- 著者: Sumitra Mohan, Alastair Hartley, Christoforos Voutour, Neil Beevor, Caroline L. Kelly, et al.
- Corresponding author: Dominic G. Rothwell (University of Manchester / The Christie NHS Foundation Trust)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-10-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 31629061
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約10〜15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、急速な進行と化学療法後の早期耐性獲得により5年生存率が5%未満と極めて不良な予後を示す。世界中で年間約25万人がSCLCにより死亡していると報告されている vanMeerbeeck et al. Lancet 2011。SCLCは診断時に遠隔転移を伴う進展型 (ES-SCLC) が多く、プラチナ製剤ベースの化学療法にもかかわらず中央値全生存期間 (OS) は1年未満である。限局型 (LS-SCLC) の患者では中央値OSが18ヶ月とやや良好であるが、5年以上の長期生存はLS-SCLCで20〜30%、ES-SCLCでは2%未満に留まる Faivre-Finn et al. Lancet 2017。
SCLCの組織生検は、縦隔腫瘤や気管支内腫瘍による気管支鏡での到達困難、患者の全身状態 (PS) 不良による外科的リスクなど、多くの症例で困難を伴う。また、SCLCは腫瘍内不均一性が高いため、単一部位の生検が腫瘍全体のゲノムプロファイルを代表しないという問題も存在する Sabari et al. NatRevClinOncol 2017。このような背景から、低侵襲で包括的なゲノム情報が得られる液体生検への期待が高まっている。SCLCは高腫瘍量と高細胞死回転率を特徴とし、循環腫瘍DNA (ctDNA) の血中への放出 (shedding) 率が高いとされており、液体生検による包括的ゲノムプロファイリングに最も適した腫瘍の一つと位置づけられている Fernandez-Cuesta et al. EBioMedicine 2016。
先行する組織ゲノム解析により、SCLCはTP53およびRB1の普遍的変異 (各々90%以上) と広範なコピー数異常 (CNA) ―SOX2増幅、MYCファミリー増幅、FHIT欠失、RB1欠失など―を特徴とすることが明らかにされている George et al. Nature 2015 Rudin et al. NatGenet 2012。しかし、cfDNAからこれらの変異プロファイルとCNAプロファイルを同時に包括的に評価した系統的研究は限られており、特に以下の3点が未解明であった。(1) CNA定量に最適なゲノムワイドアルゴリズムの比較、(2) 標的パネルシーケンスとの相補性によるctDNA検出率の最大化、(3) 治療中のctDNA動態の縦断的評価である。これまでの研究では、単一遺伝子 (TP53) または小規模なSCLC関連遺伝子パネルを用いたctDNA解析が報告されているが、ゲノムワイドなCNAと標的変異を統合したアプローチの臨床的有用性については、大規模コホートでの検証が不足していた。特に、低腫瘍量のLS-SCLCにおけるctDNA検出感度の向上は重要な課題として残されていた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、SCLC患者の循環遊離DNA (cfDNA) を用いた包括的なゲノムプロファイリングアプローチを確立し、その臨床的有用性を評価することである。具体的には、以下の4点を系統的に検討する。
- 浅層全ゲノムシーケンス (shallow WGS) によるコピー数異常 (CNA) 定量法の比較検討: Percentage of Genome Altered (PGA)、Z-score、Moran’s I (MI) の3種類のCNA指標の感度と特異性を比較し、SCLC cfDNA解析に最適な指標を同定する。特に、低腫瘍画分における検出能を評価する。
- 110遺伝子標的パネルシーケンスとWGSの相補的利用によるctDNA検出率の最大化: 浅層WGSによるCNA解析と、SCLC関連遺伝子を含む110遺伝子パネルによる標的変異解析を組み合わせることで、ctDNAの全体検出率をどの程度向上させられるかを評価する。
- TP53、RB1、DNA損傷修復 (DDR) 関連遺伝子を含む変異プロファイルの血漿検出: 標的パネルシーケンスにより、SCLCに特徴的なドライバー遺伝子変異や、潜在的な治療標的となりうるDDR関連遺伝子変異の血漿中での検出頻度とプロファイルを明らかにする。
