• 著者: Lino Möhrmann, Helen J. Huang, David S. Hong, Apostolia M. Tsimberidou, Siqing Fu, Sarina A. Piha-Paul, Vivek Subbiah, Daniel D. Karp, Aung Naing, Johan Skog, Funda Meric-Bernstam, Filip Janku, et al.
  • Corresponding author: Filip Janku (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018 (Epub: 2017-10-19)
  • Epub日: 2017-10-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29051321

背景

がんの分子診断においてKRAS・BRAF・EGFR等の癌遺伝子ホットスポット変異の同定は標的治療選択に不可欠であり、これらの変異は大腸がん・メラノーマ・NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺がん) 等の多くのがん種で高頻度に認められる。従来はFFPE (ホルマリン固定パラフィン包埋; formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍組織を用いた遺伝子検査が標準的に行われているが、組織生検は侵襲的であり、利用できない場合や検体品質が不十分な場合が多い。さらに原発巣と転移巣の分子プロファイルは乖離し得ること、そしてEGFR阻害薬への耐性獲得時のように腫瘍の分子プロファイルは経時的に変化することが示されており (Sequist et al. SciTranslMed 2011)、連続的なモニタリングを困難にしている。

血漿を用いた液体生検 (liquid biopsy) はこれらの問題を非侵襲的に解決する手法として注目されている。最も広く使用される血漿 cell-free DNA (cfDNA) はアポトーシス・壊死細胞から受動的に放出されるため、生存腫瘍細胞の生物学的状態を必ずしも正確に反映しないという根本的な制限がある。これに対し、exosomal nucleic acids (exoNA; エクソソームに内包されたDNA・RNA) は生存細胞から能動的に分泌されるため、腫瘍の現状をより忠実に反映すると考えられた。

エクソソーム由来核酸の変異検出については、グリオブラストーマ患者の血清exoRNAでEGFRvIII変異が検出され (Skog et al. NatCellBiol 2008)、膵がん患者の血清exoDNAでKRAS変異が同定され (Kahlert et al. JBiolChem 2014)、NGSを用いた膵胆道がんのexoDNA・exoRNAゲノムプロファイリングも報告されていた。しかしながら、進行がん患者において複数の腫瘍種にわたりexoNAとcfDNAを同一コホートで系統的に比較し、かつ変異exoNA定量値と臨床アウトカムの定量的関連を評価した研究は不足しており、exoNA変異量が独立した予後因子となるか否かは手薄な領域であった。

目的

BRAF V600・KRAS G12/G13・EGFR exon19del/L858R変異を有する進行がん患者において、血漿exoNAのNGS検査と血漿cfDNAのddPCR (droplet digital PCR)・BEAMing PCRによる変異検出感度・特異度をFFPE腫瘍組織のCLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments) 認定検査と比較すること、さらに変異exoNA/cfDNAの定量値 (MAF; mutation allele frequency) と全生存期間 (OS; overall survival)・治療失敗期間 (TTF; time to treatment failure)・治療応答との関連を評価することを目的とした。

結果

変異検出感度・特異度の三法比較 (Table 2): 腫瘍組織変異が確認された41例における各液体生検法の変異検出性能を評価した。exoNA NGSは41変異中39変異を検出し、全体感度95% (95% CI 83-99) を達成した (Table 2)。変異種別の内訳はBRAF V600が19/20例 (感度95%、95% CI 75-100)・KRAS G12/G13が17/17例 (感度100%、95% CI 80-100)・EGFR exon19del/L858Rが3/4例 (感度75%、95% CI 19-99) であった。特に重要な点として、exoNA NGSは腫瘍組織で変異が認められない全例で変異を検出せず、BRAF・KRAS・EGFR全て特異度100%を示した。偽陰性はn=2例のみで、虫垂がんのBRAF V600E陰性例とNSCLCのEGFR L858R陰性例であった (Table 3)。cfDNA ddPCRは39変異中36変異を検出し感度92% (95% CI 79-98) を示した一方、前立腺がん患者でKRAS偽陽性n=1件が生じた。cfDNA BEAMingは35変異中34変異を検出し最高の全体感度97% (95% CI 85-100) を達成したが、前立腺がんと卵巣がんでKRAS偽陽性n=2件を生じKRAS特異度は85% (95% CI 62-97) に低下した。総合的に、exoNA NGSが感度95%・特異度100%の最もバランスのとれた性能を示したのに対し、BEAMingは感度最高だが特異度最低、ddPCRは中間的な位置付けであった。

