- 著者: Garth Lawrence Burn, Tobias Raisch, Sebastian Tacke, Moritz Winkler, Daniel Prumbaum, Stephanie Thee, Niclas Gimber, Stefan Raunser, Arturo Zychlinsky
- Corresponding author: Stefan Raunser (Max Planck Institute of Molecular Physiology, Dortmund, Germany), Arturo Zychlinsky (Max Planck Institute for Infection Biology, Berlin, Germany)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-09-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 40963017
背景
NETs (好中球細胞外トラップ, neutrophil extracellular traps) は感染防御・凝固・自己免疫・がんに関与するクロマチン由来の細胞外構造体であり、その形成 (NETosis) にはクロマチンの脱凝縮と核外放出が不可欠である (Brinkmann et al. Science 2004)。NETosisはPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate)・ナイジェリシン・MSU (monosodium urate) 結晶・PVL (Panton-Valentine leukocidin) など多彩な刺激によりROS (reactive oxygen species) 依存性または非依存性の経路で誘導され、1-4時間以内に核クロマチンの脱凝縮・細胞膜破裂・DNAの細胞外放出が生じる (Fuchs et al. JCellBiol 2007)。NETs上には免疫関連タンパク質が豊富に結合し、これらがNETs機能を修飾することが知られているが、タンパク質がどのような分子機序でNETsと相互作用するかの詳細は不明であった (Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018)。
MPO (ミエロペルオキシダーゼ, myeloperoxidase) は好中球乾燥重量の最大5%を占める高発現ヘム-シクロオキシゲナーゼペルオキシダーゼであり、HOCl (hypochlorous acid, 次亜塩素酸) などのハロゲン酸を産生して細菌を殺傷する抗菌酵素として機能する。MPOはプレプロ酵素として産生・切断されてheavy chain-light chain二量体 (モノマー) を形成し、さらに単一ジスルフィド結合でダイマーを構成する。血漿中にはモノマーとダイマーの両形態が存在し、触媒活性は両形態で同等であることが既報で示されていた。
MPOはNETs上に結合することが知られており、NETosis誘導においても役割を果たすことが示唆されていたが、MPO欠損好中球がNETs形成能を完全に失う原因として、触媒活性とは独立したクロマチン解体機能の存在が示唆されていた。しかし、MPOがヌクレオソームとどのような原子レベルの相互作用を持ち、どのようにクロマチン脱凝縮を物理的に駆動するかという gap in knowledge が残されていた。ヌクレオソームのアシッドパッチ (acidic patch) はH2A-H2B間の酸性残基クラスター (H2A Glu [glutamate] 56/Glu61/Glu64/Asp [aspartate] 90/Glu91/Glu92・H2B Glu105/Lys [lysine] 113) で形成されるクロマチン制御タンパク質の重要な結合面であるが、MPOがこれを利用するか否かは不足している知識であった。
目的
MPOがNETs形成のためにクロマチンを物理的に解体する分子機序を単粒子クライオ電子顕微鏡 (cryo-EM, cryo-electron microscopy) 構造解析と生化学実験で原子レベルに解明し、MPOのダイマー (dimer) とモノマー (monomer) 形態の構造的差異が機能分業 (クロマチン解体vs.NETs上での安定結合) を規定するメカニズムを明らかにする。
結果
