- 著者: Frank J. Lowery, Sanjna Krishna, Rami Yossef, Neilesh B. Parikh, Praveen D. Chatani, Nikolaos Zacharakis, Maria R. Parkhurst, Noam Levin, Sivasish Sindiri, Abraham Sachs, Kyle J. Hitscherich, Zhiya Yu, Nolan R. Vale, Yong-Chen Lu, Zhili Zheng, Li Jia, Jared J. Gartner, Victoria K. Hill, Amy R. Copeland, Shirley K. Nah, Robert V. Masi, Billel Gasmi, Scott Kivitz, Biman C. Paria, Maria Florentin, Sanghyun P. Kim, Ken-ichi Hanada, Yong F. Li, Lien T. Ngo, Satyajit Ray, Mackenzie L. Shindorf, Shoshana T. Levi, Ryan Shepherd, Chris Toy, Anup Y. Parikh, Todd D. Prickett, Michael C. Kelly, Rachel Beyer, Stephanie L. Goff, James C. Yang, Paul F. Robbins, Steven A. Rosenberg
- Corresponding author: Steven A. Rosenberg (sar@nih.gov) (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA); Frank J. Lowery (frank.lowery@nih.gov); Sanjna Krishna (sri.krishna@nih.gov)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 35113651
背景
腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) を用いた養子細胞療法 (ACT) は、転移性固形癌患者に対して持続的な奏効をもたらす治療法として確立されているが、その臨床応用にはいくつかの課題が存在する。特に、TIL拡大培養製品中に含まれる腫瘍抗原特異的T細胞の割合は一般的に低く (1-5%未満)、患者特異的なネオ抗原のスクリーニングとそれに続くTCR同定は、時間と労力を要するプロセスであった。これまでの研究では、ENTPD1 (CD39)、CXCL13、PD-1 (PDCD1)、ITGAE (CD103) などの表面マーカーがネオ抗原特異的T細胞の濃縮に利用されてきたが、これらのマーカーだけでは、癌種横断的に共通するネオ抗原反応性T細胞の転写プログラムの全容は未解明であった。
先行研究では、遺伝子工学的手法を用いてTCRやCAR (chimeric antigen receptor) を導入したT細胞による免疫療法が、特定の癌種に対して有効であることが示されている (Morgan et al. Science 2006、Morgan et al. MolTher 2010、Robbins et al. JClinOncol 2011、June et al. NEnglJMed 2018)。特に、非同義体細胞癌変異に由来する腫瘍ネオ抗原は、正常細胞への毒性を回避しつつ、T細胞療法に腫瘍特異性をもたらす重要な標的として注目されている (Gubin et al. Nature 2014)。しかし、転移性ヒト癌における腫瘍抗原特異的CD4+およびCD8+ TILの詳細な分子プロファイルは十分に理解されておらず、特に、機能不全状態にあるT細胞のトランスクリプトーム情報のみに基づき、スクリーニングを必要としない前向きな抗腫瘍TCR同定手法の開発が強く求められていた。
従来の腫瘍反応性T細胞およびそのTCRを同定する手法は、ex vivoでのT細胞機能アッセイや、既知のエピトープに対する抗原特異的HLAマルチマーを用いたシングルセルソーティングに依存しており、腫瘍微小環境におけるT細胞の疲弊や機能不全によってその効率が損なわれる可能性があった。また、表面マーカーを用いたアプローチでは、無関係なバイスタンダーT細胞の非特異的な濃縮が問題となることが報告されている。これらの背景から、転移性ヒト癌におけるネオ抗原反応性T細胞の普遍的な分子シグネチャーを同定し、それを利用して効率的に抗腫瘍TCRを予測・検証する新たな戦略を確立することが、ACTの臨床応用を拡大する上で重要な課題として残されていた。特に、癌種横断的に共通する転写プログラムの全容は未解明であり、この知識ギャップを埋めることが本研究の動機付けとなった。
