• 著者: Carl H. June, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Carl H. June (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA); Michel Sadelain (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 29972754

背景

がん免疫療法は20世紀後半から多様な薬剤が開発されたにもかかわらず、転移性固形腫瘍に対する持続的奏効は長らく手薄であった。1980年代にRosenbergらは転移性メラノーマ患者への自家腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocytes) 輸注が腫瘍退縮をもたらしうることを示し、養子細胞移入 (adoptive cell transfer) という概念を確立した。同時期にKolbらは再発慢性骨髄性白血病患者へのドナーリンパ球輸注による移植片対白血病効果を初めて実証し、T細胞が白血病細胞を排除しうることを証明した。しかし、これらの手法はいずれも患者固有の腫瘍反応性T細胞を選別・増幅する技術的限界から汎用性に乏しく、大多数の悪性腫瘍患者には適用困難であるというgap in knowledgeが残されていた。

1990年代に遺伝子導入技術が実用化されると、T細胞受容体 (TCR: T-cell receptor) やCAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) を介して任意の抗原特異性をT細胞に付与することが可能となった。初期の第1世代CARはCD3ζ鎖のみのシグナル伝達ドメインを持ち、in vitroでの細胞傷害能は確認されたが持続的な抗腫瘍T細胞応答の誘導は不十分であった。共刺激シグナルを組み込んだ第2世代CAR (CD28または4-1BB共刺激ドメインを追加) の開発でこの根本的な障壁が克服され、複数グループから血液腫瘍に対する劇的な臨床成績が相次いで報告された。SadelainらによるマウスモデルでのCD19 CAR-T細胞によるリンパ腫・白血病根絶の実証が臨床応用の契機となり、2007年にFDA (Food and Drug Administration) がCD19 CAR療法の治験申請を初めて承認した。その後の複数臨床試験での顕著な奏効を受け、2017年にtisagenlecleucelおよびaxicabtagene ciloleucelがFDA承認を取得し、遺伝子導入療法として商業承認された初の事例となった (Maude et al. NEnglJMed 2014; Park et al. NEnglJMed 2018; Neelapu et al. NEnglJMed 2017)。一方で、固形腫瘍への応用拡大・神経毒性の病態生理・製造アクセシビリティという根本課題については何が不足していてどう解決すべきかが未解明のまま残されており、サイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome)・抗原喪失耐性・免疫抑制性腫瘍微小環境を含む課題群に対する包括的整理と将来方向性の提示が求められていた。

目的

CAR T細胞を中心とするT細胞工学 (T-cell engineering) の原理と合成免疫 (synthetic immunity) の概念を解説し、現行CAR-T療法の血液腫瘍における有効性と毒性管理の実態を示す。加えて、固形腫瘍への応用拡大に向けた課題、ゲノム編集・合成生物学を活用した次世代CAR設計の展望、およびuniversal CAR-T細胞 (off-the-shelf療法) の可能性を体系的に論じる。

結果

CARの分子設計と世代別進化:CARはscFv (single-chain variable fragment: 一本鎖可変領域断片) からなる細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインからなる合成受容体であり、TCRとは異なりHLA非依存的に表面抗原を直接認識する (Fig. 2)。第1世代CARはCD3ζ鎖単独のシグナル伝達のみで持続的T細胞応答を誘導できなかった。第2世代CARはCD28または4-1BB (CD137) 共刺激ドメインをCD3ζに付加することで、繰り返しの抗原刺激後も持続的T細胞増殖と生存維持を実現した。CD28型CARは急速かつ強力な増殖と早期の効果発現をもたらし、4-1BB型CARはより長期の細胞持続性と中央メモリー (central memory) への分化に優れる。CARをCRISPR/Cas9でTRAC (T cell receptor alpha constant) 遺伝子座に標的挿入することでトニックシグナリング低下とT細胞疲弊遅延が実現し、腫瘍排除効率が向上することも近年示された。マウス由来scFv配列は宿主免疫による拒絶を招くため、現在の設計では免疫原性低減のため完全ヒト化scFvが優先される。インサーショナル変異リスクについては、造血幹細胞遺伝子治療 (SCID-X1: X-linked severe combined immunodeficiency、X連鎖重症複合免疫不全症) においてn=10例中n=9例が治療成功したがn=4例で数年後にT細胞白血病が発症した歴史的事例があるが、T細胞受容体またはCAR修飾T細胞を投与された1000例以上の患者で腫瘍原性形質転換の報告はなく、T細胞療法固有の安全性プロファイルの差異が示されている。