MPOはNETsフィラメント上でヌクレオソームと100-300 nm間隔で周期的に共局在する:STED・STORM・SIM三種の超解像顕微鏡でPMA (100 nM、4時間) またはナイジェリシン (20 μM) 刺激後のNETsフィラメントを解析したところ、MPOは連続分布ではなく100-300 nm間隔の規則的な周期分布を示した (STORM n=10独立実験、1,143 NETフィラグメント解析) (Fig 1b-d)。この周期分布パターンはヌクレオソームマーカー (H2A-H2B-DNA複合体認識抗体PL2.3、H3 NETs特異的ネオ抗原認識抗体3D9) の周期分布と高度に重なり、デュアルカラーSIM/STEDによる相互相関解析でMPOとヌクレオソームの正の相関が確認された (n=3実験、8,059フィラグメント解析) (Fig 1e,f)。ミクロコッカルヌクレアーゼ消化後のNET単核ヌクレオソームをショ糖密度勾配 (10-30%) 分画すると、MPO・ヒストン・140 bp DNAが同一画分に共移行し (n=4実験) (Fig 1g)、MPO免疫沈降でヒストンが共沈 (n=5実験) したが、DNase I前処理でこの相互作用は消失した (Fig 1h)。PVL毒素・MSU結晶刺激NETs (Extended Data Fig 2, 3a) でも同様のMPO-ヌクレオソーム共局在が確認された。
cryo-EM 3.8 Å構造によるMPO-アシッドパッチ二点接触機構の解明:rMPO-ヌクレオソーム複合体のcryo-EM構造 (3.8 Å) により、MPOモノマーがH2A-H2Bアシッドパッチに二点のアルギニンアンカーで結合する精密な分子機序が解明された (Fig 2)。アルギニンアンカー1 (Arg [arginine] 473) は正準Arg anchor 1サイトに深く挿入し、H2A残基Glu61・Asp90・Glu92と水素結合を形成し、H2A Leu (leucine) 65・H2B Leu103との疎水性相互作用でさらに安定化される。アルギニンアンカー2 (Arg653) はH2A Glu56と相互作用し、隣接するLys (lysine) 654がH2B Glu110と水素結合を形成する。補助界面としてMet (methionine) 688・Arg691・Gln (glutamine) 692がヒストンH3のα1L1エルボー (Gln76・Asp77・Thr [threonine] 80) に接触した。MPOの活性中心はヌクレオソーム結合面と反対側を向いており、触媒阻害剤ABAH (4-aminobenzoic acid hydrazide) やアジ化ナトリウム添加でゲルシフトに影響がないことから、触媒活性はヌクレオソーム結合に不要と確認された (Fig 1i)。数十の既知アシッドパッチ結合タンパク質 (Sir3 (silent information regulator 3) BAH (bromo-adjacent homology) domain・DOT1L (DOT1-like histone methyltransferase)・KSHV (Kaposi’s sarcoma-associated herpesvirus) LANA (latency-associated nuclear antigen) ペプチド・RCC1 (regulator of chromosome condensation 1) など) との比較から、MPOは類似のArg anchor配置 (anchor 1位のArg側鎖配向はH2A Glu61/Leu65/Asp90/Glu92およびH2B Leu103と高度に一致) を収斂進化的に獲得した独立なアシッドパッチ結合因子であることが示された (Fig 2c,d, Extended Data Fig 4)。
MPOダイマーがDNA末端12 bpを選択的に転位させてヌクレオソームを解体する:ストレプトアビジンプルダウンアッセイでは、MPOダイマーが用量依存的にビオチン化ヌクレオソームのDNA-ヒストン分離を引き起こしたが、rMPO (モノマー) は高濃度でもほとんど解体活性を示さなかった (Fig 3a)。cryo-EM時系列解析 (15秒〜20分) では、15秒時点でダイマーのみがDNA骨格への電荷相補的接触を介した「中間状態」として検出され (3.58 Å)、2分以降にはモノマー-ヌクレオソーム複合体が安定種として主体を占め、20分後にはダイマー-ヌクレオソーム複合体が消失した (Fig 3b,c)。