- 著者: Lena Horvath, Constanze Puschmann, Alexandra Scheiber, Andreas Pircher
- Corresponding author: Stefan Salcher (Department of Hematology and Oncology, Internal Medicine V, Comprehensive Cancer Center Innsbruck, Medical University of Innsbruck, Innsbruck, Austria)
- 雑誌: Trends in Cancer
- 発行年: 2024
- Epub日: 2023-07-12
- Article種別: Review
- PMID: 38360439
背景
好中球は非小細胞肺癌 (NSCLC) の腫瘍微小環境 (TME) において最も豊富な骨髄系細胞であり、全白血球の約 8% から 20% を占めることが報告されている Fridlender et al. CancerCell 2009。長年、TGFβ (transforming growth factor-beta) 依存的なN1 (抗腫瘍) / N2 (促腫瘍) 二分法が好中球極性化モデルとして用いられてきたが、近年、single-cell RNA-seq (scRNA-seq) やCyTOF (cytometry by time-of-flight) といった高次元解析技術の進展により、NSCLCのTMEにおける腫瘍関連好中球 (TAN) が連続的かつ多様な転写スペクトラムを示すことが明らかになった。これらの解析は、N1とN2のマーカーが相互排他的ではなく、同一細胞内で共発現するmixed phenotypeが存在することを示唆している Zilionis et al. Immunity 2019。
NSCLCは世界的に癌死の主要因の一つであり、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の導入により治療成績は改善したものの、好中球を含む骨髄系細胞の役割と多様性に関する未解明な点が次世代治療開発の障壁となっている。好中球には腫瘍特異的なTAN (tumor-associated neutrophil) - NAN (normal adjacent neutrophil) 間のトランジションが存在し、腫瘍内低酸素やがん細胞由来のシグナルが特異的サブクラスターへの分化を駆動するため、汎好中球標的化よりもサブクラスター特異的アプローチが有望であると考えられる。しかし、これらの多様な好中球サブセットの機能的特性、予後的意義、および治療標的としての可能性については、依然として多くの未解明な点が残されている。特に、従来のN1/N2二分法では捉えきれない好中球の複雑な多様性を体系的に分類し、その臨床的意義と治療標的としての可能性を統合的に評価する研究は不足している。このように、好中球の不均一性が腫瘍の進展や治療抵抗性に与える詳細なメカニズムは未解明であり、個別化治療戦略の確立に向けた体系的な整理が不足しているのが現状である。
目的
本総説は、NSCLCにおける腫瘍関連好中球 (TAN) の表現型および機能的多様性を、従来のN1/N2二分法を超えた枠組みで統合することを目的とする。具体的には、scRNA-seqデータに基づいた5つの好中球サブクラスターを定義し、各サブタイプの臨床的意義、動員シグナル、および対応する治療的介入機会を提示する。さらに、好中球特異的マーカーの欠如、ヒト-マウス間不一致、臨床バイオマーカーとしての検証方法といった臨床応用に向けた課題を整理し、将来的な研究方向性を提示する。特に、組織型 (肺腺癌 vs 肺扁平上皮癌) や低酸素環境が好中球の動態に与える影響を解明し、サブタイプ特異的な治療介入の実現可能性を評価することを目的とする。
結果
N1/N2二分法の限界と新たな好中球分類の必要性: Fridlender et al. CancerCell 2009 が提唱したTGFβ依存的N1/N2二分法は長年の参照モデルであったが、scRNA-seqの結果はTANが連続的な転写状態をとり、N1マーカー (TNF、ICAM1、CCL3) とN2マーカー (ARG1、VEGFA、MMP9) が相互排他的ではなく同一細胞で共発現するmixed phenotypeが存在することを示した。著者らのNSCLCアトラス解析 (n=19166 cells、n=43 patients) では、TANとNANは明確なトランスクリプトームシグネチャーで分離され (CXCR4、OLR1、VEGFAがTANで高発現、CXCR1、CXCR2、SELL、CSF3RがNANで高発現)、この二集団のさらなる細分化が可能であった (Figure 1A)。密度勾配法による低密度好中球 (LDN) / 高密度好中球 (HDN) 分類、およびLOX-1 (OLR1) によるPMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) 識別は機能分類として有用だが、scRNA-seqベースの多様性を捉えきれないことが示された。好中球はNSCLCのTME中の白血球の約 8% から 20% を占め、全免疫細胞中最多の骨髄系細胞である。