目的
本研究の目的は、転移性ヒト癌患者10例から採取した腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) のシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) およびTCRシーケンスを統合解析することにより、腫瘍特異的ネオ抗原反応性T細胞に共通する転写プログラムを同定することである。具体的には、CD4+およびCD8+ネオ抗原反応性TILの分子シグネチャー (NeoTCRシグネチャー) を開発し、そのNeoTCRシグネチャーを用いて、新規患者から抗腫瘍TCRを前向きに予測し、機能的に検証するパイプラインを確立することを目指した。
さらに、本研究では以下の点を明らかにすることを目的とした。第一に、ネオ抗原反応性T細胞が、バイスタンダーT細胞や制御性T細胞とは異なる、腫瘍特異的なクローン拡大と機能不全の表現型を示すことを分子レベルで特徴付ける。第二に、開発したNeoTCRシグネチャーが、既知のネオ抗原反応性TCRを高い感度と特異度で識別できることを検証する。第三に、このシグネチャーが、ドライバーネオ抗原、非変異ウイルス抗原、または腫瘍関連抗原を標的とするTCRを同定できるかどうかを評価し、転移性TILにおける共通の疲弊プログラムの存在を提唱する。最終的に、TILのトランスクリプトーム情報のみに基づき、抗腫瘍TCRを効率的に同定する新たな戦略を確立し、細胞ベースの癌免疫療法の開発に貢献することを目指した。
結果
TILの転写マップと腫瘍特異的クローン分布: 45,676個のTILから12の転写クラスターが同定された (Fig. 1A)。VDJdbに公開されているウイルス反応性バイスタンダーTCR (CMV/EBV/Flu由来、n=700 clonotypes) は、主にCD8+ TILRM (Tissue-Resident Memory) C4およびTILEM (Effector Memory) C7クラスターに集中していた (Fig. 1D)。末梢血拡大クローン (PBL-expanded) はC7に多く見られた一方、腫瘍拡大クローン (tumor-expanded) はCD8+ C6およびCD4+ C1の疲弊分化クラスターに顕著に集中しており (p<0.001)、これは腫瘍特異的T細胞が特定の機能不全状態にあることを示唆している (Fig. 1G)。デュアル拡大クローン (腫瘍と血中両方で拡大) はC0およびC7に多く、バイスタンダーT細胞由来である可能性が示唆された (Fig. 1H)。これらの結果は、腫瘍内で拡大したクローン (C1およびC6) の細胞状態が、血中由来のTILとは異なることを明確に示している。
NeoTCRの転写クラスター局在: 実験的に確認された31個のNeoTCR (325個の細胞) のうち、84.3%がCD4+ C1またはCD8+ C6クラスターに局在した (Fig. 2A)。特に、CD8+ NeoTCRの81.1%がC6に集中し、その頻度は全体と比較して22倍に濃縮されていた。CD4+ NeoTCRの60.5%はC1に局在し、その頻度は5倍に濃縮された。合計54個のNeoTCRクローン (542個のTIL) を統合した解析でも、86.5%がC1またはC6に局在し、癌種や組織型によらず共通の疲弊分化プログラムが存在することが示された (Fig. 2F)。腫瘍4323から予測された8個のTCRのうち7個 (87.5%) が、HIATL1mut (p.G380V) またはPPP2R1Amut (p.L432S) ネオ抗原に反応性を示すことが確認された (Fig. 2C, D)。これは、機能不全状態にあるT細胞クラスターがネオ抗原反応性T細胞を効率的に濃縮できることを裏付けている。
NeoTCR4/NeoTCR8転写シグネチャーの同定: CD4+およびCD8+ NeoTCR発現細胞に共通して高発現する遺伝子として、CXCL13、CXCR6 (組織常在性マーカー)、TIGIT、PDCD1 (PD-1)、ENTPD1 (CD39)、LAG3、HAVCR2 (TIM3) (阻害性受容体)、TOX (疲弊制御転写因子) が同定された (Fig. 2G, H)。これらの遺伝子は、これまで腫瘍微小環境における機能不全T細胞で報告されているものと一致する。さらに、ADGRG1、HMOX1、LINC01871、DUSP4、ACP5などの新規遺伝子も同定された。幹細胞性およびメモリー遺伝子 (IL7R、CD44、KLF2) はダウンレギュレーションされていた。最終的なNeoTCR4 (40遺伝子) およびNeoTCR8 (243遺伝子) シグネチャーは、既知のNeoTCRをROC-AUC > 0.9で高感度・高特異的に識別することが確認された (Table S10)。CXCL13単独でもCD4+ NeoTCRの予測においてAUC > 0.8を示したが、CD8+ NeoTCRの予測ではNeoTCR8シグネチャーがCXCL13を含む古典的マーカーセットを上回る性能 (AUC > 0.9 vs ≤ 0.8) を示した。このNeoTCR8シグネチャーは、既知の疲弊または活性化遺伝子のみに限定されず、未同定のT細胞機能を持つ複数の遺伝子を含む、反復的な機能不全転写モジュールを確立することが示された。
