• 著者: Maria Nogales-Pons, Mariola Munárriz-Paños, Teresa Aceña-Gonzalo, María Casanova-Acebes
  • Corresponding author: María Casanova-Acebes (Cancer Immunity Laboratory, Tumor Biology Program, Spanish National Cancer Research Center (CNIO), Madrid, Spain)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-03-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 41817450

背景

固形腫瘍の微小環境(TME: Tumor Microenvironment)には、骨髄由来の好中球、単球、マクロファージなどの骨髄系細胞が高度に集積している。これらの細胞は、腫瘍細胞やストローマ細胞が分泌するサイトカインやケモカインによって動員され、本来の恒常性維持機能から、腫瘍成長を促進するプロ腫瘍的活動へと急速にリプログラミングされる。例えば、プロ腫瘍性好中球は好中球細胞外トラップ(NETs)の形成能や活性酸素種(ROS)産生能を高め、血管新生を促進する。一方、プロ腫瘍性マクロファージは高度に糖分解的な代謝状態へと移行し、抗原提示能や貪食能が低下する一方で、組織再構築プログラムを活性化させ腫瘍の進行を助長する。

これまで、骨髄系細胞の多様性は主に細胞数や大まかな免疫抑制表現型として定量的に評価されてきた。しかし、個々の遺伝的変異がどのように骨髄系細胞の機能的多様性を規定するのか、また、腫瘍内の空間的なニッチや時間的な制御(概日リズムなど)がどのようにこれらの細胞状態を形作っているのかという詳細なメカニズムについては、依然として未解明な点が多く、包括的な理解が不足している。特に、単一の治療アプローチが異なる癌種で異なる結果を示す(例:TREM2阻害の有効性が癌種間で異なる)ことは、骨髄系細胞の多様性を規定する因子の複雑さを示唆しており、これらを統合的に解析する視点が課題として残されている。したがって、最新の単細胞オミクスや空間トランスクリプトーム解析を用いて、遺伝子、場所、時間の3軸から骨髄系細胞の多様性を再定義する必要がある。

目的

本レビューの目的は、腫瘍内における骨髄系細胞(特に好中球とマクロファージ)の機能的多様性が、どのような要因によって制御されているかを包括的に論じることである。具体的には、(1) TP53, KRAS, PI3K/PTEN などの主要な癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子の変異が、骨髄系細胞の動員と表現型に与える影響を明らかにすること、(2) 腫瘍内の低酸素領域や壊死領域などの空間的ニッチが、骨髄系細胞の機能的分化や局在をどのように規定するかを解析すること、(3) 骨髄における緊急造血(Emergency Myelopoiesis)や訓練免疫(Trained Immunity)、およびBMAL1を中心とした概日リズム(Circadian Rhythms)が、骨髄系細胞の成熟、トラフィッキング、およびエフェクター機能に与える時間的影響を統合することである。これらの知見を統合することで、個々の腫瘍の遺伝的・空間的・時間的特性に基づいた、次世代のパーソナライズされた骨髄系細胞標的治療戦略の基盤を提示することを目指す。

