• 著者: Samantha A. Lasser, Feyza G. Ozbay Kurt, Ihor Arkhypov, Jochen Utikal, Viktor Umansky
  • Corresponding author: Viktor Umansky (Department of Dermatology, Venereology and Allergology, University Medical Center Mannheim, Heidelberg University & Skin Cancer Unit, German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany; DKFZ-Hector Cancer Institute at the University Medical Center Mannheim; v.umansky@dkfz.de)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-08
  • Article種別: Review
  • PMID: 38191922

背景

骨髄由来抑制細胞 (MDSC) は、1990年代後半にGabrilovichらのグループによって概念化された、病理学的に活性化された骨髄系細胞の不均一な集団である。これらの細胞は、慢性炎症環境下で発生し、腫瘍微小環境 (TME) に蓄積することで、CD8陽性T細胞やナチュラルキラー (NK) 細胞の抗腫瘍機能を強力に抑制することが知られている。MDSCは、その形態と表現型に基づいて、主に多形核MDSC (PMN-MDSC) と単球性MDSC (M-MDSC) の2つの主要なサブグループに分類され、この分類は2016年のBronte et al. NatCommun 2016のコンセンサスによって確立された。しかし、腫瘍関連好中球 (TAN) のN1/N2分極との区別は依然として技術的な課題であり、PMN-MDSCに特異的で古典的好中球には発現しないマーカーとして、2016年にLOX-1 (Lectin-like oxidized LDL receptor 1) がCondamine et al. SciImmunol 2016によって同定された。CD66bはPMN-MDSCと好中球の両方に発現するため、両者を区別するマーカーとしては不十分である。

がんにおけるMDSCの役割は多岐にわたり、腫瘍の進行、転移、血管新生、免疫回避に寄与することが報告されている。例えば、Dunn et al. NatImmunol 2002は、がんの免疫編集プロセスにおける免疫回避の重要性を指摘しており、MDSCはその主要なメカニズムの一つである。また、Kaplan et al. Nature 2005は、MDSCが転移前ニッチの形成に寄与することを示唆している。特に、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) ががん治療の主流となる中で、MDSCはペンブロリズマブ、ニボルマブ、デュルバルマブなどのICIに対する一次耐性および二次耐性の主要なドライバーとして再注目されている。MDSCの蓄積は、多くの癌種において予後不良および進行期疾患と関連しており、ICI治療に対する不応答の予測マーカーとしても提案されている。しかし、MDSCの不均一性、他の骨髄系細胞との表現型の類似性、およびMDSCに特異的なマーカーの不足は、MDSCを標的とした治療戦略の開発と臨床応用における大きな課題として残されている。MDSCの生成、動員、機能、および他の免疫細胞との相互作用に関する包括的な理解は、より効果的な治療戦略を特定するために不可欠である。特に、ICI耐性を克服するためのMDSC標的化戦略の必要性が高まっているが、そのメカニズムや最適な併用療法については、依然として多くの点が未解明である。MDSCの多様性と可塑性に関する知識のギャップが残されており、これが臨床的翻訳を妨げている主要な要因の一つである。

目的

DKFZ HeidelbergのUmanskyグループは、本レビューにおいて、以下の目的を達成することを目指した。(1) 慢性炎症を背景としたMDSCの生物学的特性を詳細に解説する。(2) 腫瘍の進行および転移におけるMDSCと他の細胞との相互作用を明らかにする。(3) 免疫療法、化学療法、放射線療法、標的療法を含む様々ながん治療に対するMDSCの影響、特にICI耐性への寄与メカニズムを評価する。(4) MDSCを標的とした治療戦略および関連する臨床試験 (ATRA (all-trans retinoic acid)、5-FU、TKI (tyrosine kinase inhibitor)、CSF1R (colony stimulating factor 1 receptor) 阻害剤、CXCR1/2 (C-X-C motif chemokine receptor 1/2) 拮抗薬、CXCR4 (C-X-C motif chemokine receptor 4) 拮抗薬、STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) 阻害剤、HDAC (histone deacetylase) 阻害剤など) の現状を包括的にレビューする。(5) MDSC特異的バイオマーカーの開発とICIとの併用療法の将来展望について、臨床腫瘍学の読者に向けて統合的な情報を提供する。これにより、MDSCががん免疫回避および免疫療法耐性の主要な貢献者であるという認識を臨床腫瘍学コミュニティに強く位置づけ、ICI併用療法開発のための臨床的翻訳フレームワークを確立することを目指す。