- 化学療法中のctDNA動態の縦断的評価: 治療開始前、治療中、治療後の複数時点でのcfDNAサンプルを解析し、ctDNAの動態が治療奏効や疾患進行とどのように相関するかを縦断的に評価し、疾患モニタリングツールとしての有用性を検証する。
これらの目的を達成することで、SCLCにおける液体生検の臨床実装に向けた基盤を確立し、患者層別化、治療選択、および治療モニタリングに資する新たなアプローチを提案することを目指す。
結果
CNA指標の比較: Moran’s Iが最高感度: 3種類のCNA指標 (PGA、Z-score、Moran’s I [MI]) の感度を比較した結果、MIが最も感度に優れることが示された (Supplementary Fig. 2B)。H446 SCLC細胞株をNCC血漿にスパイクした実験では、PGAおよびZ-scoreは腫瘍画分10%以上でのみ信頼できる検出が可能であったのに対し、MIは腫瘍画分5%というより低い閾値でも有意なCNAパターンを検出した (n=32 NCC対照例との比較、ROC-AUC最高)。SCLC特有の連続したゲノム領域にわたる大規模CNA (染色体アームレベルの増幅・欠失) がMIの空間的自己相関算出に適しており、他指標を上回る感度をもたらした。3種のCNA指標の中でMIは特異性においても最高の識別能を示し、腫瘍画分が低い症例における偽陽性を最小限に抑制した。また、cfDNAの断片長解析により、SCLC患者のcfDNAはNCCよりも有意に短いことが示され (Supplementary Fig. 2C)、この断片長選択をCNA解析に適用することで、PGAおよびZ-scoreの検出感度が向上した (Supplementary Table 6)。
ctDNA検出率: CNA + 標的パネルの相補的利用で全ES-SCLC検出: WGSによるCNA単独検出率は、ES-SCLCで93% (30例中28例)、LS-SCLCで77% (39例中30例)、全体で84% (69例中58例) であった (Fig. 2B)。これに対し、110遺伝子標的パネルシーケンスによる変異検出を加えることで、ES-SCLCで100% (30例中30例)、LS-SCLCで94% (39例中37例)、全体で97% (69例中67例) へと検出率が向上した (Fig. 3B)。CNA単独では陰性であった症例の大多数が標的パネルで変異を検出されたことから、2つの手法が相補的に機能することが確認された。ichorCNAによる腫瘍画分推定値はES-SCLCでLS-SCLCを有意に上回り (p<0.05)、疾患ステージとctDNA検出率の正の相関関係を支持した。単独手法では到達できないES-SCLC 100%・全体97%という高い検出率は、WGSと標的パネルの統合アプローチの優位性を示す。
変異プロファイル: TP53・DDR遺伝子の高頻度検出: 110遺伝子パネルによる変異解析では、TP53体細胞変異がES-SCLCで83% (29例中24例)、LS-SCLCで76% (33例中25例)、全体で79% (62例中49例) で検出された (Fig. 3A)。RB1変異は全体で34% (62例中21例; ES-SCLC 38% [29例中11例]、LS-SCLC 30% [33例中10例]) で検出され、これは組織解析で報告される頻度 (>90%) より低いが、cfDNAのアレル頻度限界を反映していると考えられる。DNA損傷修復 (DDR) 関連遺伝子 (BRCA1/2、ATM、CHEK2、RAD51Cなど18遺伝子) の変異は、ES-SCLCで90% (29例中26例)、LS-SCLCで82% (33例中27例)、全体で85% (62例中53例) という高頻度で検出された (Fig. 3A)。TP53を除く癌ドライバー遺伝子変異は全体で69% (62例中43例) で同定され、そのうち60% (62例中37例) の症例で変異が承認治療薬または試験中薬剤のターゲットと関連していた (例: BRCA変異へのPARP阻害薬)。RAS/PI3K経路変異は32% (62例中20例) で検出された。
SCLC特有のCNAプロファイルと縦断的動態: ゲノムワイドCNAプロファイルはSCLC特有のパターンを呈した (Fig. 2A): SOX2ゲインが69例中36例 (52%)、MYCゲインが69例中21例 (30%)、CNTN3欠失が69例中41例 (59%)、FHIT欠失が69例中40例 (58%)、RB1欠失が69例中24例 (35%) で認められた (Supplementary Tables 10, 11)。これらのCNAパターンは既報の組織ゲノムデータと高い一致率を示し、cfDNA WGSがSCLCのゲノム全体像を忠実に反映することが確認された。循環腫瘍細胞 (CTC) との比較 (n=48例) では、CTC陽性率が48例中37例 (77%) であったのに対し、cfDNA (CNA+変異統合) 陽性率は48例中46例 (96%) となり、cfDNAがCTCより19%高い検出率を示した (Fig. 3C)。これは、EpCAM陰性SCLC亜型や血中CTC数が閾値以下の症例でもcfDNAが陽性を維持しうることを示唆する。縦断的サンプル (n=6例) では、化学療法奏効例でctDNA (MI値・変異アレル頻度) が治療開始から数週間以内に急速に低下し、RECIST 1.1奏効と一致した (Fig. 5, Fig. 6)。6例中2例 (L21、E20) では、腫瘍進行時にctDNAが放射線学的評価に先行して上昇する動態が観察された (Fig. 6C, D)。特に患者E20では、TP53変異の検出が放射線学的進行の14.6週間前に確認された。
