- 著者: Hakozaki T, Richard C, Elkrief A, Hosomi Y, Benlafaoui M, Mimpen I, Terrisse S, Derosa L, Zitvogel L, Routy B, Okuma Y
- Corresponding author: Yusuke Okuma (国立がん研究センター病院、東京) / Bertrand Routy (University of Montreal Research Center)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-07-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 32847937
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は非小細胞肺がん (NSCLC) の治療を革新し、単剤PD-L1高発現 (≥50%) 集団への一次治療としての標準療法が確立されるに至った。CheckMate 017・057、OAK、KEYNOTE-010、KEYNOTE-024など複数のランダム化第III相試験により、抗PD-1/PD-L1抗体はドセタキセルに対してOSの有意な改善を示した。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016 はPD-L1陽性NSCLC患者において、ペムブロリズマブが化学療法と比較してOSを改善することを示した。また、Borghaei et al. NEnglJMed 2015 や Brahmer et al. NEnglJMed 2015 は、ニボルマブが進行NSCLC患者のOSを有意に延長することを示している。しかし、ICIに対する一次耐性は35〜44%に及び、PD-L1発現や腫瘍変異量 (TMB) などの既存バイオマーカーは感度・特異度の双方において不十分であり、新たな奏効予測バイオマーカーと耐性機序の解明が重要な課題である。Rizvi et al. Science 2015 は、腫瘍の変異ランドスケープがPD-1阻害の感受性を決定することを示したが、依然として予測能には限界がある。また、免疫関連有害事象 (irAE) はICIの7〜30%の患者で治療中止の原因となっており、その予測と管理も臨床上の重大な課題として残されている。
腸内細菌叢 (gut microbiome; GM) はgut-associated lymphoid tissue (GALT) を介して全身免疫応答を形成し、ICI効果に影響することが前臨床・臨床研究の双方で明らかにされている。前臨床研究では、CTLA-4抗体の有効性にBacteroides thetaiotaomicron/fragilis等が必要であること (Vetizou et al. Science 2015)、PD-L1阻害にはBifidobacteriumが関与すること (Matson et al. Science 2018) が報告されている。Routy et al. (Science 2018) は、エピタリアがん (NSCLC含む) 患者においてGM多様性の高さとRuminococcaceae等の特定菌の存在がPD-1阻害の奏効と関連し、奏効者由来のFMT (糞便微生物移植) がgerm-freeマウスでICI効果を回復させることを示した。しかし、日本人コホートでの前向き検証は行われておらず、ICI開始前の抗生剤が特定のGM組成に与える影響の定量的解析、各菌属の独立した予後因子としての検証、irAEプロファイルとGM組成の関連はいずれも未解明である。特に、抗生剤使用がGM組成に与える影響の定量的評価や、特定の腸内細菌がICIの治療効果およびirAEとどのように関連するのかについては、まだ多くの知識が不足している。これらの先行研究で示された知見は重要であるものの、日本人集団におけるGMとICI効果の関連性、特に抗生剤の影響を考慮した詳細な解析はこれまで手薄であった。
目的
本研究の目的は、進行NSCLC患者を対象にICI開始前のGM組成を前向きに解析し、以下の点を明らかにすることである。(1) ICI開始前1か月以内の抗生剤使用がGM組成 (αダイバーシティおよび特定菌属の豊富さ) に与える影響を定量的に評価すること。(2) 特定の腸内細菌が客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) と関連するかを検証すること。(3) 抗生剤の影響を除外した抗生剤非使用患者 (eubiotic patients) での解析においても同様の関連が維持されるかを確認すること。(4) irAEの重症度とGM組成の関連を明らかにすること。これらの解析を通じて、ICI治療におけるGMのバイオマーカーとしての可能性と、抗生剤使用によるGM撹乱の臨床的意義を評価することを目的とした。本研究は、日本人患者における腸内細菌叢とICI治療効果およびirAEの関連性を包括的に評価し、新たな予測バイオマーカーや治療戦略の開発に資する知見を提供することを目指す。
結果
コホート概要とICI成績: 70名のNSCLC患者が本研究に登録された (n=70 patients)。中央年齢は70歳であり、ECOG PS ≤1が大多数を占めた。全患者がanti-PD-1/PD-L1単剤治療を受け、そのうち50%が一次治療であった。追跡中央値は9.7か月であった。コホート全体のORRは34%であり、PFS中央値は5.2か月、OS中央値は16.2か月であった。ICI前1か月以内に抗生剤を使用した患者は16例 (23%) であった。全患者 (n=70 patients) でのOSが12か月超の群と12か月以下の群を比較しても、αダイバーシティに有意差は認められず、全体集団での単純な多様性指標とOSの間には明確な関連は示されなかった (Supplementary Fig. S1A)。
