- 著者: Pingwei Xu, Ke Tang, Jingwei Ma, Huafeng Zhang, Dianheng Wang, Liyan Zhu, Jie Chen, Keke Wei, Jincheng Liu, Haiqing Fang, Liang Tang, Yi Zhang, Jing Xie, Yuying Liu, Rui Meng, Li Liu, Xiaorong Dong, Kunyu Yang, Gang Wu, Fei Ma, Bo Huang
- Corresponding author: Bo Huang (Chinese Academy of Medical Sciences, Beijing, China)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 32661094
背景
悪性胸水 (MPE: malignant pleural effusion) は、肺癌を含む様々な悪性腫瘍に頻繁に合併する病態であり、肺癌患者の約40%に発生すると報告されている。MPEは患者のQOLと生存期間を著しく低下させるが、現在の治療法は胸水ドレナージや胸膜癒着療法といった緩和的アプローチに留まり、根本的な抗腫瘍効果をもたらす治療選択肢は限られているのが現状である。そのため、MPEを効果的に治療できる新たなアプローチが強く求められている。
好中球は、白血球の50-70%を占める最も豊富な自然免疫細胞であり、その機能は多岐にわたる。腫瘍微小環境 (TME) においては、抑制性サイトカイン、低酸素、低pH、高カリウムなどの要因により、好中球が腫瘍促進的なN2型に転換しうることが知られている Fridlender et al. CancerCell 2009。しかし、Coley toxinやBCGによる好中球の抗腫瘍活性化も報告されており、好中球の抗腫瘍機能を引き出す可能性が示唆されている。MPEは比較的正常な酸素分圧やpH環境にあるため、この環境下での好中球活性化に着目することは、新たな治療戦略を開発する上で重要である。
腫瘍細胞由来マイクロパーティクル (T-MP: tumor microparticles) は、腫瘍細胞が放出する細胞外小胞であり、cGAS/STING経路を介した樹状細胞 (DC) 刺激やワクチンプラットフォームとしての機能、あるいは化学療法薬や溶解性ウイルスの天然キャリアとしての機能が報告されてきた。薬剤非封入のT-MPはM2マクロファージの極性化を促進する一方で、化学療法薬を封入したT-MPはM2からM1へのマクロファージのリプログラミングが可能であることが先行研究で示されている。しかし、T-MPがMPEの治療において好中球を介した免疫応答を誘導しうるかについては、これまで十分に検討されておらず、その分子機序も未解明な点が多かった。特に、MPEという特殊な環境下で好中球が抗腫瘍活性を発揮するメカニズムや、NETs (Neutrophil Extracellular Traps) の役割については、さらなる詳細な解析が不足していた。NETsは通常、微生物を捕捉し殺傷する機能が知られているが Brinkmann et al. Science 2004、腫瘍促進的な役割も報告されており Albrengues et al. Science 2018、MPEにおけるその機能は不明な点が多い。
目的
本研究の目的は、メトトレキサート (MTX) を封入した腫瘍細胞由来マイクロパーティクル (MTX-MP) の胸腔内投与が、悪性胸水 (MPE) の微小環境において好中球を介した抗腫瘍免疫応答を誘導し、MPEを効果的に制御できるかを検証することである。さらに、MTX-MPが誘導する好中球の動員、活性化、腫瘍細胞殺傷経路、および血管漏出抑制における分子機序を詳細に解明することを目的とした。具体的には、臨床試験および前臨床モデルを用いて、MTX-MPがマクロファージからのCXCL1/CXCL2産生を介して好中球を動員・活性化し、活性化された好中球が活性酸素種 (ROS: reactive oxygen species) と好中球細胞外トラップ (NETs) を放出して腫瘍細胞を殺傷するだけでなく、損傷した血管内皮を封鎖して血管漏出を防ぐメカニズムを明らかにすることを目指した。
