• 著者: Theodore S. Kapellos, Kevin Baßler, Wataru Fujii, et al.
  • Corresponding author: Joachim L. Schultze (Genomics and Immunoregulation, LIMES Institute, University of Bonn, Germany; j.schultze@uni-bonn.de)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2023
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37243592

背景

COPD (慢性閉塞性肺疾患) は、持続的な気流制限、慢性気道炎症、肺気腫、および急性増悪を特徴とする世界的な慢性呼吸器疾患である。進行期のCOPDにおいては、全身性の炎症マーカーであるC反応性タンパク質、TNF-alpha、IL-6、IL-8などの上昇が報告されている。しかし、早期COPD患者における末梢血免疫細胞の分子・機能変化については、ほとんど未解明な点が残されている。好中球は循環血中で最も豊富な免疫細胞であり、肺組織へ蓄積して肺胞破壊や肺機能低下を促進することが知られている。しかし、末梢での好中球の状態変化と骨髄前駆細胞との関係性は、これまで体系的に捉えられていなかったため、この領域には不足している知見が多く存在した。先行研究である Ng et al. NatRevImmunol 2019Evrard et al. Immunity 2018 では好中球の不均一性が示されてきたが、早期COPDにおける骨髄から末梢血、肺局所に至る全身性の好中球動態の異常については十分に解明されておらず、詳細な単一細胞レベルでの解析データが不足していた。

目的

本研究の目的は、単一細胞RNAシーケンシングなどの高解像度単一細胞解析技術を用いて、早期COPD患者の全身性好中球および骨髄前駆細胞における分子、機能、および表現型の変化を詳細にマッピングすることである。さらに、これらの変化が肺機能低下と相関するかどうかを決定し、疾患の早期診断および治療標的の可能性を評価する。

結果

血液好中球絶対数と肺機能の負の相関: COPD患者では末梢血好中球絶対数が健常対照と比較して有意に上昇した (p=0.00012)。この好中球絶対数は、%FEV1とPearsonの相関係数 r=-0.39 (p=0.0002)、FEV1/FVC比と r=-0.35 (p=0.0009) で負の相関を示し、両側肺の肺気腫スコアとは正の相関を示した (Figure 1D-F)。これは、血液好中球数がCOPDの進行バイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。

5つの血液好中球状態 (N1S-N5S) とCOPDにおける変化: scRNA-seq解析により、ヒト末梢血好中球はN1S (LCN2+: lipocalin 2陽性), N2S (ISG+: interferon-stimulated gene陽性), N3S (CXCL8+), N4S (PTPRC+: protein tyrosine phosphatase receptor type C陽性), N5S (S100A12+) の5つの異なる細胞状態に分類された (Figure 2D-E)。COPD患者では、全ての好中球状態において脱顆粒遺伝子とRHO (Ras homolog family member) GTPaseシグナル伝達経路が上昇する一方で、インターフェロンシグナル伝達が減弱していた (Figure 2H)。特に、N1S (LCN2+) およびN5S (S100A12+) 好中球では、アラミンであるS100A8, S100A9, S100A12の発現が有意に上昇しており、log2FC 1.8 の有意な発現上昇が確認された (Figure 2I, L)。N1S (LCN2+) 好中球は平均でより高い数のUMI (unique molecular identifier) と遺伝子を示した。

血液とBALFで共有されるCOPD特異的遺伝子シグネチャ: 血液とBALFの両コンパートメントにおける差分解析により、COPD患者で特異的に変化する75個の共通DEGが同定された (Figure 4I)。これには、脱顆粒 (CD63, SERPINB1, RAB10)、TLR (Toll-like receptor) カスケード (TLR2)、アポトーシス (PDCD10, BNIP2)、RHO GTPase関連遺伝子が含まれ、全身性および肺局所の好中球変化の連携を示唆する。BALF好中球は3つのクラスター (N1bal, N2bal, N3bal) に分類され、N1bal好中球では ATP6AP2 の発現が上昇していた。

