- 著者: Nong J, Gong Y, Guan Y, Yi X et al. (共著者: Heymach JV, Glisson B, Futreal PA, Zhang J, Wang J)
- Corresponding author: Jianjun Zhang (MD Anderson Cancer Center, Texas); Jinghui Wang (Beijing Chest Hospital); Shucai Zhang (Beijing Chest Hospital)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 30082701
背景
小細胞肺がん (SCLC) は肺がん全体の約15%を占める高悪性度の神経内分泌腫瘍であり、急速増殖と早期血行性転移を特徴とする。初期治療としてプラチナ製剤とエトポシドによる化学療法への奏効率は高いものの、ほぼ全例が化学療法抵抗性再発をきたし、5年生存率は5〜10%に留まるのが現状である。SCLCのゲノム解析からは、TP53とRB1の両アリル不活化が普遍的な分子特徴として同定されているが、腫瘍組織検体の採取が困難であるという長年の課題が存在する。SCLCは中心性・気管支傍に位置することが多く、生検量が少ないため、十分な組織検体が得られにくい。このため、大規模なゲノム解析研究は他の固形がんと比較して手薄であった。
再発時の腫瘍組織は、画像診断上の増悪確認後に即座に二次治療が開始されることが多く、再生検の機会が乏しい。このため、プラチナ感受性から耐性への転換を駆動する分子メカニズム、すなわちサブクローン構造の変化や新規変異の出現は、組織解析ではほとんど把握できない状況にあった。このような背景から、SCLCのゲノムランドスケープ、特に治療中のゲノム進化に関する知見は未解明な部分が多い。
近年、ctDNA (circulating tumor DNA) 解析は、侵襲なく繰り返し採取可能であり、腫瘍の「空間的・時間的」不均一性を包括的に反映しうる点で、SCLCのような組織採取が困難な疾患には特に有利な解析モダリティとして注目されている。SCLCは高い増殖率と早期血行性播種を示すため、血漿中ctDNA濃度が比較的高くなりやすいという生物学的利点も存在する。先行研究では、ctDNAシーケンスが様々な癌種において疾患モニタリングや微小残存病変の検出に有用であることが報告されている (Bettegowda et al. SciTranslMed 2014、Alexandrov et al. Nature 2013)。しかし、SCLCにおけるctDNAを用いたサブクローン構造の解明やゲノム進化の追跡に関する系統的な報告はこれまで不足していた。
本研究は、SCLCに対して430遺伝子の大規模パネルによるctDNA targeted deep sequencingを系統的に実施した初期の代表的試験であり、組織との一致性検証、サブクローン解析、臨床転帰との相関を統合的に示した先駆的研究である。これにより、SCLCのゲノム進化の理解における知識ギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究は、SCLC患者22例のコホートにおいて、ctDNA targeted deep sequencingの臨床的有用性を多面的に検証することを目的とした。具体的には以下の4点を検証した。
(1) 430遺伝子パネルを用いたctDNA targeted deep sequencingが、対応する腫瘍組織ゲノム解析と高い一致性を示すか否かを評価する。これにより、ctDNAがSCLCのゲノムプロファイリングにおける信頼性の高い代替手段となりうるかを検討する。
(2) ctDNA解析からSCLCのサブクローン構造を推定することが可能か、またその構造が腫瘍組織のサブクローン構造とどの程度類似しているかを評価する。これにより、ctDNAが腫瘍内不均一性を包括的に捉える能力を持つかを検証する。
(3) 治療前ctDNAレベル(クローン性変異の平均VAF)が、SCLC患者の化学療法応答、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) と相関するかを評価する。これにより、ctDNAがSCLCの予後予測バイオマーカーとして機能しうるかを検討する。
(4) 経時的ctDNA解析により、SCLCのゲノム進化、特に化学療法応答および耐性出現に伴う分子変化を捉えられるかを検証する。これにより、ctDNAが治療中のリアルタイムモニタリングツールとして有用であるかを評価する。