前向き4症例での抗腫瘍TCR予測と機能検証: 4例の転移性結腸腺癌患者から採取したTILを用いて、NeoTCRシグネチャーに基づき予測・機能検証された73個のTCRのうち、37個 (50.7%) が腫瘍、ネオ抗原、またはTAA (tumor-associated antigen) に反応性を示すことが確認された (Table 1)。内訳はCD8+ TCRで26/42 (61.9%)、CD4+ TCRで11/31 (35.4%) であった。腫瘍4393では、14個の候補TCRのうち11個 (79%) が陽性反応を示した (Fig. 3B)。KRAS p.G12V (腫瘍4394)、KRAS p.G13D (腫瘍4400)、FAM63Amut p.D460Nなどのドライバーネオ抗原に対するTCRも同定された (Fig. 3C, E, F)。また、非ネオ抗原反応性TCRの中から、TAAであるMAGEA6に反応性を示すCD4+ TCRも1例同定された (Fig. 3D)。HPV陽性肛門扁平上皮癌のウイルス抗原E4特異的TCR (1細胞/941細胞) もNeoTCR8シグネチャーの上位4番目に位置しており (Fig. S4D)、腫瘍ウイルス抗原特異的T細胞もネオ抗原特異的T細胞と同様の疲弊プログラムに収束することが示唆された。
シグネチャー比較と推定クローン数: NeoTCR4/NeoTCR8シグネチャーは、既報の多数のTILシグネチャーと比較して、訓練セットおよび検証セットの両方で最高のAUCを示した (Fig. 3H)。特に、ACT応答に関連するとされる幹様T細胞シグネチャー (Krishna.ACT.StemLike) やICB応答関連シグネチャー (CD8_G、Mem.Eff) は、NeoTCR同定において低い性能を示した。これは、進行性の転移性癌における抗腫瘍T細胞の大部分が機能不全状態にあるという知見と一致する。1000個のTILシーケンスあたり、中央値で17.5個のCD8+ NeoTCRクローンと46.4個のCD4+ NeoTCRクローンが存在すると推定され (Fig. 3I)、従来のTIL拡大培養スクリーニングよりも大幅に多様なTCRレパートリーの探索が可能であることが示された。
考察/結論
本研究は、転移性ヒト癌 (乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌) の腫瘍浸潤T細胞中において、癌種横断的に共有された腫瘍抗原特異的疲弊転写プログラム (NeoTCR状態) を初めて体系的に定義し、これを用いた前向きTCR予測パイプラインを確立した。
新規性: 最も重要な発見は、ネオ抗原、ドライバー変異、TAA、および腫瘍ウイルス抗原に反応するT細胞が、全て同一の疲弊分化クラスター (CD8+ C6およびCD4+ C1) に収束するという「共通疲弊プログラム」の普遍性である。この知見は、ウイルス特異的TILなどのバイスタンダーT細胞が腫瘍内に大量に存在する中で、抗腫瘍T細胞を特異的に同定するための原理的根拠を提供する。本研究で初めて、転写情報のみに基づき、機能不全状態にあるT細胞から抗腫瘍TCRを効率的に同定する可能性が示された。
先行研究との違い: 先行研究 (Caushi et al. Nature 2021、Oliveira et al. Nature 2021) との比較では、肺癌およびメラノーマの疲弊シグネチャーとNeoTCR8シグネチャーの高い相関 (Pearson r > 0.7) が確認され、異なる癌種間でも同一の疲弊プログラムが作動することが示された。これは、本研究で同定されたNeoTCRシグネチャーが、癌種を超えて普遍的に適用可能であることを示唆しており、これまでの個別の癌種に特化した研究とは対照的な知見である。また、ACT応答に重要とされるTCF7+前駆細胞のような幹様T細胞シグネチャーがNeoTCR予測に低性能であったことは、ACT応答に重要なのは「疲弊しきった」T細胞そのものである可能性を示唆しており、疲弊の「制限」ではなく「逆転」を目的とした治療戦略との整合性を持つ。