表面タンパク質発現による検証: フローサイトメトリー解析により、COPD患者の血液好中球において、接着マーカーである CD15 (N3R, p=3.26e-8)、CD66B (N4R, p=0.026)、CD62L (N5R, p=0.0007) の発現上昇が確認され、トランスクリプトーム解析の結果が表面レベルで裏付けられた (Figure 3E)。N1R好中球では CD38 の発現が有意に高く (p=0.0002)、N5R好中球では CD62L の発現が最も高かった (p=5.29e-93)。

喫煙曝露マウスモデルにおける骨髄前駆細胞の再プログラミング: 12週間の喫煙曝露 BALB/c マウス (n=4 mice per group) の骨髄scRNA-seq解析 (n=18,941 cells) では、CD34+CD117+CD16/32+ 前駆細胞の増加と成熟 CD11b+Ly6G+CD62L+ 好中球の減少が観察された (Figure 6D)。これはヒト早期COPDにおける顆粒球産生 (granulopoiesis) の活性化を再現している。特に、初期GMP (顆粒球・単球前駆細胞) では746個のDEGが同定され、ミエロイドコンパートメント内で最大の転写変化を示した (Figure 6H)。

骨髄から血液、BALFにわたる9遺伝子シグネチャの保存: 骨髄、血液、BALFの3つのコンパートメントを横断する解析により、GYG1, ATP6AP2, APMAP, ENO1 (代謝再プログラミング)、GABARAPL2 (細胞内輸送)、BNIP2, PDCD10 (アポトーシス)、CD63, SERPINB1 (活性化) の9つの共通変化遺伝子が同定された (Figure 6J)。これは、骨髄前駆細胞の再プログラミングが全身に伝播するという直接的な証拠である。この9遺伝子シグネチャは、ヒトN1S (LCN2+), N4S (PTPRC+), N5S (S100A12+) 好中球状態でも有意に濃縮されていた (p=0.015, p=0.028, p=0.031) (Figure 7A)。

好中球状態の存在量と肺機能低下の相関: 計算論的デコンボリューション解析により、N2S (ISG+) 状態の好中球は %FEV1 (p=0.002) および FEV1/FVC比 (p<0.001) と負の相関を示し、N2S/ISGの2.5-fold increaseが確認された。一方、N4S (PTPRC+) および N5S (S100A12+) 状態の好中球は FEV1 (p=0.005, p=0.021) および FEV1/FVC比 (p=0.023, p=0.026) と正の相関を示した (Figure 7E)。これらの好中球状態の存在量がCOPDの臨床的重症度と関連することを示唆する。COVID-19患者の解析では、N5S (S100A12+) 状態が重症度と正の相関を示し (p=2.721e-09)、N2S (ISG+) 状態が負の相関を示した (p=0.000123) (Figure 7G)。

考察/結論

本研究は、早期COPDにおける好中球の異常が肺コンパートメントに限定されず、骨髄前駆細胞から全身に伝播することを本研究で初めて示した画期的な研究である。アラミンや活性化マーカーを含む好中球の分子シグネチャが肺機能低下や肺気腫の進行と有意に相関し、疾患活動性のサロゲートマーカーとなる可能性を示す。

先行研究との違い: 従来のCOPDにおける全身性炎症の研究は進行期に焦点を当てていたと異なり、本研究は早期COPDにおける全身性好中球およびその前駆細胞の分子変化を単一細胞レベルで詳細に解析した。また、骨髄、血液、BALFの複数コンパートメントを横断的に解析し、骨髄前駆細胞の再プログラミングが末梢および肺の好中球表現型の変化に繋がることを示した点は、Evrard et al. Immunity 2018Xie et al. NatImmunol 2020 などのこれまでの好中球の不均一性に関する知見を大きく拡張する。さらに、Ballesteros et al. Cell 2020 で示唆された血中と肺の好中球の生物学的差異も確認された。

