- 著者: Tao Shi, Wei Liu, Yuting Luo, Kaijie Liang, et al.
- Corresponding author: Taha Merghoub (Weill Cornell Medicine), Yan Li (Nanjing University), Jia Wei (Nanjing University)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-07-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 40780215
背景
骨転移は肺癌、乳癌、前立腺癌において40〜90%と高頻度に発生し、胃癌においても増加傾向にあり、予後不良かつ治癒困難な病態である。免疫チェックポイント阻害 (ICB) 療法は多くの原発腫瘍において画期的な治療効果を示しているが、骨転移においては前臨床および大規模臨床研究のいずれにおいても奏効率が極めて低いことが報告されている。実際に、Drum Tower Hospital Cohortの胃癌骨転移患者における抗PD-1療法の奏効率は、他臓器転移患者と比較して著しく低く (進行性疾患 (PD) 率 69.6% vs 23.3%)、全生存期間も有意に短かった (中央値 24.2ヶ月 vs 46.2ヶ月、p=0.0227)。このICB抵抗性は、骨転移微小環境における複雑な免疫抑制メカニズムに起因すると考えられているが、その詳細な生物学的メカニズムは未解明な点が多い。特に、骨髄に豊富に存在する好中球の成熟度と機能が骨転移の免疫抑制にどのように関与しているかは、これまで十分に解明されていなかった。
近年、好中球は腫瘍微小環境 (TME) において多様な機能を持つことが明らかになり、N1/N2分類を超えた異質性が認識されている。腫瘍関連好中球 (TANs) は、T細胞機能の抑制や腫瘍細胞増殖の促進など、多様な様式で腫瘍促進的に作用することが報告されているが、一方で、誘導型一酸化窒素合成酵素 (iNOS) やインターフェロン刺激遺伝子発現を介して腫瘍殺傷能力を持つ場合もあり、T細胞ベースの免疫療法の最適な応答に不可欠な役割を果たすことも示されている (Hirschhorn et al. 2023; Gungabeesoon et al. 2023; Benguigui et al. 2024)。また、原発癌や肺転移、脳転移といった他の転移部位における好中球の役割に関する研究は進んでいるものの (Maas et al. 2023; Gong et al. 2023)、骨髄に豊富に存在するにもかかわらず、骨転移における好中球の多面的な役割は依然として不明な点が多かった。
好中球の分類は長らく形態学的または組織学的染色に基づいて行われてきたが、近年、単一細胞解像度でのマルチオミクスシーケンスの利用により、顆粒球-単球前駆細胞から機能的に成熟した好中球への発達経路に関する理解が深まっている。Dinh et al. (2020) はヒト骨髄好中球の発生をN1-N5段階に分類し、Xie et al. NatImmunol 2020 はマウス好中球をG1-G5クラスターに分類し、N2-N3またはG2-G3段階を未熟好中球と見なしている。これらのオミクス研究で同定された循環性または腫瘍常在性未熟好中球は、癌の進行と関連することが示されているが、TANsの機能における発達段階の影響はこれまでほとんど無視されてきた。骨転移におけるICB抵抗性の克服には、この免疫抑制的な微小環境、特に好中球の成熟状態と機能の関係を詳細に理解することが不可欠であった。この分野には依然として知識のギャップが残されており、新たな治療戦略の開発には好中球の成熟と機能に関する詳細な研究が不足していた。
目的
本研究の目的は、骨転移微小環境における好中球の成熟状態を定量的に解明し、未熟好中球が免疫チェックポイント阻害 (ICB) 療法への抵抗性を引き起こす分子メカニズムを同定することである。さらに、好中球の成熟を回復させることが、骨転移の腫瘍制御およびICB療法の効果改善につながるかを、複数の癌種およびマウスモデルを用いて検証することを目指した。具体的には、骨転移における未熟好中球の優位性を確立し、その未熟化を誘導する因子を特定し、その因子が介するシグナル経路を解明することで、未熟好中球によるT細胞抑制機能のメカニズムを明らかにすることを目的とした。最終的に、この経路を標的とすることで、骨転移の治療効果を向上させる新たな治療戦略を開発することを目指した。
