- 著者: Ana C. Leal, Daniella M. Mizurini, Tainá Gomes, Natalia C. Rochael, Elvira M. Saraiva, Marcos S. Dias, Claudio C. Werneck, Micheli S. Sielski, Cristina P. Vicente, Robson Q. Monteiro
- Corresponding author: Robson Q. Monteiro (Institute of Medical Biochemistry Leopoldo de Meis, Federal University of Rio de Janeiro, Brazil)
- 雑誌: Scientific reports
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-07-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 28743887
背景
癌患者は血栓塞栓症のリスクが著明に上昇するが、その病態生理学的機序は依然として未解明な点が多い。腫瘍細胞から放出される細胞外小胞 (EVs: extracellular vesicles) は、腫瘍の増殖、血管新生、転移、微小環境の調節、宿主免疫応答など、様々な腫瘍促進プロセスに関与することが報告されているColombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。特に、直径50〜200 nmのエクソソームは、その血栓形成への寄与がこれまで過小評価されてきた可能性がある。一方、好中球細胞外トラップ (NETs: neutrophil extracellular traps) は、DNAとタンパク質からなる網状構造であり、NETosisと呼ばれるプロセスを通じて形成されるBrinkmann et al. Science 2004、Fuchs et al. JCellBiol 2007。NETsは、腫瘍担持マウスモデルにおいて自然血栓形成やDNase 1感受性の血栓促進状態と関連することが報告されており、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF: granulocyte colony-stimulating factor) 産生腫瘍による好中球増加がNET形成傾向を規定する主要因子と考えられてきた。Demers et al. (2016) は、好中球増加を伴う癌モデルマウスがNET形成の全身性マーカーを示し、ex vivoでのNET形成傾向が高いことを報告している。NETsは血小板凝集の促進、接触経路の活性化、内因性抗凝固因子の分解など、複数の止血促進作用を示すことがin vitroおよびin vivo研究で示されている。例えば、Massberg et al. (2010) は、好中球セリンプロテアーゼを介した凝固と自然免疫の相互作用を報告し、Brill et al. (2012) はNETsがマウスの深部静脈血栓症を促進することを示した。しかし、腫瘍由来エクソソームとNETsが癌関連血栓形成にどのように協調的に寄与するかについては不明な点が残されており、このメカニズムを詳細に解明する必要がある。特に、エクソソームがNET形成を直接誘導する可能性や、G-CSFによる好中球プライミングとの関連性については、これまで十分に検討されておらず、知識のギャップが存在する。本研究は、この不足しているメカニズムの解明を目指すものである。
目的
本研究では、4T1マウス乳癌モデルを用いて、NET形成が腫瘍担持マウスの動静脈血栓加速に必要であることを実証することを目的とした。具体的には、DNase 1処理が腫瘍担持マウスの血栓促進状態を逆転させるか否かを評価した。さらに、腫瘍由来エクソソームがG-CSFでプライミングされた好中球からのNET形成を誘導することを確認し、in vitroでNETsとエクソソームの相互作用を検証することを目的とした。最終的に、G-CSF誘導好中球増加と腫瘍由来エクソソームが協調的に作用して、腫瘍フリーマウスにおいて癌関連血栓形成状態をin vivoで再現できるかを検証することを目的とした。これらの目的を達成することで、癌関連血栓症の新たな病態生理学的メカニズムを解明し、将来的な治療標的の同定に貢献することを目指した。
結果
4T1担癌マウスにおけるNET依存性の血栓促進状態: 4T1腫瘍担持マウス (n=5 mice) は、対照マウス (n=5 mice) と比較して、循環好中球数 (4.5 ± 0.3 x 10⁴/mm³ vs 対照1.5 ± 0.1 x 10⁴/mm³、p<0.01)、血漿DNAレベル (1500 ± 100 A.U. vs 対照750 ± 50 A.U.、p<0.01)、MPOレベル (0.35 ± 0.02 vs 対照0.22 ± 0.01、p<0.05)、およびエクソソームマーカーであるCD63レベル (2000 ± 150 pg/mL vs 対照1000 ± 100 pg/mL、p<0.01) が有意に上昇し、全身的な好中球活性化とNET誘導の兆候を示した (Fig. 1)。静脈血栓モデルでは、腫瘍担持マウス (n=15 mice) の閉塞時間が27.9 ± 2.2分と、対照 (n=9 mice) の56.7 ± 3.2分と比較して著明に短縮した (p<0.001)。