結果
臨床試験におけるMTX-MPのMPE治療効果と好中球動員: MTX-MP治療群では、治療前後 (Day 5からDay 7) でMPE中のCD45-腫瘍細胞が著明に減少し、CD45+免疫細胞、特にCD11b+CD15+好中球が急増した (p<0.0001)。対照の生理食塩水群ではこれらの変化は観察されなかった (Fig. 1B-E)。治療4週後のCT評価では、MTX-MP群は生理食塩水群と比較してMPE体積が有意に減少した (p<0.0001)。Day 7の好中球数と43日目のMPE体積減少量の間には有意な正の相関が認められた (p<0.01) (Fig. 1J)。CD4+およびCD8+ T細胞も増加したが、NK細胞、マクロファージ、MDSCの数は変化しなかった (Fig. 1G)。重要なことに、MTX-MPによって動員された好中球はT細胞増殖を抑制せず、腫瘍促進的表現型を示さなかった。
MTX-MPによる好中球動員の分子機序 (CXCL1/CXCL2経路): MPE中のマクロファージは、MTX-MPを最も速やかに取り込んだ (30分以内にPKH26 MFIが増加) (Fig. 3A, B)。MTX-MPを取り込んだマクロファージは、2時間以内にCXCL1およびCXCL2のmRNAおよびタンパク質を強力に誘導した (p<0.001) (Fig. 3F, G)。MTX-MP処理患者のMPEにおいても、CXCL1およびCXCL2が2時間後に急増した (p<0.001) (Fig. 3H, I)。in vitroのトランスウェルアッセイでは、抗CXCL1抗体および抗CXCL2抗体による中和が、好中球の遊走を有意に抑制した (p<0.001) (Fig. 3K)。GM-CSFやIL-1βの中和は好中球遊走に影響を与えなかった (Fig. 3E)。さらに、MTX-MPはHUVEC内皮細胞においてCD62pおよびCD62eの発現を上昇させ (p<0.01)、好中球にPSGL-1 (CD162) を誘導し (p<0.05)、好中球と内皮細胞の密着接触を促進した (Fig. 3L-N)。マウスモデルにおけるBrdU取り込み実験により、動員された好中球が骨髄から新たに分化した成熟好中球であり、Ki67発現が低くMDSCではないことが確認された (Fig. 2B, C)。BrdU取り込み実験では、n=6 miceが用いられた。
動員された好中球の活性化と抗腫瘍エフェクター機能: MTX-MP治療患者のMPE好中球は、生理食塩水対照と比較して、FSC (前方散乱光) の低下、CD11b、CD66b、CD54の発現上昇 (活性化マーカー)、CD15の発現低下 (成熟化) を示した (p<0.01-0.0001) (Fig. 4A, C)。MPOおよびNOX2 (CYBB) のmRNA発現が有意に増加し (p<0.05)、ROSおよびNETs産生が増強された (Fig. 4E)。in vitro実験では、患者MPE由来好中球はMTX-MP処理A549細胞の上清により活性化表現型に転換した (Fig. 4K, L)。好中球と腫瘍細胞の共培養により直接的な腫瘍殺傷活性が確認され、NAC (ROS阻害剤)、DPI (NOX2阻害剤)、Cl-amidine (PAD4阻害剤、NETosis阻害剤) の各阻害剤が好中球の腫瘍殺傷効果を有意に減弱させた (p<0.01-0.001) (Fig. 5G, J)。この細胞傷害性アッセイには、n=3患者由来の好中球が用いられた。
NETsによる内皮バリア修復と胸水制御: 患者MPE好中球のNETsは、HUVEC層上でSYTOX green陽性のDNA放出として観察された (Fig. 6E)。NETsを形成した好中球は、HUVEC層の内皮透過性を有意に低下させ (FITC-dextran漏出減少、p<0.01) (Fig. 6C)。マウスモデルにおけるEvans blue漏出実験でも、PAD4阻害剤 (Cl-amidine) がMTX-MPの胸水制御効果を減弱させた (Fig. 6G)。これにより、MTX-MPが動員した好中球のNETsが損傷した内皮を「封鎖」し、血管漏出を防ぐというMPE制御の二次的機序が示唆された。この実験では、n=5患者由来の好中球が用いられた。
