• 著者: Thomas Condamine, George A. Dominguez, Je-In Youn, et al., Dmitry I. Gabrilovich (senior)
  • Corresponding author: Dmitry I. Gabrilovich (Wistar Institute, Philadelphia, PA 19104, USA; dgabrilovich@wistar.org)
  • 雑誌: Science Immunology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-08-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28417112

背景

Myeloid-derived suppressor cells (MDSC)は、腫瘍微小環境において免疫抑制を誘導し、がんの進行に深く関与する細胞集団である。MDSCは主に、多形核MDSC (PMN-MDSC)と単球性MDSC (M-MDSC)の2つの主要なサブセットに分類されることが知られている (Gabrilovich 2009 Nat Rev Immunol)。PMN-MDSCは、CD15、CD11b、CD66bなどの表面マーカーを発現し、形態的にも成熟好中球と非常に類似しているため、表現型のみで両者を区別することは困難であった。これまでの研究では、PMN-MDSCと正常好中球の区別は、アルギナーゼ1 (ARG1)や活性酸素種 (ROS)、誘導型一酸化窒素合成酵素 (NOS2)の産生、T細胞抑制活性といった生化学的機能によってのみ可能であった (Dumitru 2012 J Cell Mol Med, Youn 2012 Eur J Cancer, Movahedi 2008 Blood)。

しかし、PMN-MDSCを特異的に同定できる単一の表面マーカーが不足していることが、その生物学的理解、臨床応用、および治療標的化の大きな律速要因となっていた。密度勾配遠心法(例えばFicoll-Hypaque)を用いることで、低密度顆粒球 (LDG) 画分にPMN-MDSCを濃縮することは可能であったが、この方法では正常好中球との完全な分離は達成されず、PMN-MDSC集団の不均一性が課題として残されていた。また、腫瘍組織内におけるPMN-MDSCと正常好中球の区別は、さらに困難であった。

先行研究では、MDSCの蓄積が様々な癌種において不良な臨床転帰と関連することが示されており (Messmer et al. 2015 Cancer Immunol Immunother)、キナーゼ阻害剤、化学療法、免疫療法に対する抵抗性にも関与することが報告されている (Finke et al. 2011 Int Immunopharmacol, Liu et al. 2010 J Cancer Res Clin Oncol, Meyer et al. 2014 Cancer Immunol Immunother)。これらの背景から、ヒトPMN-MDSCの特異的なマーカーを同定し、その誘導メカニズムを解明することは、がん免疫学における重要な未解明の課題であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、非小細胞肺癌 (NSCLC)、頭頸部癌 (HNC)、結腸癌、多発性骨髄腫患者と健常ドナーの末梢血および腫瘍組織におけるPMN-MDSCの遺伝子発現プロファイルと免疫抑制機能を詳細に解析した。

目的

Wistar InstituteのGabrilovichグループは、がん患者におけるPMN-MDSCの不均一性と特異的マーカーの欠如という課題に対し、以下の目的を設定した。

  1. ヒトPMN-MDSCの特異的表面マーカーの同定: 健常ドナーの好中球と比較して、がん患者のPMN-MDSCに特異的に発現する表面マーカーを特定する。特に、密度勾配遠心法で分離した低密度PMN-MDSCと高密度好中球の全ゲノムマイクロアレイ解析を通じて、差次的に発現する遺伝子 (DEG) を同定する。
  2. LOX-1 (OLR1遺伝子産物) のPMN-MDSC特異性の検証: 同定された候補マーカーの中から、特に酸化LDL受容体1 (LOX-1) に着目し、そのPMN-MDSCにおける特異的発現、T細胞抑制機能との関連性、およびその臨床的意義を解析する。
  3. 小胞体ストレス (ER stress) 経路によるLOX-1誘導機構の解明: LOX-1の発現が小胞体ストレス応答経路 (PERK/ATF6/IRE1α/XBP1) によって制御される可能性を検証し、健常ドナーの好中球にERストレスを誘導することでLOX-1発現と免疫抑制活性が獲得されるかを確認する。
  4. 腫瘍組織および進行期がんにおけるLOX-1陽性PMN-MDSCの頻度と臨床相関の確立: 非小細胞肺癌、頭頸部癌、結腸癌、多発性骨髄腫患者の末梢血および腫瘍組織におけるLOX-1陽性PMN-MDSCの頻度を評価し、疾患の進行度や腫瘍サイズとの関連性を確立する。