臨床応用: 本知見は、NeoTCR4/NeoTCR8シグネチャーが、TILの機能スクリーニングや候補ネオ抗原合成を必要とせず、転写情報のみからACT用T細胞を同定できる可能性を示している。これは、TIL採取量が少ない進行期患者や、ネオ抗原多様性の高い腫瘍に対するACTの臨床応用を拡大する上で、臨床的意義が大きい。特に、TCR免疫療法を転移性固形癌に対して開発する機会を提供し、患者特異的なネオ抗原を標的とした治療の実現に貢献しうる。
残された課題: 今後の検討課題として、CD4+ NeoTCR細胞の直接的な抗腫瘍機能 (細胞傷害性CD4+ T細胞としての役割) のさらなる解明が残されている。また、NeoTCRシグネチャーを用いたin vivo TIL拡大プロトコルの開発、および非変異腫瘍抗原 (オーファン受容体) の同定も重要な研究方向性である。本研究のlimitationとして、NeoTCRクラスター内の全てのTCRクローンについて腫瘍特異性を実験的に検証したわけではないため、ネオ抗原反応性T細胞の実際の割合は過小評価されている可能性がある。また、TCRの機能的アビディティや標的抗原の発現量の違いがT細胞の機能不全にどのように寄与するかは、本研究では詳細に検討されていない。
方法
本研究では、転移性ヒト癌患者10例 (乳癌、メラノーマ、結腸癌、直腸癌) から外科的に切除された腫瘍組織より採取した45,676個のTILを対象に、scRNA-seqおよびTCRシーケンス解析を実施した。
アーカイブコホート (発見フェーズ):
- TILの分離とscRNA-seq: 10例の転移性ヒト癌から採取したTILを、10x GenomicsおよびSmartSeq2プラットフォームを用いてscRNA-seq解析に供した。データ統合にはHarmonyを用いてバッチ効果を補正し、UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection) により12の転写クラスターを同定した。
- TCRシーケンスとクローン解析: scRNA-seqと並行してTCRシーケンスを実施し、各TILのTCRレパートリーを解析した。VDJdbに公開されているウイルス反応性TCR (CMV、EBV、インフルエンザ由来、n=700)、末梢血 (PBL) 拡大クローン (n=1115)、腫瘍内拡大クローン (n=10,631)、およびデュアル拡大クローン (腫瘍とPBLの両方で拡大、n=6436) をscRNA-seqマップに投影し、各クラスターにおけるクローン分布を評価した。
- NeoTCRの同定とシグネチャー開発: 先行研究でタンデムミニジーン/ペプチドスクリーニングにより実験的に確認された31個のNeoTCRクローン (CD8+ 14個、CD4+ 17個) をscRNA-seqマップに逆投影した。さらに、腫瘍4323から8個の追加TCRを予測・検証し、合計54個のNeoTCRクローン (542個のTIL) を確立した。これらのNeoTCR発現細胞の転写プロファイルを解析し、CD4+ NeoTCRシグネチャー (NeoTCR4、40遺伝子) およびCD8+ NeoTCRシグネチャー (NeoTCR8、243遺伝子) をscGSEA (single-cell Gene Set Enrichment Analysis) を用いて定式化した。これらのシグネチャーの感度と特異度は、ROC-AUC (receiver operating characteristic - area under the curve) 分析により評価され、AUC > 0.9の高い性能が確認された。
前向きコホート (検証フェーズ):
- 新規患者からのTIL解析: 転移性結腸腺癌患者4例 (腫瘍4393、4394、4400、4421) から新たに採取したTILに対し、scRNA-seqおよびTCRシーケンスを実施した。
- NeoTCRの予測と機能検証: 開発したNeoTCRシグネチャースコアに基づき、上位のTCR候補を予測した。予測されたTCRは、レトロウイルスベクターを用いてCD4+またはCD8+ T細胞に導入された。これらのTCR導入T細胞は、自己候補ネオ抗原 (156-485種類) および自己PDX (patient-derived xenograft) オルガノイドに対する反応性を、IFNγ ELISpotアッセイや4-1BB発現を指標としたフローサイトメトリーにより機能的にスクリーニングした。
- 統計解析: 遺伝子発現解析には、Dobin et al. Bioinformatics 2013 を用いたアライメントと Robinson et al. Bioinformatics 2010 を用いた差次発現解析が行われた。クラスター間の比較にはMann-Whitney U検定が用いられ、ROC-AUC分析によりシグネチャーの性能が評価された。