- 著者: Guillaume Mestrallet, Matthew Brown, Natalie Vaninov, Nam Woo Cho, Leandra Velazquez, Aparna Ananthanarayanan, Matthew Spitzer, Nicolas Vabret, Cansu Cimen Bozkus, Robert M. Samstein, Nina Bhardwaj
- Corresponding author: Guillaume Mestrallet, Robert M. Samstein, Nina Bhardwaj (Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York)
- 雑誌: Cell Reports Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 42092363
背景
大腸がんは全がん症例の約 10% を占め、がん死亡原因の第 2 位である。大腸・子宮内膜・胃がんの約 30% は mismatch repair deficient (MMRd) — DNA ミスマッチ修復タンパク欠損 — 腫瘍に分類され、microsatellite instability-high (MSI-H) と称される。MMRd 腫瘍は高いフレームシフト変異負荷を持ち PD-1 を発現する T 細胞が豊富に浸潤するため immune checkpoint blockade (ICB) 療法への奏効率が高い。Overman ら (Overman et al. NEnglJMed 2017) は MMRd または MSI-H の進行大腸がんにおけるニボルマブ単剤の奏効率 32% を示し、André ら (Andre et al. NEnglJMed 2020) はペムブロリズマブが MMRd CRC の 1 次治療として有用であることを実証した。しかし、進行 MMRd 症例の最大 50%、mismatch repair proficient (MMRp) 症例の大多数は抗 PD-1 に無奏効という根本的課題が残されていた。近年、TREM2 (triggering receptor expressed on myeloid cells 2) を発現するマクロファージが複数のがんモデルで免疫抑制の主因として注目されており (Molgora et al. Cell 2020)、T 細胞との crosstalk を介した ICB 耐性への関与が示唆されてきた。しかし、tumor microenvironment (TME) における T 細胞-骨髄系細胞クロストークの時空間的詳細、MMRd・MMRp 両型の耐性を克服する最適な多剤 ICB 組み合わせ、および治療前腫瘍プロファイルから ICB 奏効を予測する実用的手法については依然として未解明の点が多く、知識が著しく不足していた。
目的
CT26 MSH2 ノックアウト (KO) マウスモデルを用いて MMRd CRC の TME を単細胞・空間解析し、TREM2+ マクロファージを介した T 細胞-骨髄系細胞クロストークの耐性メカニズムを同定するとともに、多剤 ICB 併用療法の最適組み合わせを探索し、機械学習を用いたヒト患者 ICB 奏効予測モデルを開発すること。
結果
MMRd腫瘍におけるMHC+マクロファージと幹様T細胞の空間的共局在:
MSH2 KO 腫瘍では移植 28 日後に WT 腫瘍と比較して腫瘍浸潤免疫細胞割合が 12% vs 6% (2-fold, p<0.05; N=10 replicates) と有意に高く、dendritic cell (DC)、CD4+ T 細胞、CD8+ T 細胞、NK 細胞、マクロファージ、好中球の浸潤が増加していた (Fig 1B, 1C)。scRNA-seq では、抗 PD-1 治療後の MSH2 KO 腫瘍で TCF (T cell transcription factor) 発現幹様 T 細胞と MHC+ C1Q (complement component 1q)+ CXCL9+ マクロファージが増加した。空間トランスクリプトミクスにより、MHC-II+ C1Q+ マクロファージおよび DC が T 細胞富裕ゾーンと T 細胞排除ゾーンの境界に存在し、PRF1 (perforin 1) を過発現する CD8+ T 細胞クローン (クローン 183) と空間的に共局在することが示された (Fig 2E)。ヒト MMRd CRC 患者の再解析 (N=9 patients) でも、抗 PD-1 奏効例 [pathological complete response (pCR) 群] は非奏効例より C1Q および MHC-II を発現するマクロファージが有意に多く、マウスモデルの観察と一致した (Fig 1I, 1J)。