結果

本レビューでは、最新の知見に基づき、骨髄系細胞の多様性を規定する3つの主要軸について詳述する。

遺伝的変異による骨髄系細胞の多様化: 腫瘍の変異プロファイルは、分泌されるケモカインの種類を変化させ、動員される骨髄系細胞の表現型を決定する。TP53の喪失(特にヒトの R175H 変異)は、膵管腺癌(PDAC)において CXCL1, CXCL5, CCL2 の発現を上昇させ、NF-κB 経路を介して好中球と単球の動員を促進する。また、乳癌の 16 種類の遺伝子組み換えマウスモデル(GEMM)において、Trp53 欠損は CCL2, IL-1, IL-17A, G-CSF の発現を高め、cKIT [+] の未熟好中球(immNeus)の循環数を増加させることが示された。PIK3CA [H1047R] 変異を持つ大腸癌(CRC)モデルでは、Csf1, Ccl2, Ccl7 の過剰発現により、CCR2, Arg1, IL-1β を発現する免疫抑制性骨髄系細胞が濃縮される。PTEN 欠損は前立腺癌(PCa)において Ly6G [+] 細胞の動員を増やし、特に SPP1 [+] マクロファージ(TAMs)の出現を誘導して anti-PD1/anti-CTLA4 療法の耐性を惹起する。KRAS 変異(特に G12D)は、肺癌において F4/80 [+] MPO [+] マクロファージの浸潤を増やし、C1qa, C1qb, C1qc, Mrc1, Csf1r などの補体関連遺伝子を上昇させる。また、PDAC の 90% 以上で認められる KRAS 変異は、CD163 [+] LYVE1 [+] 組織常在性マクロファージ(TRMs)の拡大を誘導する (Table 1)。LKB1 の不活化は NSCLC 患者の 20% で認められ、IL-6, IL-8, CXCL1, CXCL8 の産生を促し、好中球の動員を増加させる (Fig 1A)。

空間的ニッチによる機能的分化: 骨髄系細胞は腫瘍内の局在に応じて異なる機能状態へと分化する。PDAC において、好中球は 3 つのサブセットに分かれる。T1(Ly6G [+] CD101 [−] dcTRAIL-R1 [−])は代謝活性が高く、T2(Ly6G [+] CD101 [+] dcTRAIL-R1 [−])は ROS や IFN-I 関連遺伝子を発現し、T3(Ly6G [+] CD101 [−/+] dcTRAIL-R1 [+])は低酸素、血管新生、糖分解に関連するシグネチャーを持ち、壊死領域や低酸素領域に局在する (Fig 1B)。また、CCL3 [HI] 好中球も低酸素ニッチに蓄積し、CCL3-CCR1 オートクリンループを介して生存し、anti-PD-1 療法への耐性を誘導する。TNBC では、壊死領域に Ly6C [LO] 好中球が蓄積し、フィブリンや基底膜成分への接着を通じて血栓炎症性の血管閉塞を引き起こし、腫瘍コアの壊死を永続させる。マクロファージにおいても、PDAC では IL-1β 発現 TAMs が血管豊富な炎症・低酸素領域に位置し、一方で lipid-laden macrophages (LLMs) は腫瘍辺縁部に優先的に分布する。NSCLC では、早期腫瘍では CD206, CD169 発現 TRMs が癌細胞近傍に存在するが、進行期にはこれらが辺縁部へ移動し、肉芽腫様構造を形成する。GBM では、マイクログリアが前進端(leading-edge)に、CCR2 [+] および Ki67 [+] MDMs が血管近傍に、EB1 [+] および Ki67 [+] MDMs が前進端に局在するという高度な空間的分層が認められる。

時間的制御と骨髄造血のリプログラミング: 骨髄系細胞の機能は、概日リズム(CRs)によって時間的に制御されている。BMAL1 などのコアクロックタンパク質は、マクロファージの phagocytosis, cytokine production, ROS generation を制御しており、BMAL1 欠損はこれらの反応を損なわせ、敗血症への感受性を高める。好中球においては、PER2 が hmgb1a の発現を介して ROS 産生と細菌殺傷能を制御しており、この活性は明期(light phase)にピークとなる。また、BMAL1 制御下の CXCL2 は CXCR2 依存的な日内変動を誘導し、夜間に好中球の血管外遊出を促進して組織内での抗菌活性を高める。治療タイミングの影響として、NSCLC 患者において anti-PD-1 療法を早朝(≤11 a.m.)に投与した群では、正午以降に投与した群と比較して、median PFS が 11.3 vs 5.7 months、median OS が 28.0 vs 16.8 months と有意に改善し、循環 CD8 [+] T 細胞レベルの上昇が認められた。