exoNA変異量と全生存期間 (OS) (Fig. 1): exoNA MAFの中央値 (4.22%) を境界値として二分したところ、低MAF群 (MAF ≤4.22%、n=21) の中央値OSは11.8ヵ月 (95% CI 2.4-21.2) であり、高MAF群 (MAF >4.22%、n=22) の5.9ヵ月 (95% CI 4.7-7.1) と比較して統計学的に有意に長かった (p=0.006、Fig. 1A)。cfDNA ddPCRでも同様に低MAF群 (中央値MAF 6.1%、n=21) の中央値OS 8.5ヵ月は高MAF群 (n=20) の5.9ヵ月より有意に長く (p=0.023、Fig. 1B)、cfDNA BEAMingでは低MAF群 (中央値MAF 7.22%、n=19) 7.4ヵ月 vs 高MAF群 (n=18) 6.5ヵ月で有意傾向を示すにとどまった (p=0.066、Fig. 1C)。RMHスコアを共変量とした多変量Cox回帰解析 (Table 4) ではexoNA MAF ≤4.22%のみが唯一の独立した予後因子として残存し (HR 0.15、95% CI 0.03-0.80、p=0.026)、cfDNA ddPCR MAF (HR 0.60、p=0.32)・cfDNA BEAMing MAF (HR 4.67、p=0.12)・RMHスコア (p=0.75) は独立因子とならなかった。この結果は、exoNA定量値が疾患負荷とは独立した予後情報を提供することを示している。

exoNA/cfDNA変異量と治療失敗期間 (TTF) (Fig. 2): 全身療法を受けたn=32例においてTTFの関連を評価した。低exoNA MAF群 (MAF ≤4.22%、n=15) の中央値TTFは7.4ヵ月 (95% CI 1.5-13.3) であり、高MAF群 (n=17) の2.3ヵ月 (95% CI 1.2-3.4) と比較して有意に長かった (p=0.009、Fig. 2A)。cfDNA ddPCRでは低MAF群 (n=14) 8.6ヵ月 vs 高MAF群 (n=17) 2.3ヵ月とさらに顕著な差を示し (p=0.001、Fig. 2B)、cfDNA BEAMingでは低MAF群3.7ヵ月 vs 高MAF群2.3ヵ月で有意傾向にとどまった (p=0.086、Fig. 2C)。exoNAとcfDNA ddPCRの両方で治療前変異量が少ない患者ほど治療継続期間が有意に長く、液体生検による定量的MAF評価が治療抵抗性予測に有用であることが示された。

治療応答との関連 (Fig. 3): 全身療法を受けたn=32例においてRECIST 1.1評価による治療応答とのMAF関連を検討した。PR (partial response; 部分奏効) またはSD (stable disease; 安定)≥6ヵ月を達成したn=12例の中央値exoNA MAFは0.43%であり、PD (progressive disease; 進行) またはSD<6ヵ月のn=20例の中央値14.74%と比較して有意に低かった (p=0.006、Fig. 3A)。一方、cfDNA ddPCRでは奏効群0.70% vs 非奏効群16.00% (p=0.24、Fig. 3B)、cfDNA BEAMingでは5.44% vs 12.88% (p=0.24、Fig. 3C) で、いずれも有意差を示さなかった。すなわち治療前exoNA MAFのみが治療応答の有意な予測因子であり、cfDNA定量値は治療応答予測において統計的有意差を達成しなかった点が対照的であった。

考察/結論

本研究は、進行がん患者の血漿exoNAのNGS検査がFFPE腫瘍組織との変異一致率95%を達成し、同時実施のcfDNA ddPCR (92%) およびBEAMing (97%) と同等以上の感度で変異を検出できることを初めて系統的に実証した。さらにexoNA変異量 (MAF) が全生存・治療失敗期間・治療応答の有意な予測因子となり、多変量解析で独立した予後因子として確認された点が本研究の核心的知見である。

既報との相違点: 既報の同施設データではcfDNA BEAMingのBRAF感度76%・EGFR 80%・KRAS 100%が報告されていたが、本研究のexoNA NGSはBRAF 95%・KRAS 100%・EGFR 75%を達成した。BEAMingは全体感度が最高 (97%) であるのに対し、特異度が最も低くKRAS偽陽性を2件生じた点がこれまでの研究との重要な相違である。一致率に影響した要因として、組織採取と血液採取の時間的乖離 (中央値20ヵ月) が挙げられ、腫瘍進化・クローン進化・前分析因子が不一致の一因となる。同時採取コホートでは一致率が100%に近づく傾向が他研究で報告されており、これとの差異は採取時点のずれに帰因すると考えられる。

exoNAの生物学的優位性と新規性: cfDNAが死滅細胞から受動的に放出されるのと異なり、exoNAは生存腫瘍細胞から能動的に分泌されるため、腫瘍の現在の生物学的状態をより忠実に反映するという仮説がある。本研究で初めて、exoNA MAFが多変量解析でRMHスコアとは独立した予後因子となることを示した点は、これまで報告されていない新規の重要知見である。cfDNA ddPCRも単変量では有意な予後予測能を示したが、多変量解析では独立因子に残らなかったことは、exoNAの生存細胞由来という生物学的特性が情報的優位性をもたらす可能性を示す。また、治療前exoNA MAFのみが治療応答 (PR/SD≥6ヵ月 vs PD/SD<6ヵ月) において統計的有意差を示し cfDNA定量値では差が示されなかった点も novel な知見である。