CD19 CAR-TによるB-ALLおよびリンパ腫の治療成績:再発・難治性B-ALLに対して複数施設のCD19 CAR-T試験が一致した高い奏効率を示した (Table 1)。成人B-ALLではMSKCCグループが83〜93%の完全寛解 (CR) 率を、Fred HutchinsonグループがCD4/CD8比定義型4-1BB型CARを用いて83%のCRを達成した (Park et al. NEnglJMed 2018)。小児・若年成人ではPenn/CHOPグループがtisagenlecleucelを用いて68〜90%のCRを報告し (Maude et al. NEnglJMed 2014)、この成績が2017年FDA承認の主要根拠となった。奏効の多くは微小残存病変 (MRD: minimal residual disease) 陰性の深いCRであり、造血幹細胞移植へのブリッジングまたは単独治療として持続的無再発生存が一部患者で得られた。耐性機序として最も重要なのはCD19陰性または発現低下クローンの出現であり、小児患者の約25%で再発時にこのパターンが観察されている。これに対しCD22標的CAR-TがCD19再発例で奏効を示し、複数抗原を同時標的とする組み合わせアプローチ (combinatorial targeting) が次なる戦略として浮上している。DLBCL (びまん性大細胞型B細胞リンパ腫) では複数試験でORR (objective response rate: 客観的奏効率) 64〜86%が達成され、ZUMA-1試験 (axicabtagene ciloleucel) ではORR 82% (95% CI 68〜92%)、JULIET試験 (tisagenlecleucel) ではORR 52% (95% CI 41〜63%) が報告された (Neelapu et al. NEnglJMed 2017)。重要なことにこれら奏効の40〜50%が持続的CRとして維持された。濾胞性リンパ腫では71%のORRが得られ、中央追跡期間28.6ヶ月の時点で奏効患者の89%が応答を維持した。形質転換濾胞性リンパ腫ではn=3例全例がCRを達成した。CLLでは奏効率が57〜71%と他のB細胞腫瘍より相対的に低く、ibrutinib抵抗性例でも持続CRは少数にとどまるが、ibrutinibとの組み合わせが奏効率を向上させることが示唆されている。CLLの低応答性の原因として、CD19標的密度は類似しているにもかかわらず宿主T細胞機能の障害・疾患局在・腫瘍微小環境の差異が関与すると考えられる。

BCMA CAR-TによるMM治療および固形腫瘍への応用:BCMA (B-cell maturation antigen: B細胞成熟抗原) を標的とするCAR-T療法は再発・難治性多発性骨髄腫で25〜100%の奏効率を示し、厳格なCR (stringent complete response) が約25%の患者で達成された (Table 1)。これらは初期試験の予備的成績であるが、複数の製薬企業が登録試験を進行中であり有望視されている。固形腫瘍への応用はいまだ初期段階にとどまる。IL-13Rα2 (interleukin-13 receptor alpha 2) を標的としたCAR-T細胞を静脈内・髄液内に投与した膠芽腫 (GBM) 症例では、MRI上の多病変完全退縮がn=1例で確認され、応答は7.5ヶ月持続した。メソテリン (mesothelin) 標的CAR-T細胞の膵臓癌肝転移への投与ではn=1例において肝病変での代謝的完全奏効が示されたが、原発病変への効果は不十分であった。固形腫瘍での主要課題として、(1) 腫瘍特異的かつ正常組織非発現の適切な標的抗原の不在 (HER2/neuを標的としたCAR-T投与後の肺への大量on-target発現による致死的CRSが典型例)、(2) TGFβ (transforming growth factor beta)・VEGF (vascular endothelial growth factor) などを介する免疫抑制性腫瘍微小環境、(3) 腫瘍部位へのCAR-T細胞のトラフィッキングと内部浸潤の不足、(4) 腫瘍内抗原ヘテロジニティによるエスケープが挙げられる。