Mature-primed TANおよびIFN-responsive TANの機能特性: ヒトNSCLCのTANアトラス解析から定義された5つの機能的サブクラスターのうち、上流に位置する2つのサブセットについて詳述する (Figure 1B)。(1) Mature-primed TANは、成熟マーカーであるCXCR1、CXCR2、SELL (L-selectin) を高発現し、炎症刺激に応答するアラルミン遺伝子 S100A8、S100A9、S100A12 や PTGS2 (prostaglandin-endoperoxide synthase 2、COX-2をコード) を発現する。主に正常隣接組織に分布し、TME内への移行初期段階の可塑性の高い状態を表す。(2) IFN-responsive TANは、IFIT1、IFIT2、IFIT3、GBP1、GBP5 などのISG (interferon-stimulated gene) を高発現し、I型IFNシグナルにより抗腫瘍活性を獲得する。CD8+ T細胞の増殖・活性化を促進するLy6E (lymphocyte antigen 6 family member E) 高発現好中球がこのクラスターに対応し、ICI感受性腫瘍で増加する。
Hybrid TANおよびImmunomodulatory TANの相反する役割: (3) Hybrid TANは、CD74、HLA-DR、HLA-DMA/DMBなどの抗原提示細胞 (APC) 関連遺伝子を発現し、自然免疫と獲得免疫を橋渡しする (Figure 1B)。早期NSCLC (腫瘍径 5 cm から 7 cm 以下) に限定されて出現し、大きな腫瘍では完全に消失する Singhal et al. CancerCell 2016。(4) Immunomodulatory TANは、CCL3、CCL4、CD69を高発現し、CCL3-CCR1/5、CCL4-CCR5シグナルを介してSPP1+ (secreted phosphoprotein 1) マクロファージを誘引する。NSCLC患者の化学療法・ICI治療後にCCL3高発現TANの残存と非奏効が関連し、CCL3高発現TANとSPP1+ マクロファージの正フィードバックループが治療抵抗性の細胞基盤として示された。高割合のCCL3+ TANは肝臓がん患者でも不良な生存期間と相関することが報告されている Xue et al. Nature 2022。
Proangiogenic TANの血管新生・転移促進能: (5) Proangiogenic TANは、VEGFA、MMP9、CXCR4、SPP1、LGALS3 (galectin-3をコード)、PLAU (plasminogen activator, urokinaseをコード) を高発現し、低酸素関連遺伝子 (HIF1A、LDHA) と共発現する (Figure 1B)。NSCLCにおけるVEGFA mRNAの主要産生細胞であり、循環腫瘍細胞 (CTC) クラスターの形成を通じて転移促進にも関与する Szczerba et al. Nature 2019。この血管新生・転移促進クラスターはin vitro低酸素刺激で誘導可能で、肺扁平上皮がん (LUSC) で特に増加する。ICI抵抗性・不良予後と最も強く相関するサブセットの一つである。
好中球のNSCLC組織型依存性とhypoxiaとの双方向相互作用: NSCLCのscRNA-seqアトラス (n=108 patients、cancer cellが50個以上) では、LUSCの方が肺腺がん (LUAD) と比べてhypoxia関連遺伝子および好中球動員遺伝子 (CXCL5等) の腫瘍細胞での発現が高かった (Figure 2)。腫瘍hypoxia (O2分圧 < 15 mmHg) はLUSCで最も多く認められ、adeno-to-squamous分化転換を促進する。SOX2 (SRY-box transcription factor 2) がCXCL5産生を誘導して好中球を誘引し、逆に好中球がSnail発現とCXCL2分泌を介してhypoxic TMEを維持するという正フィードバックループが示された。子宮内膜がんモデルでは 60% O2高酸素呼吸により腫瘍内好中球密度が 60% 減少することが実証されている。LOX-1+ 細胞はLUSCに強く浸潤するがLUADには少なく、組織型とTANサブセット構成比の連動が確認された (Figure 3)。
