- 著者: Ray Pillai, Ali Rashidfarrokhi, Yuan Hao, Warren L. Wu, Mariana C.S. Mancini, Burcu Karadal-Ferrena, Sofia G. Dimitriadoy, Charles M. Rudin, Kwok-Kin Wong, Sergei B. Koralov, Thales Papagiannakopoulos ほか
- Corresponding author: Thales Papagiannakopoulos (NYU Grossman School of Medicine, Department of Pathology); Sergei B. Koralov (NYU Grossman School of Medicine, Department of Pathology); Ray Pillai (NYU Grossman School of Medicine)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-01-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 42008781
背景
LKB1 (liver kinase B1, 別名 STK11: serine/threonine kinase 11) 変異は肺腺癌 (LUAD: lung adenocarcinoma) の最も予後不良な遺伝子サブセットの一つであり、強い腫瘍内炎症と免疫逃避に関連するが、その詳細な分子機構は未解明であり、現時点でLKB1変異非小細胞肺がん (NSCLC: non-small cell lung cancer) に承認された分子標的治療は存在しない。先行研究である Koyama et al. (2016) は、LKB1欠損が好中球の動員と炎症性サイトカインの産生を促進し、T細胞活性を抑制することを示した。また、Murray et al. (2019) および Hollstein et al. (2019) は、LKB1欠損腫瘍において下流の SIK (salt-inducible kinase) / CRTC2 (CREB-regulated transcription coactivator 2) 軸が活性化し、炎症性転写プログラムが誘導されることを報告している。しかし、この転写リプログラミングがどのように免疫微小環境 (TME: tumor microenvironment) の免疫抑制細胞群を組織化するかについては、依然として不明な点が多く、具体的な分子機構の解明が不足している。さらに、LIF (leukemia inhibitory factor) が腫瘍関連マクロファージへの作用を介して免疫抑制に寄与することは先行研究で示されていたが、腫瘍細胞自身に対するオートクリン LIF-LIFR (leukemia inhibitory factor receptor) シグナルが細胞状態転換と免疫抑制プログラムを駆動する可能性については未開拓であり、大きな knowledge gap が残されている。
目的
本研究の目的は、LKB1変異NSCLCの autochthonous (自発性) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM: genetically engineered mouse model) を用い、LKB1欠損が誘導するTME再編成の分子的駆動因子を同定し、LIFを起点とする腫瘍細胞状態転換と免疫抑制性骨髄系細胞ニッチ形成のメカニズムを解明することである。さらに、抗LIF中和抗体投与によりこのシグナル軸を治療標的化できるかを検証し、LKB1変異肺腺癌に対する新たな治療戦略としての可能性を提示することを目的とした。
結果
LKB1欠損腫瘍による免疫抑制性骨髄系ニッチの形成: sgLkb1を導入したLKB1欠損腫瘍マウス (n=2 mice) から回収した extravascular CD45+ 細胞の scRNA-seq 解析により、LKB1欠損腫瘍は野生型に比して SiglecF Hi 好中球と Arg1 陽性間質マクロファージを顕著に増加させることが判明した (Fig 1B, 1D)。SiglecF Hi 好中球は Bcl2a1 の高発現を伴う長寿命型であり、Arg1 高発現間質マクロファージは CD11b 陽性集団 (約 80%) に限局していた。クロドロネート投与により間質マクロファージを枯渇させると、T細胞の IFNγ (interferon gamma) および TNFα (tumor necrosis factor alpha) 産生が回復し、Lkb1 変異腫瘍の体積が有意に減少した (Fig 1J)。ヒト肺腺癌の snRNA-seq (single-nuclei RNA sequencing) 解析 (KRAS変異 n=14, KRAS/LKB1共変異 n=4) でも、共変異腫瘍において間質マクロファージサブセットが濃縮されていた (Fig 1G)。さらに、TCGA (The Cancer Genome Atlas) の肺腺癌データ (n=515 patients) において、Arg1 陽性間質マクロファージシグネチャは LKB1 野生型患者における 5年生存率の低下と有意に関連していた (HR 1.5, 95% CI 1.1-2.1, p<0.05, Fig 1I)。