TREM2+マクロファージとT細胞多重チェックポイント発現による免疫耐性の形成:
scRNA-seq とフローサイトメトリー (N=6 replicates) により、抗 PD-1 耐性腫瘍の CD8+ tumor-infiltrating lymphocyte (TIL) では TIM-3、LAG-3、TIGIT、PD-1、CTLA-4 が共発現しており、T 細胞疲弊が進行していた (Fig 3A, 3B)。骨髄系細胞では、T 細胞排除ゾーンに TREM2+ マクロファージおよびモノサイト (クラスター 2、5、6) が集積し、CSF1R、IL-1B (interleukin-1B)、IFN 誘導型膜貫通タンパク 2/3、VEGF を高発現していた (Fig 3D)。ヒト MMRd CRC の非奏効例でも、IL-1B、TREM1 (triggering receptor expressed on myeloid cells 1)、IDO1、IL-6、TMEM176 を高発現する骨髄系細胞と TIM-3・LAG-3 を発現する T 細胞の増加が確認され、マウスモデルとの整合性が示された (Fig 3E)。この耐性プログラムは抗 PD-1 単剤による直接効果でも TIM-3 と LAG-3 の早期上方制御が誘導されることが B16F10 スフェロイドモデルでも確認された。
抗PD-1/LAG-3/CTLA-4/TREM2の4剤併用によるMMRd・MMRp腫瘍の完全奏効と免疫記憶誘導:
各 ICB 組み合わせの complete response (CR) 率を MMRd (MSH2 KO) および MMRp (WT) CT26 CRC モデルで比較した (Table S1、Fig 4B, 4D; N=5–20 per arm)。MMRd では抗 PD-1 + 抗 TIM-3 が 25% CR、抗 PD-1 + 抗 TIGIT が 12% CR、抗 PD-1 + 抗 LAG-3 が 59% CR、抗 PD-1 + 抗 LAG-3 + 抗 CTLA-4 が 71% CR を示した。TREM2 を標的に加えた抗 PD-1 + 抗 TREM2 は 20% CR、抗 PD-1 + 抗 LAG-3 + 抗 TREM2 は 50% CR であった。最も優れた奏効は抗 PD-1 + 抗 LAG-3 + 抗 CTLA-4 + 抗 TREM2 の 4 剤併用 (各抗体 100 μg 週 2 回) で、MMRd CRC において 100% CR、MMRp CRC において 73% CR を達成した (Fig 4B, 4D)。この 4 剤療法は B16F10 および 4T1 モデルでも有効であり、scRNA-seq・空間 RNA-seq では TREM2+ SPP1+ 免疫抑制マクロファージの減少と TCF+ T 細胞・MHC+ マクロファージの増加が示された (Fig 5A, 5B)。MSH2 KO 腫瘍を完全に消滅させたマウスは全例 (N=5) が 2 回目の腫瘍移植に対し拒絶を示し、持続的な抗腫瘍免疫記憶の形成が確認された (Fig 4E)。また Tawbi et al. NEnglJMed 2022 が示した LAG-3 阻害の有用性とも整合し、T 細胞-骨髄系細胞の協調的ターゲティングが奏効改善につながることが示唆された。
機械学習モデルによるヒトMMRd CRC患者のICB奏効予測:
N=9 患者の MMRd CRC scRNA-seq データを訓練データとして Random Forest および Gradient Boosting アルゴリズムを適用し、N=10 患者の独立したコホートで ICB 奏効/非奏効を予測したところ 87.5% の正確度 (accuracy = correct predictions/total predictions) が得られた (Fig 3F)。奏効予測に最も寄与したシグナルは TREM2+ 免疫抑制マクロファージの存在、LAG-3・TIM-3 を発現する CD8+ T 細胞の割合、および MHC+ C1Q+ マクロファージ密度であった。加えて、別の 2 つのヒト CRC コホートの変異データ解析でも、非奏効例の大多数が microsatellite stable (MSS) 状態であることを確認し、機械学習でそれら患者の ICB 予測が可能であることを示した (Fig S13)。
