• 著者: Geoffrey R. Oxnard, Kenneth S. Thress, Ryan S. Alden, Rachael Lawrance, Cloud P. Paweletz, Mireille Cantarini, James Chih-Hsin Yang, J. Carl Barrett, Pasi A. Janne
  • Corresponding author: Geoffrey R. Oxnard (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27354477

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) に対する第1・第2世代EGFR-TKI (gefitinib、erlotinib、afatinib) は、初回奏効後に中央値10-12ヶ月で耐性を獲得することが知られている。この耐性獲得の最も一般的な機序は、二次的なEGFR T790M変異であり、全耐性症例の約50-60%を占める。このT790M変異は、第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブ (osimertinib) の主要な治療標的となる。オシメルチニブは、T790M変異陽性EGFRm NSCLCの治療薬として2015年に米国、欧州、日本、韓国で承認された。この承認に伴い、治療対象患者を特定するためにT790M変異の検出が必須となった。しかし、従来の組織再生検 (tissue rebiopsy) は、侵襲性、患者へのリスク、結果が得られるまでの遅延、および技術的な困難さといった課題を抱えている。例えば、Arcila et al. ClinCancerRes 2011やRedig et al.の前向き試験では、EGFR変異NSCLC患者が進行時に生検を受けられる割合は限定的であることが報告されている。

このような背景から、非侵襲的な代替手段として、血漿中の細胞遊離DNA (cfDNA) を用いた液体生検がT790M変異検出の有望な方法として注目されてきた。cfDNA血漿解析は、組織生検と比較して患者負担が少なく、迅速な結果が得られ、繰り返し実施可能であるという利点がある。特に、デジタルPCR法の一種であるBEAMing (Beads, Emulsion, Amplification, Magnetics) 法は、高感度な変異検出が可能であると期待されていた。しかし、BEAMing法によるcfDNA血漿T790M検出の診断精度 (腫瘍genotypingを基準とした感度・特異度) と、血漿T790M変異状態とオシメルチニブ治療アウトカムとの関係を大規模かつ系統的に評価したデータは、本研究の実施時点では不足していた。先行研究では、Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012など、第1世代TKIの有効性が示されていたが、耐性克服の課題は未解明であった。また、Sequist et al. SciTranslMed 2011は耐性メカニズムの多様性を示唆していたが、T790M変異の非侵襲的検出とその臨床的意義についてはさらなる検討が必要であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、液体生検によるT790M検出の臨床的有用性を初めて提供することを目的とした。

目的

本研究の目的は、オシメルチニブの第I相AURA試験に登録された全患者を対象とした後ろ向き探索解析を実施し、以下の2点を評価することである。

  1. BEAMing法を用いたcfDNA血漿genotypingによるT790M変異検出の診断精度を評価する。具体的には、中央検査室での腫瘍genotypingを基準として、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を算出する。
  2. 血漿T790M変異状態とオシメルチニブ治療アウトカム(客観的奏効率 [ORR] および無増悪生存期間 [PFS])との関連を検討する。これにより、血漿cfDNAによるT790M検出が、オシメルチニブ治療の有効性を予測するバイオマーカーとして有用であるか否かを明らかにする。

これらの目的を達成することで、非侵襲的な液体生検が、T790M変異陽性NSCLC患者の治療選択において、組織生検の代替または補完的な役割を果たす可能性を評価する。

結果

血漿T790M検出精度 (診断精度解析、n=216): センシタイジング変異 (exon 19 del/L858R) の血漿検出感度は、exon 19 delで82% (136例中112例、95% CI 75-88%)、L858Rで86% (73例中63例、95% CI 76-93%) であった (Table 1)。T790Mの血漿検出感度は70% (158例中111例、95% CI 63-77%) であった (Table 1)。血漿感度は転移部位によって異なり、肝転移を有する患者で有意に高かった (94% vs 79%、p=0.008)。胸腔外転移がない患者では感度が低い傾向が見られた (75% vs 86%、p=0.06)。