GATC-DpnIIアッセイではMPOダイマー (1:1モル比) が1分以内にヌクレオソームDNA解体を開始し5-10分で反応が完了したのに対し、同条件のrMPOは微量の切断産物のみを示した (n=3実験) (Fig 4d)。MPOモノマー-ヌクレオソーム (2.9-3.0 Å) とMPOダイマー-ヌクレオソーム (3.1-3.9 Å) の構造比較 (r.m.s.d. [root mean square deviation] 0.71 Å over 1,016残基) では、ダイマー特異的に末端12 nucleotide pairsが転位・無秩序化しており、第二プロトマーのDNA末端との立体衝突がDNA解離を駆動することが構造的に証明された (Fig 4a,b)。DTT還元によりモノマー化したMPOは16倍過剰量でも有意なヌクレオソーム解体活性を示さず (Fig 4f)、アシッドパッチブロッカーPL2-6添加でGATC切断が完全に消失し (Extended Data Fig 8c)、アシッドパッチ結合がダイマー機能の必須前提条件であることが確認された。
CF患者痰でのin situ複合体確認とダイマー/モノマーの機能分業確立:PMA刺激好中球NETs (Titan Krios G3 300 kV、3.445 Å/pixel、TomoTwin 29,242粒子候補から1,548粒子選択) のcryo-ETサブトモグラム平均化 (31 Å) でヌクレオソーム様構造体の一側面に追加密度が観察され、in vitroのMPOモノマー-ヌクレオソーム複合体と類似した位置へのMPO共局在が示唆された (Fig 5a,b)。CF患者3例の痰 (慢性好中球性気道炎症でNETが豊富な環境) 由来NETs断片のMPO免疫沈降でヒストンが共沈し、DNase I前処理で消失したことから (n=3独立ドナー)、MPO-ヌクレオソーム複合体がin vivoのNETs中にも存在することが確認された (Fig 5c)。MPO欠損PLB-985細胞株はPMA (100 nM) 刺激後にNETs形成が不能であり (DNA放出・細胞外シトルリン化ヒストン消失)、MPOの非酵素的機能がNETosis必須であることが確認された。rMPOはNETsのDNA上に安定結合しつつ触媒活性 (HOCl産生) を保持することが確認され、ダイマー (NETosis中のクロマチン解体) とモノマー (成熟NETs上での安定結合+抗菌HOCl産生) の機能分業が機構的に確立された (Fig 5d)。
考察/結論
本研究は、MPOダイマーがヌクレオソームアシッドパッチへの二点接触 (Arg473-H2A Glu61/Asp90/Glu92、Arg653-H2A Glu56) を基盤として第二プロトマーでDNA末端12 bpと立体衝突することにより、ATP非依存的にヌクレオソームを解体してNETosisのクロマチン脱凝縮を駆動するメカニズムを原子レベルで解明した。これまでの研究でPAD4 (peptidylarginine deiminase 4) によるヒストンシトルリン化がNETs形成の主要な脱凝縮機序として位置づけられてきたが、本研究はMPOがそれとは独立した、より直接的な物理的クロマチン解体機序を持つことを明確に示した点で既報と対照的な知見である。
新規な 概念として、MPOは既知のATP依存性クロマチンリモデリング複合体とは根本的に異なり、エネルギー非依存的にヌクレオソームの動的「呼吸」平衡を解体方向へシフトさせる。ダイマーの第二プロトマーがDNA末端に電荷相補的に接触することでDNA解離への障壁を下げ、核内の過剰なダイマー活動をモノマーがアシッドパッチ占有によって競合的に制動する精妙な分子内制動機構も novel な発見である。これらの特性から、MPOは「クロマチンを複製・転写不能な免疫エフェクターに変換するタンパク質」という新クラスの初例として位置づけられる。同様の「クロマチン変換タンパク質」が壊死細胞由来DNAや他の免疫文脈でも存在しうるという概念は今後の研究方向を大きく拡げる。
臨床的意義 として、CF患者痰でのin situ MPO-ヌクレオソーム複合体確認は、NETs由来の気道炎症・粘液栓形成における本機構の病理学的関与を示す。Arg473・Arg653を標的にしたアシッドパッチ結合阻害薬は、触媒活性を残存させたまま過剰NETsを選択的に遮断する bench-to-bedside 戦略となりえる。また、DNase I吸入療法 (CF標準治療) がNETs-DNA分解を通じてMPO-ヌクレオソーム複合体を間接的に解消することが本研究で分子的に裏付けられた。さらに、MPO欠損の臨床定義を「触媒活性低下」のみから「アシッドパッチ結合・クロマチン解体能の障害」を含む包括的定義へ改訂すべきとの提言も重要な臨床的含意をもつ。