考察/結論
① 先行研究との違い:本研究は、従来ほぼ ICB 不応とされてきた MMRp 腫瘍でも 4 剤併用により 73% という高い CR 率が得られることを初めて示した点において、これまでの「MMRp = 免疫療法抵抗性」という概念と異なる知見を提供する。また、多くの先行研究が T 細胞の疲弊シグナルや腫瘍細胞の抗原提示喪失を耐性の主因として強調してきたのに対照的に、本研究は TREM2+ マクロファージが T 細胞排除ゾーンを物理的に形成するという骨髄系細胞主導の空間的耐性機構を体系的に実証した点が独自である。Andre et al. NEnglJMed 2020 が示した MMRd での抗 PD-1 単剤有効性と比較すると、TREM2 遮断を加えることで到達可能な CR 率が一段階高まることが示された。
② 新規性:本研究で新規に示されたのは、(1) TREM2+ マクロファージが T 細胞排除ゾーンを積極的に形成し CRC 免疫耐性を主導することの機能的証明、(2) 抗 PD-1/LAG-3/CTLA-4/TREM2 の 4 剤が MMRd・MMRp 両腫瘍で前例のない高率の完全腫瘍消滅を達成すること、(3) 治療前の scRNA-seq 免疫プロファイルから機械学習により ICB 奏効が 87.5% の精度で予測可能なこと、の 3 点である。TREM2 遮断を含む多剤 ICB が免疫記憶をも誘導することも新規な知見であり、本研究で初めて大腸がんで実証された。
③ 臨床応用:本研究の知見は、大腸がん臨床現場において TREM2 を標的とした抗体薬を既存 ICB に上乗せする新たな治療戦略の根拠を提供する。特に MMRp CRC は現状 ICB 適応外であるが、4 剤併用が 73% CR を達成した本データは、TREM2 遮断を含む多剤 ICB の臨床試験を MMRp 患者でも進める translational な合理性を示す。さらに、機械学習による治療前奏効予測は患者選択を精緻化し、不必要な多剤毒性を避けながら奏効が期待できる集団を同定する精密医療としての臨床的意義がある。
④ 残された課題:今後の研究として、第一に本研究はマウスモデルと小規模ヒトコホート (N=9-10) に基づくものであり、臨床的安全性・有効性の確認には大規模 Phase I/II 試験が必要である。第二に、C1Q シグナチャーは抗 PD-1 後に上昇するが 4 剤併用後に低下するという逆説的挙動の解釈は未解決のままであり、C1Q+ マクロファージの抗腫瘍/免疫抑制的役割の時間的変化について更なる検討が求められる。第三に、機械学習モデルの訓練・検証コホートがともに小規模であるため、独立した多施設前向きコホートでの外的妥当性の確認が今後の課題である。
方法
CT26 細胞株において CRISPR で MSH2 をノックアウトした MMRd 相当モデル (MSH2 KO) および親株 wild-type (WT) の MMRp 相当モデルを BALB/c マウスに盲腸内あるいは皮下に移植した。比較対照として B16F10 (メラノーマ)、4T1 (乳がん)、MC38 (大腸がん) も用いた (N=5–20 per arm)。腫瘍移植 14 日後から抗 PD-1 (100 μg 週 2 回) を開始し、T cell immunoglobulin and mucin domain 3 (TIM-3)、T cell immunoreceptor with Ig and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM) domains (TIGIT)、lymphocyte activation gene 3 (LAG-3)、CTLA-4、TREM2 に対する各抗体との組み合わせを評価した。腫瘍内免疫プロファイリングには scRNA-seq (N=3 replicates per condition)、空間トランスクリプトミクス、スペクトラルフローサイトメトリー (N=6–8 replicates)、3D 両光子イメージング、TCR プロファイリングを用いた。ヒトコホートでは既報の MMRd colorectal cancer (CRC) 患者 scRNA-seq データ (N=9 患者) を再解析し、さらに N=10 患者の ICB 奏効/非奏効データに Random Forest および Gradient Boosting アルゴリズムを適用した。統計解析は Mann-Whitney U 検定 (p<0.05 を有意とし、データは mean ± SEM で示す)。