結果
SCLCの治療前ctDNA変異プロファイル: 22例全例の治療前血漿ctDNAから変異が検出された。体細胞変異数の中央値は16/症例(範囲5〜38)であり、変異負荷の中央値は6.8変異/Mbであった。この変異負荷は、先行研究であるGeorge et al. (2015) の組織シークエンス結果と一致する。変異スペクトルは、喫煙関連のC>A転換 (39.5%) と加齢関連のC>T転換 (27.2%) が主体であった (Alexandrov et al. Nature 2013)。検出頻度が10%を超えた29遺伝子のうち、最も高頻度に変異が認められたのはTP53 (91%、20/22例) であり、4例で両アリル変異が確認された。次いでRB1 (64%、14/22例) であり、5例でLOHが検出された。その他、NOTCH1-4、CREBBP、EP300などの既知のSCLCドライバー遺伝子やMYC/MYCL1/MYCNの増幅もctDNAで検出された (Figure 1)。
組織-ctDNA一致性: 8例の対応する腫瘍組織-血漿ペアの解析において、腫瘍組織DNAで検出された変異のctDNAにおける検出率の中央値は94%(範囲0〜100%)であった (Figure 2)。TP53やRB1などのクローン性変異は実質的に全例で高い一致率を示した。一方で、ctDNAでのみ検出される変異も複数存在し、血漿側での一致率の中央値は60%(範囲5〜77%)であった。これは、単一生検では捉えられない腫瘍内不均一性 (ITH) の存在を示唆する。例外として、患者CA170(AJCC stage IA、原発巣2.3 cm、転移なし)では、初期のシーケンス深度では組織変異がctDNAで検出されなかった。これは腫瘍径の小ささによるctDNA低含量が原因と推察されたが、シーケンス深度を上げることで一部の変異が検出された。ctDNAと対応する腫瘍DNA間で共有された69変異のVAFは中程度の相関を示した (Spearman r = 0.558, p < 0.0001)。
サブクローン構造の類似性: 8ペア中6例において、ctDNA由来のサブクローン構造が腫瘍組織のサブクローン構造と高い類似性を示した (Figure 3)。各変異のCCFの相関はPearson r=0.749〜0.991 (p<0.001) であった。また、変異クラスター数のSpearman相関はr=0.71 (p=0.049) であった。ctDNAは単一の腫瘍生検と比較してより多くの変異クラスターを検出した(ctDNAで中央値11クラスター vs 腫瘍DNAで中央値4クラスター、p=0.047)。これは、空間的な腫瘍内不均一性の網羅的把握において血漿ctDNAが優位性を持つことを実証している。
ctDNAレベルと予後との関連: 治療前クローン性変異の平均VAFをctDNAレベルの代替指標として採用し、その中央値0.18(95% CI 0.08〜0.36)を閾値として患者を高ctDNA群(≥0.18、n=11)と低ctDNA群(<0.18、n=10)に分類した。高ctDNA群は低ctDNA群と比較して、有意に短い無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を示した (Figure 4)。
- PFS: 高ctDNA群の中央値は5.3ヶ月 (95% CI 5.0〜5.6ヶ月) であったのに対し、低ctDNA群では10.0ヶ月 (95% CI 9.5〜10.5ヶ月) であった (ログランク検定 p=0.002)。
- OS: 高ctDNA群の中央値は9.3ヶ月 (95% CI 1.6〜17.0ヶ月) であったのに対し、低ctDNA群では25.0ヶ月 (95% CI 4.8〜45.2ヶ月) であり、15ヶ月以上の差が認められた (ログランク検定 p=0.012)。 多変量Cox回帰分析(年齢、病期、腫瘍径で調整後)においても、ctDNAレベルはPFSの独立した予測因子であり (HR 8.4, 95% CI 2.0-35.0, p=0.008)、OSの独立した予測因子であった (HR 4.7, 95% CI 1.3-17.1, p=0.021)。治療前ctDNAレベルは腫瘍径と中程度の相関を示したが (Spearman r=0.413, p=0.056)、腫瘍径自体はOS (p=0.367) およびPFS (p=0.184) と有意な相関を示さなかった。このことは、ctDNAレベルが腫瘍径では捉えられない独立した予後情報を提供しうることを示唆する。ES-SCLCで20ヶ月以上生存した3例は、いずれも低ctDNA群(VAF 0.04、0.08、0.12)であった。また、ctDNAレベルは画像診断上の腫瘍測定値と良好な相関を示し、治療中の動的な変化を反映することが確認された。