残された課題 として、細胞内でのMPOダイマー/モノマー比の動的調節機序と核内移行タイミングの制御因子の解明が必要である。また、がん・敗血症・自己免疫疾患などCF以外の病態でのMPO-NETs軸の具体的役割、MPO-アシッドパッチ阻害薬が抗菌免疫に与える影響プロファイル、そして「クロマチン変換タンパク質」クラスに属する他の未同定タンパク質の探索が今後の研究課題として挙げられる。cryo-EM解析上の limitation として、特定の分子種が試料中に少数しか存在しない場合には検出を逃す可能性があり、中間状態の全貌解明にはさらなる時系列解析が必要である。
方法
精製MPO (ダイマー主体、ヒト白血球由来、Sigma-Aldrich) および組換えrMPO (recombinant MPO; モノマー様、heavy-light chain融合タンパク質、RnD Systems) とHeLa細胞 (ATCC CCL-2) 由来モノヌクレオソームおよび再構成ヌクレオソーム (Xenopus laevis H2A/H2B/H3/H4・Widom-601 145 bp DNA) を用いてcryo-EM単粒子解析を実施した。rMPO-ヌクレオソーム複合体はサイズ排除クロマトグラフィー精製後にTalos Arctica 200 kVで4,573ミクログラフを収集し、cryoSPARC・RELIONによる処理を経て663,555粒子から3.8 Å分解能の構造を決定した。native MPO-ヌクレオソーム複合体は時系列 (15秒・2分・5分・10分・20分) での凍結プランジによりTitan Krios G2 300 kV (各時点~5,000-6,000ミクログラフ) で取得し、2.9-3.9 Å分解能で複数の分子種を分離精密化した。構造モデルはCOOT・PHENIXで構築・精密化し、MolProbityで品質検証した。
生化学的検証としてビオチン化ヌクレオソームのストレプトアビジンプルダウンアッセイでMPO/rMPOのヌクレオソーム解体活性を定量した。GATC制限酵素アッセイ (GATC部位をDpnIIが切断可能なのはDNA-ヒストン相互作用が解除された場合のみ) でヌクレオソーム解体動態を評価した (n=3実験)。DTT (dithiothreitol; 50 mM) 処理によりダイマーをモノマー化し、質量光度計 (mass photometry; Refeyn TwoMP) で4-6時間後に98%モノマー化を確認後、GATCアッセイでダイマー必須性を検証した。アシッドパッチブロッキング一本鎖抗体PL2-6を用いてアシッドパッチ結合の必要性を確認した。超解像顕微鏡 (STED, stimulated emission depletion microscopy; STORM, stochastic optical reconstruction microscopy; SIM, structured illumination microscopy) でNETsフィラメント上のMPO分布を解析し、自己相関解析で周期距離を定量した (STED n=3実験・8,059 NETフィラグメント解析、STORM n=10実験・1,143 NETフィラグメント解析)。クライオ電子断層撮影 (cryo-ET, cryo-electron tomography) でPMA刺激NETs中のヌクレオソームをTomoTwinによる深層距離学習ベースの粒子ピッキングで解析し、31 Å分解能でサブトモグラム平均化を行った (1,548粒子)。嚢胞性線維症 (CF, cystic fibrosis) 患者3例の痰由来NETs断片はMPO免疫沈降・ウエスタンブロットで解析した。MPO欠損PLB-985細胞株 (female; DSMZ ACC 139; RRID: CVCL_2162) をPMA (100 nM) で刺激しNETosis形成能を評価した。統計解析はGraphPad Prism 9 (GraphPad Software, San Diego, CA) を用い、2群間比較にはStudent非対応t検定 (unpaired two-tailed t-test)、複数群比較には一元配置分散分析 (one-way ANOVA) およびTukey事後検定を実施した。P < 0.05を統計学的有意差ありとした。