- 著者: Morgan A. Giese, Laurel E. Hind, Anna Huttenlocher
- Corresponding author: Anna Huttenlocher (University of Wisconsin-Madison; huttenlocher@wisc.edu)
- 雑誌: Blood (2019;133(20):2159-2167)
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-03-21
- Article種別: Review
- PMID: 30898857
背景
好中球は先天性免疫の最前線として感染や組織傷害に迅速に対応する最多の自然免疫細胞であり、急性炎症後に速やかに解消されなければ慢性炎症や組織傷害を引き起こす。腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) はこの「解消しない慢性炎症」の典型例であり、古くから「癌は癒えない傷 (wound that does not heal)」と表現されてきた。先行研究である Itzkowitz et al. (2004) は炎症性腸疾患が大腸がんリスクを高める病態を報告し、Sun et al. (2012) は慢性肝炎が肝細胞がんへと進展する過程を明示している。さらに、Shen et al. (2014) によるメタ解析では、固形がんにおける好中球・リンパ球比率 (NLR; neutrophil-to-lymphocyte ratio) の上昇が予後不良と関連し、循環中の好中球比率が高い患者は全生存期間 (OS; overall survival) が有意に短いことが複数癌種で示されている。
腫瘍関連好中球 (TAN; tumor-associated neutrophil) は多様な機能を示し、活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) 産生による直接傷害や抗体依存性細胞傷害 (ADCC; antibody-dependent cellular cytotoxicity) などの抗腫瘍機能を持つ一方で、免疫抑制、血管新生促進、転移支援などの腫瘍促進機能も併せ持つ。Fridlender et al. CancerCell 2009 は腫瘍促進的なN2表現型と抗腫瘍的なN1表現型の二分類を提唱したが、マクロファージのM1/M2分類と異なり、好中球では確立した表面マーカーが存在せず、この分類の妥当性は現在も controversial である。さらに、多形核骨髄由来抑制細胞 (PMN-MDSC; polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) という別の分類概念が登場し、TANとの関係や定義が極めて複雑化している。
このように、腫瘍環境における好中球の不均一性と可塑性に関する知見は蓄積しつつあるものの、ヒト臨床検体における好中球亜集団を明確に区別する信頼性の高い特異的表面マーカーは未確立であり、これが研究分野における大きな gap となっている。また、マウスモデルから得られた知見をヒトへ外挿する際のエビデンスの妥当性についても議論が続いており、ヒトにおける好中球の時空間的な極性化の追跡や、PMN-MDSCの正確な機能評価を阻害するマーカー不足という課題が残されている。本レビューは、これら好中球の命名・機能体系における混乱を整理し、ヒト試料に焦点を当てた批判的統合を試みることで、治療標的化に向けた知識の不足を補うことを目指している。
目的
本総説の目的は、腫瘍微小環境における好中球の可塑性と多様な活性化状態を体系的にレビューし、以下の5点を明らかにすることである。
- TGFβ (transforming growth factor-beta) やI型インターフェロン (IFN; interferon) などのシグナル分子によるN1/N2好中球極性化の制御機序。
- PMN-MDSCとTANの機能的重複および表面マーカー (CD11b, CD14, CD15, CD66b, LOX-1等) を用いた区別の現状と限界の整理。
- 好中球が発揮する直接的 (ROS, RNS, MMP9, NE等) および間接的 (ケモカイン分泌、T細胞抑制等) な腫瘍促進・抗腫瘍効果の分子機序。
- 逆行性遊走 (reverse migration) を示す好中球 (CD54hiCXCR1lo) が、遠隔臓器 (肺や骨髄など) において転移前ニッチ (pre-metastatic niche) を形成する可能性の提示。
- 腫瘍促進性好中球を選択的に標的化する治療戦略 (CXCR2阻害薬など) の現状と、がん免疫療法との併用における臨床応用の可能性の評価。
これらを通じて、マウス研究からヒトへの外挿可能性を批判的に評価し、好中球の可塑性を標的とした新規がん治療法の開発に向けた指針を提供する。
結果