動脈血栓モデルでも同様に、4T1担癌マウス (n=9 mice) の閉塞時間は9.8 ± 0.9分と、対照 (n=9 mice) の32.7 ± 6.6分より有意に短縮した (p<0.001)。DNase 1の前処置により、静脈血栓の閉塞時間は腫瘍担持マウス (n=8 mice) で49.6 ± 3.3分となり、対照 (n=4 mice) の49.7 ± 5.4分と同等レベルまで回復し、NET依存性が証明された (Fig. 2A)。動脈血栓モデルでは、DNase 1処置により腫瘍担持マウス (n=9 mice) および対照マウス (n=6 mice) のいずれにおいても血栓形成がほとんど消失し、NETsが動脈血栓形成に必須であることが示された (Fig. 2B)。免疫蛍光顕微鏡解析により、腫瘍担持マウスの動脈血栓内にLy6G陽性細胞と細胞外DNA繊維 (NETs) の強い共局在が確認された (Fig. 2C, D)。
腫瘍由来エクソソームによるNET形成誘導: 腫瘍担持マウスの血漿中EVsは、対照と比較して粒子数 (2.5 ± 0.2 x 10⁹/mL vs 対照1.2 ± 0.1 x 10⁹/mL、p<0.05) およびCD63レベル (約2倍、p<0.01) が有意に上昇し、NTAにより大部分が80-110 nmのエクソソームサイズ範囲の粒子であることが示された (Fig. 3)。培養4T1細胞から精製されたエクソソームは、NTAにより100-120 nmのサイズ範囲であることが確認された (Fig. 4A)。G-CSF処置マウス由来の骨髄細胞 (n=3 replicates) に4T1由来エクソソーム (0.1 µg) を添加すると、Ly6G陽性細胞からの細胞外DNA繊維 (シトルリン化ヒストンH3陽性) の放出が有意に増加した (約3倍、p<0.01)。この結果は、腫瘍エクソソームがG-CSFでプライミングされた好中球をNET形成に誘導することを示唆する (Fig. 4D)。G-CSF非処置骨髄細胞では、エクソソームのNET誘導能は低かった。
TF陽性エクソソームのNETへの結合とin vivoでの血栓促進作用: フローサイトメトリー解析により、4T1細胞が高レベルの組織因子 (TF) を発現していることが示された (Fig. 5A)。4T1由来エクソソームは、用量依存的な凝固促進活性 (血漿凝固時間短縮) を示し、対照血漿と比較して有意な短縮が認められた (p<0.001) (Fig. 5B)。in vitro実験では、DiIC18標識エクソソームがPMAで誘導されたNET (Hoechst染色DNA) 上に結合し、共局在することが確認された (Fig. 5C)。この結果は、NETsが腫瘍由来のプロ凝固性エクソソームを捕捉する足場として機能する可能性を示唆する。G-CSF処置により末梢好中球数が有意に増加した (約3倍、p<0.01) (Fig. 6A)。G-CSF処置単独でも静脈閉塞時間が37.1 ± 2.3分 (ナイーブマウス n=12 の54.0 ± 2.6分と比較) に短縮した。4T1エクソソームの静脈内投与単独ではわずかな短縮 (43.5 ± 0.3分) が認められた。しかし、G-CSF処置マウス (n=5 mice) に4T1エクソソーム (100 µg) を静脈内投与した群では、閉塞時間が26.6 ± 1.6分となり、腫瘍担持マウス (n=15 mice) の27.9 ± 2.2分と同等レベルの血栓加速が達成された (p<0.001) (Fig. 6B)。免疫組織化学的解析により、G-CSFとエクソソーム併用群の静脈血栓内においてLy6G陽性細胞と細胞外DNA繊維の増加が確認された (Fig. 6C, D)。
考察/結論
本研究は、腫瘍由来エクソソームとNETsが癌関連血栓形成に協調的に寄与するという新規メカニズムを初めて実証した。4T1乳癌モデルはG-CSF産生による好中球増加がNET形成傾向を規定し、腫瘍由来エクソソームがG-CSF増感好中球に対してNET形成誘導能を持つことを示した。
先行研究との違い: 既報のTF陽性マイクロベシクルによる深部静脈血栓症 (DVT) 増悪モデルと異なり、本研究ではエクソソームがNET形成を誘導し、血栓形成を加速するメカニズムを明らかにした。また、G-CSFが好中球増加とNET形成傾向を規定するというこれまでの報告を補強し、腫瘍由来エクソソームがこのプロセスに直接関与することを示した。DNase 1が腫瘍担持マウスの静脈血栓形成を完全に回復させた一方で、対照マウスには影響を与えなかった点は、部分的な血流制限に基づくDVTモデルでDNase 1が血栓形成を予防したという報告と対照的であり、光化学的傷害モデルが癌関連血栓症における自然免疫系の寄与を評価するのに有用であることを示唆する。
新規性: 最も重要な発見は、腫瘍フリーマウスにG-CSFとエクソソームを投与することで、腫瘍担持マウスと同等の血栓促進状態が再現された点である。これは、これら2つの因子が癌関連血栓病態の主要な駆動因子であることを本研究で初めて直接的に証明するものである。TF陽性エクソソームがNETに結合・捕捉されることは、NET-EV複合体が血栓部位での凝固促進を増幅する機序を示唆する。この相互作用は、血栓形成の局所的な促進に寄与する新規メカニズムである。