結果

MDSCの分類と新規マーカー: MDSCは、異なる分化段階にある骨髄系細胞の不均一な集団であり、主に3つのサブセットに分類される。(i) PMN-MDSC (多形核型): CD11b⁺CD14⁻CD15⁺またはCD11b⁺CD14⁻CD66b⁺で同定され、主にアルギナーゼ1 (ARG1) と活性酸素種 (ROS) を産生する。(ii) M-MDSC (単球型): CD11b⁺CD14⁺HLA-DR^lo/-CD15⁻で同定され、一酸化窒素 (NO)、IL-10、TGF-β、PD-L1の発現を特徴とする。(iii) e-MDSC (早期段階MDSC): 未分化な前駆細胞様の表現型を示す。従来の表面マーカーのみでは、MDSCを他の骨髄系細胞と区別することが困難であったが、PMN-MDSCに特異的なマーカーとしてLOX-1 (ORL1) が同定され、古典的好中球には発現しないことが示された。さらに、FATP2およびCD84が新規のMDSCサブセット精製マーカーとして提案されている。Cheng et al. Cell 2021Zilionis et al. Immunity 2019などのシングルセルRNAシーケンス解析により、MDSCが古典的好中球や単球とは分子的に異なることが確認された。例えば、LOX1⁺ PMN-MDSCはLOX1⁻ PMN細胞よりもSlc27a2 (FATP2をコードする遺伝子) の発現が高いことが報告された。

MDSCの動員と拡大機構: MDSCの拡大と活性化は、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor)、M-CSF (macrophage colony-stimulating factor)、IL-6、TNF、PGE2 (prostaglandin E2)、COX2、HIF1α (hypoxia-inducible factor 1α) (低酸素) などの炎症性メディエーターによって促進される (Figure 1)。JAK/STATおよびMAPKシグナル伝達経路がMDSCの生成と機能において中心的な役割を果たし、特にSTAT3とC/EBPβ (CCAAT/enhancer-binding protein-β) がマスターレギュレーターとして機能する。MDSCの腫瘍微小環境への動員は、主にケモカイン軸を介して行われる。PMN-MDSCはCXCR2 (CXCL1/2/5をリガンドとする) を介して、M-MDSCはCCR2およびCCR5 (CCL2をリガンドとする) を介してTMEへ移動する。CXCR2阻害はPMN-MDSCを選択的に枯渇させる戦略の論理的根拠となる。例えば、CXCR2拮抗薬であるSX-682は、マウス乳癌モデルにおいてPMN-MDSCの腫瘍浸潤を約50%減少させ、抗PD-1抗体との併用で抗腫瘍効果を増強した。

MDSCの免疫抑制メカニズム: MDSCは複数のメカニズムを介して免疫抑制を誘導する。(i) アルギナーゼ1 (ARG1): L-アルギニンを枯渇させ、CD3ζのダウンレギュレーションとTCRクラスター形成障害を引き起こす (PMN-MDSCで優勢)。(ii) iNOS (inducible NO synthase) およびROS (NOX2 (NADPH oxidase 2)): 酸化ストレスを誘導し、T細胞の抗原認識、増殖、生存を阻害する (PMN-MDSC)。(iii) PD-L1: 低酸素や腫瘍由来細胞外小胞 (EV) によって発現が上昇し、T細胞およびNK細胞の抑制に関与する。(iv) TGF-β (transforming growth factor-β): CD8陽性エフェクターT細胞の細胞傷害性およびNK細胞の増殖・細胞傷害性を抑制する (M-MDSCで優勢)。(v) IDO: トリプトファンを枯渇させ、免疫抑制性代謝産物であるL-キヌレニンを産生する。(vi) CD39/CD73: 細胞外ATPからアデノシンを産生し、T細胞およびNK細胞の機能を抑制する。(vii) エクソソーム放出: 腫瘍由来EVは、TGF-β、PGE2、HSP (heat shock protein) などの因子をMDSCに送達し、免疫抑制活性を誘導する。これらのメカニズムは癌種やMDSCサブセットによって異なる割合で寄与する。

ICI耐性におけるMDSCの寄与: MDSCの数が少ないことはICI治療への良好な反応と相関しており、MDSCがICIの一次耐性の主要なドライバーであることが示唆されている。M-MDSCは、ガレクチン9-TIM3軸を介して抗PD-1抗体に対する獲得耐性を媒介することが報告されている。また、抗PD-1抗体治療後の癌細胞におけるPD-L1-NLRP3インフラマソームシグナル伝達経路の活性化は、PMN-MDSCのTMEへの動員を増加させ、獲得耐性のメカニズムとして機能することが示された。Schoenfeld et al. CancerCell 2020は、ICI耐性のメカニズムとしてMDSCの関与を強調している。例えば、マウス膠芽腫モデルにおいて、CSF1R拮抗抗体による長期治療後に一部の腫瘍が耐性を示すことが報告されており、これはMDSCが産生するIGF1 (insulin-like growth factor 1) がIGF1受容体を介したPI3K経路活性化を誘導し、膠芽腫細胞の生存を促進するためである (Figure 2)。