センシタイジング変異の特異度は、exon 19 delで97.5%、L858Rで96.5%と高かった。しかし、腫瘍T790M陰性であった58例のうち18例 (31%) で血漿T790Mが陽性であった (Table 1)。これらの18例について代替アッセイ (cobas血漿アッセイまたはddPCR) で再確認したところ、18例中14例 (78%) でT790M陽性が確認された。この結果は、これらの「偽陽性」の多くが、組織生検部位では検出されなかったT790M陽性サブクローンが、腫瘍内不均一性により血漿中で検出されたことを示唆している。また、血漿中でセンシタイジング変異が検出された場合、T790Mも高率 (80%) で検出されたのに対し、センシタイジング変異が検出されない場合はT790M検出率が5%に過ぎなかった (p<0.001)。これは、血漿T790Mの解釈においてセンシタイジング変異の検出が重要であることを示唆する。

腫瘍T790M状態別osimertinibアウトカム (n=237): 腫瘍T790M陽性患者 (n=173、評価可能) のORRは62% (173例中108例、95% CI 54-70%)、PFS中央値は9.7ヶ月 (95% CI 8.3-12.5ヶ月) であった (Figure 2A, 3A)。一方、腫瘍T790M陰性患者 (n=58) のORRは26% (58例中15例、95% CI 15-39%、p<0.001)、PFS中央値は3.4ヶ月 (95% CI 2.1-4.3ヶ月、p<0.001) であった (Figure 2B, 3A)。この結果は、T790M変異状態がオシメルチニブ奏効の強力な予測因子であることを明確に示した。

血漿T790M陽性/陰性のアウトカム (n=271): 血漿T790M陽性患者 (n=164) のORRは63% (164例中103例、95% CI 55-70%)、PFS中央値は9.7ヶ月 (95% CI 8.3-11.1ヶ月) であった (Figure 2C, 3B)。この結果は、腫瘍T790M陽性患者のORR 62%およびPFS 9.7ヶ月と実質的に同等であり、血漿T790M陽性での治療開始を支持する。血漿T790M陰性患者 (n=102) のORRは46% (102例中47例、95% CI 36-56%、p=0.011 vs 血漿陽性)、PFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 5.3-10.9ヶ月、p=0.188 vs 血漿陽性) であった (Figure 2D, 3B)。血漿陰性例で比較的良好なORR 46%およびPFS 8.2ヶ月が観察されたのは、血漿検出感度70%による偽陰性例 (真のT790M陽性患者) がこの群に混入しているためであると推測された。

血漿陰性例の腫瘍genotypingによる追加層別化 (n=85、両者実施): 血漿T790M陰性かつ腫瘍T790M陽性患者 (n=45) のORRは69% (45例中31例、95% CI 53-82%)、PFS中央値は16.5ヶ月であった (Figure 3C)。一方、血漿T790M陰性かつ腫瘍T790M陰性患者 (n=40) のORRは25% (40例中10例、95% CI 13-41%、p<0.001)、PFS中央値は2.8ヶ月 (p<0.001) であった (Figure 3C)。血漿陰性-腫瘍陽性群でのPFS 16.5ヶ月は、血漿陽性群 (9.7ヶ月) を大幅に上回る結果であった。この知見は、腫瘍全体でT790M変異が優勢クローンとして存在するものの、ctDNA放出量が少なく血漿で検出されない患者 (より限局的な疾患や低い腫瘍量を持つ患者) が、特にオシメルチニブに良好に応答することを示唆する。

血漿陽性例での腫瘍genotypingによる追加層別化: 血漿T790M陽性かつ腫瘍T790M陽性患者 (n=108) のORRは64% (95% CI 54-73%)、PFSは9.3ヶ月であった (Figure 3D)。血漿T790M陽性かつ腫瘍T790M陰性患者 (n=18) のORRは28% (18例中5例、95% CI 10-53%、p=0.004)、PFSは4.2ヶ月 (p=0.0002) であった (Figure 3D)。この18例は、T790Mがマイナークローンとして存在し、組織生検部位では検出されなかったが血漿には放出された症例と解釈された。これらの患者ではT790Mを持つクローンの腫瘍内存在比率が低いため、オシメルチニブへの奏効が劣ると考えられる。相対的T790M AF (T790M AF / センシタイジング変異AF) の中央値は、腫瘍陰性群で16.8% vs 腫瘍陽性群で33.6%と有意に低く (p=0.0047)、クローン比率の低さが確認された (Figure 4B)。相対的T790M AFが10%を超える群は、10%未満の群より奏効深度が有意に高かった (p=0.0407) (Figure 4C)。