cfDNAリードアウトと臨床転帰の相関: CNA指標 (PGA、Z-score、MI) およびTP53 VAF、最高VAFは、ES-SCLCとLS-SCLC間で有意な差を示した (Supplementary Fig. 4A, C)。CTC数と同様に、cfDNAのCNAリードアウトもOSの予後予測因子として機能する可能性が示唆された (Fig. 4A)。単変量Cox回帰解析では、CNAリードアウト (p < 0.001)、TP53 VAF、最高VAF、CTC数、乳酸脱水素酵素 (LDH) が短い生存期間の有意な予測因子として同定された (Supplementary Tables 16, 17)。多変量解析においても、疾患ステージ、Z-score、およびサンプルあたりの変異数が有意な関連を示した。
考察/結論
本研究の最大の意義は、SCLCのcfDNAプロファイリングにおいて浅層全ゲノムシーケンス (CNA解析) と110遺伝子標的パネルシーケンス (変異解析) の相補的利用を系統的に実証した点にある。CNA単独の検出率 (ES-SCLC 93%・LS-SCLC 77%) が標的変異の追加でES-SCLC 100%・LS-SCLC 94%へと向上することは、いずれか単一手法だけでは検出に限界があり、2手法の統合が液体生検の臨床実装において重要であることを示している。これは、ctDNAの検出感度を最大化するための実用的なアプローチとして、これまでのSCLCにおけるctDNA研究では十分に検討されてこなかった点であり、新規性が高い。
Moran’s I (MI) が既存のPGA・Z-scoreを上回る感度 (腫瘍画分5%検出 vs 10%) を示したことは、SCLC cfDNA解析における新たな標準CNA指標としての位置づけを支持する。SCLC特有の連続した染色体アーム変異という生物学的特性がMIの空間的自己相関算出との相性を生み、感度向上をもたらした点は方法論的に重要な知見である。このMIの優位性は、これまでのCNA解析手法と異なり、低腫瘍画分でも高感度でSCLCのゲノム変化を捉えることを可能にする。
DNA損傷修復 (DDR) 関連遺伝子変異が85%という高頻度で血漿から検出されたことは、治療適応の観点で特に注目に値する。SCLCは白金製剤に高い初期感度を示すが、治療耐性後の選択肢が乏しい。DDR変異 (BRCA1/2、ATMなど) はPARP阻害薬やATR阻害薬の感受性予測因子として機能する可能性があり、本研究の結果は将来の組み合わせ治療試験での液体生検によるバイオマーカー同定の臨床応用の実現可能性を示す。さらに、TP53を除く癌ドライバー変異の60%が何らかの治療と関連していたことは、組織生検が困難なSCLCにおいてcfDNA液体生検が治療選択の情報源として実用的であることを支持する。これは、患者層別化や個別化医療の推進に大きく貢献する臨床的意義を持つ。
先行研究との比較では、Carter et al. NatMed 2017がCTC由来DNAのCNA解析でSCLC subtype分類の実現可能性を示したが、本研究はcfDNAを主体とした多数例での包括的な変異+CNA統合解析という点で前進している。また、Almodovar et al. JThoracOncol 2018やNong et al. NatCommun 2018が示した縦断的ctDNA監視の有用性は、本研究の6例の縦断データでも再確認されたが、より大規模なコホートでの再現が必要である。
残された課題として、(1) 白金製剤耐性獲得時のSCLC特有変異 (MYC増幅、PIK3CA変異、DLL3発現変化など) の縦断的追跡を体系化した研究、(2) Moran’s Iを標準治療 (SOC) として組み込んだ標準化SCLCリキッドバイオプシープロトコールの確立、(3) LS-SCLCに対する根治的放射線療法後の微小残存病変 (MRD) モニタリングへの応用、(4) アテゾリズマブ (atezolizumab) 等の免疫チェックポイント阻害薬の効果予測におけるctDNAバイオマーカーとしての位置づけ検証、が挙げられる。特に、Horn et al. NEnglJMed 2018で示された免疫療法の有効性を考慮すると、ctDNAによる治療効果予測バイオマーカーの探索は今後の重要な研究課題である。本研究はSCLC液体生検の臨床応用に向けた重要なプラットフォーム的研究として位置づけられる。
方法
