- 著者: Katey S.S. Enfield, Emma Colliver, Claudia Lee, Alastair Magness, David A. Moore, Monica Sivakumar, Kristiana Grigoriadis, Oriol Pich, Takahiro Karasaki, Philip S. Hobson, Dina Levi, Selvaraju Veeriah, Clare Puttick, Emma L. Nye, Mary Green, Krijn K. Dijkstra, Masako Shimato, Ayse U. Akarca, Teresa Marafioti, Roberto Salgado, Allan Hackshaw, TRACERx consortium, Mariam Jamal-Hanjani, Febe van Maldegem, Nicholas McGranahan, Benjamin Glass, Hanna Pulaski, Eric Walk, James L. Reading, Sergio A. Quezada, Crispin T. Hiley, Julian Downward, Erik Sahai, Charles Swanton, Mihaela Angelova
- Corresponding author: Charles Swanton; Mihaela Angelova; Erik Sahai (The Francis Crick Institute, London, UK)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2024
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 38581685
背景
肺がんにおける腫瘍微小環境 (TME) の空間的構造は、免疫回避メカニズムや患者予後に深く関与することが示唆されている。高次元空間情報とゲノム・転写情報の統合解析はこれまで限られていた。先行研究では、免疫浸潤のトランスクリプトミクスシグネチャーが免疫逃避機構 (HLA LOHなど) と関連することが示されたが、物理的な免疫バリア、細胞間相互作用、腫瘍進化との空間的関連を直接解析する研究はほとんどなかった。例えば、Rizvi et al. Science 2015やMcGranahan et al. Science 2016は、ネオアンチゲンと免疫応答の関連を示したが、TMEの空間的詳細については言及が不足していた。また、Thorsson et al. Immunity 2018による汎がん解析では、好中球高浸潤が最も予後不良な白血球集団と同定されているにもかかわらず、非小細胞肺がん (NSCLC) における腫瘍関連好中球 (TAN) の空間組織、ゲノム関連、転移との因果関係は未解明であった。特に、TMEの空間的異質性が臨床応用におけるサンプリングバイアスを克服するための重要な課題であるにもかかわらず、その評価が不足している点が知識ギャップとして残されていた。さらに、Gentles et al. NatMed 2015は、様々な癌種における免疫細胞浸潤の予後への影響を報告しているが、NSCLCにおけるTMEの空間的組織と腫瘍進化との詳細な関連については未開拓であった。本研究は、これらの課題に対処するため、高次元イメージング質量サイトメトリー (IMC) を用いてTMEの空間的組織を詳細に解析し、ゲノム情報と統合することで、NSCLCにおける免疫回避と腫瘍進化のメカニズムを包括的に理解することを目的とした。
目的
TRACERx 100コホートにおいてimaging mass cytometry (IMC) を用いた多領域空間プロファイリングを実施し、組織型横断的なTMEアーキタイプを同定するとともに、TME空間構造とゲノム変異、腫瘍内不均一性 (ITH)、腫瘍進化、臨床アウトカムの関連を包括的に解明すること。特に、好中球高浸潤TMEの分子・代謝特性、PIK3CA変異との関連、および転移・予後への影響を詳細に解析し、新たな治療標的およびバイオマーカーの特定に貢献することを目的とした。また、TMEの空間的異質性を評価し、臨床応用におけるサンプリングバイアスを克服するための知見を提供することも重要な目的であった。
結果
4つのTMEアーキタイプの同定: 非教師あり解析により、LUADとLUSCに共通する4つのTMEアーキタイプが同定された (Fig 2)。 (1) TS:TIL+MΦhigh (28%のコア): T細胞とマクロファージ双方が腫瘍巣・間質に高密度浸潤する「免疫炎症型」であった。LUADでは、クローナルネオアンチゲン量とC6:macrophages and T cellsコミュニティが正相関した (LME p=0.04)。このコミュニティは、細胞傷害性CD8 T細胞やCD8 T常在記憶細胞を含む複数のCD4およびCD8 T細胞集団の密度増加を特徴とした。 (2) T:TIL+MΦexcluded (24%): リンパ球・マクロファージが間質に存在するも腫瘍巣への浸潤が乏しい「免疫排除型」であった。LUSCでは、形質細胞・B細胞コミュニティ (C9) がクローナルネオアンチゲン量と相関した (LME p<0.03)。 (3) TS:Immune low (17%): T細胞・マクロファージ浸潤が全体的に低く、低TMBおよびPD-L1 <1%と関連した。αSMA+線維芽細胞バリアースコアが他のTMEより有意に高く (LME p=0.02-0.04)、CD8 T細胞と腫瘍細胞の物理的接触を遮断することが示唆された (Fig 3)。 (4) TS:Neutrophil high (19%): リンパ球浸潤が乏しく好中球が優位に浸潤した。このTMEはLUSCコアに多く、好中球のCD8 T細胞回避関係が確認された。TS:Neutrophil high TMEは、同一腫瘍の複数コアでTMEクラスが一致する確率が0.5と最も高く、空間的均一性が高いことが示された。
