- 著者: Anna Rita Redavid, Doriana Fruci, et al.
- Corresponding author: Doriana Fruci (IRCCS Bambino Gesù Children’s Hospital, Rome)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 42236118
背景
固形腫瘍の腫瘍微小環境 (TME) においてNK細胞は本来、MHC-I欠損腫瘍細胞やストレス誘導性リガンドを認識して直接細胞傷害性を発揮する第一線の自然免疫エフェクターである。しかし臨床現場では、NK細胞は腫瘍内で機能不全に陥ることが多く、現行の免疫チェックポイント阻害療法に対するNK細胞の貢献は限定的であることが示されている (Waldman et al. 2020; Guillerey et al. 2020)。腫瘍関連マクロファージ (TAM) はTMEの主要な免疫抑制細胞集団であり、M1/M2連続体の中でNK細胞の活性化と抑制の両方を制御する双方向的な調節因子として機能する。TAMは腫瘍の発生・進展・転移に多面的に関与し、特定のTAMサブセットの臨床転帰との相関が報告されている (Xu et al. 2025; Zhou et al. 2021)。しかし、TAMがNK細胞を抑制する分子機序の全容、特に新規TAM機能制御因子や空間的ニッチにおける制御機構については依然として未解明な点が多く、TAM-NK crosstalkを標的とした系統的な治療戦略の知識が著しく不足していた。本レビューはこの空白を埋めるために、TAMによるNK細胞制御の機序から臨床応用段階の治療戦略までを包括的に整理する。
目的
TAMによるNK細胞免疫抑制の分子基盤を整理し、TAM枯渇・TAM再プログラミング・NK細胞エンゲージャーを統合した次世代がん免疫療法戦略を系統的に概説する。
結果
TAMによるNK細胞活性化と抑制の分子基盤: M1型マクロファージはTLRアゴニスト刺激によりNKG2D (natural killer group 2D) リガンドを上方制御し、IL-1β・IFN-β・IL-15経路を介して休止NK細胞を直接プライミングしてその細胞傷害性を増強する (Mattiola 2015 J Immunol)。また、CD206+マクロファージがMHC-Iクラスの抗原提示を介してNK細胞の抗腫瘍活性を間接的に増強することも示されている (Modak 2022 JCI Insight)。一方TAMは多様な機序でNK細胞を抑制する。持続的なリガンド刺激とバランスの取れた活性化・抑制受容体の同時関与がNK細胞疲弊を誘導し (Myers 2022 JCI Insight; n=ヒトNK細胞in vitroモデル)、TAM上のPD-L1はNK細胞のPD-1経路を介した免疫応答を抑制する。GAS6 (growth arrest-specific 6)-AXL/MERTK (Mer proto-oncogene tyrosine kinase)軸はCbl-b E3ユビキチンリガーゼを活性化してNK細胞機能を下方制御し (Paolino 2014 Nature; Chirino 2020 Eur J Immunol)、GAS6遮断は膵がん転移モデルでNK細胞活性を増強する (Ireland 2020 Front Immunol)。さらに転移部位のTAMが分泌するTGF-β (transforming growth factor-beta) は膜結合型としてNK細胞と直接接触しNK細胞傷害性を抑制する (Brownlie 2021 J Immunother Cancer)。卵巣がん細胞が産生するSAA1 (serum amyloid A1) もTGF-β1分泌を誘導してM2分極とNK細胞抑制を引き起こす (Ma 2025 FASEB J)。この活性化-抑制の動的バランスが腫瘍における免疫応答の方向性を決定しており、各シグナル経路が治療的介入点となる (Fig 1)。
