• 著者: Ryan B. Corcoran, Bruce A. Chabner
  • Corresponding author: Ryan B. Corcoran (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-10-04
  • Article種別: Review
  • PMID: 30380390

背景

腫瘍組織生検は、がん診断および個別化医療における治療選択のゴールドスタンダードとして機能してきた。しかし、組織生検は侵襲的であり、出血や気胸などの合併症リスクを伴うだけでなく、単一の病変から得られる情報が腫瘍全体の分子プロファイルの一部に過ぎないという根本的な限界を有している。特に、腫瘍内不均一性 (ITH: intratumor heterogeneity) の存在により、単一の針生検では全身の転移病巣に存在する多様なクローンを代表できないことが、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012などの先行研究によって明らかにされている。さらに、治療介入に伴う腫瘍の経時的なゲノム進化や耐性獲得プロセスをリアルタイムに追跡するために、組織生検を繰り返し施行することは患者への身体的負担が大きく、臨床現場において実用的ではない。

これらの限界を克服するアプローチとして、低侵襲的な液体生検 (liquid biopsy)、特に血漿中の無細胞DNA (cfDNA: cell-free DNA) 解析が急速に注目を集めている。cfDNAは、正常細胞や腫瘍細胞のアポトーシスまたは壊死によって血流中に放出される約150から200塩基対の二本鎖DNA断片である。健常者におけるcfDNAの平均血漿濃度は10から15 ng/ml程度と極めて低く、組織ストレスや炎症、手術などによって一時的に上昇することが知られている。がん患者においては、このcfDNAの一部に腫瘍由来の循環腫瘍DNA (ctDNA: circulating tumor DNA) が混在しており、変異、コピー数異常、遺伝子融合、DNAメチル化変化などの腫瘍特異的な分子情報を保持している。ctDNAのcfDNA全体に占める割合 (ctDNA分率) は、腫瘍量やがん種、細胞死の速度によって大きく異なり、0.1%未満から90%以上まで極めて広範に変動することがBettegowda et al. SciTranslMed 2014らによって報告されている。また、cfDNAの血中半減期は1時間以下と極めて短いため、従来の血清腫瘍マーカー (例: 半減期数日のCEAやCA-125) と比較して、現在の腫瘍動態をほぼリアルタイムに反映できるという優れた生物学的特性を持つ。

しかし、2010年代後半に至るまで、cfDNA解析の臨床的有用性、技術的限界、および適切な解釈については、臨床医の間で十分な理解が確立されておらず、多くの課題が残されていた。特に、早期がん発見や術後微小残存病変 (MRD: minimal residual disease) 検出といった超低濃度のctDNAを対象とする領域においては、検出感度の不足や生物学的交絡因子に関するエビデンスが不足していた。また、加齢に伴うクローン性造血 (CHIP: clonal hematopoiesis of indeterminate potential) に起因する偽陽性変異の混入など、診断の特異度を脅かす生物学的要因の評価も未確立であった。本総説は、これらの課題を背景に、cfDNA解析技術の原理、感度、特異度を体系的に整理し、がん治療における5つの主要な臨床応用領域における有効性と限界を総括することを目的として執筆された。

目的

本レビューの目的は、血漿由来cfDNA解析技術の基礎科学的原理と分析プラットフォームの特性を包括的に概観し、臨床現場における具体的な応用可能性を提示することである。具体的には、(1) 診断および初期分子プロファイリング、(2) 治療応答のリアルタイムモニタリング、(3) 獲得耐性機序の解明と腫瘍不均一性の捕捉、(4) 術後微小残存病変 (MRD) の検出による再発予測、(5) 早期がん発見スクリーニング、という5つの主要な臨床シナリオにおける現状のエビデンス、臨床的意義、および技術的・生物学的限界を総括する。さらに、臨床医がcfDNA検査結果を適切に解釈し、治療決定に統合するための実践的なフレームワークを提供するとともに、クローン性造血 (CHIP) による偽陽性問題や前処理プロトコルの標準化など、将来的な臨床実装に向けて解決すべき課題を明確にすることを目的とする。