CRS・神経毒性・B細胞無形成の管理:CAR-T療法固有の有害事象プロファイルはチェックポイント阻害薬 (大腸炎・皮疹・内分泌障害が主体) とは異なり、主にon-target effectorの拡大に伴う毒性からなる (Table 2)。CRS (cytokine release syndrome) はT細胞とマクロファージが大量のIL-6・インターフェロン-γを放出することで生じ、非感染性の発熱・低血圧・低酸素を特徴とする。重症CRS患者ではIL-6血清濃度がベースライン比50-fold以上上昇することが観察されており、腫瘍量 (骨髄中芽球比率) と相関するon-target毒性であり、臨床応答を示さない患者では発生しにくい。IL-6受容体拮抗薬tocilizumab (Actemra) が重症CRS管理の第一選択薬としてFDA承認を取得しており、効果不十分な場合はグルココルチコイドを迅速に追加する。NCT02906371試験では予防的tocilizumab投与がCAR-T細胞の有効性を損なわずにCRS抑制が可能かを前向きに検証中である。神経毒性 (失語・失調・脳浮腫など) はCD19 CAR-TおよびBCMA CAR-Tのクラス効果として全研究グループから報告されている。血液脳関門の破綻と内皮活性化が機序として示唆されるが、病態生理は未解明であり管理は現状経験的に行われている。ほとんどは可逆的だが、ZUMA-1試験 (Kite Pharma) では脳浮腫による死亡例が報告されている一方、Maudeら・Parkらの試験では脳浮腫は観察されておらず施設・試験デザインによる差異が存在する。B細胞無形成と低ガンマグロブリン血症はCD19標的CARによる予測されたon-target, off-tumor効果であり、rituximabより完全なB細胞枯渇を引き起こすが、免疫グロブリン補充療法 (IVIG: intravenous immunoglobulin) で管理可能である。

合成生物学とUniversal CAR-Tへの展望:合成生物学はCAR療法の安全性と特異性をさらに高める多様な戦略を提供する。Boolean logic-gated CARは「AND」ゲート設計 (2抗原の同時発現時のみ活性化) により腫瘍選択性を向上させon-target off-tumor毒性を低減する。自殺スイッチ機構としてiCaspase9 (inducible caspase-9: 誘導型カスパーゼ9、薬剤投与でCAR-T細胞を選択的に除去) やtruncated EGFR (EGFRt: truncated epidermal growth factor receptor、cetuximab投与で除去可能) が開発されており、重篤なCRS発生時の緊急制御に応用可能である。armored CAR (TRUCK: T cell redirected for universal cytokine killing) はIL-12・IL-18・CD40Lなどを腫瘍微小環境内で分泌し、固有の免疫抑制機構を打破する可能性を持つ。オートロガスCAR-T製造のコスト・複雑性・数週間のリードタイムという課題に対し、TALENやCRISPR/Cas9を用いてTCRとHLAを欠損させた「同種universal CAR-T」の開発が進み、一部の小児B-ALL患者で分子的寛解が達成された。iPSC (induced pluripotent stem cells: 誘導多能性幹細胞) からのT細胞分化も将来の供給源として期待されており、抗原特異性・非アロ反応性・組織適合性・機能特性を兼備した次世代の既製品 (off-the-shelf) CAR-T細胞の実現が将来展望の中核を占める。

考察/結論

本レビューが論じるCD19 CAR-T療法の臨床成績は、再発・難治性B細胞悪性腫瘍という化学療法に抵抗する高リスク集団において、これまでの研究では達成されなかった水準の深く持続的な完全寛解をもたらした点で際立っている。既報のチェックポイント阻害薬・抗体療法・化学療法と対照的に、CAR-T細胞は患者体内で自律的に増殖・持続する「生きた薬」という新規の治療概念を体現しており、腫瘍免疫監視の能動的な確立という点でこれまで報告されていない機序の薬剤カテゴリを構成している。この新規な作用原理が、再発・難治性DLBCL患者で40〜50%という従来では考えられなかった割合での持続的CRという驚異的な成績につながっている。