臨床的意義と臨床応用: 非侵襲的な採血のみで得られるexoNA MAFが治療応答と予後を独立して予測しうるという知見は、臨床的意義が高い。組織生検が困難な患者に対して、exoNA定量を腫瘍負荷・治療感受性の指標として活用する個別化治療戦略の臨床応用が期待される。exoNAは変異の存在/不在の二値検出にとどまらず、定量的MAFによって連続的な腫瘍動態モニタリングを可能にするツールとして機能し得る。bench-to-bedside の観点から、標準化された液体生検プロトコルへのexoNA検査統合が今後の重要課題となる。

残された課題: 本研究には複数の limitation がある。第一に後向きデザインかつ少例コホート (n=43) であり統計的検出力が限られる。第二に腫瘍種が大腸がん47%と偏りがあり結果の一般化が制約される。第三に検討した変異はBRAF・KRAS・EGFRの限られたホットスポットに限定され、他の分子異常への外挿可能性は不明である。第四にエクソソーム単離法の標準化・キャラクタリゼーション (粒子径・表面マーカー検証) の詳細が本報では欠如しており、再現性の担保が課題である。今後の展望として、前向き多施設研究によるexoNA定量値の予後予測能検証、治療経過中のシリアル採血によるダイナミックモニタリングの有用性評価、広域ゲノムプロファイリングへの拡張、そして各種腫瘍種でのより大規模な更なる検討が求められる。

方法

対象患者とサンプル収集: 2010年2月〜2014年4月にMD Anderson Cancer CenterのDepartment of Investigational Cancer Therapeuticsに実験的治療を求めて紹介された進行がん連続患者43例 (プロトコルLAB10-0334)。FFPE腫瘍組織のCLIA認定検査でBRAF V600・KRAS G12/G13・EGFR exon19del/L858R変異が確認された41例 (変異陽性) と、特異度評価目的の変異陰性2例を含む。全血はEDTA採血管に採取後2時間以内に2回遠心分離して血漿を得た。腫瘍種は大腸がん20例 (47%)・メラノーマ8例 (19%)・NSCLC 6例 (14%) が主体で、変異種別はBRAF V600が20例 (47%)・KRAS G12/G13が17例 (40%)・EGFR exon19del/L858Rが4例 (9%) であった (Table 1)。組織採取から血液採取までの中央値は20ヵ月 (範囲0.1〜140.4ヵ月) と乖離が大きかった。

exoNA単離と分子検査: 血漿exoNAはExoLution Plus単離キット (Exosome Diagnostics社; 沈降・ろ過ベースの商業用プロトコル) により血漿からexosomal DNA・RNAとともにcfDNAを共単離した。エクソソーム粒子径・表面マーカー (CD9/CD63/CD81等) の詳細なキャラクタリゼーションは本報ではNanoSightおよび走査型電子顕微鏡 (補助的記載にとどまる) が謝辞で言及されるのみであり、ISEV標準に準じた系統的characterizationは省略されている。単離されたexoNAに対しEXO1000定量NGS法を用いてBRAF exon 15・KRAS exon 2・EGFR exon 19〜21のホットスポット変異を解析した (検出下限MAF約0.05%)。

cfDNA単離と分子検査: cfDNAはQIAamp Circulating Nucleic Acid Kitで単離後、(1) multiplex ddPCR (Bio-Rad QX200; BRAF V600・KRAS G12/G13はマルチプレックスキット・EGFR変異は変異特異的アッセイ; 検出下限MAF約0.2%) と (2) BEAMing PCR (磁気ビーズ-エマルジョンPCR後に蛍光アリル特異的プローブでハイブリダイゼーション・フローサイトメトリー定量; 検出下限MAF約0.02%) の2種類で変異を検出した。

統計解析: OSは採血日から死亡または最終追跡日まで、TTFは全身療法開始から治療中断または最終追跡日まで定義した。Kaplan-Meier法でOS・TTFを推定し、log-rank検定でサブグループ間の比較を行った。exoNA/cfDNA MAFと臨床アウトカムの関連はCox比例ハザードモデルで多変量解析を実施し、RMH (Royal Marsden Hospital) スコア (乳酸脱水素酵素・アルブミン・転移部位数による前向き検証済み予後スコア) を共変量として調整した。治療応答はRECIST 1.1基準 (Eisenhauer et al. 2009) によりPR/SD≥6ヵ月 vs PD/SD<6ヵ月に分類し、変異量との関連をMann-Whitney U検定で評価した。全統計はSPSS 23を使用した (両側検定、p<0.05を有意と判定)。