結果
骨転移微小環境における未熟好中球の優位と経時変化: TNBC骨転移マウスモデルの骨髄において、好中球 (Ly6G+CD11b+) は最大の免疫細胞集団を占め、day 14では全免疫細胞の約60%を構成した。そのうち約80%が未熟好中球 (Ly6G+CD101-) であった (day 0→7→14で段階的に増加、各n=3 mice、p<0.001)。この未熟化は胃癌、NSCLC、TNBCの骨転移モデルで共通しており、さらに原発腫瘍や肺転移と比較して骨転移で最も顕著であった。ヒト胃癌骨転移患者 (n=3 patients) の骨髄サンプルでも、健常ドナー (n=2 donors) と比較して未熟好中球 (CD66b+CD11b+CD49d-CD10-) の増加が確認された。抗mPD-1療法は骨転移の腫瘍制御に無効であり (全3モデル)、好中球組成も変化しなかった (Figure 1A-L)。in vivo好中球トレーシング実験により、成熟好中球 (Ly6G+CD101+) が未熟様状態 (Ly6G+CD101-) へと変換されることが、骨腫瘍微小環境における未熟好中球の増加に寄与することが示唆された (Figure S2)。
DKK1による好中球未熟化の誘導機序: 骨転移能の高いMDA-MB-231誘導体の質量分析分泌物解析で、DKK1が最も上位にランクされた (Figure 2A)。乳癌患者のGEOデータセット (GSE14018: n=36 patients、GSE14020: n=65 patients) では、DKK1 mRNAは骨転移部位で他の転移部位よりも高かった (Figure 2B)。Drum Tower Hospitalの胃癌患者血清DKK1濃度は、骨転移群で最高値を示した (健常n=25 patients、非転移GCn=21 patients、非骨転移IV期n=20 patients、骨転移n=22 patientsの4群比較、p<0.001) (Figure 2C)。DKK1血清高値はICB治療後のPD例で高く (PD群 vs PR/SD群、p<0.05)、高DKK1はbone metastasis-free survivalの有意な短縮と相関した (n=80 IHC、n=22 serum samples) (Figure 2D-E)。In vitroでDKK1 (100 ng/mL、16時間処置) は成熟好中球 (Ly6G+CD101+) のCD101発現を有意に低下させ (n=5 independent replicates/group、p<0.001)、ex vivo生存期間を延長した (Figure 2H-I)。
DKK1-CKAP4-STAT6-CHI3L3シグナル経路の同定: DKK1で処置した成熟好中球のバルクRNAシーケンスとKEGG解析で、PI3K-AKTシグナルが最も上位にランクされた (Figure 2J)。ウェスタンブロット解析で、DKK1 (50 ng/mL) は細胞膜CKAP4の減少、p-P85およびp-AKTの増加を誘導した (Figure 2K)。骨転移TNBCのscRNA-seqでは、Ckap4はほぼ全ての好中球に発現していたが、LRP5/LRP6は発現していなかった (Figure 2L)。CKAP4抗体 (3F11-2B10) とPI3Kγインヒビター (IPI-549) は、いずれもDKK1誘導のCD101低下を有意に回復させた (n=5 independent replicates/group、p<0.001) (Figure 2M)。scRNA-seqおよびCHI3L3ノックアウト実験により、CHI3L3がCD8+ T細胞抑制に必須であることが確認され、Chil3 KO未熟好中球との共培養ではT細胞のIFN-γ産生およびCD25/CD69/CD107a発現が有意に回復した (Figure 6N-Q)。また、DKK1は好中球におけるp-STAT6発現を増強し、STAT6阻害剤AS1517499はDKK1誘導のCHI3L3発現を有意に減少させた (Figure S10A-B)。