研究デザインと患者コホート: 本研究は、The Christie NHS Foundation Trust (Manchester) で前向きに招集されたSCLC患者69例 (限局型SCLC [LS-SCLC] 39例、進展型SCLC [ES-SCLC] 30例) と、非癌コントロール (NCC) 32例を対象とした。患者の血液サンプルは診断時 (治療前) に全例から採取され、一部の症例 (6例) では治療経過中に縦断的なサンプル採取が実施された。患者コホートの臨床的特徴は、LS-SCLCの中央値OSが524日、ES-SCLCの中央値OSが212日であった。倫理的承認は、The Christie Hospital National Health Service Trustの内部審査委員会および倫理委員会 (REC承認番号: 07/H1014/96および07/H1008/229) から取得され、全ての患者からインフォームドコンセントを得た。
cfDNA抽出と浅層WGS: 血漿cfDNAはQIAmp Circulating Nucleic Acid Kit (Qiagen) を用いて抽出された。抽出されたcfDNAは、Accell-NGS 2S DNA Library Kits (Swift Biosciences) を用いて全ゲノムライブラリが作製された。その後、約4×カバレッジの浅層全ゲノムシーケンス (WGS) をIllumina MiSeqシーケンサーで実施した。CNA解析にはHMMCopyを使用し、3種類のCNA指標―(a) Percentage of Genome Altered (PGA: ゲノム中で定義的閾値を超えてコピー数変化を示した領域の割合)、(b) Z-score (染色体アームまたはビン単位のコピー数偏差の標準化スコア)、(c) Moran’s I (MI: 空間的自己相関指標であり、隣接するゲノム領域のコピー数が連続的に変化する程度を測定)―を算出した。これらの指標は、NCCサンプルを用いて閾値が設定され、各指標の感度と特異性はROC解析により比較された。腫瘍画分 (TF) の推定にはichorCNAソフトウェアが使用された。cfDNAの断片長分布解析も行われ、ctDNAがNCCのcfDNAよりも短いという先行研究の知見に基づき、断片長による選択がCNA検出感度向上に寄与するかを評価した。
CNAコントロール核DNAの調製: SCLC細胞株H446および末梢血単核細胞 (PBMC) を用いて、核DNAの断片化を行った。H446 DNAを100%、20%、10%、5%、1%、0%の濃度でPBMC DNAを背景として連続希釈サンプルを調製した。各希釈サンプルは、患者サンプルで見られるcfDNA入力の範囲を近似するため、20 ngおよび5 ngの入力で全ゲノム次世代シーケンス (NGS) に供された。全てのNGSサンプルは低深度でシーケンスされ、CNAを評価した。
110遺伝子標的パネルシーケンス: SCLC関連遺伝子 (TP53、RB1、PIK3CA、KRAS、BRAF、MYCファミリー遺伝子、およびDNA損傷修復 [DDR] 関連遺伝子: BRCA1/2、ATM、CHEK2など) を含む110遺伝子のカスタムパネルが設計された (Supplementary Table 1)。全ゲノムライブラリから作製されたcfDNAおよび対応する生殖細胞系列DNAに対し、Agilent SureSelectXTキットを用いたターゲットエンリッチメント後、Illumina NextSeq 500シーケンサーで深部シーケンスを施行した。体細胞変異の同定にはMuTectおよびBiomedical Genomics Workbench (BGW) の2つの独立したパイプラインが使用され、両方で検出された変異を高信頼性変異とした。白血球DNAとの対比により生殖細胞系列変異を除外し、クローン性造血由来の変異を除外するため、cfDNAのバリアントアレル頻度 (VAF) が対応する生殖細胞系列DNAのVAFの3倍以上である変異のみを採用した。
循環腫瘍細胞 (CTC) との比較: 利用可能な48例の患者において、並行してEpCAMベースのCellSearchシステムを用いたCTC単離と計数を実施した。cfDNA解析 (CNAおよび標的変異の統合) とCTC計数によるctDNA検出率を比較し、両手法の相補性を評価した。
統計解析: 生存解析にはCox回帰モデルが用いられ、連続変数は最適なカットポイントを選択するためにmaximally selected rank statisticでカテゴリ化された。多変量モデルの予測因子選択にはelastic net penalized regressionが使用された。疾患ステージと変異プロファイル、CTC数、CNA指標、VAFsとの関連はWilcoxon rank sum testで評価された。cfDNA定量値、断片長、CNA指標、VAFs、CTC数間の関連はSpearman’s rho解析で評価された。臨床変数とcfDNA解析結果の関連はFisher’s exact testで比較された。検出された体細胞変異の臨床的意義は、オンラインプラットフォームCancer Genome Interpreter (CGI) を用いて評価された。