ゲノム進化の縦断解析: 11例で治療前後の連続採血サンプルを用いた解析が可能であった。化学療法(プラチナ-エトポシド)応答時には主要クローンのVAFが著明に低下し、疾患進行時には再上昇が観察された。治療後サンプルでのみ検出された変異は33個あり、13個の変異がサブクローンから主要クローンへの転換を示した。治療後サンプルで濃縮された遺伝子の中には、NOTCH1、ERCC1、SETD2など、化学療法抵抗性に関連することが報告されている遺伝子が含まれていた。これらの結果は、治療誘導性のクローン選択と耐性進化の生物学的根拠がctDNA解析によって捉えられうることを示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、SCLCにおいてctDNA targeted deep sequencing (430遺伝子パネル) が腫瘍組織ゲノム情報を高い一致率 (中央値94%) で再現し、さらに単一生検では捉えられない腫瘍内不均一性とサブクローン構造を包括的に把握できることを実証した初めての系統的報告である。非小細胞肺がん (NSCLC) におけるcTRACER研究 (Abbosh et al. Nature 2017) やLUNGSCAPE試験による経験とは対照的に、SCLCでは本研究が最初期の系統的エビデンスを提供した。George et al. (2015) の組織全ゲノム解析と比較すると、本研究は治療応答・耐性の「動的」モニタリングという新次元を切り開いた点に独自性がある。
新規性: 本研究で初めて、ctDNAレベルがSCLCの予後と独立して関連することを示した。これは、ctDNAのサブクローン構造解析が、従来の臨床病理学的因子では捉えられない深遠な予後情報を提供しうるという新規の知見である。また、治療中のctDNAの動態が腫瘍量の変化と相関し、治療後のサンプルでDNA修復やNOTCHシグナル経路に関連する変異が濃縮されることを示し、SCLCのゲノム進化をリアルタイムで追跡する可能性を提示した。
臨床応用: 本知見はSCLCの精密医療実装に大きく貢献する可能性を秘めている。ctDNAは、(1)診断時の包括的ゲノムプロファイリング、(2)プラチナ-エトポシド化学療法応答の早期判定(組織再評価前にctDNA動態で判断可能)、(3)再発・耐性時の分子メカニズム探索、(4)TMB (tumor mutation burden) 推定による免疫チェックポイント阻害薬適応判断(SCLCでは近年アテゾリズマブ+EP療法が標準化され、TMB評価の重要性が増している)という4つの用途で有望である。特に、SCLCは早期に血行性転移をきたすため、ctDNAは早期診断や微小残存病変 (MRD) の検出にも応用できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1)本研究がn=22という小規模コホートであるため、より大規模な前向き検証コホートでの結果の再現性確認が必須である。(2)ctDNA閾値0.18の最適カットオフは独立コホートでの確認が必要である。(3)LS-SCLC9例とES-SCLC13例の混在により、病期別の解析力が限定的である。(4)治療後サンプルの採取タイミングが多様であり、厳密な比較が困難であった。(5)近年普及しているメチローム解析やエピゲノム解析との統合によるASCL1/NEUROD1などのSCLC分子サブタイプ分類への応用が未検討である。これらのlimitationを克服し、ctDNA解析の臨床的有用性をさらに確立するためには、多施設共同研究や大規模な前向き試験が不可欠である。本研究はSCLCのctDNA-guided精密医療実装の基盤を提供した先駆的研究として、液体生検分野の後続研究を牽引するものと位置付けられる。
方法