LKB1/SIK/CRTC2軸を介したLIFの過剰発現とオートクリンループの形成: バルク RNA-seq 解析により、LKB1欠損腫瘍細胞は Il6, Il33, Csf3, Ccl2, Cxcl1/5/7 とともに Lif を著明に高発現しており (log2FC 2.0以上)、BAL液中のLIFタンパク量も顕著に上昇していた (Fig 2A, 2B)。SIK阻害剤 YKL-06-061 の処理、または Crtc2 KO により Lif の発現上昇が消失した (約 5.0-fold の減少) ことから、LKB1/SIK/CRTC2軸による制御が明らかとなった。TCGAデータ解析でも、LKB1変異肺腺癌において LIF の発現が有意に高く (p<0.0001), LIF高発現群は低発現群に比して予後不良であった (Fig 2C, 2D)。Lkb1 変異腫瘍では pSTAT3 (phosphorylated STAT3, STAT3: signal transducer and activator of transcription 3) レベルが顕著に上昇しており、腫瘍特異的な Lif または Lifr の遺伝子欠失 (n=12 mice) により、腫瘍量 (mean ± SEM) および pSTAT3 陽性率が著明に減少した (Fig 2G, 2H)。Trp53 野生型である KL および KC モデルでも同様の腫瘍抑制効果が得られ、p53 の状態に関わらず腫瘍細胞依存性の LIF オートクリンループが機能していることが示された。なお、in vitro において Lif または Lifr の欠失は KP 1234 細胞の増殖速度に直接影響を与えなかったことから、LIFの作用は細胞外的な微小環境制御によるものであると考えられた。
腫瘍由来LIFによるTME再編成とT細胞応答の抑制: ExCITE-seq 解析により、腫瘍細胞における Lif または Lifr の欠失は、TMEにおける Arg1 Hi マクロファージおよび SiglecF Hi 好中球を消失させ、抗腫瘍活性を持つ Cxcl9/Isg15 陽性の ISG Hi マクロファージを増加させることが示された (Fig 3A, 3C)。さらに、制御性T細胞 (Treg: regulatory T cell) が減少し、CD4 および CD8 T細胞において抗原特異的な TCR (T-cell receptor) クロノタイプの拡張 (5クローン以上) が確認された (Fig 3E)。単離したT細胞に組換えLIFを直接添加しても IFNγ/TNFα の産生能に変化はなかったため、LIFはT細胞に直接作用するのではなく、腫瘍細胞を介して間接的にTMEを再編成していることが示唆された。in vivo において CD4/CD8 枯渇抗体を投与すると、Lifr 欠失による腫瘍縮小効果が完全に消失したことから、LIF遮断による抗腫瘍効果はT細胞依存性であることが実証された (Fig 3F)。
LIFによるSOX17陽性脱分化炎症性腫瘍細胞状態の誘導: 腫瘍細胞のサブクラスタリング解析により、Lkb1 変異腫瘍に特異的で、Lif/Lifr 欠失によって選択的に消失する2つのクラスタ (Cluster 5 および 8) を同定した (Fig 4A)。これらのクラスタは、EMT (epithelial-mesenchymal transition) シグネチャが高く、肺の分化マーカーである Nkx2-1 (TTF1) が低発現な脱分化状態にあり、その一方は Sox17 を特異的に高発現していた (Fig 4B)。Sox17 を遺伝子欠失させると、Lkb1 変異腫瘍の増殖が有意に抑制され、BAL液中の IL6, CSF3, CCL2 レベルが低下し、T細胞の IFNγ/TNFα 産生が回復した (Fig 5A, 5B, 5C)。Sox17 シグネチャは、TCGAのLKB1変異肺腺癌において高度に濃縮されており、全生存期間の短縮と有意に相関していた (p<0.0001, Fig 4F, 4G)。Pseudotime (擬時間) 解析により、この SOX17 陽性細胞状態は、分化した AT2 (alveolar type II) 様細胞状態から派生した脱分化過程であることが示された (Fig 4E)。
抗LIF抗体療法によるSOX17陽性細胞状態の消去と抗腫瘍免疫の回復: 腫瘍誘導8週後の確立した Lkb1 変異腫瘍マウスに対し、抗LIF中和抗体 (700 μg, 週2回, 3週間) を投与したところ、腫瘍体積が有意に減少した (Fig 6A)。CITE-seq 解析により、抗LIF抗体治療は SOX17 陽性の腫瘍細胞クラスタを選択的に消失させることが確認された (Fig 6B, 6C)。また、BAL液中の IL6, CSF3, CCL2 が減少し、SiglecF Hi 好中球および Arg1 陽性間質マクロファージの浸潤が有意に抑制された (Fig 6D, 6E, 6F)。一方で、総間質マクロファージ数自体は変化しなかったため、LIFはマクロファージの動員そのものではなく、その転写プログラムを免疫抑制型へとシフトさせる役割を担っていると考えられた。CD4/CD8 枯渇抗体の共投与により、抗LIF抗体の治療効果は完全に消失し、その治療効果がT細胞依存性であることが個体レベルで証明された (Fig 6G)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、LIFを単にマクロファージや免疫細胞に直接作用する因子として捉えていた先行研究 (Pascual-Garcia et al., 2019) とは異なり、LIFの主要な標的が腫瘍細胞自身であり、オートクリン LIF-LIFR シグナルを介して腫瘍細胞の形質可塑性を駆動していることを明確に示した点で対照的である。