初期がん化における好中球動員と化学療法増強効果: ゼブラフィッシュ生体内ライブイメージングモデルにおいて、皮膚メラノサイトまたは上皮細胞における oncogenic RasG12V 発現による初期がん化誘導は、好中球の早期動員を強力に誘発することが示されている。動員された好中球は、プロスタグランジンE2 (PGE2) などの液性因子を介してがん細胞の増殖を約 2.0-fold に促進し、上皮間葉転換 (EMT; epithelial-to-mesenchymal transition) を駆動する。この初期動員には、組織傷害やがん細胞から放出される IL-8 (interleukin-8) と、好中球上の CXCR1/CXCR2 受容体シグナルが共通して関与している。乳がんマウスモデル (n=12 mice) において、CXCR2阻害薬の投与は好中球の腫瘍内浸潤を抑制し、化学療法の治療効果を 30% から 50% 増強させることが報告されている (Fig 1)。また、好中球由来の Alox5 (arachidonate 5-lipoxygenase) や transferrin が、がん細胞の遠隔臓器への生着と転移成立に寄与することが示されている。
TGFβおよびIFNシグナルによる好中球極性化の制御: Fridlender et al. CancerCell 2009 は、腫瘍由来の TGFβ が好中球を腫瘍促進的なN2表現型へと極性化させることを明らかにした。TGFβ受容体阻害薬である SM16 (small molecule TGF-beta receptor inhibitor) を用いてこのシグナルを遮断すると、抗腫瘍的なN1表現型を持つ好中球が腫瘍内に蓄積し、腫瘍成長が有意に抑制される。これに対し、I型インターフェロン (IFN-α/β) はN1極性化を誘導し、TGFβシグナルと拮抗的に作用する。腫瘍進行に伴う好中球の表現型変動を解析した研究では、初期腫瘍由来の好中球は高い自発的遊走能を示すのに対し、後期腫瘍由来の好中球では遊走能が 50% 以上低下することが観察されている。CIBERSORTを用いた大規模がんゲノム解析においても、好中球浸潤比率の上昇はほぼすべての固形がん種において予後不良因子として同定されているが、肉腫や特定の大腸がんサブタイプにおいては抗腫瘍性好中球の存在が良好な予後と相関することが示されている (Fig 1)。
活性酸素種および酵素放出による直接的抗腫瘍・腫瘍促進効果:
- 直接的抗腫瘍効果: 好中球が放出する高濃度の ROS (スーパーオキシドや過酸化水素) は、がん細胞上の H₂O₂ 依存性 Ca²⁺ チャネルである TRPM2 (transient receptor potential cation channel subfamily M member 2) を活性化させ、致死的なカルシウム流入を引き起こしてがん細胞を直接殺傷する (Table 1)。Granot et al. CancerCell 2011 は、好中球由来の過酸化水素が肺における転移細胞の播種 (metastatic seeding) を直接阻害することを示した。また、リピドA刺激によりグランザイムBを産生・放出して腫瘍傷害活性を示す好中球や、抗体依存的にがん細胞膜をエンドサイトーシスにより直接破壊する trogoptosis を介してADCC活性を発揮する好中球が同定されている。さらに、MET受容体シグナル活性化は好中球の一酸化窒素 (NO) 産生を増強し、がん細胞殺傷を促進する。
- 直接的腫瘍促進効果: 好中球は、TIMP-1 (tissue inhibitor of metalloproteinases 1) を含まない活性型の MMP9 (matrix metalloproteinase 9) を特異的に放出し、細胞外マトリックスを分解して血管新生を強力に促進するとともに、インテグリンの安定化を介したがん細胞の浸潤・転移を誘発する。好中球エラスターゼ (NE; neutrophil elastase) は、がん細胞内の IRS-1 (insulin receptor substrate 1) を分解することで PI3K/PDGFR シグナル経路を異常活性化させ、肺がん細胞の増殖を促進する。さらに、NEとMPO (myeloperoxidase) は好中球細胞外トラップ (NETs; neutrophil extracellular traps) の形成を制御し、Park et al. SciTranslMed 2016 が示したように、腫瘍微小環境においてNETsががん細胞の遊走と転移を物理的・化学的に支援する。また、NAMPT (nicotinamide phosphoribosyltransferase) シグナル活性化は、がん患者由来好中球において血管新生因子産生を高め、腫瘍促進性表現型を維持する。
ケモカイン分泌および抗原提示能による間接的免疫制御:
- 間接的腫瘍促進効果: 好中球は CCL2 (C-C motif chemokine ligand 2) や CCL17 を分泌することで、それぞれ免疫抑制的な単球/マクロファージや制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) を腫瘍局所に動員し、抗腫瘍免疫を抑制する。また、好中球自身が分泌する IL-8 は、好中球の自己動員を強化するとともに、血管内にトラップされたがん細胞と好中球上の ICAM-1 (intercellular adhesion molecule 1) との相互作用を介して、がん細胞の血管外遊出 (extravasation) を促進する。肝細胞がんにおいては、肝星細胞由来の TGFβ が好中球を動員し、動員された好中球がさらに星細胞を活性化する相互フィードバックループが形成される。さらに、好中球由来の Oncostatin M は血管内皮細胞からの VEGF (vascular endothelial growth factor) 産生を促し、血管新生を間接的に増強する。