TAM枯渇と再プログラミング: CSF1R阻害・TLRアゴニストとMARCO遮断: TAM枯渇戦略として、CSF1R (colony stimulating factor 1 receptor) 阻害は腫瘍内のモノサイト/マクロファージを選択的に除去する。マウスモデルでCSF1R依存性骨髄球はNK細胞媒介性の転移制御に必須であることが示され (Beffinger 2018 JCI Insight)、抗CSF1R抗体によるTAM枯渇は免疫療法との相乗効果を発揮した (Ries 2014 Cancer Cell)。ただし小分子CSF1R阻害剤BLZ945のPhase 1試験 (進行固形腫瘍) では再発非間葉系グリオブラストーマで有効性が限定的であり、文脈依存性が示された (Alcazar 2024 Cancer Res)。TAM再プログラミング戦略では、TLR7/8アゴニストR848を生分解性ナノ粒子に搭載することでTAMのM1型再プログラミングが誘導され、NK細胞の抗体依存性細胞傷害 (ADCC) が増強された (Rodell 2018 Nat Biomed Eng)。TLR5アゴニスト + 抗PD-1はM1/M2シフトとCD8+T細胞プライミングを介して抗腫瘍効果を示した (Lee 2024 Cancer Immunol Immunother)。スカベンジャー受容体MARCO (macrophage receptor with collagenous structure) の遮断は卵巣がんモデルでTAM上のNKG2Dリガンドを上方制御し、NK細胞による直接的な腫瘍キリングを再活性化した (Eisinger 2020 PNAS; n=マウス卵巣がんモデル複数)。また脂質蓄積TAMは免疫抑制表現型を促進し (Wu 2019 EMBO Mol Med)、脂質代謝モジュレーションが有望なTAM再プログラミング標的として浮上している。これらの知見はTAM枯渇のみならず機能的再プログラミングがより持続的な免疫活性化をもたらすことを示す (Fig 2)。
新規TAM調節標的: TREM2・MS4A4A・ZEB2・ID3: TREM2 (triggering receptor expressed on myeloid cells 2) は免疫抑制性TAMのマスター転写調節因子として同定されており、肺がん (NSCLC) 患者でTREM2+マクロファージ高発現は抗PD-1免疫療法の不良転帰および低NK細胞浸潤と強く相関する (Park 2023 Nat Immunol; Zhang 2022 Cancer Immunol Immunother)。重要なのはTREM2の役割が腫瘍タイプによって異なることであり、肝細胞がんではTREM2が多因子的な保護機能を発揮する一方 (Esparza-Baquer 2021 Gut)、膵がんではTREM2欠失がIL-1β+マクロファージ増加と腫瘍進展を加速する (Yang 2025 Gastroenterology)。臨床試験として、抗TREM2抗体PY314のPhase 1a用量漸増試験 (n=28例) では安定病態が確認され、Phase 1b RCC試験 (n=17例、pembrolizumab併用) では安全性と薬力学的効果が報告された (Patnaik 2022 JCO; Beckermann 2024 Invest New Drugs) (Fig 3)。MS4A4A (membrane-spanning 4-domains subfamily A member 4A) は腫瘍関連マクロファージ上でDectin-1依存的NK細胞媒介性転移抵抗性を増強し (Mattiola 2019 Nat Immunol)、MS4A4A遮断はCD8+T細胞機能も回復させる (Li 2023 Gut)。ZEB2 (zinc finger E-box binding homeobox 2) はTAMプログラムのマスタースイッチとして機能し (Sheban 2025 Cancer Cell)、転写因子ID3はKupffer細胞に強力な抗腫瘍活性を付与して腫瘍増殖を抑制する (Deng 2024 Nature)。マクロファージ標的IL-12サイトカインはマクロファージ・T細胞・NK細胞の三者間シナジーを活性化する (von Locquenghien 2025 Cell)。
免疫チェックポイント阻害によるNK細胞活性化: Pyroptosis経路では、gasdermin Eのcaspase-3開裂による活性化が腫瘍細胞の免疫原性細胞死を誘導してNK細胞との協調的抗腫瘍免疫を促進する (Zhang 2020 Nature)。STING (stimulator of interferon genes) 経路のSUMO化阻害剤TAK-981 (subasumstat) は固形腫瘍のPhase 1試験 (Dudek 2021 J Immunother Cancer) で安全性が確認され、NK細胞とマクロファージを同時に活性化してrituximabとの相乗効果を示した (Nakamura 2022 Blood)。