抗生剤によるGM撹乱: 抗生剤使用群 (n=16 patients) では非使用群 (n=54 patients) に比べてShannon指数 (p<0.05) およびInverse Simpson指数で測定したαダイバーシティが有意に低下した (Figure 1A, Supplementary Fig. S2)。βダイバーシティのNMDS解析 (Bray-Curtis距離・weighted UniFrac距離) でも2群は明確に分離するクラスターを形成し、統計的有意差が認められた (Figure 1B)。LEfSe解析では、抗生剤非使用者の糞便にはClostridiales目全体 (特にRuminococcaceae UCG-13、Ruminococcaceae全体、Agathobacter、Coprococcus 3、Dorea、Fusicatenibacter、Roseburia等) が豊富であった一方、抗生剤使用者ではHungatella、Paeniclostridium、Corynebacterium等が過剰であった (Figure 1C, 1D)。これらの変化は統計的に頑健であり、抗生剤が選択的にClostridiales系有益菌を減少させるとのモデルを支持した。例えば、Ruminococcaceae UCG-13の相対存在量は抗生剤非使用群で約2.5-fold高かった。
抗生剤非使用患者でのGM組成とICI転帰の相関: 抗生剤非使用患者 (n=54 patients) において、αダイバーシティの低下がOS短縮と有意に相関した (Shannon指数でOS ≤12か月 vs >12か月で有意差、p<0.05) (Figure 2A)。PFSが6か月超の患者ではRuminococcaceae UCG-13とAgathobacterが有意に豊富であった (LEfSe解析) (Figure 2C)。OSが12か月超の患者ではRuminococcaceae UCG-13の豊富さが際立ち、Clostridiales目全体もOS > 12か月群で濃縮されていた (Figure 2D)。有効ORR達成患者 (CR/PR/6か月超SD) でもRuminococcaceae UCG-13とAgathobacterが豊富であった (Figure 2B)。DESeq2解析でもRuminococcaceae UCG-13の豊富さが有効ORRおよびPFS > 6か月と関連し (Benjamin-Hochberg補正後も有意)、LEfSe解析との整合性が確認された (Supplementary Fig. S3)。例えば、Ruminococcaceae UCG-13は良好なORRを示す患者で約1.8-foldのenrichmentを示した。
Kaplan-Meier解析による定量的予後インパクト: 抗生剤非使用患者においてRuminococcaceae UCG-13の存在群は不在群に比べてOSが有意に延長した (OS中央値: 未到達 vs 4.4か月; HR 0.24, 95% CI 0.08-0.78, p<0.001) (Figure 3A)。AgathobacterはRuminococcaceaeを超える効果量を示し、OS中央値は未到達 vs 6.8か月 (HR 0.08, 95% CI 0.02-0.30, p<0.0001) であった (Figure 3C)。PFSについてもAgathobacter (p=0.0001) およびRuminococcaceae UCG-13 (p=0.04) の存在が有意にPFSを延長した (Supplementary Fig. S4A, S4B)。全患者 (n=70 patients) でもRuminococcaceae UCG-13の存在がOS延長と関連し (OS中央値: 未到達 vs 6.81か月; HR 0.40, 95% CI 0.16-0.96, p=0.03) (Figure 3B)。Agathobacterも全患者でOS (HR 0.13, 95% CI 0.05-0.31, p<0.0001) とPFS (p=0.0002) の改善と関連した (Figure 3D, Supplementary Fig. S4C)。多変量Cox解析 (ECOG PS・組織型・治療ライン・病期・PD-L1発現を調整) でもRuminococcaceae UCG-13は独立した予後因子であった (p=0.004) (Supplementary Fig. S5)。Agathobacterの多変量解析では有意差は認められなかった (p=0.59) (Supplementary Fig. S6)。抗生剤使用群のOS中央値 (12.1か月) は非使用群 (16.1か月) より短い傾向があったが、統計的有意差には至らなかった。
irAEとGM組成の関連: Grade ≥2のirAEを呈した患者と軽微 (Grade 0-1) の患者でαダイバーシティに有意差はなかった (Supplementary Fig. S7A, S7B)。LEfSe解析ではLactobacillaceae (科レベル) が軽症irAE群 (Grade ≤1) に豊富であった (Figure 4A)。DESeq2解析ではRaoultella属が軽症irAE群に有意に多く、Akkermansia属 (Verrucomicrobia門) もやや軽症群で多い傾向があった (Figure 4B)。一方、ICI有効性に強く関連するAgathobacterは逆説的に重症irAE群 (Grade ≥2) で過剰な傾向があり、ICI奏効促進とirAE誘発リスクのトレードオフを示唆する興味深い知見であった (Supplementary Fig. S8A, S8B)。LactobacillaceaeのL. acidophilus等の抗炎症特性 (腸管上皮バリア強化・NF-κB抑制・短鎖脂肪酸産生等を介した炎症抑制) がirAEの軽症化に寄与する可能性が考察されている。
考察/結論