血漿T790M陰性/センシタイジング変異陰性サブグループ: 血漿T790M陰性患者のうち、センシタイジング変異も検出されない (T790M-/sens-) 33例では、ORRが64% (33例中21例、95% CI 45-79%)、PFS中央値が15.2ヶ月 (95% CI 11.0-17.9ヶ月) と非常に良好なアウトカムが観察された (Appendix Figure A3)。これは、T790M-/sens+の69例 (ORR 38%、PFS 4.4ヶ月) と比較して顕著に良好であった。この理由として、EGFRm NSCLC患者でctDNAが血漿に検出されない場合、腫瘍量が少ないか、ctDNA放出が低い、よりindolentな疾患状態を示す可能性がある。このような患者では、T790Mの有無に関わらずオシメルチニブへの応答が良好であり、血漿液体生検の結果解釈において「検出されない」という情報の質的差異を考慮する必要があることが示唆された。

考察/結論

本研究は、液体生検によるT790M変異検出の臨床実装パラダイムを確立する上で、4つの重要な知見を提供した。

第1に、血漿T790M陽性患者でのオシメルチニブ治療を支持する。血漿T790M陽性患者のORR 63% (95% CI 55-70%) およびPFS中央値9.7ヶ月 (95% CI 8.3-11.1ヶ月) は、腫瘍T790M陽性患者のORR 62% (95% CI 54-70%) およびPFS中央値9.7ヶ月 (95% CI 8.3-12.5ヶ月) と実質的に同等であった。この結果から、血漿T790M陽性患者では組織再生検を要さずにオシメルチニブ治療を開始できることが示唆される。これは、非侵襲性、迅速性、反復可能性という液体生検の利点を最大化するものである。

第2に、血漿T790M陰性例では組織再生検が依然として必要である。血漿T790M検出の感度が70% (95% CI 63-77%) であり、偽陰性率が約30%という診断的限界があるため、血漿T790M陰性例では腫瘍再生検が推奨される。血漿陰性かつ腫瘍T790M陽性群でのPFS中央値16.5ヶ月という顕著な結果は、血漿感度低下 (腫瘍内不均一性や低腫瘍量に起因) があっても組織検体でT790Mが同定された患者はオシメルチニブに良好に応答することを示した。この知見は、Janne et al. NEnglJMed 2015の報告とも一致する。

第3に、腫瘍内不均一性の観点からの耐性理解を深める。腫瘍T790M陰性にもかかわらず血漿T790M陽性であった症例の31%について、その78%が代替アッセイでT790Mが確認された。これは、EGFR-TKI耐性が空間的ヘテロジェニティー (部位によりT790M陽性・陰性クローンが共存) を持つことを示し、単一の組織生検が疾患全体を「代表」していない可能性を提示する。この事実は、T790M検出の「参照標準」を組織genotypingとすることへの根本的な疑問を呈し、臨床アウトカムが最良の参照標準となり得ることを示唆した。これは、Zhou et al. Nature 2009Cross et al. CancerDiscov 2014で示されたT790Mの重要性を補完する。

第4に、段階的診断アルゴリズムの確立を提案する。本研究の知見に基づき、T790M検査の実用的なフローが提案された (Figure 5B)。まず、血漿genotyping (液体生検) を最初のスクリーニング検査として実施する。血漿T790M陽性であれば、組織再生検をせずにオシメルチニブ治療を開始する。血漿T790M陰性であれば、腫瘍再生検を実施してT790M状態を確認する。このアルゴリズムにより、T790M陽性/陰性の比率が60:40、血漿感度70%を仮定すると、約54%の耐性患者が血漿検査のみで診断され、再生検を回避できると推計された。