IDO1 (indoleamine 2,3-dioxygenase 1) はトリプトファン代謝物L-キヌレニンを産生してNKG2D活性化リガンド発現を下方制御しNK細胞機能を抑制するが、epacadostat + pembrolizumabのPhase 3 ECHO-301試験 (メラノーマ) はprimary endpointを達成できず単剤IDO阻害戦略の限界が示された (Long 2019 Lancet Oncol)。CD47-SIRPα軸では、抗CD47抗体magrolimabとrituximabの併用が再発/難治性DLBCL (diffuse large B-cell lymphoma) でORR 50%の奏効が報告され (Advani 2018 N Engl J Med)、NK細胞媒介性ADCCの増強が寄与していることが示された。magrolimab + cetuximabの固形腫瘍Phase 1b/2試験も実施中である (Eng 2025 Target Oncol)。HLA-E-NKG2A (natural killer group 2A) 経路では、monalizumab (抗NKG2A抗体) がT細胞とNK細胞の両方のチェックポイントを遮断し (André 2018 Cell)、Phase 1/2試験 (Patel 2024 J Immunother Cancer) で安全性と予備的有効性が確認された。腫瘍内NK細胞 + NKG2A中和抗体の局所共注射は協調的抗腫瘍応答を誘導した (Melero 2023 EMBO Mol Med)。LILRB1 (leukocyte immunoglobulin-like receptor B1) 遮断抗体BND-22も臨床開発段階にある (Fig 3)。
NK細胞エンゲージャー (BiKe/TriKE) と細胞療法戦略: 二重特異性NK細胞エンゲージャー BiKe (bispecific killer engager) および三重特異性TriKE (trispecific killer engager) は腫瘍標的抗体とNK細胞活性化シグナルを統合した革新的プラットフォームである。AFM24 (CD16A×EGFR二重特異性抗体) のfirst-in-human Phase 1試験 (El-Khoueiry 2025 Clin Cancer Res; EGFR陽性固形腫瘍) では用量依存的な安全性プロファイルと予備的有効性が確認された。AFM13 (CD30×CD16A二重特異性抗体)/AcimtamigのPhase 2試験 (Kim 2025 Clin Cancer Res; n=65例、CD30+再発/難治性末梢性T細胞リンパ腫) では奏効が報告され、サイトカイン活性化NK細胞との組み合わせでCAR-T様応答を示した (Kerbauy 2021 Clin Cancer Res)。マクロファージ標的IL-12/IL-15/IL-18の組み合わせを用いたTriKE構築は固形腫瘍NK細胞のin vivo機能を増強し、CB-NK細胞の展開を促進する。抗PD-1との組み合わせでは各単剤では得られない相乗的腫瘍制御が期待される。これらのエンゲージャー戦略はTAM媒介性NK抑制を迂回しながら腫瘍標的化NK細胞傷害性を直接誘導するため、TAM再プログラミング戦略との組み合わせが今後の重要な研究方向性となる (Fig 4)。
TAM・NK細胞の空間的組織化と腫瘍内ニッチ: 最先端のscRNA-seq、IMC、空間トランスクリプトーム解析により、TAMとNK細胞は腫瘍内で特定の微解剖学的ニッチを形成しその相互作用は空間的に制御されることが明らかになった (Enfield et al. CancerDiscov 2024; Ghosh et al. NatImmunol 2026)。血管周囲ニッチでは内皮転写輸送を介したCCL19/CCL21提示によりCCR7+NK/T細胞が選択的に動員され、CXCL9/CXCL10/CCL5/IL-12/IL-15/TGF-βのシグナルバランスがNK細胞の細胞傷害性または抑制のどちらに機能分化するかを決定する。腫瘍浸潤辺縁部では胆嚢がんでCXCL9シグナルがNK・T細胞の高密度免疫領域への蓄積を促進するが、腫瘍コアではガレクチン-4がT細胞疲弊を誘導する空間的免疫活性-機能不全移行が観察される。腫瘍コアの低酸素/壊死近傍ニッチではアルギナーゼ活性・アデノシン産生・脂質代謝を特徴とするTAMが免疫抑制環境を形成してNK細胞機能を制限する。肺がんでは扁平上皮癌でNK細胞-TAM間のCD96-nectin相互作用が、腺癌ではNK細胞のTIGIT/TIM-3高発現と活性化リガンドへの空間的近接性の欠如が観察される (空間トランスクリプトーム解析)。グリオブラストーマではIDH野生型腫瘍で未成熟CD16-NKサブセット増加と末梢モノサイト由来TAM増加によるNK細胞浸潤低下が認められ、マクロファージの発達起源と空間分布がNK細胞媒介抗腫瘍免疫の抑制に収束することが示された (Fig 5)。