結果

LOX-1はヒトPMN-MDSCの特異的表面マーカーである: 健常ドナー16名の末梢血好中球におけるLOX-1陽性細胞の割合は非常に低く、平均0.7% (範囲0.1~1.5%) であった。これは、LOX-1が正常好中球ではほとんど発現していないことを示唆する。一方、がん患者の末梢血ではLOX-1陽性好中球が有意に増加しており、NSCLC患者20名で4.9% (p<0.001)、HNC患者21名で6.4% (p<0.0001)、結腸癌患者19名で6.5% (p=0.0035) であった (Fig. 2F)。これらの癌種では、患者の75%以上が健常ドナーの範囲を超えるLOX-1陽性好中球の増加を示した。炎症性疾患(好酸球性食道炎6名、潰瘍性大腸炎3名、クローン病7名)患者では、クローン病患者でのみわずかな増加が認められたが、がん患者ほどの顕著な増加ではなかった (Fig. 2G)。これらの結果は、LOX-1ががん患者におけるPMN-MDSCの明確なマーカーとして機能することを示している。

LOX-1陽性好中球はT細胞抑制活性とPMN-MDSCの生化学的特徴を示す: がん患者の末梢血から直接分離したLOX-1陽性好中球 (LOX-1+ PMN) は、同種混合リンパ球反応 (MLR) においてT細胞増殖を有意に抑制した (p<0.001)。一方、LOX-1陰性好中球 (LOX-1- PMN) には抑制活性が認められなかった (Fig. 3D)。この抑制活性は、ROSスカベンジャーであるN-アセチルシステイン (NAC) およびカタラーゼによって部分的に減弱し、ARG1阻害剤であるnor-NOHAによって完全に消失した (Fig. 4A, B)。このことから、LOX-1+ PMNの免疫抑制活性は主にARG1とROSに依存することが示された。LOX-1+ PMNはLOX-1- PMNと比較して、ROS産生が有意に高く (Fig. 3F、n=7 patients)、ARG1およびNOS2のmRNA発現も有意に高かった (Fig. 3G、n=6 patients)。しかし、LOX-1中和抗体はLOX-1+ PMNの抑制活性に影響を与えなかったことから (Fig. 3E、n=2 patients)、LOX-1自体は抑制機能に直接関与する受容体ではなく、PMN-MDSCのサロゲートマーカーとして機能することが示唆された。

LOX-1陽性PMNはPMN-MDSC特有の遺伝子発現プロファイルとERストレス応答を示す: LOX-1+ PMNとLOX-1- PMNの全ゲノムマイクロアレイ解析により、639個の遺伝子が有意に差次発現していることが明らかになった (FDR < 5%, fold > 2)。これらの遺伝子発現パターンに基づくと、LOX-1+ PMNは従来の密度勾配遠心法で分離されたPMN-MDSCとクラスターを形成し、LOX-1- PMNは健常ドナーおよび患者の正常好中球と類似したプロファイルを示した (Fig. 3B)。LOX-1+ PMN-MDSCでは、ERストレス関連遺伝子 (spliced XBP1 (sXBP1), ATF4, ATF3, SEC61a) および免疫抑制関連遺伝子 (ARG1, NOS2) の発現が有意に上昇していた (Fig. 4D)。特に、ERストレスセンサーの1つであるsXBP1経路の活性化が顕著であった。

ERストレスがLOX-1の発現とPMN-MDSC機能の誘導を駆動する: 健常ドナーの好中球をERストレス誘導剤であるタプシガルギン (THG, 1 μM) またはジチオスレイトール (DTT, 2 mM) で一晩処理すると、LOX-1の発現が著明に上昇し (Fig. 4E)、これらの好中球はT細胞抑制活性を獲得した (p<0.01) (Fig. 5A、n=3 experiments)。これは、健常好中球がERストレスによってPMN-MDSC様の表現型と機能を獲得しうることを示している。さらに、sXBP1の選択的阻害剤であるB-I09 (20 μM) は、THGによるLOX-1発現の上昇とT細胞抑制活性の獲得の両方を阻害した (p<0.01) (Fig. 5B, C、n=3 donors)。この結果は、ERストレス-XBP1軸がLOX-1発現およびPMN-MDSC機能誘導の分子基盤であることを強く示唆している。