結果

cfDNA解析プラットフォームの技術的特性: cfDNA解析における主要な検出技術は、その検出感度とゲノムカバレッジにおいて相補的な関係にある。単一または少数の既知変異を標的とするBEAMingやddPCRは、変異アリル頻度 (VAF: variant allele frequency) が0.01%以下という極めて微量な変異を検出可能であり、高い感度を誇る (Fig. 2)。一方、数十から数百遺伝子を包括的にスクリーニングするターゲットNGSパネル (例: Guardant360) は、ゲノムカバレッジが広いものの、検出下限はVAF 0.1%から0.5%程度に制限される。全ゲノムシーケンス (WGS) や全エクソームシーケンス (WES) は、さらに広範なゲノム異常を検出できるが、必要なシーケンス深度の制約から、検出感度は数%以上と低くなる。NGSにおけるシーケンスエラーを抑制するため、各DNA断片に固有の配列を付加する分子バーコーディング (UMI) 技術の導入により、ポリメラーゼエラーと真の変異の識別精度が大幅に向上した。進行がん患者におけるctDNA検出率は全体で85%以上に達するが、早期がんや脳腫瘍、限局性病変においてはctDNA放出量が極めて少なく、転移がん患者であっても約15%の症例でctDNAが検出下限以下となることが示されている。

初期診断および分子プロファイリングにおける組織との一致度: 適切に管理された大規模臨床試験において、同時期に採取された腫瘍組織生検と血漿cfDNAの重要ドライバー変異の一致率は80%から90%に達することが確認されている。例えば、EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象とした複数の研究において、血漿cfDNAを用いたEGFR変異検出の感度は66%から82%、特異度は97%から100%であり、高い診断精度が実証されている。このエビデンスに基づき、cobas EGFR Mutation Test v2は、組織生検が困難な症例におけるEGFR阻害薬のコンパニオン診断薬としてFDAに承認された。臨床現場において、肺生検などの針生検の約20%から25%で十分な組織量が得られないという実情を考慮すると、低侵襲なcfDNA解析は組織生検を補完する極めて重要な代替手段となる。ただし、ctDNA分率が極めて低い症例では偽陰性となるリスクがあるため、血漿検査で陰性の場合は組織生検による再確認が推奨される。

治療応答モニタリングにおける迅速なctDNA動態: cfDNAの血中半減期が1時間以下と極めて短いため、ctDNAレベルの変動は治療応答をほぼリアルタイムに反映する。治療開始後1から2週間という早期において、治療が有効な症例ではctDNA量が劇的に減少する。この変化は、従来の血清腫瘍マーカー (CEAやCA-125など) の減少や、画像診断 (RECIST基準) による腫瘍縮小の確認よりも数週間から数ヶ月先行して観察される。Dawson et al. NEnglJMed 2013は、転移性乳がん患者において、ctDNAレベルがCA-15-3 (cancer antigen 15-3) や循環腫瘍細胞 (CTC) よりも感度高く治療応答を反映し、画像診断よりも早期に病勢進行を予測できることを示した (Fig. 3)。ただし、治療開始直後に腫瘍細胞が急速に壊死を起こすことで、一時的にctDNAレベルが上昇する「スパイク現象」が観察されることがあり、治療初期の解釈には注意を要する。

耐性機序の解明と多クローン性腫瘍不均一性の捕捉: がん治療における獲得耐性の出現は、治療の選択圧によって特定の耐性サブクローンが選択されることで生じる。単一の腫瘍組織生検は、その採取部位の分子プロファイルしか反映できないため、全身に散在する異なる転移巣の耐性機序を過小評価するリスクがある。これに対し、cfDNAは全身のすべての病変から放出されたDNAが混在しているため、腫瘍の空間的・時間的不均一性を包括的に捕捉できる (Fig. 4)。例えば、大腸がん患者に対する抗EGFR抗体 (セツキシマブなど) 治療において、耐性獲得時に複数の異なるKRAS変異、NRAS変異、あるいはEGFR細胞外ドメイン変異が同一患者の血漿中から同時に検出される。Siravegna et al. NatMed 2015らは、抗EGFR抗体治療を中断すると、血漿中のRAS変異クローンが減衰し、再投与時に感受性が回復するというクローン動態を可視化し、液体生検ガイド下の治療戦略の基盤を提示した。また、Chabon et al. NatCommun 2016は、EGFR阻害薬耐性肺がん患者において、ctDNAプロファイリングがT790M変異、MET増幅、HER2増幅などの多様な耐性メカニズムの共存を明らかにすることを示した。