これまでの研究との比較では、CD19を標的とすることがCD20やCD22と異なり高い奏効をもたらす知見が示されており、高密度の標的抗原発現が重要である可能性が示唆される。一方でB-ALLとCLL間の応答率格差は宿主T細胞機能・疾患局在・腫瘍微小環境の差異に由来するとされており、単一の標的発現密度だけでは既報の疾患別成績の違いを説明できない。遺伝子治療の安全性懸念という文脈では、SCID-X1に対するγレトロウイルス遺伝子治療での歴史的経験と対照的に、CAR-T細胞では1000例以上の投与患者で腫瘍原性形質転換の報告がない点は安全性の臨床的意義として重要である。

臨床応用の観点では、重症CRS管理のためのtocilizumab承認・REMS (Risk Evaluation and Mitigation Strategy: リスク評価・軽減戦略) に基づく医療者トレーニング義務化・神経毒性の経験的管理プロトコルの整備が、CAR-T療法を日常臨床に実装するための不可欠なインフラとなっている。bench-to-bedsideの転換点を越えた現段階で、次の臨床現場の課題は製造アクセシビリティ (コスト・リードタイム・製造失敗リスク) の解決と固形腫瘍適応の拡大である。CAR療法の原理は悪性腫瘍にとどまらず感染症・自己免疫疾患・臓器移植・線維症・再生医療など広範な応用が期待され、世界で250以上の試験がClinicalTrials.govに登録されている。

残された課題として、固形腫瘍に対するCAR-T療法は現時点では個症例報告にとどまり大規模試験での有効性確立には至っておらず、腫瘍特異的抗原の同定と免疫抑制性腫瘍微小環境の克服が根本的なlimitationである。神経毒性の病態生理は未解明であり、予測バイオマーカーの確立と管理プロトコルの標準化が今後の検討として急務である。universal CAR-T細胞の開発はallorejectabilityの回避と免疫原性制御という技術的障壁が残存しており、iPSC由来T細胞を含む多様なアプローチの更なる検討が必要である。geographic disparity (米国・中国中心、欧州・日本は少数) もゲノム介入療法の社会的受容の差異に起因するとされており、国際的な普及に向けた future research における規制・社会的側面の整理も重要な課題として残る。

方法

本論文はNEJM誌 “Frontiers in Medicine” シリーズに掲載されたナラティブ・レビューであり、PubMed/MEDLINEおよびClinicalTrials.govを主要データベースとして同定した250件以上の臨床試験データを含む査読済み文献の包括的引用に基づく。文献範囲は1980年代の養子細胞移入の黎明期から2017〜2018年のFDA承認直後までを網羅し、対象疾患はB細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL: B-cell acute lymphoblastic leukemia)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL: diffuse large B-cell lymphoma)、慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia)、多発性骨髄腫 (MM: multiple myeloma)、膠芽腫 (GBM: glioblastoma multiforme)、膵臓癌など多岐にわたる。CAR設計の世代別比較 (第1世代〜第3世代)、共刺激ドメインの種類 (CD28 vs. 4-1BB)、ウイルスベクター (レンチウイルス vs. ガンマレトロウイルス)、有害事象プロファイルの対比という複数軸で臨床データを整理した。毒性管理はNCT02906371 (prophylactic tocilizumab試験) を含む進行中試験の情報も盛り込んでいる。本総説自体では新規の一次データ収集は行っておらず、引用した各試験の手法に解析の詳細を委ねている。各引用試験では奏効率・完全寛解率の差を記述統計および95% CI (confidence interval: 信頼区間) で報告しており、生存解析はKaplan-Meier法・log-rank検定、ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルによって算出された原著値を採用した。