TS:Neutrophil high TMEの分子・代謝特性: LUSCにおいて、TS:Neutrophil high TMEではGSEA解析によりEMT、低酸素、KRAS/PKBシグナル、創傷治癒、骨髄球遊走に関連する遺伝子セットの顕著な濃縮が確認された (FDR<0.01)。好中球浸潤高コアではMCT4+腫瘍細胞の割合が有意に増加し (LME p=0.002)、MCT4 (monocarboxylate transporter 4) とCAIXの間に強い相関 (ρ=0.88, p<2e-16) が認められた (Fig 4)。腫瘍細胞から血管内皮細胞までの距離がTS:Neutrophil high TMEで他のTMEより有意に長く (LME p<0.01)、腫瘍細胞の低酸素、低増殖 (Ki-67低値)、高乳酸代謝という代謝リプログラミングを反映していた。LUADのTS:Neutrophil high TMEでも腫瘍細胞から血管内皮細胞までの距離が長く (p=0.01)、壊死の頻度も高かった (36% vs 4.8-7.7%, p=0.01)。これらの結果は、TS:Neutrophil high TMEが免疫抑制的な環境であることを示唆している。
PIK3CA変異とCXCL8による好中球動員機序: TRACERx 100コホートでTS:Neutrophil high LUSCにおけるPIK3CAドライバー変異の頻度が他のTMEより有意に高く (p=0.04; 53% vs. 19%コア)、TRACERx 421コホートのH&E TAN-high腫瘍で検証された (p=0.03; 25% vs. 5%腫瘍)。PIK3CA変異コアは野生型より好中球密度が有意に高く (LME p=0.005)、CXCL8 (IL-8) 発現が増加していた (p=0.01)。CXCL8はTS:Neutrophil high TMEで最高発現し (p=0.004、1.4 log fold change)、好中球密度と正相関した (ρ=0.6, p=3.5e-5)。CXCL8 RNAscopeでは、腫瘍細胞 (panCK+) が主要な産生源であることが確認された (Fig 5)。TCGA LUSCデータセット (n=464 patients) でもPIK3CA変異とCXCL8高発現の関連が再現された (p=0.01)。
転移播種サブクローンと予後不良との関連: 転移播種サブクローンを持つ原発腫瘍では、転移・再発なしの患者と比較して好中球密度が有意に増加した (LUAD p=0.03、LUSC p=0.04、one-tailed)。TRACERx 421コホート (n=332 patients) の一変量DFS解析で、腫瘍レベルTAN-high群の中央値DFSは21ヶ月に対しTAN-low群は>70ヶ月 (p=1.7e-5) と顕著な差が認められた (Fig 6)。LUAD (HR=3.4, 95% CI 1.7-6.9, p=2e-5) およびLUSC (HR=2.13, 95% CI 1.2-3.8, p=0.01) それぞれの解析でも同様の結果であった。多変量解析でTANスコアはネクローシス、年齢、ステージを補正後も独立した予後因子であった (p<0.001)。また、TAN-high腫瘍領域は、TAN-low腫瘍領域と比較して、最近拡大したサブクローンを示すサブクローナル拡大スコアが有意に高かった (LUADおよびLUSCでp<0.04)。PIK3CA変異もLUSCにおいて高いサブクローナル拡大スコアと関連した (p=0.03)。これらの結果は、好中球高浸潤TMEが腫瘍進化のダイナミクス、特に転移や予後不良と関連していることを示唆している。
考察/結論
本研究はTRACERx多領域コホートにおいてIMCとゲノミクスを統合した最大規模の空間TME解析を実施し、NSCLCのTMEアーキタイプと腫瘍進化・臨床アウトカムの接点を明示した。
先行研究との違い: これまでの研究では、TMEの組成や空間的組織が免疫回避や予後に関与することが示唆されていたが、高次元空間情報とゲノム・転写情報を統合し、腫瘍進化の観点からTMEの役割を包括的に解析した研究は不足していた。本研究は、特に好中球高浸潤TMEが単なる炎症反応の傍観者ではなく、PIK3CA変異腫瘍細胞が産生するCXCL8を介して好中球を積極的に動員し、低酸素・代謝リプログラミング・EMT誘導という腫瘍促進的な微小環境を構築することを示した点で、これまでの知見と異なり、より詳細なメカニズムを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、早期NSCLCに4つのTMEアーキタイプを同定し、特にTS:Neutrophil high TMEがPIK3CA変異、最近拡大した転移播種サブクローン、およびステージ非依存的な予後不良(中央値DFS 21ヶ月 vs. >70ヶ月)と関連することを示した。好中球と転移の関連は複数の先行動物実験で示唆されていたが、本研究はヒト肺がんコホートでこれを初めて空間解析・クローナル進化解析の枠組みで直接実証した点で新規性が高い。また、TS:Neutrophil high TMEが最も空間的均一性が高いという知見は、このTMEが腫瘍増殖の早期から確立される安定した状態であることを示唆し、サンプリングバイアスを克服する上で重要な情報を提供する。