術後微小残存病変 (MRD) の検出と再発リスク予測: 根治切除術後の無症状期において、血漿中に残存するctDNAを検出することで、将来の再発リスクを極めて高い精度で予測可能である。Tie et al. SciTranslMed 2016は、術後補助化学療法を施行しないステージII大腸がん患者178名を対象とした前向き研究において、術後4週時点でctDNAが陽性であった症例の再発リスクは、陰性症例と比較してハザード比 18 (95% CI 7.9-41.0, p<0.001) と極めて高いことを示した。術後ctDNA陽性例における3年無再発生存率はわずか0%であったのに対し、陰性例では90%であった。このMRD検出は、従来の臨床病理学的リスク因子やCEA値よりも強力な再発予測因子であり、画像検査で再発が確認されるよりも平均数ヶ月早期に陽性化する。現在、このMRD検出に基づいて補助化学療法の追加や省略を決定する介入試験であるDYNAMIC (Circulating Tumor DNA Guided Adjuvant Therapy for Stage II Colon Cancer) 試験などが進行中である (Fig. 5)。

早期がん発見における多項目スクリーニングの成果: 健常者スクリーニングにおける早期がん検出は、液体生検における最大の挑戦である。Cohen et al. (Science 2018) が開発した「CancerSEEK」は、16遺伝子の変異パネルと8種のタンパク質バイオマーカー (CA-125、CEA、AFP、CA19-9、プロラクチン、HGF、オステオポンチン、マイエロペルオキシダーゼ) を統合したマルチオミクスアプローチである。非転移性の主要8がん種 (卵巣がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん) の患者1,005名を対象とした試験において、感度の中央値70% (がん種別に33%から98%の範囲)、特異度99.1% (健常コントロール812名における偽陽性率0.9%) を達成した。ステージ別の感度は、Stage Iで43%、Stage IIで73%、Stage IIIで78%であり、腫瘍量依存性を示した。さらに、機械学習アルゴリズムを用いることで、陽性症例の83%においてがんの原発部位を2候補以内に特定することに成功した。また、Chan et al. NEnglJMed 2017は、20,174名の無症状男性を対象とした前向きスクリーニングにおいて、血漿中のEBV DNA検出により上咽頭がんを感度97.1% (95% CI 85.1-99.9%)、特異度 98.6% (95% CI 98.4-98.8%) で早期発見できることを実証した。

前処理プロトコルの標準化と生物学的限界: cfDNA解析の臨床実装には、前解析段階における厳格な標準化が不可欠である。通常のEDTA採血管では、採血後に白血球が溶解してゲノムDNAが放出され、ctDNAが希釈されるため、1から4時間以内の遠心分離と血漿分離が必要となる。この物流的課題を解決するため、細胞固定剤を含む専用のcfDNA保存用採血管 (Streck Cell-Free DNA BCTなど) が開発され、常温で7から14日間の保存が可能となった。また、生物学的交絡因子として、加齢に伴うクローン性造血 (CHIP) が挙げられる。DNMT3A、TET2、ASXL1などの遺伝子変異は、がん非含有の造血幹細胞由来であってもcfDNA中に検出され、特に70歳以上の高齢者では10%以上の頻度で観察されるため、早期がんスクリーニングにおける偽陽性の原因となる。この対策として、血漿cfDNAと同時に末梢血白血球 (WBC) のDNAをシーケンスし、WBC中に存在する変異を差し引くフィルタリング手法が推奨されている。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、特定の遺伝子変異や単一のがん種、あるいは個別の臨床応用に限定して論じてきた従来の報告と異なり、cfDNA解析の生物学的特性から分析技術、そして診断、治療モニタリング、耐性獲得、MRD検出、早期発見に至るがん治療の全ステージにおける臨床応用を包括的に整理した点で、これまでの文献と一線を画している。特に、組織生検の空間的・時間的限界を補完するcfDNAの優位性を、具体的な臨床データに基づいて体系化した。

新規性: 本研究は、cfDNA解析が単なる「組織生検の代替」にとどまらず、腫瘍の多クローン性進化や空間的不均一性を包括的に捕捉できるという独自の生物学的価値を、臨床応用例と結びつけて本研究で初めて明確に提示した。単一部位の組織生検では見落とされる複数の耐性クローンが、血漿cfDNA解析によって一括して検出可能であることを示し、液体生検が腫瘍の分子プロファイルの全体像をより正確に反映するスナップショットであることを新規に実証した。