患者とサンプル収集:2014年から2015年にかけて北京胸部病院でSCLCと診断された22例(限局期SCLC (LS-SCLC) 9例、進展期SCLC (ES-SCLC) 13例)を登録した。本研究は前向き観察研究であり、全ての患者から施設内倫理委員会 (IRB) 承認のもとインフォームドコンセントを取得した。治療前血漿サンプルは全22例から採取し、さらに18例からは化学療法2〜5サイクル前および増悪時に連続採血を行った。腫瘍径はRECIST 1.1に基づきCTスキャン上の標的病変の最長径の合計として算出した。8例からは、治療前血漿採取から中央値5日(0〜10日)の期間で対応する腫瘍組織(FFPE)検体を採取した。
サンプル処理とDNA抽出:末梢血はEDTA採血管に採取後4時間以内に処理した。血漿は1600×gで10分間遠心分離後、さらに16,000×gで10分間遠心分離して細胞残渣を除去した。末梢血単核球 (PBL) からはDNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen) を用いて生殖細胞系DNAを抽出した。血漿からはQIAamp Circulating Nucleic Acid Kit (Qiagen) を用いてctDNAを抽出した。FFPEサンプルからはMaxwell® RSC (Rapid Sample Concentrator) DNA FFPE Kit (Promega) を用いてゲノムDNAを抽出した。DNA濃度はQubit蛍光光度計で測定し、血漿DNAのサイズ分布はAgilent 2100 BioAnalyzerで評価した。
シーケンスライブラリ構築とターゲットエンリッチメント:PBLおよびFFPE検体から抽出したゲノムDNA 1 μgはCovaris S2超音波破砕装置で300 bpに断片化した。血漿DNAは20〜80 ngをライブラリ構築に使用した。KAPA (Kapa Biosystems) Library Preparation Kit (Kapa Biosystems) を用いて、PBL DNA、腫瘍DNA、血漿DNAからインデックス付きIllumina次世代シーケンス (NGS) ライブラリを調製した。ターゲットエンリッチメントは、SCLCおよび他の一般的な固形腫瘍で頻繁に変異する430遺伝子(標的領域約2.3 Mb)の全コーディングエクソンと選択されたイントロンをカバーするカスタムSeqCap EZ Library (Roche NimbleGen) を用いて実施した。
NGSシーケンス:Illumina HiSeq 3000装置を用いて、2×75 bpのペアエンドリードでシーケンスを実施した。平均シーケンス深度は873×(範囲538〜1169×)であった。
シーケンスデータ解析:アダプター配列と低品質データを削除後、リードはBWA (Li et al. Bioinformatics 2009) を用いてヒト参照ゲノム (hg19) にマッピングした。体細胞性SNV (single nucleotide variant) およびInDel (insertion/deletion) はMuTect2 (Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013) を用いて検出した(VAF≥0.1%の低頻度変異まで対象)。コピー数変異 (CNV) はContra (2.0.8) で検出し、LOH (loss of heterozygosity) は情報量の多いSNP (single nucleotide polymorphism) に基づくアルゴリズムで同定した。全ての最終候補変異はIntegrative Genomics Viewer (IGV) ブラウザで手動検証した。
サブクローン解析:PyClone (Cancer et al. Nature 2014) を用いて、各ctDNAサンプルおよび利用可能なSCLC腫瘍サンプルにおける各変異のcancer cell fraction (CCF) を推定した。コピー数情報をPyClone解析の入力として使用し、CCFに基づいて変異をクラスター化した。PyCloneは20,000回のイテレーションとデフォルトパラメータで実行した。対応する腫瘍DNAとctDNAのCCFを比較する際には、parental_copy_numberモードと2000回のバーンインを追加した。平均CCFが最大のクラスターに属する変異をクローン性変異、残りをサブクローン性変異と定義した。
統計解析:生存解析は多変量Cox比例ハザード回帰分析とKaplan-Meier生存解析(ログランク検定)を用いて実施した。IBM SPSSソフトウェア (23.0) とGraphPad Prism (6.01) を統計解析に使用した。全ての検定は両側検定であり、p<0.05を有意と判断した。