腫瘍組織におけるLOX-1陽性PMN-MDSCの蓄積と臨床パラメータとの相関: HNCおよびNSCLC患者の腫瘍組織におけるLOX-1+ PMN-MDSCの割合は、同一患者の末梢血と比較して3倍以上高かった (p<0.001) (Fig. 6B)。多発性骨髄腫患者の骨髄においても、LOX-1+ PMN-MDSCの割合は末梢血の3~4倍であった (p=0.004) (Fig. 6C)。免疫蛍光二重染色により、結腸癌、HNC、NSCLCの腫瘍組織において、LOX-1+ CD15+ PMN-MDSCの数が健常組織と比較してそれぞれ8-fold、10-fold、約8-fold増加していることが確認された (Fig. 6F)。これは、腫瘍微小環境がLOX-1+ PMN-MDSCの拡大に重要な役割を果たすことを示している。 また、NSCLC患者において、進行期 (III/IV期) の患者の85.7%がLOX-1+ PMN-MDSCの増加を示したのに対し、早期 (I/II期) の患者では50%であった (Fig. 7E)。腫瘍サイズとの関連では、大型腫瘍 (T2-T3) を有する患者でのみLOX-1+ PMN-MDSCが有意に増加しており、小型腫瘍 (T1) の患者では健常ドナーと同程度の低いレベルであった (Fig. 7F)。これらのデータは、LOX-1+ PMN-MDSCの誘導が腫瘍の進行度やサイズに依存することを示唆している。

考察/結論

本研究は、ヒトPMN-MDSCの不均一性という長年の課題に対し、LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor-1) がヒトPMN-MDSCの特異的な表面マーカーであることを初めて同定した画期的な成果である。これまで、PMN-MDSCは成熟好中球と表現型が類似しており、明確な単一マーカーが不足していたため、その生物学的理解や臨床応用が制限されていた。本研究は、LOX-1の発現がPMN-MDSCの機能的状態と密接に関連し、正常好中球とは異なる独自の遺伝子発現プロファイルを持つことを明確に示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、PMN-MDSCと正常好中球の区別は、密度勾配遠心法による部分的な濃縮と、ARG1やROS産生といった生化学的機能に依存していた。本研究は、これらの細胞を直接区別できる表面マーカーLOX-1を同定した点で、これまでと異なり、PMN-MDSC研究の大きな進展をもたらした。また、マウスPMN-MDSCではLOX-1の発現が認められなかったことから、ヒトとマウスでLOX-1の発現制御が異なる可能性が示唆され、ヒトPMN-MDSC研究の重要性が強調される。

新規性: 本研究で初めて、LOX-1がヒトPMN-MDSCの特異的マーカーであることを同定し、その誘導が小胞体ストレス (ERストレス) 応答経路、特にXBP1軸によって制御されることを明らかにした。健常ドナーの好中球にERストレスを誘導することで、LOX-1発現と免疫抑制活性が獲得されるという発見は、PMN-MDSCの病理学的活性化メカニズムに関する新規の洞察を提供する。ERストレスは、腫瘍微小環境における低酸素や栄養欠乏などのストレス条件によって誘導されることが知られており、この経路がPMN-MDSCの機能獲得に重要な役割を果たすことが示唆される。

臨床応用: 本研究の知見は、PMN-MDSCの臨床的定量化と治療標的化に大きな臨床的意義を持つ。LOX-1をマーカーとして用いることで、フローサイトメトリーによりがん患者の末梢血および腫瘍組織中のPMN-MDSCを直接的かつ高精度に同定することが可能となる。これは、がん患者の予後予測バイオマーカーや、免疫チェックポイント阻害剤を含むがん治療の奏効予測バイオマーカーとしての応用が期待される。実際に、LOX-1陽性PMN-MDSCの増加が進行期がんや大型腫瘍と相関することが示されており、患者層別化や治療反応予測に有用である可能性がある。さらに、LOX-1を標的とした抗体療法や、ERストレス/XBP1経路を阻害する薬剤(例:プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ、IRE1α阻害剤MKC-3946)によるPMN-MDSC抑制戦略の開発に繋がる可能性も示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、LOX-1陽性PMN-MDSCが100%特異的ではない点(健常好中球の一部や炎症条件下でも発現する可能性)や、LOX-1自体が免疫抑制活性に直接関与する受容体ではなくサロゲートマーカーである点が挙げられる。また、ERストレスを駆動する上流のシグナル(腫瘍由来のGM-CSF、IL-6、VEGFなど)の特定、LOX-1陽性PMN-MDSCの生存期間、移動動態、組織定着性に関する詳細な解析、および臨床試験における治療反応性との相関の検証が残されている。マウスモデルではLOX-1とPMN-MDSCの関連が見られなかったため、ヒトとマウスにおけるLOX-1発現制御機構の違いをさらに解明する必要がある。