臨床応用: 本知見は、癌関連血栓症の病態理解に貢献し、新たな治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。具体的には、NET形成阻害(エラスターゼ阻害剤、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4 (PAD4) 阻害剤など)や、腫瘍由来EVの産生・取り込み阻害が、癌関連血栓形成の予防および治療戦略として臨床応用が期待される。例えば、Thalin et al. (2016) は、G-CSFレベルの上昇が癌患者におけるNET関連微小血栓症と相関することを示しており、本研究の結果はこれらの臨床観察を裏付けるものである。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームが好中球のNET形成を誘導する具体的な分子メカニズム(例:エクソソーム上の特定の分子と好中球受容体の相互作用)の解明が残されている。また、本研究はマウスモデルに基づくものであり、ヒトの癌関連血栓症における本メカニズムの検証や、様々な癌種における普遍性の評価も今後の研究方向性である。さらに、NETsが腫瘍由来EVsを捕捉する詳細な分子機構や、この相互作用が血栓形成以外の腫瘍促進プロセス(例:転移)にどのように影響するかについても、さらなる研究が必要である。
方法
BALB/cメスのマウス (8-10週齢) を使用し、第4乳腺脂肪体に4T1細胞 (5×10⁴個) を同所性注射し、3週後に評価した。動物実験は連邦大学リオデジャネイロの施設内動物管理使用委員会によって承認されたガイドラインに従って実施された (プロトコル番号 IBQM/089-07/16)。血液検査として、EDTA (1.8 mg/mL) 採血後、CELL-DYN 3500血液分析装置 (Abbott Diagnostics) を用いて好中球、血小板、単球、リンパ球数を測定した。血漿中のDNAレベルはQuant-it Picogreen dsDNAキット (Thermo Fisher Scientific) とSpectra Max Paradigm分光蛍光光度計 (Molecular Devices) で励起485 nm、発光535 nmで測定した。ミエロペルオキシダーゼ (MPO: myeloperoxidase) は比色定量で405 nmの吸光度を測定し、CD63はCusabio製マウスCD63特異的ELISAキットで定量した。
静脈血栓モデルにはRose Bengal (75 mg/kg体重、静脈内投与、PBSで15 mg/mLに希釈)/レーザー光化学的頸静脈傷害モデルを用い、TS420流量計 (Transonic Systems) で血流を連続的にモニターし、閉塞時間を測定した。レーザーは1.5-mV、540 nmグリーンレーザー (#25-LGR-193-249, Melles Griot Inc.) を使用した。動脈血栓モデルには塩化第二鉄 (5% FeCl₃) を濾紙 (1×2 mm) に飽和させ頸動脈に2分間適用する傷害モデルを用い、同様にTS420流量計で閉塞時間を測定した。NETの関与を評価するため、一部のマウスには血栓誘導の15分前にDNase 1 (Pulmozyme®、10 µg、静脈内投与) を前処置した。血栓の免疫組織化学的解析には、Ly6G抗体 (AlexaFluor 488標識、eBioscience) とHoechst 33342染色 (Life Technologies) を用い、LEICA DMI 4000共焦点顕微鏡 (Leica) で観察した。
4T1細胞培養上清からExoQuick-TC™ (System Biosciences) を用いてエクソソームを精製し、NanoSight LM10顕微鏡 (NanoSight Ltd) によるナノ粒子トラッキング解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis) によりサイズ分布 (100-120 nm) を確認した。G-CSF (Filgrastim, Roche Ltd、2.5 µg、3日間皮下投与) 処置マウス由来の骨髄細胞 (1×10⁵個) を単離し、4T1由来エクソソーム (0.1 µg) と3時間、37 °Cでインキュベートした。NET形成は、Ly6G抗体 (AlexaFluor 488標識)、シトルリン化ヒストンH3抗体 (Abcam、1:50希釈)、Hoechst 33342染色 (1:1000希釈) を用いた免疫蛍光顕微鏡により定量した。NETとエクソソームの相互作用は、PMA (phorbol myristate acetate、50 nM) でNET誘導した骨髄細胞にDiIC18標識エクソソーム (Invitrogen) を添加し、Hoechst染色DNA繊維との共局在をin vitroで評価した。
腫瘍フリーマウスにおける血栓促進状態の再現実験では、G-CSF処置マウスに4T1由来エクソソーム (100 µg) を静脈内投与し、静脈血栓形成の加速を評価した。4T1細胞の組織因子 (TF: tissue factor) 発現は抗マウスTF抗体 (#4515, American Diagnostica) を用いたフローサイトメトリーで、4T1由来エクソソームの凝固促進活性はマウス血小板貧血漿 (PPP: platelet-poor plasma) を用いたKC4 Delta Coagulometer (Tcoag Ireland Limited) による凝固アッセイで評価した。統計解析にはGraphPad Prism 5を使用し、P<0.05を有意差とした。比較には一元配置分散分析 (ANOVA) 後にTukeyの多重比較検定、または2群比較には対応のない両側t検定を用いた。