さらに、骨髄での緊急造血(EM)が腫瘍進行に関与している。乳癌モデルでは、非転移性腫瘍であっても Lin [−] Sca-1 [+] c-Kit [+] HSCs(特に MPP3)を拡大させ、Mpo, Cebpb, Elane, Ctsg などの骨髄系遺伝子をアップレギュレートする。また、訓練免疫(TI)により、BCG や β-glucan 刺激を受けた HSPCs はエピジェネティックにリプログラミングされ、IFN-I 応答能や ROS 産生能を高めた好中球やマクロファージを生成する。例えば、β-glucan はヒト単球において H3K27ac マークなどのヒストンアセチル化を増加させ、IL-6, TNF-α の産生能を高める。CHIP(Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential)変異、特に TET2 や DNMT3A 変異は、自己複製能を高めた HSCs のクローン増殖を誘導し、IL-1β, TNF-α, IL-6 を分泌することで炎症性ループを形成し、骨髄系への分化バイアスを強化する (Fig 2)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の骨髄系細胞研究は、主に腫瘍浸潤細胞の数や「M1/M2」といった単純な二分法的な表現型に焦点を当てていた。これと異なり、本レビューでは、単細胞・空間オミクスデータを統合し、遺伝的変異、空間的ニッチ、および概日リズムという3つの独立した軸が、どのように相互作用して骨髄系細胞の機能的状態を決定しているかを包括的に提示した。特に、好中球における T1-T3 という代謝・機能的サブセットの定義や、投与時間による治療効果の変動は、静的な解析では得られない動的な視点を提供している。

新規性: 本レビューでは、骨髄系細胞の多様性が単なる腫瘍内での適応ではなく、骨髄における緊急造血や訓練免疫、さらには CHIP によるクローン性造血といった「上流の教育」によってあらかじめ規定されている可能性を新規に強調した。また、BMAL1 を介した概日リズムが、単なる時間的な変動ではなく、代謝(ミトコンドリア機能)と免疫応答(CD8 T 細胞浸潤)を連結する「免疫代謝チェックポイント」として機能していることを示した点は、これまで報告されていない統合的な視点である。

臨床応用: これらの知見は、骨髄系細胞を標的とした治療の臨床応用に直接的な示唆を与える。例えば、SPP1 [+] TAMs をバイオマーカーとして A2AR アゴニスト(ciforadenant)を併用する戦略や、IL-1β-IL-1R 軸を遮断して骨髄での異常な造血を正常化させるアプローチが考えられる。また、ICB の投与時間を患者のクロノタイプに合わせて最適化する「クロノ・イムノセラピー」は、副作用(irAEs)を軽減しつつ生存率を向上させるtranslational な戦略として期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、個々の患者における最適な投与タイミングを決定するための、臨床的に利用可能なクロノタイプ・バイオマーカーの同定が挙げられる。また、limitation として、多くの知見がマウスモデルに基づいていることがあり、ヒトにおける概日リズムの正確な同期メカニズムや、CHIP 変異が個々の癌種でどのように骨髄系細胞の機能に寄与するかを、ヒトサンプルを用いた縦断的解析で検証することが不可欠である。

方法

本論文は、最新の学術論文、レビュー、および臨床試験データを統合した包括的なレビューである。情報の収集には、PubMed, Embase, Cochrane, Web of Science などの主要なデータベースを用いた検索が行われた。特に、単細胞 RNA シーケンシング(scRNA-seq)、空間トランスクリプトーム(Spatial Transcriptomics)、および ATAC-seq を用いた最新の解析結果を重点的に抽出した。

解析対象としたモデル系には、C57BL/6J などの標準的なマウス系統のほか、Kras [G12D]; Trp53 [R172H/+] PDAC モデル、MMTV-PyMT 乳癌モデル、および KEP (K14 [Cre]; Cdh1 [fl/fl]; Trp53 [fl/fl]) などの遺伝子組み換えマウスモデルが含まれている。また、MC38 大腸癌細胞株などの cell line を用いた in vitro 試験の結果も参照された。

統計的な解釈については、原典論文で用いられている Kaplan-Meier 法による生存解析、ログランク検定(log-rank test)、および Cox 回帰分析などの手法に基づき、PFS や OS の有意性を評価した。また、単細胞解析におけるクラスター同定や擬時間解析(pseudotime analysis)の結果を基に、骨髄系細胞の分化軌跡を考察した。