方法

本研究では、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者26例、頭頸部癌 (HNC) 患者21例、結腸癌 (CC) 患者38例、多発性骨髄腫 (MM) 患者6例の末梢血および腫瘍組織サンプルを収集し、健常ドナーのサンプルを対照とした。すべての患者は、採血の少なくとも6ヶ月前には治療を受けていないか、治療を完了していた。研究は、Christiana Care Health System、ペンシルバニア大学、Wistar Instituteの施設内審査委員会 (IRB) の承認を得て実施され、すべての患者からインフォームドコンセントを得た。

細胞分離と培養: 末梢血単核細胞 (PBMC) と低密度顆粒球 (LDG) を含む画分は、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心法 (1.077 g/ml) により分離した。高密度好中球は、1.119 g/mlのHistopaque層から回収した。PMN-MDSCと好中球は、CD15磁気ビーズを用いてさらに精製した。腫瘍組織は、Miltenyi社のTumor Dissociation Kitを用いて消化し、赤血球を溶解した後、RPMI培地で培養した。一部の実験では、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor, 10 ng/ml) を添加して好中球の生存率を維持した。

遺伝子発現解析: 精製した細胞からTRIzol試薬を用いて全RNAを抽出し、BioanalyzerでRNA品質を評価した。Illumina HumanHT-12 v4全ゲノムビーズアレイを用いて全ゲノム発現解析を実施した。差次的に発現する遺伝子 (DEG) は、FDR (false discovery rate) < 5%かつfold change > 2を基準として同定した。特定の遺伝子の発現は、RT-qPCR (quantitative polymerase chain reaction) を用いて独立に検証した。データはGene Expression Omnibus (GEO) に accession number GSE79404として登録されている。

フローサイトメトリー: 細胞は、抗LOX-1抗体 (BioLegend)、抗CD15抗体、抗CD66b抗体、抗CD14抗体、抗CD11b抗体を含む多色パネルで染色し、BD LSR IIフローサイトメーターでデータを取得し、FlowJoソフトウェアで解析した。

機能解析: T細胞抑制活性は、同種混合リンパ球反応 (MLR) または抗CD3/CD28抗体刺激によるT細胞増殖アッセイ (CFSE希釈または[3H]チミジン取り込み) で評価した。ROS (reactive oxygen species) 産生は、2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート (DCFDA) 染色で測定した。ARG1 (Arginase 1) およびNOS2 (inducible nitric oxide synthase) の発現は、qPCRおよびウェスタンブロットで評価した。抑制機序の解析には、ROSスカベンジャーであるN-アセチルシステイン (NAC)、ARG1阻害剤であるnor-NOHA、および抗LOX-1中和抗体を用いた。

ERストレス誘導: 健常ドナーの好中球に、ERストレス誘導剤であるタプシガルギン (THG, 1 μM) またはジチオスレイトール (DTT, 2 mM) をGM-CSF存在下で一晩処理し、LOX-1発現誘導とT細胞抑制活性の獲得を評価した。XBP1 (X-box binding protein 1) 選択的阻害剤B-I09 (20 μM) を用いて、ERストレス経路の役割を検証した。

組織解析: 腫瘍組織におけるLOX-1陽性PMN-MDSCの存在は、LOX-1抗体 (Abcam) とCD15抗体 (BD Biosciences) を用いた免疫蛍光二重染色法により評価した。画像はLeica TCS SP5共焦点顕微鏡で取得し、細胞数を1平方ミリメートルあたりの数として算出した。OncomineおよびTCGA (The Cancer Genome Atlas) データベースを用いて、OLR1 (oxidized LDL receptor 1) 遺伝子発現と臨床パラメータ(病期、腫瘍サイズ、生存期間)との関連性を解析した。

統計解析: 統計解析は、GraphPad Prism 5ソフトウェアを用いて、両側Studentのt検定またはMann-Whitney U検定により実施した。多重比較補正には、StoreyとTibshiraniの手法によるFDR推定を用いた。P値 < 0.05を有意差ありと判断した。