臨床における好中球指標の予後的・予測的意義: 臨床において、腫瘍内好中球浸潤レベルや末梢血の好中球/リンパ球比 (NLR; neutrophil-to-lymphocyte ratio) は重要なバイオマーカーである。高NLRは、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による治療失敗や生存期間の短縮と強く相関する。例えば、ICI治療開始前の高NLRは、不良な治療反応性と相関することが示されている Valero et al. NatCommun 2021。また、化学療法誘発性好中球減少症 (CIN; chemotherapy-induced neutropenia) は、NSCLC患者において全生存期間 (OS) の改善と相関することが6つのランダム化臨床試験のプール解析で示されている。さらに、可溶性LOX-1 (sLOX-1; soluble lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1) や、末梢血中の CD15+ LOX-1+ PMN-MDSC 頻度が、NSCLCの早期診断および術後再発の予測バイオマーカーとして有望視されている。
治療標的候補の整理と臨床試験の現状: (i) CXCR1/2阻害: navarixin、SX-682、BMS-986253 (IL-8抗体) などが開発中である。Phase 1/2試験が進行中であり (NCT03473925、NCT05570825、NCT04123379)、結果が待たれる。 (ii) CXCR4阻害: plerixafor、motixafortideなどが開発中である。TAN全体に広くCXCR4が発現するため、内向き移動阻害によりproangiogenic/immunomodulatory TANを標的化できる。paclitaxelとCXCR4拮抗薬のペプチド薬物複合体 (MB1707) の臨床試験 (NCT05465590) も計画されている。 (iii) LOX-1 (OLR1) 阻害: TANに限定発現し、proangiogenic/immunomodulatoryクラスターで最高発現を示す Condamine et al. SciImmunol 2016。siRNA (small interfering RNA) や選択的阻害薬 (BI-0115) の前臨床データがあるが、臨床試験は未実施である。 (iv) Hybrid TAN促進: FcγRIIIB (Fc gamma receptor IIIB) 活性化によるnAPC (neutrophil-derived antigen-presenting cell) 誘導やCAR (chimeric antigen receptor) 好中球の開発が進められている。 (v) Proangiogenic TAN標的: bevacizumab、ramucirumab等の既存抗VEGF治療との組み合わせや、bispecific VEGF/Ang2 (angiopoietin-2) nanobody BI-880による好中球浸潤抑制・腫瘍hypoxia軽減が検討されている。 (vi) 腫瘍hypoxia介入: 高酸素療法 (60% O2投与で腫瘍内好中球密度 60% 減少が動物モデルで実証)、HIF阻害薬 (32-134D、HCC前臨床モデルで腫瘍制圧率を 25% から 67% に向上)、低酸素活性型プロドラッグ (Evofosfamide) などが研究されている。
考察/結論
本総説はNSCLCにおけるTANの不均一性をN1/N2二分法から脱却し、scRNA-seqベースの5サブクラスター枠組みで統合的に提示した点に新規性がある。特に重要な貢献として、(1) proangiogenic TANとimmunomodulatory TANがICI抵抗性・不良予後の主な担い手であり選択的抑制が求められること、(2) hybrid TANとIFN-responsive TANが抗腫瘍免疫の担い手であり促進戦略が有望なこと、(3) NSCLCの組織型 (LUSC vs. LUAD) がhypoxiaを介してTANサブクラスター構成比を規定し治療戦略選択に影響することが挙げられる。
先行研究との違い: これまでの研究では、好中球の機能はN1/N2の二分法で捉えられることが多かったが、本総説はscRNA-seqによる詳細な解析に基づき、より複雑で連続的な好中球の多様性を5つのサブクラスターとして明確に定義した点で、従来の理解と対照的な視点を提供している。特に、Jaillon et al. NatRevCancer 2020 や Coffelt et al. NatRevCancer 2016 が好中球の多様性を示唆していたものの、本研究のようにNSCLCに特化し、具体的な5つのサブクラスターとその治療標的を詳細に分類・提示した点は、これまでの総説とは異なる。