DKK1誘導未熟好中球のT細胞抑制機能: 骨転移病変由来の好中球 (主に未熟型) とCD8+ T細胞を1:1で48時間共培養すると、CD25+、CD69+、CD107a+発現が有意に低下し (p<0.001)、IFN-γ分泌が著減し (対照群比 約400 pg/mL→約100 pg/mL)、腫瘍細胞への細胞傷害活性も有意に抑制された (Figure S5D-G)。DKK1処置により成熟好中球も同様の免疫抑制機能を獲得し、IPI-549または3F11-2B10で有意に回復した (n=3〜5 independent replicates) (Figure 3B-D)。バルクRNAシーケンスのDEGおよびGO解析では、DKK1刺激好中球において、自然免疫活性化を負に制御する複数の経路が上方制御され、骨髄細胞活性化および分化を反映する経路が下方制御された (Figure 3E-F)。
DKK1阻害による骨転移制御とICB増感: mDKN-01 (10 mg/kg、i.p.×8回) はTNBC骨転移マウス (n=5〜8 mice/group) で腫瘍縮小を誘導した (H&E、MRI、micro-CT定量) (Figure 4B-C)。骨破壊パラメータ (BV/TV、Conn.D、Tb.N、Tb.Th、Tb.Sp) の全てで有意な骨損失の抑制が確認され、全生存も改善した (Figure 4D-J)。mDKN-01は成熟好中球割合を増加させ (CD101+比率上昇)、同時にCD8+ T細胞、NK細胞、炎症性マクロファージ (CD80+/CD86+/iNOS+) が増加し、抗炎症性マクロファージ (CD163+/CD206+/Arg1+) が減少した (Figure 5C-F)。好中球除去 (anti-Ly6G) によりmDKN-01の抗腫瘍効果および免疫改善効果は消失し、好中球依存的メカニズムが確認された (Figure 5I-K)。抗PD-1との併用は、TNBC、胃癌、NSCLC骨転移モデル全てで単剤より有意に優れた腫瘍制御と生存延長を達成した。特に、DKK1とPD-1の二重阻害は、骨転移病変をほぼ完全に排除し、2/3 miceで完全奏効 (CR) が観察された (Figure 8C-D)。HISマウスモデルでもmDKN-01+pembrolizumab併用の有効性が確認された (Figure S12I-J)。
考察/結論
本研究は、骨転移という免疫療法不応の難治性病態において、未熟好中球の優位性と、DKK1-CKAP4-PI3K/AKT-STAT6-CHI3L3経路という免疫チェックポイント阻害 (ICB) 抵抗性の新たな分子メカニズムを初めて包括的に解明した。骨転移微小環境では、好中球が全免疫細胞の最大60%を占め、そのうち約80%が未熟型であるという劇的な組成変化は、骨髄が骨転移細胞に汚染される際の免疫崩壊の核心的機序を示す。
先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍関連好中球 (TANs) の機能的多様性がTGF-βなどのサイトカインによって規定されることが示されてきたが、本研究は好中球の成熟段階 (CD101発現) そのものが免疫抑制機能を決定することを示した点で新規性が高い。Xie et al. NatImmunol 2020 や Sagiv et al. CellRep 2015 は未熟好中球の存在を報告しているが、骨転移特異的な微小環境におけるその機能的役割と分子メカニズムを詳細に解明した点は本研究の重要な貢献である。また、Coffelt et al. Nature 2015 は乳癌肺転移における好中球の役割を示したが、本研究は骨転移に焦点を当て、その特異的な免疫抑制メカニズムを明らかにした点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、骨転移微小環境におけるDKK1の異常な高発現が、CKAP4-PI3K/AKT-STAT6経路を介して好中球の未熟化とCHI3L3の発現を誘導し、CD8+ T細胞の抗腫瘍応答を抑制するというメカニズムを新規に同定した。このDKK1-CKAP4-STAT6-CHI3L3経路は、骨転移におけるICB抵抗性の主要なドライバーであり、これまで報告されていない好中球成熟制御の新たな経路である。CHI3L3が未熟好中球の免疫抑制機能に必須であることも、Chil3ノックアウトマウスを用いた実験で明確に示された。
