先行研究との違い: Vétizouら (2015) がCTLA-4ブロッカーにおけるBacteroides fragilisの役割を報告していたのと異なり、本研究ではPD-1ブロッカーに対してAkkermansia muciniphilaが主要な腸内細菌叢のメディエーターとして機能することが明らかになった。これまでの耐性機序研究が腫瘍細胞固有の特性 (TMB低値、HLA欠損、JAK変異等) に焦点を当ててきたのと対照的に、本研究は宿主の腸内微生物叢という非腫瘍因子がICI一次耐性の決定因子となりうることを多癌種コホート (n=249) で初めて大規模に示した点で本質的に異なる。本研究と同時期に発表されたMetson らの腸内細菌叢研究 (Gopalakrishnan et al., Matson et al.) もメラノーマで類似の知見を報告しているが、NSCLC・RCC患者でのFMT因果実証は本研究が先行した。後続のNSCLC大規模コホート研究 (Hakozaki et al. CancerImmunolRes 2020) もこの知見を支持している。

② 新規性: 進行固形腫瘍患者においてATB使用が独立したICI耐性予測因子であることを多癌種コホート (n=249) で示した点、さらにFMT実験でヒト腸内細菌叢が因果的にICI効果を決定することを前臨床モデルで証明した点は本研究で初めて報告されたエビデンスである。A. muciniphilaの経口投与でICI耐性が回復することを示した点も新規であり、腸内細菌叢という操作可能な因子を標的にすることで、これまでにない新規なICI耐性克服戦略が開けることを示した初のトランスレーショナルエビデンスといえる。この知見は後にファイバー・プロバイオティクスによる腸内細菌叢操作の研究 (Spencer et al. Science 2021) へと発展した。

③ 臨床応用: A. muciniphilaを腸内細菌叢バイオマーカーとして用いたICI奏効予測や、A. muciniphilaの経口補充・FMTによるICI耐性克服という新規臨床介入が期待される。本研究の著者らは共同創業した EverImmune 社でコメンサル菌を用いたがん治療の開発を進めており、臨床応用に向けた橋渡しが進行中である。また、ATB使用がICI効果を損なうという知見は、ICI投与患者への安易な抗菌薬処方を見直す必要性を示し、臨床現場でのマネジメントに直接影響する。ICI投与前のA. muciniphila検査や予防的プロバイオティクス投与の臨床試験が国際的に開始されている (Hakozaki et al. CancerImmunolRes 2020)。

④ 残された課題: A. muciniphilaが免疫系を修飾する分子メカニズムはいまだ不明確な部分が多く、IL-12産生誘導や腸管バリア機能強化に加えて他の経路も関与する可能性がある。最適な投与量・投与プロトコル・投与タイミングも未確定である。さらに、特定のコメンサル菌の効果が癌腫・患者背景によって異なる可能性や、A. muciniphilaの奏効促進効果をヒト臨床試験で直接確認したエビデンスは本論文では提供されておらず、今後の検討が必要である。腸内細菌叢と「がん免疫設定点 (cancer-immune set point)」の包括的な理解、ならびに获得性ICI耐性 (Schoenfeld et al. CancerCell 2020) との交差点の解明のためにも、より大規模なメタゲノミクス研究とFMT臨床試験が求められる。

方法

本研究は複合的な設計からなる。臨床コホート研究: 進行NSCLC (n=140)、RCC (n=67)、尿路上皮癌 (n=42) の計249名 (検証コホートは別途NSCLC 239名, NSCLC+RCC 53名) を対象にPD-1/PD-L1 mAb投与前後のATB使用の影響をPFSおよびOSで評価した (log-rank検定、多変量Cox回帰)。メタゲノミクス: 100名の患者糞便サンプルからDNAを抽出し、>2000万ショートリードのメタゲノムショットガンシーケンシングを実施、9.9百万遺伝子リファレンスカタログと照合してメタゲノミクス種 (MGS) を定量化した (Cochran-Armitage検定、Student t検定)。FMT実験: 患者糞便をATB処置C57BL/6 SPFマウスまたはGFマウスに経口投与後、MCA-205肉腫細胞 (10^5) を皮下接種しPD-1 mAb (クローンRMP1-14) を腹腔内投与した (5〜7匹/群、2〜3回独立試験)。RENCA腎癌モデル (BALB/c) では生物発光イメージングで腫瘍を追跡。A. muciniphila投与実験: ATB後の自然再コロニゼーション後にA. muciniphila単独またはE. hirae 13144との組合せを5回経口投与した。免疫解析としてフローサイトメトリーでTIL・脾臓・mLN細胞の表面マーカー (CCR9, CXCR3, PD-L1, FoxP3等) を定量し、IL-12中和実験ではαIL-12p40 mAbを使用した。統計はANOVA、Student t検定、Spearman相関を用いた。