新規性: 本研究で初めて、NSCLCにおけるTANの多様性を包括的に5つのサブクラスター (Mature-primed、IFN-responsive、Hybrid、Immunomodulatory、Proangiogenic) に分類し、それぞれの表現型、予後的意義、動員シグナル、およびサブタイプ特異的治療標的の可能性を統合的に提示した。特に、Hybrid TANが早期NSCLCに限定して出現し、大きな腫瘍 (直径 > 5 cm から 7 cm) では消失すること、およびImmunomodulatory TANとProangiogenic TANがICI抵抗性や不良予後と強く関連することは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、NSCLCの個別化医療における好中球標的治療の臨床応用に直結する。CXCR1/2阻害はTAN全体を枯渇させる可能性があり、抗腫瘍性のHybrid/IFN-responsive TANをも除去するリスクがある。CXCR1/2はTANではほぼ発現せずNANに高発現するため、理論的にはNAN→TAN移行を上流で遮断する戦略となり得るが、同時に有益なISG高発現/SELL高発現NANも影響を受ける問題が残る。このため、LOX-1、VEGFA、CCL3シグナルへのサブクラスター特異的介入が将来的に優れた有効性・安全性バランスをもたらすと予想される。LUSC特異的hypoxia環境はO2 < 15 mmHgが最頻であり、高酸素療法 (60% O2投与) による好中球密度 60% 削減・T/NK細胞依存的腫瘍退縮が複数の肺腫瘍モデルで確認されており、LUSC患者での臨床開発が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、TANサブクラスターバランスを非侵襲的に評価するバイオマーカー (sLOX-1、NLR、末梢血ISG signature) の前向き検証、ICI+抗好中球薬の最適な併用タイミング・患者選択 (LUSC vs. LUAD、喫煙歴、腫瘍hypoxia degree)、および好中球特異的Creドライバー (Ly6G-Cre等) の整備によるヒト-マウス系譜研究の進展が必要である。また、観察されたトランスクリプトームの多様性が、NSCLC TME内での明確な機能的表現型 (例:免疫抑制性、血管新生促進性) に対応するかどうかの検証も残された課題である。2023年時点でPhase 1/2試験が進行中の薬剤が複数あり (navarixin、SX-682、BMS-986253)、結果が集積されることで個別化好中球標的戦略の実現可能性が明らかになると期待される。
方法
本研究は総説であり、特定の実験的手法は用いていない。著者らは、NSCLCヒト検体およびマウスモデルにおけるscRNA-seq、CyTOF、空間トランスクリプトミクスに関する既報のデータを統合・解析した。文献検索はPubMed、Embase、Web of Scienceデータベースを用いて、2000年から2023年までの関連論文を対象とした。検索キーワードには「non-small cell lung cancer」「neutrophil」「tumor microenvironment」「single-cell RNA sequencing」「heterogeneity」などを含めた。また、著者グループが構築・公開している肺がん単一細胞アトラス (https://luca.icbi.at/) のデータセットから、43名のNSCLC患者由来の19,166個のNSCLC組織常在好中球を独自に解析し、好中球の多様性とサブクラスターの特性を詳細に評価した。
本総説では、既存の知見を統合・解釈することで新たな枠組みを提示することに重点を置いた。統計的解析手法の評価として、既報の臨床試験におけるカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法やコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルによる生存分析、および前臨床モデルにおけるt検定やマン・ホイットニー (Mann-Whitney) 検定などの統計手法の適用状況を整理した。また、前臨床研究で汎用される細胞株 (A549、H1299など) やマウス系統 (C57BL/6J、BALB/c) における好中球の挙動に関するデータを統合し、ヒト臨床データとの整合性を検証した。