MDSCを標的とした治療戦略と臨床試験の現状: MDSCを標的とする様々な治療戦略が開発され、臨床試験で評価されている (Table 2)。

  • ATRA: 肺癌およびメラノーマ患者において、循環MDSCを低下させ、CD8陽性T細胞を増加させる効果が報告されている。ペンブロリズマブとの併用療法がPhase I/II試験で評価中であり、メラノーマ患者を対象としたイピリムマブまたはペンブロリズマブとの併用Phase II試験では、ATRA投与により循環MDSCが減少した (n=10患者)。
  • CSF1R阻害剤 (ARRY-382, cabiralizumab, emactuzumab, LY3022855, axatilimab): 膵臓癌や卵巣癌におけるペンブロリズマブとの併用Phase I/II試験では、限定的な有効性 (膵管腺癌コホートでのORR 3.7% (n=27)) が示された。
  • CXCR1/2拮抗薬 (AZD5069, SX-682, navarixin, reparixin): AZD5069とデュルバルマブの併用膵臓癌Phase I/II試験では、ORR 5.6%と限定的な臨床活性が認められた (n=36患者)。Navarixinとペンブロリズマブの併用Phase II試験では、ORR 3.9% (30mg群) および1.9% (100mg群) であった (n=51患者)。Reparixinとパクリタキセルの併用乳癌Phase Ib試験ではORR 29.6%を示したが (n=27患者)、Phase IIでは有意な無増悪生存期間 (PFS) の改善は認められなかった。
  • CXCR4阻害剤 (motixafortide, plerixafor): Motixafortideは、ペンブロリズマブおよび化学療法との併用膵臓癌COMBAT試験 (Phase II) で、PMN-MDSCの減少とCD8陽性T細胞の増加、循環Treg細胞の減少が報告された (n=50患者)。
  • STAT3阻害剤 (danvatirsen): 肝癌のPhase I/II試験で、7例中1例 (14.3%) で部分奏効 (PR) が認められた。
  • IDO1阻害剤 (epacadostat): ペンブロリズマブとの併用メラノーマPhase III試験では、プラセボ+ペンブロリズマブと比較してPFSまたは全生存期間 (OS) の改善は認められなかった (ORR 34% vs 32%、HR 1.00 (95% CI 0.83-1.21), p=0.99)。
  • COX2阻害剤 (celecoxib): トリプルネガティブ乳癌患者を対象としたネオアジュバント化学療法との併用Phase I試験では、病理学的完全奏効 (pCR) 率56%と有望な結果が得られた (n=9患者)。
  • PD-L1/IDOペプチドワクチンとニボルマブの併用: 転移性メラノーマのICI未治療患者30例を対象としたPhase I/II試験では、ORR 80% (完全奏効率CR 43%)、PFS中央値26ヶ月という優れた結果が報告された。これは、単剤療法や他の併用療法と比較して顕著な効果を示している。

これらの結果から、MDSCを標的とする単剤療法では効果が限定的であり、ICIとの併用療法が主要な戦略となることが強調されている。特に、MDSC特異的な枯渇戦略や、MDSCの機能を阻害する薬剤とICIの組み合わせが、今後の治療開発において重要な方向性であると考えられる。

考察/結論

本Nat Rev Clin Oncol 2024レビューは、MDSCががん免疫逃避および免疫療法耐性の主要な貢献者であるという声明を臨床腫瘍学コミュニティに強く位置づけ、Gabrilovich/Umansky系譜のMDSC生物学をICI併用療法開発時代の臨床的翻訳フレームワークとして統合した2024年の代表的なレビューである。MDSCは、免疫抑制分子や細胞外小胞 (EV) の発現・産生、必須アミノ酸の枯渇、他の免疫抑制細胞の活性化、T細胞のホーミング阻害など、複数のメカニズムを介してT細胞およびNK細胞の抗腫瘍応答を減弱させる。さらに、MDSCは血管新生の誘導、細胞外マトリックスの再構築、がん細胞の生存と播種の促進を通じて、腫瘍の発生と転移を促進する。

