- 著者: Jacob J. Chabon, Andrew D. Simmons, et al.
- Corresponding author: Ash A. Alizadeh; Maximilian Diehn (Stanford Cancer Institute, Stanford University, Stanford, CA)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-10
- Article種別: Original Article (Translational / Liquid biopsy)
- PMID: 27283993
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるEGFR変異は、第一・第二世代EGFR-TKI (erlotinib、gefitinib、afatinib) への感受性を付与するが、治療開始後9〜16ヶ月で獲得耐性が invariably に出現する。この耐性の約60%はEGFR T790M変異によって媒介されることが知られている Pao et al. PLoSMed 2005。T790M陽性獲得耐性に対しては、第三世代TKIであるrociletinib (CO-1686) とosimertinib (AZD9291) が開発され、T790M陽性NSCLC患者において臨床的有効性を示している Sequist et al. NEnglJMed 2015。
しかし、これらの第三世代TKIに対する耐性機序は完全には理解されておらず、一部の患者は奏効しないか、完全奏効に至らないことが報告されている。これまでの研究では、小さなコホートの組織生検を用いて耐性機序が部分的に解析されてきたが、単一部位生検では腫瘍内地理的不均一性 (intratumor heterogeneity) が十分に評価できないという課題があった Gerlinger et al. NEnglJMed 2012。先行研究では、第一・第二世代TKI後の耐性機序の多様性は患者の5〜15%に認められると組織生検で報告されていたが、真の多様性は過小評価されている可能性が指摘されていた。このため、従来の組織生検では捉えきれない腫瘍の多様性を包括的に評価する手法が不足しており、治療戦略の最適化における知識ギャップが残されている。循環腫瘍DNA (ctDNA) は、CAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by deep Sequencing) のような高感度液体生検技術により、複数の腫瘍部位からの変異情報を同時に捕捉できるため、腫瘍内不均一性の包括的な評価を可能にする新規のツールとして注目されている。
目的
本研究の目的は、CAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by deep Sequencing) ctDNA解析をrociletinib治療T790M陽性NSCLC患者に適用し、以下の点を評価することである。第一に、第一世代EGFR-TKI後の耐性機序の多様性を明らかにすること。第二に、rociletinib耐性機序のスペクトラムを同定すること。第三に、rociletinibとosimertinibの耐性機序の差異を比較すること。第四に、治療前バイオマーカーとしてのctDNAの有用性を評価すること。
結果
第一・第二世代EGFR-TKI後の耐性機序の腫瘍内不均一性: T790M陽性41例において、治療前ctDNA解析によりT790M以外の追加耐性機序が19例 (46%) で検出された (Fig. 1b)。これにはMETまたはERBB2のコピー数増加が14例 (34%)、PIK3CAまたはRB1のSNVが3例 (7%)、両者の併存が2例 (5%) 含まれた。この頻度は、従来の組織生検で報告されていた5〜15%と比較して大幅に高く、ctDNAが複数の腫瘍部位の変異を統合し、地理的不均一性を捕捉できることを示唆している。治療前ctDNAにおけるT790M対活性化変異の比率が0.5以下の低T790M群 (n=12) は、平均腫瘍縮小率が+7.1%であったのに対し、0.5超の高T790M群 (n=29) は-31.2%であり (p<0.05)、低T790M比率がrociletinibへの応答が限定されることを示した (Fig. 1e)。
Rociletinib耐性機序の多様性: 43例中28例 (65%) でrociletinib耐性機序が同定された (Fig. 2a)。最も頻繁な耐性機序はMETコピー数増加であり、11例 (26%) で観察された (Fig. 2b)。その他、PIK3CA変異 (E542K/E545K) が5例 (12%)、EGFR変異 (E709K/L692V/C797S/L798I) が5例 (12%)、KRAS活性化変異 (G12A/Q61H/A146T) が3例 (7%) で認められた。KRAS活性化変異は、NSCLCのEGFR-TKI治療後においてctDNAで初めて報告された。8例 (19%) では複数の耐性機序が併存しており、複合耐性の臨床的重要性を示唆している。先天性耐性(PFS<3ヶ月)の患者 (n=15) では、MET、ERBB2、EGFRのコピー数増加が有意に多く (p<0.005)、獲得耐性(PFS>3ヶ月)の患者 (n=28) ではSNVが多かった (Fig. 2c)。
EGFR C797S変異の頻度差: EGFR C797S変異は、rociletinib治療後の患者40例中1例 (2.5%) でのみ検出された (Fig. 3a)。これは、osimertinib治療後の患者19例中6例 (32%) でC797S変異が報告された先行研究 Thress et al. NatMed 2015 の結果と顕著に異なっている。この差異は、rociletinibとosimertinibの耐性機序が系統的に異なることを示唆し、C797S耐性への対策がosimertinibに特に重要であることを強調する。
新規EGFR L798I変異の発見: 1例 (CO34) で新規EGFR L798I変異が発見された。このL798I変異はT790Mと同一アレル (cis) で増加しており、in silico分子動力学シミュレーションにより、L798I変異がrociletinibのC797への共有結合に重要なAsp800残基との水素結合形成を阻害し、結合能を低下させるメカニズムが予測された (Fig. 4c,d)。
