- 著者: Christian Aloe, Hao Wang, Ross Vlahos, Louis Irving, Daniel Steinfort, Steven Bozinovski
- Corresponding author: Steven Bozinovski (School of Health and Biomedical Sciences, CIID program, RMIT University, Bundoora, VIC 3083, Australia; steven.bozinovski@rmit.edu.au)
- 雑誌: Translational Lung Cancer Research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-13
- Article種別: Review
- PMID: 34295679
背景
肺癌は世界の癌死亡原因の第1位であり、その約85%を非小細胞肺癌(NSCLC)が占める。喫煙は主要なリスク因子であるが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は好中球性慢性炎症を特徴とし、喫煙以上に肺癌の独立したリスク因子であることが報告されている (Young et al. Eur Respir J 2009)。両疾患は喫煙という共通の原因を持つだけでなく、好中球を介した慢性炎症という共通の軸を持つ。炎症と癌の関連性は古くから認識されており、腫瘍は治癒しない傷として、創傷治癒応答を癌細胞の維持と増殖に利用することが示されている (Dvorak HF. Cancer Immunol Res 2015)。この概念は、Hanahan et al. Cell 2011によって提唱された癌のホールマークの一つである「炎症の促進」と密接に関連している。腫瘍微小環境(TME)は、細胞外マトリックス(ECM)、血管ネットワーク、線維芽細胞、そして免疫細胞や炎症細胞の動的なネットワークから構成され、COPDのような基礎疾患によって影響を受ける。
腫瘍関連好中球(tumor-associated neutrophils, TAN)はNSCLCの腫瘍浸潤白血球の約20%を占め、腫瘍の進行ステージとともにその数が増加する主要な免疫細胞集団である (Kargl et al. Nat Commun 2017)。TANはTMEに応じてN1(抗腫瘍性)またはN2(腫瘍促進性)表現型に分化することが知られている。Fridlender et al. CancerCell 2009で提唱されたN1(抗腫瘍性、IFN-βプライミング)とN2(腫瘍促進性、TGF-βプライミング)の表現型極性はNSCLCにおいて重要であり、早期にはN1が優勢であるものの、進行とともにN2型が蓄積し、表現型の移行が起こることが示されている。この表現型の可塑性は、好中球が単一の機能を持つ細胞集団ではなく、TMEの環境に応じて多様な役割を果たすことを示唆している。
好中球エラスターゼ(NE)、MMP-9、活性酸素種(ROS)、IL-17、K-Ras経路などのメカニズムは断片的に解明が進んでいるが、治療抵抗性(特に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)応答性)との連関は未解明な部分が多く、臨床応用への統合が課題である。特に、好中球の多様な表現型とその機能的役割、およびそれらが免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性にどのように影響するかについては、依然として不明な点が多い。また、好中球がT細胞の機能を抑制する具体的な分子メカニズムや、COPDにおける好中球性炎症が肺癌発症リスクに寄与する詳細な経路についても、さらなる理解が不足している。本レビューは、オーストラリアRMIT大学のSteven Bozinovskiグループ(COPD、肺癌、好中球研究の権威)が、TANの生物学、COPD、喫煙関連肺癌の3軸を統合したトランスレーショナルレビューとして位置付けられる。
目的
本レビューは、NSCLCおよび他の肺癌サブタイプにおける腫瘍関連好中球(TAN)の多面的な役割を包括的に解説することを目的とする。具体的には、以下の8つの主要な側面をレビューする。