先行研究との違い: これまでのMDSCに関するレビューは、その生物学的な側面や免疫抑制メカニズムに焦点を当てることが多かったが、本レビューは、ICI耐性におけるMDSCの具体的な寄与メカニズムと、それを克服するための多様なMDSC標的化戦略の臨床試験結果を包括的に統合している点で、これまでと異なるアプローチをとっている。特に、ICI耐性におけるガレクチン9-TIM3軸やPD-L1-NLRP3インフラマソーム経路の関与といった新規のメカニズムを詳細に解説している点が特徴である。

新規性: 本研究で初めて、MDSCのサブセット分類におけるLOX-1、FATP2、CD84といった新規マーカーの重要性を強調し、これらのマーカーがMDSCと他の骨髄系細胞を区別する上で不可欠であることを示唆した。また、ICI耐性におけるMDSCの役割を、一次耐性だけでなく獲得耐性の観点からも深く掘り下げ、その克服に向けた具体的な併用療法戦略の現状を提示したことは新規性が高い。例えば、PD-L1/IDOペプチドワクチンとニボルマブの併用療法が、転移性メラノーマ患者においてORR 80%という高い奏効率を示したことは、これまでの報告にはない画期的な知見である。

臨床応用: 本知見は、MDSCを標的とした治療戦略の臨床応用を加速させる上で極めて重要である。特に、ICIとの併用療法がMDSC標的化の主要戦略となることを強調し、CCL2-CCR2、CSF1R、CXCR1/2、STAT3、IDO1、COX2阻害剤などの臨床試験結果を概説したことは、臨床現場での治療選択肢の拡大に貢献する。循環MDSCの定量化 (PMN-MDSCはLOX-1陽性、M-MDSCはCD14陽性HLA-DR低発現) をバイオマーカーとして前向きに検証することの臨床的意義も大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、MDSC特異的マーカーの確立が最大の課題として残されている。LOX-1、CD84、FATP2などの提案されたマーカーの臨床的有用性はまだ確立されておらず、MDSCの表現型可塑性が分類を複雑にしている。また、MDSCの寿命は短いものの、慢性炎症部位への継続的な動員により長期的な効果を発揮するため、最適な投与タイミングの最適化が未だ課題である。さらに、癌種別のMDSCサブセットの不均一性を考慮した患者層別化や、MDSC、TAN、TAMの分類の重複に関する統一された命名法の必要性も指摘されている。ERストレス (PERK/ATF6/IRE1α) がMDSCの共通特性であるにもかかわらず、PERK阻害剤の臨床開発は初期段階に留まっている。ICIとMDSC標的化療法の併用タイミング (ネオアジュバント、同時、逐次) の最適化も今後の研究で明らかにされるべき点である。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は存在しない。しかし、MDSC研究の初期段階であるGabrilovichらの1996年以降のMDSC関連文献、DKFZ Umanskyグループ自身のメラノーマにおけるMDSC生物学に関する臨床データ、および進行中の臨床試験 (clinicaltrials.gov) の情報を統合し、エビデンスマップとして活用した。文献検索はPubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施され、MDSCの生成、動員、免疫抑制メカニズム、腫瘍微小環境における相互作用、およびがん治療、特に免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 耐性への寄与に関する論文が網羅的に収集された。

特に、MDSCの同定と分類に関するコンセンサスガイドラインであるBronte et al. NatCommun 2016の提言に基づき、PMN-MDSCとM-MDSCのサブセット分類、および新規マーカー (LOX-1、FATP2 (fatty acid transport protein 2)、CD84) の関連性が評価された。また、ICI耐性におけるガレクチン9-TIM3軸やPD-L1 (programmed death-ligand 1)-NLRP3 (NLR family pyrin domain containing 3) インフラマソーム経路の関与に関する報告も詳細に分析された。MDSCを標的とする治療戦略については、CCL2 (C-C motif chemokine ligand 2)-CCR2 (C-C motif chemokine receptor 2)、CSF1R、CXCR1/2、STAT3、IDO1 (indoleamine 2,3-dioxygenase 1)、COX2 (cyclooxygenase 2) 阻害剤などの臨床試験結果が収集され、その有効性とICIとの併用可能性が検討された。

統計解析手法としては、各臨床試験で用いられた生存解析 (Kaplan-Meier曲線、log-rank検定) や客観的奏効率 (ORR) の評価が参照された。例えば、いくつかの試験ではCox回帰モデルを用いてハザード比 (HR) が算出されており、その95%信頼区間 (95% CI) とp値が報告されている。基礎研究のデータについては、in vitro実験における細胞株 (例: A549細胞) やin vivo実験におけるマウスモデル (例: C57BL/6Jマウス) の結果が参照され、遺伝子発現変化のfold changeやIC50値などが評価された。これらの情報は、MDSCの生物学的役割と治療標的としての可能性を包括的に理解するために統合的に活用された。