動物実験によるMTX-MP治療効果の検証: H22腹水モデルにおいて、Ly6G抗体による好中球枯渇はMTX-MP治療効果を完全に廃絶させ、腹水量増加と生存期間短縮を引き起こした (p<0.01) (Fig. 2E)。骨髄由来好中球の腹腔内養子移入単独でも、腹水量が50%減少し、生存期間が延長した (p<0.01) (Fig. 2F)。この効果はヌードマウスでも同様に観察され (T細胞非依存性、p<0.01) (Fig. 2G)、LLC-MPEモデルでも再現された (Fig. 2H)。これらの動物実験では、各群n=10 miceで生存期間が評価された。
考察/結論
本研究は、メトトレキサート (MTX) を封入した腫瘍細胞由来マイクロパーティクル (MTX-MP) が、悪性胸水 (MPE) の治療において好中球を介した強力な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規メカニズムを初めて包括的に解明した。MTX-MPは、(1) マクロファージからのCXCL1/CXCL2産生を介した好中球のMPEへの動員と内皮活性化、(2) 動員された好中球による活性酸素種 (ROS) および好中球細胞外トラップ (NETs) 産生を介した直接的な腫瘍細胞殺傷、(3) NETsによる損傷内皮バリアの修復という三段階の機序でMPEを制御することを示した。
先行研究との違い: これまでの好中球研究では、腫瘍微小環境における好中球のN1/N2二元論が議論されてきたが、本研究はMPEという比較的正常な酸素分圧・pH環境下では、好中球が抗腫瘍的N1様表現型 (低FSC、CD66b+CD54+CD15-、高MPO/NOX2) を維持しうることを臨床データで示した点で、これまでの知見と異なり、好中球の腫瘍微小環境における可塑性に関する新たな概念的視点を提供する。また、通常は腫瘍促進的機能も報告されるNETsが、MPEにおいては損傷内皮バリアの修復という文脈依存的な抗腫瘍機能を発揮するという新規な知見は、NETs研究における新たな方向性を示すものである。Fuchs et al. JCellBiol 2007 はNETsの形成メカニズムを示したが、その腫瘍抑制的な役割は本研究で初めて詳細に示された。
新規性: 本研究で初めて、MTX-MPがマクロファージを介してCXCL1/CXCL2を誘導し、好中球を特異的にMPEへ動員するメカニズムを同定した。さらに、動員された好中球がROSとNETsを介して腫瘍細胞を殺傷するだけでなく、NETsが損傷した血管内皮を物理的に封鎖し、血管漏出を抑制することでMPEの病態を改善するという新規な機能を発見した。
臨床応用: 本研究の知見は、MPEに対する新たな免疫治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。MTX-MPは、既存の化学療法と併用することで、好中球を介した免疫応答を誘導し、MPEの体積減少と患者のQOL改善に寄与する可能性を秘めている。特に、生体由来のマイクロパーティクルを薬物キャリアとして利用するアプローチは、副作用の低減と標的指向性の向上に貢献しうるため、臨床現場での応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本臨床試験は全身化学療法と併用されており、MTX-MP単独の効果を分離して評価するためには、適切な対照群 (薬剤非封入T-MP群など) を含む無作為化比較試験でのさらなる検証が必要である。また、本研究は非小細胞肺癌患者を対象としており、胸膜中皮腫など他の癌腫におけるMTX-MPの有効性や、その一般化可能性は未検証である。MTX-MPの調製プロセスの標準化とGMP製造スケールアップ、長期生存データの収集、および他の薬剤を封入したT-MPとの比較検討も今後の研究課題である。さらに、MTX-MPがマクロファージのM2からM1へのリプログラミングをどのように誘導するのか、その詳細な分子メカニズムについてもさらなる解明が求められる。
方法