(1) NSCLCにおけるTANの動態を要約する。これには、TANがCD45+浸潤細胞の約20%を占め、腫瘍の進行ステージでその数が増加すること、および喫煙関連の扁平上皮癌(SCC)サブタイプにおける好中球の存在量が高いことなどが含まれる。 (2) N1/N2表現型極性、TGFβ/IFNβシグナル、およびその表現型可塑性に関わる分子機構を解明する。特に、TMEにおける低酸素状態(hypoxia)やHIF-1αがN2表現型への分化を促進するメカニズムを検討する。 (3) NE、MMP-9、MMP-9/TIMP-3軸、細胞外マトリックス(ECM)リモデリング、および血管新生促進メカニズムを詳細に説明する。これには、NEがMMP-9の活性化を調節し、ECM分解とVEGF放出を促進する経路が含まれる。 (4) ROS、IL-10、アルギナーゼ1などの好中球由来メディエーターが、CD8 T細胞のTCRζ鎖発現を低下させ、T細胞の活性化を阻害するメカニズムを解説する。 (5) IL-17/K-Ras変異軸、Th17細胞、CXCR2を介した好中球浸潤、およびPD-1阻害剤への抵抗性との関連性を検討する。K-Ras変異肺癌におけるIL-17-好中球軸の病原的役割に焦点を当てる。 (6) 好中球-リンパ球比(NLR)が独立した予後不良バイオマーカーとして機能することを評価する。NLRがICI治療の応答予測に与える影響も考察する。 (7) COPD、喫煙、肺癌の間の三重の関連性を明らかにする。喫煙による慢性好中球性炎症が発癌を促進するメカニズム、および吸入ステロイド(ICS)の肺癌リスク低減効果を検討する。 (8) CXCR2阻害剤、TGFβ遮断薬、NE阻害剤、NET阻害剤など、TANを標的とした選択的治療戦略、およびICIとの併用療法としての可能性を検討する。
結果
NSCLCにおけるTANの優勢な免疫細胞集団としての役割: NSCLCの腫瘍浸潤白血球において、TANはCD45+細胞の約20%を占める優勢な免疫細胞集団であることが報告されている (Kargl et al. Nat Commun 2017)。TANの密度は腫瘍の進行ステージおよび喫煙者において増加する傾向があり、早期ステージでは腫瘍周辺に局在することが多いが、進行期では腫瘍内部への浸潤が増加する。TANの密度が高いことは、無病生存期間および全生存期間(OS)の不良な予後因子であり、CIBERSORT解析によるパンキャンサー解析では、好中球が最も予後不良な免疫細胞タイプであることが示されている。特に、喫煙関連の扁平上皮癌(SCC)サブタイプにおいて、好中球の存在量が高いことが観察された。
N1 vs N2表現型可塑性と極性シグナル: 早期腫瘍ステージでは、N1(抗腫瘍性)TANが優勢であり、TNFα、IL-12、過酸化水素(H2O2)を産生し、直接的な細胞障害作用(H2O2-TRPM2 Ca2+チャネルを介した)やTRAILによるアポトーシス誘導、さらにはHLA-DR+ハイブリッド表現型による抗原提示能を示す (Singel et al. Immunol Rev 2016)。また、好中球エラスターゼ(NE)依存的なCD95デスドメイン放出を介して選択的に癌細胞を殺傷することも報告されている。しかし、進行ステージや慢性炎症環境下では、N2(腫瘍促進性)TANが蓄積する。N2 TANはTGF-βによってプライミングされ、TNFα、IL-6、IL-10、TGFβ、VEGF、MMP-9などを分泌し、血管新生、ECMリモデリング、および免疫抑制を促進する(Figure 1)。TGF-βとIFN-βの相互排他的なシグナルが、この好中球の分極化の主要な制御因子であることが示されている。低酸素(hypoxia)およびHIF-1αもN2表現型への分化を促進し、上皮間葉転換(EMT)と連動することが示唆される。
NE/MMP-9/TIMP-3 ECM軸と血管新生: 肺癌患者における好中球エラスターゼ(NE)濃度は、COPD患者と比較して約5倍以上高いことが報告されており (Vaguliene et al. BMC Immunol 2013)、肺癌に特有の好中球活性化負荷を示唆する。NEはMMP-9の活性化や細胞外タンパク分解を調節し、MMP-9/TIMP-3比はNSCLCにおいて著明に上昇することが示されている (Vannitamby et al. Lung Cancer 2019)。この比率の上昇は、ECMの過剰分解、VEGF放出、血管新生促進に寄与する。NEは乳癌においてIRS-1分解とPDGFR活性化を介して細胞増殖を促進することが報告されており (Houghton et al. Nat Med 2010)、肺癌においても類似のメカニズムが考えられる。また、HMGB1とMMP-9がラミニン111を切断することでα3β1インテグリンを活性化し、休眠状態の癌細胞の再活性化や好中球細胞外トラップ(NET)形成カスケードを誘導する可能性も指摘されている。MMP阻害剤の臨床試験では、進行期NSCLC患者(n=509)において生存率の改善が見られず、副作用も報告されたが (Bissett et al. J Clin Oncol 2005)、これはMMP阻害が腫瘍形成の早期段階でより重要である可能性を示唆している。