新規性: 本研究は、LKB1/SIK/CRTC2軸の下流で過剰発現するLIFが、原発性肺腺癌において SOX17 陽性の脱分化炎症性腫瘍細胞状態を新規に誘導し、これが SiglecF Hi 好中球や Arg1 陽性間質マクロファージからなる免疫抑制性骨髄系ニッチを構築することを本研究で初めて明らかにした。内胚葉発生因子である SOX17 が、原発肺腺癌の炎症性細胞状態を規定するマスター転写因子として機能していることを示したのは本研究が初である。
臨床応用: 本研究の知見は、治療抵抗性を示す LKB1 変異肺腺癌に対する新規治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、すでに臨床試験 (Phase I: NCT03490669) で安全性が確認され、現在周術期 Phase II 試験 (NCT05061550) が進行中である抗LIF中和抗体 AZD0171 が、確立された Lkb1 変異腫瘍に対しても極めて有効であり、T細胞依存的な抗腫瘍免疫を再活性化できることを示した点が挙げられる。これは、がん細胞の stemness や EMT を介した治療抵抗性細胞状態を直接標的化する、臨床現場における新しい治療パラダイムを提示している。
残された課題: 今後の課題として、LIF遮断後も変化しなかった総間質マクロファージの腫瘍内浸潤を規定する、LIF以外のLKB1依存性因子の同定が挙げられる。また、LIFR下流の STAT3 以外のシグナル経路がどのように SOX17 の発現を誘導しているのか、その詳細な分子メカニズムの解明が今後の検討課題である。さらに、ヒト患者における遺伝子型特異的な治療反応性 (genotype-specific response) について、臨床検体を用いたさらなる検証が必要であり、これが本研究における limitation と言える。
方法
本研究では、KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl; Rosa26LSL-Cas9-P2A-GFP (KPC) モデル、すなわち Kras-Lox-Stop-Lox-G12D/+; Trp53-floxed/floxed; Rosa26-Lox-Stop-Lox-Cas9-P2A-GFP マウスに、CreリコンビナーゼおよびLkb1を標的とするsgRNA (single-guide RNA) またはコントロールのsgNeoを発現するレンチウイルスを気管内投与し、autochthonous LKB1欠損肺腫瘍モデルを作製した。また、Trp53野生型のKL (KrasLSL-G12D/+; Lkb1fl/fl) およびKC (KrasLSL-G12D/+; Rosa26LSL-Cas9-P2A-GFP) モデルでも検証を行った。腫瘍量はMRI (magnetic resonance imaging) を用いて経時的に測定した。シングル細胞レベルでの解析として、シングルセル RNA-seq (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing)、ExCITE-seq (expanded cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing)、CITE-seq (cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing) を用いて、骨髄系細胞、リンパ球サブセット、および腫瘍細胞サブクラスタを解析した。in vitro においては、マウス肺がん細胞株である KP 1234 やヒト肺がん細胞株 H2009、さらに膵管腺癌細胞株 HY19636 を使用し、CRISPR/Cas9を用いた遺伝子ノックアウト (KO: knockout) や、pan-SIK阻害剤 YKL-06-061 による処理を行った。免疫抑制性マクロファージの枯渇にはクロドロネートを retro-orbital 投与し、抗LIF中和抗体 (US Patent 10206999-B2 由来、AZD0171相当) は in vivo で腹腔内投与した。気管支肺胞洗浄 (BAL: bronchoalveolar lavage) 液中の31種類のサイトカイン測定には Mouse Cytokine/Chemokine 31-plex Discovery Assay Array を用いた。統計解析には、2群間比較として Mann-Whitney U 検定、多群間比較として one-way ANOVA (Tukey多重比較検定)、生存解析として log-rank 検定を用いた。