• 著者: Sarah M. Schneider, Christopher Fan, Yinghong Wang, Robert R. Jenq, Stephanie S. Watowich
  • Corresponding author: Yinghong Wang, Robert R. Jenq, Stephanie S. Watowich (MD Anderson Cancer Center / City of Hope)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 41992000

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitors, ICI) は2011年の最初の FDA 承認以降、多数のがん種で奏効が得られ、これまで致死的とされた腫瘍の持続的制御を可能にした (Sharma et al. Cell 2023; Wolchok et al. NEJM 2025) 。その一方で、治療を受けた患者の約2/3に免疫関連有害事象 (immune-related adverse events, irAE) が出現し、皮膚・消化管・肺・心・神経系など、ほぼ全臓器系で報告される (Postow et al. NEJM 2018; Martins et al. Nat Rev Clin Oncol 2019) 。irAE は NCI (National Cancer Institute) CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) に準じ Grade I-V (I = 軽症から V = 致死的、合計 5 段階) で分類され、低Grade (I-II) は皮膚・消化管に頻発し、Grade V は肺 (ICI肺炎)・心 (ICI心筋炎)・神経系 (ICI脳炎)・myositis-neuropathy で多い。

irAEの発症リスクと臓器特異性を規定する機序は依然として未解明であり、これが治療戦略開発の最大の制約となっている。先行研究は腸内細菌叢組成 (Andrews et al. NatMed 2021; Chaput et al. AnnOncol 2017) 、自己抗体、既存自己免疫疾患、腫瘍と罹患組織で共有される抗原・T細胞クローン、罹患組織でのチェックポイント分子発現、血清バイオマーカー (CRP (C-reactive protein)・IL-6・IL-17 等) など複数の因子を独立に同定してきたが、いずれも単一因子ではirAE発症を十分に予測できない。腸内細菌叢のICI治療効果への影響についてはSivan et al. Science 2015Routy et al. Science 2018Gopalakrishnan et al. Science 2018 によりメラノーマ・NSCLC・腎細胞癌で確立されたが、irAE発症との関連はより新しい話題であり、コンセンサスは未形成である。特に「irAE発症が単にmicrobiota組成と相関するのか、それともmicrobiotaが因果的にirAEを駆動するのか」 「保護的taxa・有害taxa はそれぞれ何か」 「どの microbial 代謝産物が宿主免疫応答を介してどのirAEに作用するのか」 という機序解明と治療標的同定の基盤的問いに対する答えが手薄であった。

目的

ICI大腸炎 (ICI colitis) を中心に、microbiomeとirAEとの関連エビデンスを臨床・前臨床研究から体系的に整理し、ICI大腸炎の病態 (上皮障害・リンパ球応答・骨髄系応答・サイトカインネットワーク) を解説するとともに、微生物叢に基づく治療戦略 (FMTおよびその他のアプローチ) の現状と今後の研究方向性を提示する。

結果

ICI大腸炎の臨床像と病理スペクトル:ICI開始後5-10週で下痢・腹部けいれんが出現し、Grade Iは基準値比4未満の排便増加、Grade II-IVは4回以上〜7回以上の排便増加に加え粘血便・腹膜症状を伴う。発症リスクはICI種別と投与レジメンで大きく異なり、抗CTLA-4 (ipilimumab) 単剤でGrade III-V 大腸炎が6.8-7.9% (Grade IIIまでで約9%) 、抗PD1/PDL1単剤で0.3-1.3% (any grade 0.9-11.2%) 、両者の併用で4.8-9.4% (any grade 7.3-28%) と報告される。内視鏡評価では61.1%が内視鏡所見と組織学的炎症を呈し、25.8%は組織学的炎症のみ、残り13.1%は内視鏡・組織学的に正常という3類型に分類される (Fig 1) 。組織学的には急性所見 (陰窩炎・アポトーシス・好中球/好酸球浸潤) と慢性所見 (陰窩構造歪曲・基底部リンパ漿細胞症) が混在し、microscopic colitis型もI-IV Grade に跨って報告される。炎症性腸疾患 (IBD) との比較ではアポトーシス小体がより多く crypt 歪曲が少ない点で急性傷害としての性格が強く、高Gradeでも薬剤中止と免疫抑制療法により組織学的回復が可能という点でIBDと異なる。