臨床応用: 本知見は、cfDNA解析が日常の臨床現場において標準治療の一部として統合されつつある現状を支持している。特に、EGFR T790M変異検出におけるオシメルチニブの治療選択は、液体生検がコンパニオン診断として臨床応用された先駆的例であり、Oxnard et al. JClinOncol 2016によってその高い臨床的有用性が証明されている。さらに、術後MRD検出に基づく補助化学療法の個別化は、不要な化学療法の毒性を回避しつつ、高リスク患者への早期介入を可能にする translational な意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、早期がんスクリーニングにおける超低濃度ctDNAに対する検出感度のさらなる向上と、CHIP変異に起因する偽陽性の効率的な排除方法の確立が挙げられる。また、ゲノム変異情報のみならず、DNAメチル化、フラグメントサイズ分布 (フラグメントミクス)、および循環タンパク質を統合したマルチオミクスアプローチの最適化が、早期発見の精度向上に向けた重要な研究方向性である。さらに、cfDNA解析の臨床実装を加速するためには、検査費用の低減、保険還元の整備、および多施設間での前処理プロトコルの標準化に関する国際的なガイドラインの策定が求められ、これが今後の重要な limitation 克服へのステップとなる。

方法

本論文は、PubMed、Embase、および主要な医学・腫瘍学ジャーナルに掲載された臨床試験、方法論研究、および技術的評価報告を精査した包括的文献レビューである。文献検索は2018年までの期間を対象とし、“cell-free DNA”, “circulating tumor DNA”, “liquid biopsy”, “minimal residual disease”, “early detection”, “clonal hematopoiesis” などのキーワードを組み合わせて実施された。検索データベースとしては主にPubMedおよびEmbaseが使用された。

文献の選択基準 (inclusion criteria) としては、(1) ヒトがん患者または健常コントロールを対象とした前向き・後向き臨床研究、(2) cfDNA/ctDNAの検出感度・特異度を評価した技術的検証研究、(3) 組織生検と液体生検の一致度を検証した比較試験、を設定し、非英語文献や症例報告などのエビデンスレベルが低い報告は除外基準 (exclusion criteria) として排除した。抽出された文献の信頼性評価には、レビューの偏りを防ぐため、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準拠したエビデンスレベルのグレーディング評価を導入した。

レビューの構成として、まずcfDNAの生物学的特性(半減期、サイズ分布、放出機序)を整理し、次いで分析プラットフォームの技術的特性を比較評価した。具体的には、BEAMing (beads, emulsion, amplification, and magnetics) やデジタルPCR (ddPCR: droplet digital PCR) などのPCRベースの手法と、ハイブリッドキャプチャー法やターゲットアンプリコンシーケンスを含む次世代シーケンス (NGS: next-generation sequencing) 法の検出下限 (LOD: limit of detection)、スループット、およびカバレッジの関係を分析した。特に、DNAポリメラーゼエラーによる偽陽性を低減するために導入された分子バーコーディング (unique molecular identifier: UMI) 技術の効果について検証した。

各臨床応用領域の評価においては、それぞれの領域を代表するランドマーク研究を抽出し、そのデザイン、症例数、感度、特異度、および統計的指標を詳細に分析した。具体的には、ステージII大腸癌におけるMRD検出を評価したTie et al. SciTranslMed 2016のコホート研究、EBV (Epstein-Barr virus) DNAを用いた上咽頭癌スクリーニングを評価したChan et al. NEnglJMed 2017の prospective 研究、および多がん種早期発見を目的としたCancerSEEK試験 (Cohen et al. Science 2018) などの主要データを精査した。

さらに、cfDNAの分離・分析プロセスにおける前解析的変数(採血管の種類、遠心分離プロトコル、処理時間、温度)が結果の信頼性に与える影響を検討した。通常のEDTA採血管を用いた場合の迅速処理(1から4時間以内)の必要性と、細胞固定剤を含む専用のcfDNA保存用採血管であるBCT (blood collection tube) の有用性を比較した。また、クローン性造血 (CHIP) に起因する偽陽性を排除するためのアプローチとして、患者の末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) 由来DNAの同時シーケンスの必要性について考察した。統計的評価においては、各研究における感度、特異度、陽性予測値 (PPV)、陰性予測値 (NPV)、ハザード比 (HR)、およびp値の解釈の妥当性を検証した。