MTX-MPの調製: A549肺癌細胞 (2×10^8個) をMTX (2 mg/mL) 存在下でUVB (300 J/m²) を1時間照射し、その後18時間培養した。培養上清を遠心分離 (500 gで5分、14,000 gで2分) して細胞残渣を除去後、さらに14,000 gで60分遠心分離してMTX-MPを回収した。回収したMTX-MPは生理食塩水に再懸濁し、濃度 (0.8-1.5×10^6 MPs/mL) とMTX含有量 (25 μg MTX/50 mL) を調整した。臨床試験用MTX-MPはGMP (Good Manufacturing Practice) 品質基準に従って製造された。
臨床試験デザイン: 本臨床試験 (ChiCTR-ICR-15006304) は、多施設共同、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験として実施された。進行期非扁平非小細胞肺癌 (NSCLC) とMPEを有する患者62名を対象とした。患者は、ペメトレキセド (500 mg/m²) とシスプラチン (DDP, 75 mg/m²) の全身静脈内化学療法をDay 1に受けた後、MTX-MP (50 mL) または生理食塩水 (対照群) をDay 5, 7, 9, 11, 13, 15に隔日で胸腔内投与された (n=32/群)。治療前 (Day 5) および治療後 (Day 7) にMPEを採取し、フローサイトメトリーにより免疫細胞組成を解析した。また、MTX-MPまたは生理食塩水投与後2, 4, 8, 12, 24, 48時間後にMPEを採取し、ケモカイン濃度を測定した。CT画像はDay -1とDay 43に撮影され、MPE体積の変化を評価した。
動物モデル: H22肝癌腹水モデル (BALB/cマウス) およびLLC (Lewis Lung Carcinoma) 胸膜播種MPEモデル (C57BL/6マウス) を使用した。ヌードマウスモデルもT細胞非依存性の効果を検証するために用いた。好中球枯渇実験では、Ly6G抗体 (100 μg/マウス、週2回) を腹腔内投与した。BrdU取り込み実験により、動員された好中球の増殖能を評価した。骨髄由来好中球の養子移入実験も実施した。
in vitro機能実験:
- 好中球分離: 患者MPEおよび末梢血からFicoll Hypaque溶液を用いて好中球を分離した。マウス好中球はPercoll密度勾配遠心分離により骨髄から分離した。
- 好中球走化性アッセイ: トランスウェルプレートを用い、患者末梢血由来好中球 (5×10^5個) のMPE上清への遊走を評価した。CXCL1、CXCL2、GM-CSF、IL-1βの中和抗体を用いて、遊走経路を解析した。
- ROSおよびNET産生: CellROXプローブおよびMitoSOXプローブを用いて好中球のROS産生を測定した。Sytox green染色によりNETs形成を評価した。
- 腫瘍細胞傷害性アッセイ: CFSE標識A549細胞と好中球を共培養し、PI/Annexin V染色によりアポトーシスを評価した。NAC (ROS阻害剤)、DPI (NOX2阻害剤)、Cl-amidine (PAD4阻害剤、NETosis阻害剤) を用いて、殺傷メカニズムを解析した。
- HUVEC内皮透過性実験: HUVEC単層培養プレートにFITC-dextranを添加し、透過性を評価した。NETs形成好中球が内皮バリア機能に与える影響を検討した。
- 細胞取り込みアッセイ: PKH26標識MTX-MPを用いて、MPE中の免疫細胞 (マクロファージ、好中球、T細胞、B細胞) および腫瘍細胞によるMTX-MPの取り込みをフローサイトメトリーで解析した。
- サイトカイン検出: ELISAにより、MTX-MP刺激マクロファージ培養上清および患者MPE中のCXCL1、CXCL2濃度を測定した。
- リアルタイムPCRおよびウェスタンブロット: 好中球におけるMPO、NOX2 (CYBB)、iNOS (NOS2)、Arginase-1のmRNAおよびタンパク質発現を解析した。
統計解析: 全ての実験は少なくとも3回繰り返された。結果は平均±SEMで表され、Studentのt検定または一元配置分散分析 (ANOVA) により解析された。生存率はKaplan-Meier法により解析された。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。解析にはGraphPad 8.0ソフトウェアを使用した。