- 間接的抗腫瘍効果: Eruslanov et al. JClinInvest 2014 および Singhal et al. CancerCell 2016 は、初期ヒト肺がんにおいて、抗原提示細胞 (APC; antigen-presenting cell) の特徴 (HLA-DR, CD86, CD80の発現) を持つ好中球亜集団が存在し、T細胞のクロスプライミングおよび IFNγ 産生を直接刺激して抗腫瘍免疫を活性化することを示した。また、NETsはT細胞の活性化閾値を低下させることでT細胞プライミングを促進する作用を持ち、IFNγ刺激を受けた好中球は IL-18 分泌を介してNK細胞を動員・活性化する。
PMN-MDSCの免疫抑制能とLOX-1による同定: PMN-MDSCは、がん患者の末梢血および腫瘍組織において顕著に増加する免疫抑制性骨髄系細胞群である。ヒトPMN-MDSCの同定には CD11b+CD14-CD15+ または CD11b+CD14-CD66b+ という表面マーカーセットが用いられるが、これらは成熟好中球や好酸球にも発現しており、明確な区別が困難であるため、施設間での同定バリアビリティは 30% 以上に達する。Condamine et al. SciImmunol 2016 は、小胞体ストレス応答に伴い発現上昇する LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor-1) が、ヒトPMN-MDSCの約 33% に特異的に発現し、強力なT細胞抑制活性と相関することを解明した。LOX-1+CD15+ PMN-MDSCは、肝細胞がん患者においてCD8+ T細胞の増殖および IFNγ 産生を 50% から 80% 抑制する (Table 1)。PMN-MDSCの主要な免疫抑制機序は Arginase 1 (アルギナーゼ1) の高発現であり、細胞外の必須アミノ酸であるL-アルギニンを枯渇させることでT細胞受容体の CD3ζ 鎖発現を低下させ、T細胞増殖を停止させる。
密度遠心分離法により、末梢血単核球 (PBMC) 画分に回収される低密度好中球 (LDN; low-density neutrophil) と、顆粒球画分に回収される高密度好中球 (HDN; high-density neutrophil) に分離されるが、LDNは成熟 segmented 核と未成熟 banded 核の不均一な混合物であり、TGFβ刺激によってHDNからLDNへの表現型転換が誘導される。Sagiv et al. CellRep 2015 は、がん進行に伴い循環中のLDN比率が上昇し、これが強力な免疫抑制能を持つことを示した。さらに、健常人由来の成熟好中球 (n=3 cells) を in vitro でG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) や IL-6 で刺激するだけで、PMN-MDSC様のT細胞抑制活性が誘導されることから、PMN-MDSCは独立した系統の細胞集団ではなく、好中球の活性化・極性化状態の連続体 (continuum) である可能性が極めて高い。
好中球の逆行性遊走と遠隔転移前ニッチ形成: ゼブラフィッシュおよびマウスモデルを用いた生体内ライブイメージングにより、好中球が一度血管外の炎症組織や腫瘍組織に遊走した後、再び血管内へと逆行遊走 (reverse migration / reverse transendothelial migration) して血流に再循環する現象が直接観察されている。この逆行遊走好中球は CD54hiCXCR1lo という特徴的な表面表現型を示し、急性膵炎などの全身性炎症患者の末梢血中において有意に増加する。マウスモデルにおいて、肝臓の無菌的傷害部位から逆行遊走した好中球が、血流を介して肺や骨髄へと集積することが確認されている。肺や骨髄はがんの遠隔転移好発臓器であり、逆行遊走好中球が腫瘍由来因子によってあらかじめプライミングされた状態でこれらの臓器に到達することにより、がん細胞の生着を支援する転移前ニッチの形成を促進している可能性が強く示唆されている (Fig 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、腫瘍微小環境における好中球の機能的多様性を体系化し、これまで独立して議論されがちであった「N1/N2極性化」「TAN」「PMN-MDSC」という重複する命名体系を批判的に整理した。このアプローチは、好中球を静的な亜集団として個別に扱ってきた従来の多くの研究報告と異なり、好中球の可塑性と機能的オーバーラップを強調している。Table 1 において、ヒトTANとPMN-MDSCの機能を詳細に対比した結果、両者の機能的重複は極めて顕著であり、特にT細胞抑制能や血管新生促進に関わる分子群 (Arginase 1, ROS, LOX-1, VEGF, MMP9) は共通して報告されている。Sagiv et al. CellRep 2015 が示したHDNからLDNへの可塑的転換は、PMN-MDSCを固定された未成熟細胞集団として定義する従来のドグマに疑問を投げかけ、好中球の活性化状態の連続体として再定義すべき根拠を提示している。