新規性: 早期COPD患者の末梢血好中球がN1S (LCN2+), N2S (ISG+), N3S (CXCL8+), N4S (PTPRC+), N5S (S100A12+) の5つの異なる状態に分類され、特にN1S (LCN2+) およびN5S (S100A12+) 好中球でアラミン発現が上昇していることを新規に同定した。さらに、喫煙曝露マウスモデルを用いて、骨髄のGMP (顆粒球・単球前駆細胞) における転写再プログラミングが、血中および肺の好中球表現型の変化に繋がっていることを本研究で初めて示した。この変化はCOVID-19や敗血症とは異なる疾患特異的なパターンを示した。

臨床応用: 本知見は、好中球の状態頻度やアラミンレベルを早期診断と患者層別化バイオマーカーとして活用する臨床応用に直結する。また、骨髄前駆細胞の再プログラミングを標的とした顆粒球産生抑制療法や、血液ベースのモニタリングによる治療効果判定および増悪予測の臨床的含意を提供する。Love et al. GenomeBiol 2014Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015 などのバイオインフォマティクス手法が、このような臨床的洞察を可能にする上で重要な役割を果たしている。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、COPD患者からの骨髄採取が倫理的・実用的に困難であるため、骨髄の解析はマウスモデルに依拠している。第二に、横断研究デザインであるため、好中球変化の経時的ダイナミクスや疾患進行との因果関係は完全に解明されていない。第三に、前駆細胞活性化の具体的なドライバー (特定のサイトカイン、エピジェネティックな修飾など) は未同定である。Butler et al. NatBiotechnol 2018Korsunsky et al. NatMethods 2019 のようなデータ統合技術が、今後の研究でより包括的な理解を深めるのに役立つ可能性がある。今後の検討課題として、これらの因果関係を縦断研究や介入研究で検証し、骨髄前駆細胞の再プログラミングを制御する分子メカニズムを特定することが挙げられる。

方法

試験デザイン: 本研究は、ヒト末梢血100例 (健常対照31例、COPD患者69例) を対象とした観察研究と、機能検証のためのマウス12週喫煙曝露モデル (各群 n=4 BALB/c mice) を組み合わせた。 主要手技:

  1. scRNA-seq (single-cell RNA sequencing): ヒト末梢血、BALF (bronchoalveolar lavage fluid: 気管支肺胞洗浄液) (健常対照6例、COPD患者7例)、およびマウス骨髄から単一細胞RNAシーケンスデータを取得した。
  2. Flow cytometry多色パネル: ヒト末梢血100例に対して、確立されたミエロイドおよびリンパ系コンパートメントのパネルを用いてフローサイトメトリー解析を実施した。
  3. Mass cytometry (CyTOF: cytometry by time-of-flight): マウス骨髄好中球に対して38パラメーターのCyTOF解析を実施し、詳細な表現型を評価した。
  4. Imaging mass cytometry (IMC): ヒト肺生検組織 (対照、喫煙者、COPD患者) に対してIMCを実施し、肺組織内の好中球サブセットを解析した。
  5. バイオインフォマティクス解析: Reactome pathway解析およびGSEA (Gene Set Enrichment Analysis) を用いて、遺伝子発現変化の機能的意義を評価した。 主要評価項目: 血液好中球絶対数、好中球状態の頻度、アラミン (S100A8, S100A9, S100A12) の発現レベル、FEV1 (1秒量)、FEV1/FVC (努力肺活量) 比、肺気腫スコアとの相関、骨髄顆粒球・単球前駆細胞 (GMP: granulocyte-monocyte progenitor) における差次的に発現する遺伝子 (DEG) を評価した。統計解析にはPearson correlation、Spearman correlation、Wilcoxon test、t-test、MASTアルゴリズムなどが用いられた。マウスモデルには BALB/c マウスが用いられた。