考察/結論
① 先行研究との違い: 従来の研究はTAMとNK細胞の関係を単一の活性化または抑制の二元論的枠組みで捉えがちであったが、本レビューはこれまでとは異なり、TAMによるNK細胞制御を文脈依存的・空間的・系統的に多層的に解析する必要性を強調する。TREM2のように腫瘍タイプによって機能が全く逆転するケース (肺がんでは抑制的、肝細胞がんでは保護的、膵がんでは除去が有害) はこれまでの一元的なTAM標的戦略が過度に単純化されていたことを示す (Kloosterman et al. Cell 2023)。
② 新規性: 本レビューで初めて包括的に整理された新規なTAM-NK crosstalk制御標的として、TREM2・MS4A4A・ZEB2・ID3・GAS6-AXL/MERTK軸が挙げられる。特にZEB2のTAMマスタースイッチとしての役割、ID3のKupffer細胞特異的抗腫瘍機能、そしてNAMPT媒介シグナルを介したNK細胞-マクロファージの相互活性化ニッチ形成は、これまでにない新規な分子標的群として治療戦略に組み込まれうる。BiKe/TriKEプラットフォームとTAM再プログラミングの組み合わせという統合的アプローチは本領域での新規な治療コンセプトである。
③ 臨床応用: TAM-NK細胞crosstalk制御は直接的な臨床応用への道筋が開けつつある。抗TREM2抗体PY314のPhase 1a/1b (n=28、n=17) は安全性を示し、Acimtamig (AFM13) Phase 2 (n=65) では奏効が確認された。臨床に向けたTAM再プログラミング (TLRアゴニスト・MARCO遮断) とNK細胞エンゲージャーの組み合わせは、T細胞免疫療法が無効なコールドな腫瘍においても有効な免疫活性化をもたらす可能性がある。空間的解析技術の臨床的活用により、NK-TAMインタラクションハブの解剖学的位置を biomarker として治療選択に活かす「精密免疫療法」への橋渡しが期待される。
④ 残された課題: 今後の研究課題として、TAMの系統的起源 (胚性組織常在性マクロファージ vs. 単球由来TAM) による機能的差異の詳細なマッピング、および空間的ニッチがNK細胞機能に与える影響の定量的評価が求められる。TREM2を含む新規標的の腫瘍タイプ特異的な有効性プロファイルを確立する臨床試験デザインも今後の課題である。さらに、TAM-NK crosstalkへの治療介入がTMEの他の細胞成分 (CAF、腫瘍細胞自体) を介した間接効果と直接効果を区別するための縦断的免疫プロファイリングが不可欠であり、combination immunotherapyの最適な配列と用量設定の確立も残された課題として重要である (Mestrallet et al. CellRepMed 2026; Aires-Lopes et al. ImmunolCellBiol 2026)。
方法
本論文はJITC誌掲載のcommissioned peer-reviewed narrative reviewである。文献検索はPubMed/MEDLINEデータベースを用いて実施し、「tumor-associated macrophages」「natural killer cells」「cancer immunotherapy」「TAM-NK crosstalk」「NK cell immunosuppression」「macrophage reprogramming」「bispecific killer engager」等のキーワードを組み合わせ、2010年から2026年に発表された英語論文を対象とした。選択基準として、ヒトおよびマウス腫瘍モデルを用いた原著論文・Phase 1/2臨床試験報告・scRNA-seq解析・空間トランスクリプトーム解析・imaging mass cytometry (IMC) による空間解析研究を含む。各臨床試験データにおける群間比較はMann-WhitneyのU検定あるいはlog-rank検定が使用された文献を参照した。TAMによるNK細胞抑制に関する前臨床研究 (in vitro/in vivo) および臨床データ (抗TREM2抗体Phase 1a/1b、AFM13 Phase 2) を統合的に評価し、治療標的としての有望性に基づいて章構成を組み立てた。NCT番号の統一的な提示はなく、本レビュー自体のプロトコル登録は実施されていない。引用論文の選定は著者らが独立して行い、対象とした論文数は記載されていない。