新規性: 本研究は、日本人NSCLCコホートにおける初の前向き観察研究として、腸内細菌多様性とRuminococcaceae UCG-13・Agathobacterの存在がICI効果 (ORR・PFS・OS) と有意に関連することを示した。特にRuminococcaceae UCG-13については、ECOG PS・組織型・治療ライン・病期・PD-L1発現を調整した多変量Cox解析で独立した予後因子としての地位が確立された (p=0.004)。また、抗生剤使用がこれら有益菌を選択的に減少させGM多様性を低下させることが定量的に示され、抗生剤のICI転帰への悪影響の機序に関する重要な根拠を提供した。本研究で初めて、日本人患者における特定の腸内細菌がICIの効果予測因子となりうることを実証した点は新規性が高い。
先行研究との違い: 欧米先行報告であるRouty et al. (Science 2018) がエピタリアがんでRuminococcaceaeとICI奏効の相関を示しFMTで因果性を証明したのに対し、本研究はアジア人コホートで同様の関連を独立に再現した点で新規性がある。食文化・民族的背景・腸内細菌叢の構成が欧米と大きく異なる日本人コホートでの検証は、RuminococcaceaeのICI効果への関与の普遍性を強く示唆する。この点は、これまで欧米中心であった研究とは異なる重要な知見である。Tanoue et al. (Nature 2019) が11菌種混合物 (Ruminococcaceae bacterium cv2含む) が結腸IFN-γ産生CD8+ T細胞を誘導し抗PD-1効果を増強することを示したマウス前臨床データとも整合する。
臨床応用: 臨床的示唆として、抗生剤使用がRuminococcaceaeを有意に減少させるという知見は、ICI開始前後の不必要な抗生剤投与を避けるべきという明確なメッセージを臨床現場に与える。irAE低重症化に関連するLactobacillaceae・Raoultella・Akkermansia等の菌属の同定は、プロバイオティクスやFMTを用いたirAE予防・管理介入の可能性を開く。Agathobacterが有効性と重症irAEの双方と関連するという逆説的知見は、「免疫活性化」そのものが腫瘍免疫と自己免疫の両方を促進しうることを示唆し、個別化されたGM介入の必要性を裏付ける。これらの知見は、将来的にGMを標的とした治療戦略の臨床応用につながる可能性がある。
残された課題: 本研究の限界として、小サンプルサイズ (n=70) による統計的検出力の制約、16S rRNAシーケンシングの種レベル解像度の低さ (ショットガンメタゲノミクスに劣る)、食事歴・BMI・PPIなど腸内細菌に影響する交絡因子の未統制、単施設研究による一般化可能性の問題、追跡中央値9.7か月という観察期間の短さが挙げられる。また16S rRNAでは菌の機能的メタゲノミクス情報 (代謝経路・短鎖脂肪酸・二次胆汁酸等) が得られないため、GMがICI効果に影響するメカニズムの詳細解明には至っていない。今後の検討課題として、ショットガンメタゲノミクスによる菌種・機能経路の詳細解析、FMTや標的化プロバイオティクス介入の無作為化試験、多施設・多民族コホートでの大規模前向き検証が求められる。
方法
2017年12月〜2019年9月に東京都立駒込病院で進行NSCLC (Stage IIIまたはIV、もしくは再発例) に対してニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ単剤ICIを受けた日本人患者70例を前向きに登録した (UMIN000021734、倫理委員会承認#1744)。ICI初回投与前 (baseline) に商業用キット (guanidine溶液含有、TechnoSuruga Laboratory) で糞便を採取し、4℃保存後24時間以内に−80℃凍結した。患者ベースライン特性として、ICI前1か月以内の抗生剤使用を詳細に記録した。
16S rRNA遺伝子シーケンシング: NucleoSpin DNAFecal KitでゲノムDNAを抽出し、V3-V4超可変領域をPro341F/Pro805Rプライマーペア (タッチダウンPCR) で増幅後、Illumina MiSeq (paired-end 2×250 bp) でシーケンスした。DADA2 (v1.14.0) でASV (exact amplicon sequence variants) を生成し、SILVAデータベース (v132) で分類した。アーキア・真核生物配列を除去後、genus levelでαダイバーシティ (Shannon指数・Inverse Simpson指数・Faith系統的多様性・観察ASV数) とβダイバーシティ (Bray-Curtis距離・weighted UniFrac距離) をphyloseq (R v3.6.1) で算出した。βダイバーシティはNMDS (Non-metric Multidimensional Scaling) で可視化された。差分解析はLEfSe (Linear Discriminant Analysis effect size) とDESeq2 (Benjamin-Hochberg補正) を使用した。DESeq2による解析は、Love et al. GenomeBiol 2014 に記載された手法に基づいている。
統計解析: 統計解析はRソフトウェア v3.6.1を用いて実施した。αダイバーシティの群間差はMann-Whitney U検定で評価した。多変量解析はCox比例ハザードモデルにECOG PS・組織型・治療ライン・病期・PD-L1発現を共変量として投入し、Ruminococcaceae UCG-13のOS独立効果を検証した (菌の相対存在量はアークサイン平方根変換で正規化)。臨床エンドポイントはORR (RECIST v1.1)・PFS・OS・irAE (CTCAE v4.0、治療期間中の最高グレードを記録) であった。RECIST v1.1はEisenhauer et al. EurJCancer 2009 に詳述されている。生存解析はKaplan-Meier法・log-rank検定 (全検定は両側、P<0.05を有意) を用いて実施した。irAEはCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づき評価した。