臨床応用: 骨転移胃癌患者における抗PD-1療法後のPD率の高さ (69.6%) と、中央生存期間の短縮 (24.2ヶ月 vs 46.2ヶ月、p=0.0227) というデータは、骨転移のICB耐性の臨床的重要性を定量的に示す。DKK1高値群では血清中の濃度上昇とbone metastasis-free survivalの短縮が相関し (n=22血清コホート)、DKK1が骨転移のバイオマーカーとして有用である可能性を示唆する。DKK1中和抗体 (DKN-01) はすでに第I/II相臨床試験が進行中であり、本研究の知見は、骨転移に対するICB療法との組み合わせへの直接的な臨床展開を強く支持する。ヒト骨転移検体でのCHI3L1 (ヒトオーソログ) 高発現および未熟好中球集積の確認は、高いtranslational relevanceを示す。複数癌種 (TNBC、胃癌、NSCLC) および複数モデル (同系マウス、HISマウス) での一貫した結果は、汎癌種的な適用可能性を支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、CHI3L3がCD8+ T細胞を抑制する下流の分子機序 (特定の受容体やT細胞シグナル経路) の完全な解明が必要である。また、骨転移以外の臓器転移におけるDKK1-CHI3L3経路の役割や、DKN-01とICB併用の最適投与スケジュールおよび用量の臨床最適化も重要な課題である。本研究は、骨転移特異的な免疫抑制微小環境の構造を系統的に明らかにし、好中球成熟度を軸とした新たな治療戦略の開発に向けた重要な概念的基盤を提供する。特に、DKK1血清値と未熟好中球の割合が臨床バイオマーカーとして有用である可能性は、今後の前向き検証研究の優先課題となる。
方法
胃癌 (MFC)、非小細胞肺癌 (LLC)、トリプルネガティブ乳癌 (TNBC) のマウス同系骨転移モデルを、尾動脈内接種 (intra-caudal artery: i.a.) により樹立した。これらのモデルマウス (例: BALB/c mice, C57BL/6J mice) には、抗mPD-1抗体 (10 mg/kg、週2回、3週間で計7回) を腹腔内投与 (i.p.) で治療した。好中球の成熟度は、マウスではLy6G/CD101マーカー、ヒトではCD66b/CD11b/CD49d/CD10マーカーを用いて評価した。骨転移病変の免疫プロファイルは、CyTOFおよびフローサイトメトリーによる多次元解析で詳細に分析した。
DKK1の機能解析のため、recombinant DKK1タンパク質処置 (100 ng/mL)、pLIVE-DKK1のハイドロダイナミック静脈内注射 (hydrodynamic injection)、DKK1中和抗体であるmDKN-01、PI3KγインヒビターであるIPI-549 (1 μM)、およびCKAP4モノクローナル抗体である3F11-2B10 (10 μg/mL) を使用した。骨転移TNBC検体の単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) を実施し、Ckap4の発現を確認した。CHI3L3 (マウスYKL-40オーソログ) のT細胞抑制への必須性を検証するため、Chil3ノックアウトマウス (Chil3 fl/fl S100a8 cre mice) を作製し、好中球特異的にChil3遺伝子を欠損させた。
ヒト化検証として、ヒト免疫系 (HIS) マウスモデルを構築し、ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231を尾動脈内接種した。このモデルでヒトDKK1モノクローナル抗体 (hDKN-01) とpembrolizumab (抗PD-1抗体) の組み合わせ効果を評価した。好中球の成熟度変化を追跡するため、in vivo好中球トレーシング実験も実施した。DKK1処置後の成熟好中球のバルクRNAシーケンス (bulk RNA-seq) を行い、KEGG解析でシグナル経路を同定した。DKK1-CKAP4-PI3K/AKT-STAT6経路の活性化は、ウェスタンブロット解析により確認した。好中球とCD8+ T細胞の共培養実験を行い、T細胞の活性化 (CD25, CD69, CD107a発現) およびIFN-γ産生、腫瘍細胞殺傷能を評価した。骨転移におけるDKK1阻害の治療効果は、肉眼的観察、ヘマトキシリン・エオジン (H&E) 染色、マイクロMRI、マイクロCTスキャンにより腫瘍量と骨破壊の定量評価を行った。好中球除去実験 (抗Ly6G抗体投与) により、DKK1阻害の抗腫瘍効果における好中球依存性を検証した。STAT6阻害剤AS1517499およびChil3 shRNAレンチウイルスを用いて、DKK1-STAT6-CHI3L3シグナル経路のin vivoでの影響を評価した。統計解析には、Mann-Whitney U検定、ログランク検定を用いた。