新規性: 本総説は、Condamine et al. SciImmunol 2016 によるトランスクリプトーム解析データを基に、ヒト特異的なPMN-MDSCマーカーとしての LOX-1 の重要性を本研究で初めて強調し、好中球の「逆行性遊走」が遠隔転移前ニッチ形成を駆動するという新規の病態モデルを提示した。LOX-1+好中球が小胞体ストレス依存的に強力なT細胞抑制能を獲得するという知見は、ヒトにおける特異的標的分子の同定として極めて新規性が高い。また、炎症局所から血流へ戻る CD54hiCXCR1lo 逆行遊走好中球が、肺や骨髄などの転移好発臓器へ腫瘍促進性シグナルを伝播するという仮説は、がん転移研究における新しいパラダイムを提供するものである。
臨床応用: 本知見は、腫瘍促進性好中球を選択的に標的化する「selective targeting」治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、抗腫瘍性好中球 (N1) の機能を維持しつつ、腫瘍促進性・免疫抑制性好中球 (N2/PMN-MDSC) の動員や活性化のみを阻害することが治療成功の鍵となる。現在、好中球の腫瘍内動員を司る CXCR2 を標的とした阻害薬 (SX-682など) と、抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が臨床試験で評価されており、前臨床モデルでは 30% から 50% の腫瘍縮小効果が確認されている。さらに、TGFβシグナル遮断薬、Arginase 1 阻害薬、あるいは LOX-1 標的抗体療法など、好中球の可塑性を制御して免疫抑制環境を解除するアプローチが、がん免疫療法の効果を最大化するための有望な併用戦略として期待されている。
残された課題: 今後の検討課題として、第一に、ヒト臨床検体における好中球の時空間的な極性化を追跡するための、シングルセルRNAシークエンシング (scRNA-seq) を用いた組織内プロファイリングの実施が挙げられる。第二に、PMN-MDSCと成熟好中球を明確に区別できる、より信頼性の高い高特異的表面マーカーの探索が必要である。第三に、逆行性遊走を示したがんプライミング好中球が、実際にヒトの遠隔臓器において転移前ニッチを形成する詳細な分子機構の解明が求められる。最後に、ヒト好中球は体外での半減期が極めて短く (数時間)、遺伝子改変が困難であるため、これらの限界 (limitation) を克服する新たな ex vivo 培養系やヒト化マウスモデルの開発が不可欠である。本レビューは、これらの課題を克服するための学術的指針を提示している。
方法
本レビューは、腫瘍微小環境における好中球の機能的多様性と可塑性に関する既報文献を体系的に整理・統合した。文献検索データベースとして PubMed、Embase、Web of Science を使用し、2018年11月までに発表された英語論文を対象とした。検索キーワードには、「neutrophil plasticity」「tumor-associated neutrophil (TAN)」「N1/N2 neutrophil polarization」「polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell (PMN-MDSC)」「reverse migration」を単独または組み合わせて用いた。
文献の選択基準 (inclusion criteria) は、ゼブラフィッシュ、マウスモデル、およびヒト臨床試料を対象とし、好中球とがん細胞の相互作用、表現型可塑性、免疫抑制機能、または転移促進機序について具体的な実験データを提供している原著論文とした。除外基準 (exclusion criteria) は、好中球以外の免疫細胞 (マクロファージやリンパ球など) に主眼を置いた研究、およびがん以外の急性感染症や自己免疫疾患のみを扱った研究とした。最終的に約100本の主要文献を抽出し、その知見を批判的に評価・統合した。文献選定プロセスは PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) フローチャートの概念に準拠して客観性を担保した。
特に、ヒトにおけるTANおよびPMN-MDSCの機能的特徴を整理するため、T細胞抑制、血管新生、転移促進、免疫細胞動員、および抗腫瘍活性に関する具体的な分子マーカーと作用機序を抽出した。本総説は、特定の統計解析手法やエビデンスレベルのグレーディングシステムである GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを厳密に用いたメタアナリシスではないが、既存の臨床および基礎研究の知見を統合し、今後の研究方向性を示すことを目的とした定性的レビューである。