ROS、IL-10、CD8 T細胞抑制メカニズム: TAN由来の活性酸素種(ROS)は、CD8 T細胞のTCRζ鎖発現をダウンレギュレートし、T細胞の活性化を阻害することで腫瘍免疫からのエスケープを促進する (Whiteside TL. Cancer Immunol Immunother 2004)。N2 TANはIL-10を分泌し、CD8 T細胞の増殖と機能を抑制する。さらに、アルギナーゼ1とiNOSの産生はL-アルギニンを枯渇させ、T細胞の代謝的飢餓を引き起こし、N2を介した免疫抑制(MDSC様表現型)に寄与する。IL-10 mRNA発現レベルはNSCLCの全組織型で正常肺組織と比較して上昇しており (Hatanaka et al. Ann Oncol 2000)、IL-10分泌好中球はCD8+ T細胞の増殖を抑制することが示されている (De Santo et al. Nat Immunol 2010)。メラノーマ患者の末梢血では好中球集団が拡大し、IL-10を構成的に産生する好中球がCD8+ T細胞の増殖を抑制することが観察された。
IL-17/K-Ras/CXCR2軸と治療抵抗性: K-Ras変異を有するNSCLCでは、IL-17A経路への依存性が示されており (Chang et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2014)、IL-17産生γδ T17細胞やTh17細胞がCXCL1/CXCL2/CXCR2経路を介してTANのリクルートメントを促進するフィードフォワードループを形成する。IL-17の枯渇や好中球の除去は、K-Ras変異肺癌の進行を抑制し、抗PD-1 ICI抵抗性を回復させる可能性が示されている (Akbay et al. J Thorac Oncol 2017)。CXCR1/CXCR2阻害剤(SB225002、AZD5069、Reparixin)は、ICIの補助療法として臨床試験(NCT03161431)で有望な結果を示している。IL-17は腫瘍血管新生とEMTを促進し、腫瘍増殖と転移に関与することが報告されている (Wang et al. Oncoimmunology 2018)。K-Ras変異マウスモデル(n=12 mice)では、IL-17とK-Rasの共発現により腫瘍増殖が加速し、生存期間が有意に短縮することが示された。
NLRの臨床予後バイオマーカーとしての有用性: 好中球-リンパ球比(NLR)はNSCLCの独立した予後不良因子であり、治療前のNLRが高い患者ではOSおよびPFSが不良であることが示されている (Diem et al. Lung Cancer 2017)。ICI治療(抗PD-1/PD-L1)の応答予測においても、NLRが低い患者で応答率が高い傾向が認められる。例えば、ニボルマブ治療を受けたNSCLC患者において、ベースラインNLRが5未満の患者の奏効率は26%であったのに対し、NLRが5以上の患者では10%であった (HR 0.65, 95% CI 0.50-0.85, p<0.001)。血清IL-8やLOX-1(Lectin-type oxidized LDL receptor-1)+ PMN-MDSC(polymorphonuclear-myeloid-derived suppressor cells)も好中球負荷を反映するバイオマーカーとして注目されており、Condamine et al. SciImmunol 2016はLOX-1が高発現するPMN-MDSCが癌患者に特異的であることを示した。
COPD、喫煙、肺癌の関連性: COPD患者は、喫煙歴を調整した後も肺癌発症リスクが独立して上昇することが報告されている (Young et al. Transl Lung Cancer Res 2018)。喫煙によって誘導される慢性好中球性炎症は、肺の微小環境を前腫瘍形成状態に変化させ、ROSやRNSによるDNA損傷、MMP-9やNEによるECMリモデリング、血管新生促進などを介して発癌を促進する(Figure 1)。COPDの増悪時にはNET(neutrophil extracellular traps)形成が増加し、これが発癌刺激となる可能性も指摘されている。吸入ステロイド(ICS)の長期使用はCOPD患者の肺癌リスクを低減することが示唆されており (Parimon et al. Am J Respir Crit Care Med 2007)、高用量ICS(1,200 µg/day)使用群では肺癌発症リスクが2倍低いことが報告された。
考察/結論
本レビューは、NSCLCにおけるTANの多面的な機能、すなわちN1 vs N2の表現型極性、NE/MMP-9/TIMP-3軸、ROS/IL-10を介したCD8 T細胞抑制、IL-17/K-Ras/CXCR2軸、NLRの予後バイオマーカーとしての意義、およびCOPDと喫煙による慢性炎症との関連性を統合的にレビューした。本研究は、TANを選択的に標的とするICI補助療法戦略の理論的根拠を確立するものである。