MET増幅とrociletinib奏効の関連: 治療前にT790M変異とMETコピー数増加を併せ持つ患者 (n=16) は、T790M変異のみの患者 (n=33) と比較して、rociletinibに対する腫瘍縮小率が有意に低く (平均-13.8% vs -36.5%, p<0.05)、PFSも有意に短かった (中央値3.3ヶ月 vs 5.6ヶ月, p<0.05) (Fig. 5c,d)。これは、複数の耐性機序の併存がrociletinibへの治療応答を悪化させることを示している。また、in vitro実験では、EGFRおよびERBB2の過剰発現がrociletinibの効力をそれぞれ2.2倍 (p<0.05) および3.7倍 (p<0.0005) 低下させることを確認した。
前臨床モデルにおけるMET増幅の役割: PC-9細胞を用いた異種移植モデルにおいて、erlotinib耐性腫瘍はEGFR T790M変異を獲得したが、rociletinib単剤治療ではT790Mクローンの出現が抑制された (Fig. 6c)。erlotinib耐性後にrociletinibに切り替えた群では、rociletinib耐性腫瘍においてMET増幅が唯一の体細胞異常として出現し、T790Mは陰性であった (Fig. 6d)。このMET増幅は11-15コピーゲインであり、MET経路の活性化が獲得耐性機序であることを裏付けている。さらに、rociletinib耐性細胞にMET阻害剤クリゾチニブを併用することで、rociletinibの感受性と下流経路の抑制が回復した (Fig. 7a,b)。患者由来の異種移植モデル (LU0858) でも、L858R変異と14コピーのMET増幅を持つ腫瘍に対し、rociletinibとクリゾチニブの併用がrociletinib単剤よりも有意な腫瘍縮小効果を示した (p<0.0001) (Fig. 8)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究はCAPP-Seq ctDNA解析により、EGFR-TKI耐性の腫瘍内不均一性が従来の組織生検データ (5〜15%) の3倍以上 (46%) の患者で認められることを初めて示し、ctDNA液体生検の優越性を証明した。これは、ctDNAが複数の腫瘍病変からの情報を統合できるため、地理的異質性をより正確に捉えることができるという新規の知見である。rociletinib耐性の主要機序がMET増幅 (26%) であることは、第三世代TKIの耐性においてもバイパス経路の活性化が重要であることを示唆しており、これまでのin vitro研究で示唆されていたEGFR自体の追加変異(例:C797S)が主要な耐性機序であるという見解とは対照的である。
新規性: EGFR C797S変異がrociletinibでは稀 (2.5%) であるのに対し、osimertinibでは高頻度 (32%) であったという差異は、両薬剤の構造的差異や薬物動態、あるいはオフターゲット活性の違いを反映している可能性があり、第三世代TKIの選択において考慮すべき重要な臨床的意義を持つ。KRAS変異がNSCLCのEGFR-TKI治療後にctDNAで初めて記録されたことは、KRASがEGFR-TKI下でのバイパス経路として機能しうるという新たなメカニズムを新規に示唆する。また、新規EGFR L798I変異も本研究で初めて同定された。
臨床応用: 治療前ctDNAで複数の耐性機序を把握し、治療戦略に反映させるというアプローチは、現在の液体生検を利用した精密医療の実践につながる先駆的知見として評価される。例えば、MET増幅を有するEGFR変異腫瘍において、rociletinibとMET阻害剤であるクリゾチニブの併用療法が感受性を回復させる可能性が示されており、これは臨床応用への重要な示唆を与える。
残された課題: 残された課題としては、本研究のコホートサイズが比較的小規模であること、また、ctDNA解析の検出限界により、低頻度の耐性クローンを見逃している可能性が挙げられる。今後の研究では、より大規模なコホートでの検証や、異なる第三世代TKI間の耐性機序の比較、さらにctDNA解析に基づく個別化併用療法の臨床試験が求められる。
方法
本研究の対象は、rociletinibの第1/2相臨床試験 (NCT01526928, NCT02147990) に参加したT790M陽性進行NSCLC患者43例である。これらの患者の77%は試験参加時もEGFR-TKIを投与中であった。CAPP-Seq解析は、302kbのセレクター(252遺伝子をカバーし、NSCLCで頻繁に変異する遺伝子を含む)を用いて、115のシリアル血漿検体(治療前および進行時)に対して実施された。この解析では、SNV (single-nucleotide variants)、indel (insertions/deletions)、遺伝子融合、体細胞コピー数変化 (SCNA: somatic copy-number alterations) が同時に評価された。
主要解析項目は、①治療前(rociletinib投与前)における第一世代TKI耐性機序の多様性、②rociletinib耐性時に出現または増加した遺伝子変化、③T790M比率とrociletinib奏効の関連、④EGFR C797Sおよび新規L798I変異の発見とin silico構造解析であった。また、rociletinibとosimertinibのC797S変異頻度を比較するため、Thress et al. NatMed 2015 のデータが用いられた。統計解析には、Wilcoxon signed-rank test、Spearman相関分析、Wilcoxon rank-sum test、Fisher’s exact test、log-rank testが用いられた。PFS (progression-free survival) はRECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) version 1.1に基づき定義された Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。