マウスICI大腸炎モデルの確立:SPF (specific pathogen-free) 飼育マウスはICI治療のみではirAEを自然発症せず、SPF 条件の Ctla4 -/-・Ctla4 -/-Pdcd1 -/- マウスは心筋炎・膵炎・リンパ増殖性疾患を呈するものの大腸炎は再現しない。これが irAE 機序解明の最大の障壁であった (Table 1)。過去5年で①DSS (dextran sodium sulfate、化学的上皮破壊+ICI併用)、②CD11c-Cre Stat3fl/fl (Cre-loxP 系で antigen-presenting cell に STAT3 欠失を有する遺伝的素因モデル、Stat3fl は floxed Stat3 allele を表す)、③TRUC FMT (Tbx21 -/-× Rag2 -/- 由来 dysbiotic microbiota 移植)、④WildR / WildR FMT (野生マウス由来microbiota移植)、⑤B. intestinalis 移植、⑥C. rodentium 感染、の6系統が確立された (Fig 2)。重要な点として、CD11c-Cre Stat3fl/flまたはWildR microbiota由来のFMTを行ったSPFマウスではICI追加投与時のみ大腸炎が発症し、FMT単独では無症状である (Zhou et al. JExpMed 2023) 。これは「dysbiotic microbiomeとICI治療の組合せが因果的にICI大腸炎を駆動する」というモデルを支持する。Human ICI colitis 由来 FMT を用いたモデル (Shang et al.) も人由来の大腸炎促進taxa の同定に向けた基盤として開発されつつある。

上皮バリア破壊と MLCK1 軸:ヒトICI大腸炎生検 scRNA-seq では上皮幹細胞転写産物の減少と luminal enterocyte の ISG (interferon-stimulated genes) 上昇、epithelial barrier disruption gene signature 増加が一致して認められる (Fig 3, Fig 4) 。タイトジャンクションタンパクZO-1・occludinの減少とMLCK1 (myosin light-chain kinase 1) 増加が透過性亢進を駆動し、WildR microbiota移植マウスでMLCK1阻害がICI大腸炎を予防することが示された (Thomas et al. NatMed 2024) 。MLCK1 は ICI大腸炎の最初の機序ベース治療標的として注目される。SCFA (short-chain fatty acids、butyrate・acetate・propionate等) を産生する保護的細菌の喪失がタイトジャンクション維持に必要な代謝産物を欠失させ、さらにバリア破綻が腸内細菌の lamina propria への浸潤を許容して炎症を増悪させるという因果ループが提唱されている (Fig 5) 。

リンパ球・骨髄系応答とサイトカインネットワーク:scRNA-seq によりCD8+ TRM (tissue-resident memory) 細胞・granzyme産生 CTL ・IFNγ産生 TH1 ・IL-17産生 TH17 細胞の拡大が一貫して報告される (Luoma et al. Cell 2020; Thomas et al. NatMed 2024) 。TH17 細胞のICI大腸炎への寄与は controversial で、TRUC FMTモデルではIL-23阻害でTH17 細胞減少と炎症改善が観察される一方、WildR FMTモデルではIL-17A遮断・Il17a欠失で改善しないため、IL-17産生細胞は文脈依存的に保護的・有害いずれの役割も担いうる。Treg 細胞は anti-CTLA-4 (clone 9D9・9H10) によりFcγR依存的に枯渇しうるが、anti-CTLA-4-WildR モデルで peripheral Treg (RORγt+ HELIOS-) 減少が観察され、DSS+anti-CTLA-4 大腸炎ではBifidobacteria 4種 (B. bifidum, B. longum, B. lactis, B. breve) コロナイゼーションがTreg依存的に保護効果を発揮する。骨髄系では好中球・単球・マクロファージ浸潤と全身性骨髄産生亢進が CD11c-Cre Stat3fl/fl モデルで顕著であり、糞便 calprotectin / lipocalin-2 は臨床ICI大腸炎のバイオマーカーとして使用される。マクロファージのCXCL9 / CXCL10-CXCR3 シグナルによるT細胞動員が TRUC FMT モデルで大腸炎を増悪させ、抗体遮断またはマクロファージ枯渇で改善することが示され (Yu et al. Cell 2023) 、新たな治療標的候補として浮上した。サイトカインネットワークではG-CSF・IL-6・CXCL2・CXCL9/10・IFNγ・IL-1α/β・TNF・IL-17/22/23 の協調的上昇が複数モデルとヒト生検で共通する。