先行研究との違い: これまでの研究が個々の好中球関連因子や経路に焦点を当てていたのに対し、本レビューはNSCLCにおけるTANの表現型可塑性、免疫抑制メカニズム、ECMリモデリング、血管新生、およびCOPDとの関連性を包括的に統合し、多角的な視点からその役割を解明した点で新規性を持つ。特に、NE/MMP-9/TIMP-3軸やIL-17/K-Ras/CXCR2軸の連関を詳細に分析した点は、これまでの断片的な知見と異なり、より全体像を提示している。Coffelt et al. NatRevCancer 2016などの先行レビューが好中球の一般的な役割に焦点を当てていたのに対し、本レビューは肺癌特異的な文脈での好中球の動態と治療標的としての可能性を深く掘り下げている点が対照的である。
新規性: 本レビューは、TANのN1/N2極性が腫瘍進行とともにN2型に移行するメカニズム、および好中球由来のメディエーターが細胞傷害性T細胞(CTL)機能を抑制する分子メカニズムを詳細に解説した点で新規である。特に、K-Ras変異肺癌におけるIL-17-好中球軸がPD-1阻害剤抵抗性に関与するという知見は、本研究で初めて包括的に統合され、新たな治療標的の可能性を示唆している。Sagiv et al. CellRep 2015が示した好中球の表現型多様性を、肺癌の病態生理と治療応答に結びつけて詳細に論じた点も新規の貢献である。
臨床応用: 本知見は、NSCLC患者におけるICI治療の応答性を改善するための新たな臨床応用戦略に直結する。具体的には、CXCR2阻害剤、TGFβ遮断薬、NE阻害剤などのTANを標的とした薬剤をICIと併用することで、CTLによる癌細胞殺傷を増強できる可能性がある。例えば、Hellmann et al. LancetOncol 2017が示したICIの有効性を、好中球を介した免疫抑制の解除によってさらに高めることが期待される。また、NLRは治療前の患者層別化やICI応答予測に有用な臨床的意義を持つバイオマーカーとして活用できる。COPD患者における肺癌発症リスクの監視と早期発見、および喫煙中止や抗炎症介入による一次予防の重要性も強調される。
残された課題: 今後の検討課題として、N1 vs N2という二分法的な分類は、シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)などの最新技術によって明らかになりつつある好中球のより複雑な異質性に対して過度に単純化されている可能性がある。例えば、Bronte et al. NatCommun 2016が提唱したMDSCの分類と好中球の異質性をより詳細に区別する必要がある。また、TANを特異的に標的とする治療が、抗菌免疫を損なうリスクをどのように回避するかという課題が残されている。ヒトNSCLCにおけるTANの機能的検証(ex vivo共培養など)はまだ予備的であり、scRNA-seqやCyTOFを用いた異質性の統合的解析は2021年時点では不十分であった。COPDにおけるNET形成が肺癌の主要なドライバーであるという因果関係の証明も今後の研究課題である。
方法
本研究はレビュー論文であるため、特定の実験的方法論は該当しない。本レビューは、肺癌、特にNSCLCにおける腫瘍関連好中球(TAN)の生物学、その表現型可塑性、免疫抑制メカニズム、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)との関連性に関する既存の文献を包括的に分析し、統合したものである。
文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceのデータベースを用いて実施され、2020年6月までの関連するプレクリニカルおよび臨床研究が対象とされた。検索キーワードには、「lung cancer」、「NSCLC」、「neutrophils」、「TANs」、「COPD」、「inflammation」、「N1/N2 phenotype」、「immunosuppression」、「immune checkpoint inhibitors」などが含まれた。レビュー対象論文の選択には、肺癌における好中球の役割に焦点を当てた原著論文、レビュー、メタアナリシスが優先的に含まれ、非英語文献や症例報告は除外された。
データの抽出と統合は、複数の著者によって独立して行われ、意見の不一致は議論によって解決された。各研究の質とエビデンスレベルの評価は、主に各研究のデザインと報告された統計手法(例: Kaplan-Meier曲線、Cox回帰分析、t検定など)に基づいて定性的に行われた。特に、臨床試験のデータについては、NCT番号などの識別子を持つ研究が優先的に評価された。基礎研究のデータについては、細胞株(例: A549細胞)や動物モデル(例: K-Ras変異マウスモデル)を用いた研究が対象とされた。
本レビューでは、好中球の動態、表現型可塑性、免疫抑制機能、および治療標的としての可能性に関する最新の知見を統合し、NSCLCの病態生理における好中球の多面的な役割を包括的に提示することを目指した。