臨床応用: 本知見は、NSCLC患者の層別化と治療戦略の最適化に大きな臨床的意義を持つ。高TAN腫瘍は既存の免疫チェックポイント阻害剤 (CPI) への応答が低い可能性があり (PD-L1 <1%)、TANスコアやCXCL8・PIK3CA変異が患者層別化バイオマーカーになりうる。また、IL-8/CXCR2阻害剤やPIK3CA阻害剤との免疫療法の組み合わせが、好中球高浸潤TMEを持つ患者に対する新たな治療標的として示唆される。例えば、Forde et al. NEnglJMed 2022が示した術前補助療法における病理学的完全奏効の重要性を踏まえると、本研究で同定されたTMEアーキタイプは、術前補助療法の効果予測や個別化医療への貢献が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、好中球が転移播種を実際に引き起こすのか (causative) それとも単に転移しやすい腫瘍状態に随伴するのか (consequential) の因果関係の解明が残されている。また、他の癌腫での本知見の再現性検証、TS:Neutrophil high TMEに対する治療介入のさらなる開発、および術前補助療法や転移性疾患におけるCPI応答予測因子としてのTANスコアの評価が挙げられる。本研究のlimitationとして、TRACERx 100コホートが治療前早期NSCLCに限定されているため、進行期NSCLCや治療後のTME変化についてはさらなる研究が必要である。
方法
TRACERx 100コホート (治療前早期NSCLCの81例) の手術切除組織から198コア/2.3 million cellsをIMCで解析した。2種の抗体パネル (pan-immune: 38マーカー、T cells and stroma) によりtissue microarray (TMA) を染色した。深層学習支援細胞セグメンテーションと単細胞表現型同定を実施し、7大免疫細胞型、29免疫細胞サブタイプ、上皮・内皮・αSMA+細胞を特定した。非教師あり階層クラスタリングによりTMEアーキタイプを同定し、細胞コミュニティ解析 (10の空間コミュニティC0-C9) を行った。全エクソームシークエンス (WES) およびRNAシークエンス (RNA-seq) データとの統合解析を実施した。
TMEクラスの定義には、CD8 T細胞、CD4 T細胞、B細胞系統 (TIL)、CD163+CD206+マクロファージ、CD163-マクロファージ (MΦ)、好中球、骨髄系細胞-その他 (mDC、単球、その他のCD11b+細胞) の主要細胞型の腫瘍巣および間質における細胞密度を用いた。ConsensusClusterPlus Rパッケージ (v1.58) を用いて、1,000回のサブサンプリング反復で75%のサンプルを使用し、非教師あり階層クラスタリングを実施した。最適なクラスター数kは、コンセンサス値の累積分布関数 (CDF) および曲線下面積の差に基づいて4と決定された。各TMEクラスの定義基準は、二項一般化線形モデルとROCR Rパッケージのperformance関数を用いて決定された。
αSMA+線維芽細胞バリアースコアは、Failmezgerら (2020) の方法を改変し、各腫瘍コアの細胞空間グラフを構築して算出された。CD8 T細胞から腫瘍細胞への最短経路における腫瘍細胞隣接αSMA+線維芽細胞の介在度を測定した。最短経路探索にはPythonのcuGraphライブラリのbreadth-first searchアルゴリズムを用いた。
TRACERx 421コホート (332例) のH&E染色による腫瘍関連好中球 (TAN) スコアリングでIMC結果を検証した。H&E由来TANスコアとIMC好中球密度のSpearman相関 (ρ=0.5-0.6, p<2.5e-7) で両方法の一致を確認した。TANスコアのカットオフは、二項一般化線形モデルとROCR Rパッケージを用いてTS:Neutrophil high TMEクラスを他のTMEクラスから最もよく分離する値として決定された。
統計解析には、線形混合効果モデル (LME) を用いて患者をランダム効果として考慮し、多重比較補正にはBenjamini-Hochberg法を適用した。疾患特異的生存期間 (DFS) 解析には、カプラン・マイヤー曲線とログランク検定を用いた。多変量解析にはCox比例ハザードモデルを適用し、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。遺伝子発現解析にはlimma-voomモデルとtrimmed mean of M-values (TMM) 正規化を用いた。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) にはhallmark gene setsとGene Ontology (GO) biological processesを用いた。細胞セグメンテーションにはUNet++深層学習モデルを用いた。