ICI大腸炎関連腸内細菌 taxa の整理 (Table 2):ICI 大腸炎発症者 (n=43, Shang et al. cohort) では alpha diversity が発症後 10 日以内に低下し、FMT による治療解消で回復する。リスク修飾因子として抗菌薬 (嫌気性域、odds ratio 約 2 倍)・PPI (proton pump inhibitor) 使用・最近の腹部手術がリスク増、高食物繊維食・地中海食・ビタミン D 補充 (Spencer et al. Science 2021) がリスク減と一貫して報告される。保護的taxaとして比較的一貫するのは Bifidobacterium (特に B. bifidum, longum, lactis, breve)・Faecalibacterium prausnitzii (※enriched/reduced両報告あり)・Lachnospiraceae 科 (Blautia, Roseburia, Ruminococcus 等)・Akkermansia muciniphila・Lactobacillus reuteri / rhamnosum・Bacteroides fragilis であり、有害taxaとして B. intestinalis (Andrews et al. 介入研究で因果検証済)・Escherichia・Helicobacter・Klebsiella・Veillonella・Streptococcus が挙がる。ただし因果関係が介入実験で検証された細菌種はわずか10種にとどまり、地理・食事・年齢差が交絡として残る点が大きな限界。

他のirAEにおけるmicrobiome関与 (皮膚・肺・心):皮膚常在菌 Staphylococcus epidermis が anti-CTLA-4 治療下に IL-17 依存性皮膚 irAE を誘導することが Hu et al. PNAS 2022 で示された (n=10-15 mice/group, p<0.05)。ICI 肺炎では下気道 microbiota の変動が報告されるが患者間差大きく機序未確立 (Zhang et al. 2024、n=18 患者)。ICI 心筋炎ではマウス広域抗菌薬による腸内細菌枯渇が心臓組織 Treg / IL-10 を約 2-fold 低下させ心筋炎を悪化、別モデルでは細菌代謝産物 indole-3-propionic acid を介した FMT が心機能 (左室駆出率 LVEF) を約 15-20% 改善した (Huang et al. NatCommun 2025、n=8-10 mice/group)。心臓のような microbiome を持たない臓器でも gut-organ axis 経由で microbiome が irAE 病態を modulate しうる。

ICI大腸炎の治療階層と microbiota-based 療法:Grade I-II は補液・食事修正・mesalamine 等で対応し、Grade III-IV 以上は ICI 中断+全身ステロイド (静注、初期投与 1-2 mg/kg/day prednisolone equivalent) が標準で 60-70% が緩解する。ステロイド抵抗例 (全体の 12-15%) には抗 TNF (infliximab, 5-10 mg/kg)・抗 α4β7 インテグリン (vedolizumab, 300 mg) が 2 次治療として奏効率 85-89% を示す (n200, 大規模コホート研究)。3次治療以降として抗IL-23 (ustekinumab) ・抗IL-6 (tocilizumab) ・JAK 阻害薬 (非選択的 tofacitinib、JAK1選択的 upadacitinib) が症例報告・小規模試験で有望な結果を示す (Fig 6) 。現時点でICI大腸炎専用のFDA承認薬は存在しない。微生物叢ベース治療として、健常ドナーFMTがステロイド+生物学的製剤抵抗性ICI大腸炎の約90%で疾患解消をもたらすことが複数のケースシリーズで報告され、著者グループの12例研究では complete response 例で Collinsella・Bifidobacterium 増加、alpha diversity 増加、コロン biopsy 細胞傷害性T細胞減少が観察された (Halsey et al.) 。著者グループの Phase I 試験 (NCT04038619) は前治療としてのFMTをsteroid曝露前・biologics 前の段階で評価中。一方で probiotics 単独使用は ICI治療効果を低下させる報告 (Spencer et al. Science 2021) があり caution を要する。

考察/結論

① 先行研究との違い:本Reviewは2023年以降に集積したヒト ICI大腸炎 scRNA-seq 3 報・新規 microbiome FMTマウスモデル (WildR / TRUC FMT 系) ・MLCK1 軸の発見・CXCL9-CXCR3 マクロファージ-T細胞シグナル軸を統合し、これまでの「microbiota と irAE は単に相関する」 という記述的レベルとは異なり、「dysbiotic microbiome は ICI 治療下で因果的に大腸炎を駆動する」 という機序ベースの理解を提示した点が重要。これまでの個別レビュー (Hayase & Jenq 2021; Wang et al. JExpMed 2023) と相違して、ヒト病態を再現できる complete suite of mouse models (Table 1) を初めて系統的に整理し、各モデルの長所と限界を機序解明と前臨床薬剤試験の文脈で論じている点も対照的である。