本研究は後ろ向き探索解析であること、T790M陽性患者が過剰に代表されている試験集団を使用していること、BEAMingアッセイがCLIA条件下で実施されていないこと (探索的アッセイ使用) という限界を持つ。今後の検討課題として、これらの限界を克服するための前向き検証が必要である。しかし、本研究が確立した診断パラダイムは、その後の前向き試験 (AURA3試験など) で検証され、現在の標準的なT790M診断戦略の基盤となった。液体生検によるがん診断の最も成功した実用化例の一つとして、EGFR T790M検査は今なお世界的に参照される臨床実装モデルである。

方法

試験設計: 本研究は、進行EGFR変異陽性NSCLC患者を対象としたオシメルチニブの第I相AURA試験 (NCT01802632) の後ろ向き探索解析として実施された。

対象集団: AURA Phase I試験に登録された計402例のうち、一次治療コホートの60例と、既知の共通EGFRセンシタイジング変異 (exon 19 delまたはL858R) を持たない34例を除外した。最終的に、EGFR-TKI耐性を獲得した308例が解析対象となった。この集団には、用量漸増コホートおよび拡大コホートの患者が含まれ、拡大コホートではT790M陽性患者が優先的に登録された。オシメルチニブの投与量は20mgから240mgの範囲で複数用量が用いられ、80mg/日が最も多く126例 (41%) に投与された。

血漿サンプリング・アッセイ: 全患者からオシメルチニブ治療開始前に10-20mLの血液をEDTA vacutainerで採取し、2段階遠心分離後に-80℃で保存した。cfDNAの抽出およびデジタルPCR (ddPCR) は、BEAMing (Sysmex Inostics, Baltimore, MD) 法を用いて実施された。このアッセイでは、T790M、L858R、および6種類のexon 19 del変異が検出された。陽性判定の閾値は、exon 19 del/L858Rで0.04%以上の対立遺伝子頻度 (AF)、T790Mで0.06%以上のAFと設定された。腫瘍genotypingの参照標準としては、中央検査室で実施されたcobas EGFR Mutation Test (Roche, Basel, Switzerland) が用いられた。血漿T790M genotypingと腫瘍T790M genotypingで不一致が見られた場合、cobas血漿EGFRアッセイまたは別のバリデートされたddPCRアッセイを用いて血漿genotypingの再確認が行われた。

解析セット:

  1. 診断精度解析: 中央検査室での腫瘍genotypingと血漿genotypingの両方の結果が得られた216例が対象となった。
  2. 腫瘍genotyping別アウトカム解析: 中央検査室での腫瘍genotyping結果が得られた237例が対象となった。
  3. 血漿genotyping別アウトカム解析: 中央検査室での血漿genotyping結果が得られた271例が対象となった。 データカットオフは2015年5月1日であった。

統計解析: 臨床的有効性アウトカムとして、RECIST version 1.1に基づき、治験責任医師によって評価された確認済みORR、標的病変径の最大変化率、およびPFSが評価された。人口統計学的特性とPFSはintention-to-treat解析セットで提示され、ORRと腫瘍径の変化はベースラインで測定可能な疾患を有する患者で提示された。バイオマーカーサブグループ間の差を評価するために、Fisher’s exact testまたはχ²検定が用いられた。PFSについては、各バイオマーカーグループ内の中央値と95%信頼区間 (CI) がKaplan-Meier曲線から推定され、群間のP値はログランク検定によって算出された。

患者背景 (全308例): 患者の約62%が女性であり、約62%がアジア人であった。年齢中央値は60歳で、先行TKI治療ライン数の中央値は3ラインであった。直前のTKI治療としては、erlotinibが31%、gefitinibが17%、afatinibが13%であった。転移部位としては、骨転移が51%、脳転移が36%、肝転移が32%の患者に見られた。中央検査室での腫瘍T790M陽性率は、237例中75.5%であった。