② 新規性:本Reviewは ICI 大腸炎の機序ベース治療標的を 3 つ (MLCK1・CXCL9/10-CXCR3・IL-6/IL-23 軸) に絞り込み、それぞれにマウスモデルでの介入エビデンスを提示した点が新規である。FMT による疾患解消率約90% という数値を複数試験で初めて統合し、本研究で初めて「FMT が単なる salvage 治療ではなく機序ベース介入として位置づけられる」 ことを提示した。さらに CAR-T 細胞療法毒性との共通機序探索を irAE 研究の次のフロンティアとして提示する点もこれまで報告されていない統合視点である。

③ 臨床応用:本Reviewの知見は臨床応用に直結する複数の含意を持つ。①ICI開始前の microbiome assessment による高risk患者層別化 (Bifidobacterium / Lachnospiraceae 低値 + Bacteroides intestinalis 陽性が high-risk profile) 、②ICI治療中の抗菌薬・PPI使用回避と食物繊維/地中海食/ビタミンD推奨という非侵襲的予防戦略、③ステロイド抵抗例での FMT を含む早期介入アルゴリズム (NCT04038619 が前向き検証中) 、④3次治療以降の機序ベース選択 (IL-23遮断 / JAK1選択的阻害) という4階層の bench-to-bedside 橋渡しが既に進行中である。臨床現場ではこれらを統合した予防・診断・治療アルゴリズムの標準化が当面の課題となる。

④ 残された課題 / 今後の検討:①因果検証された細菌種はわずか10種にとどまり、今後の研究では single strain / defined consortia / microbial metabolite levelでの介入実験を多施設で再現する必要がある (limitation: 地理・食事・年齢交絡) 。②microbiota が ICI 抗腫瘍効果と毒性の両方を駆動する事実 (Baruch et al. Science 2021; Davar et al. Science 2021) から、毒性を抑制しつつ抗腫瘍効果を温存する「decoupling」 戦略の開発が今後の方向性として最重要。③ICI大腸炎以外のirAE (肺炎・心筋炎・皮膚) でのmicrobiome関与は単独のpilot studyに留まり、組織別microbiome (lung / skin / oral) の系統的解析と機序探索が必要。④CAR-T 細胞療法毒性 (CRS・神経毒性) との共通機序の探索により、免疫療法毒性全般の統一機序モデル構築が将来の研究方向性となる。⑤抗菌薬・PPI使用・食事・補助療法の標準化を含む臨床デザインの統一が、多施設エビデンス統合の前提として求められる。

方法

ナラティブレビューとして、PubMed・Web of Science・Google Scholar を主たる文献データベース (database) として、2015-2025 年公表のヒトICI大腸炎臨床研究・マウスモデル研究・microbiome シーケンシング研究・FMT 介入試験を網羅的に検索した (検索キーワード: “immune checkpoint inhibitor” AND “colitis” / “microbiome” / “gut bacteria” / “fecal microbiota transplantation” / “irAE” の組合せ)。組入れた文献種別はオリジナル臨床研究 (前向き・後向きコホート、n=12 から n=1,000 規模)、前臨床マウス試験 (6 系統のモデル)、ヒト生検単細胞 RNA シーケンシング (single-cell RNA sequencing, scRNA-seq) 3 報、メカニスティック介入研究、Phase I FMT 試験 (NCT04038619 を含む) であり、症例報告は治療反応性 (refractory disease の管理) の章でのみ採用した。Microbiome 関連解析は 16S rRNA シーケンシングおよびショットガンメタゲノミクスを主体とし、相対存在量 (relative abundance)・alpha diversity (Shannon index, Chao1)・beta diversity (UniFrac, Bray-Curtis) を主要な統計指標とする。介入実験では Mann-Whitney U test, log-rank test, Fisher exact test, Kaplan-Meier 法による生存解析が引用研究の主たる統計手法 (statistical methods) として記載される。著者グループの進行中試験 (NCT04038619, Phase I, primary endpoint: ICI 大腸炎の clinical resolution at week 4) を含む 6 件以上の現行 FMT 関連 trial を併せて参照した。