• 著者: Ryan N. Rys, Arianna Calcinotto
  • Corresponding author: Arianna Calcinotto (Institute of Oncology Research, Bellinzona; Università della Svizzera Italiana, Switzerland)
  • 雑誌: Trends in Cell Biology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 39362804

背景

腫瘍関連好中球 (tumor-associated neutrophil, TAN) は近年のがん免疫学において急速に注目を集める免疫細胞群であり、末梢血の好中球・リンパ球比 (neutrophil-to-lymphocyte ratio, NLR) が肺癌・大腸癌・前立腺癌を含む多くの固形癌で予後不良マーカーとして確立されている (Hedrick et al. NatRevImmunol 2022)。好中球は伝統的に短命 (循環半減期 6-8 時間) で均質な自然免疫エフェクターと考えられてきたが、scRNA-seq・CyTOF など単細胞解析技術の普及により、腫瘍微小環境 (TME) 内には機能的に多様化したサブセットが存在することが明らかになってきた。好中球サブセットの二元分類 (N1: 抗腫瘍 / N2: TGF-β 依存的な腫瘍促進) が提唱されて以来 (Fridlender et al. CancerCell 2009)、その分子的実体の解明が進められてきた。さらに、好中球が SA-β-Gal (senescence-associated β-galactosidase)、p16INK4a、SASP (senescence-associated secretory phenotype) を示す「老化様」表現型を獲得するという概念が近年浮上したが、その誘導機構・TME における病態的役割・治療標的としての可能性は未解明であった。特に、TREM2 (triggering receptor expressed on myeloid cells 2) 陽性好中球の老化様表現型獲得を媒介する腫瘍由来シグナル、ならびに化学療法後に出現する老化様好中球が治療抵抗性および上皮間葉移行 (EMT) を促進するエピジェネティック機構の詳細が不足していた。また、NETs (neutrophil extracellular traps) が癌進行・転移に果たす役割 (He et al. AnnuRevCancerBiol 2022) と老化様好中球との交差点も未解明であった。本論文は、腫瘍関連好中球の多様性・老化様表現型の分子基盤・免疫セノリティクスおよび CXCR2 アンタゴニストを軸とした治療戦略を包括的に概説したレビューである。

目的

腫瘍関連好中球の多面的役割 (腫瘍促進/抑制の分子機構)、新たに発見された老化様表現型 (TREM2+/SA-β-Gal+/p16INK4a+) の誘導経路と癌進行への寄与、ならびに免疫セノリティクス・ケモカイン受容体 CXCR2 阻害・将来の TREM2 標的療法を体系的に整理し、好中球標的治療の臨床展望を示すこと。

結果

腫瘍関連好中球の多面的腫瘍促進機能と NLR の臨床的意義: 腫瘍関連好中球はがんの全ステージ (腫瘍形成・増殖・免疫回避・血管新生・転移) に積極的に関与する多機能性免疫細胞である。まず NLR は大腸癌・肺癌・膵癌・肝癌・前立腺癌など多くの固形癌において独立した予後不良因子であり、腫瘍部位への好中球蓄積が全身的な免疫状態を反映することが示されている。腫瘍形成ステージでは好中球由来の ROS (活性酸素種) が DNA 損傷とゲノム不安定性を誘発し、NE (好中球エラスターゼ) による IRS-1 (insulin receptor substrate-1) 分解が PI3K 経路を非依存的に活性化して増殖を加速する。腫瘍増殖局面では PGE2 (prostaglandin E2; プロスタグランジン E2) による IL-2 シグナル抑制・T 細胞不活化、IL-1RA (interleukin-1 receptor antagonist) による炎症性制御回避、NE を介した直接的な癌細胞増殖支持が確認されている。特に CRPC (castration-resistant prostate cancer; 去勢抵抗性前立腺癌) では、浸潤骨髄系細胞 (好中球) 由来の IL-23 が androgen receptor (AR) 発現を転写レベルで促進し、去勢後の AR 経路再活性化を誘導してホルモン抵抗性を生じさせることが遺伝子改変マウスモデルで実証されている (Calcinotto et al. Nature 2018)。免疫抑制機構は多層的であり、NOS1 (nitric oxide synthase 1)/NOS2 と ARG1 (arginase 1) を介した L-アルギニン枯渇による T 細胞不活化、NETs (好中球細胞外トラップ) 内 DNA による CD8+ T 細胞のアポトーシス誘導、腫瘍周囲好中球上の PD-L1 および VISTA (V-domain immunoglobulin suppressor of T-cell activation) の発現が免疫チェックポイントとして機能する。血管新生促進は VEGF 分泌と TIMP (tissue inhibitor of metalloproteinases)-free MMP-9 (matrix metalloproteinase-9) による潜在型 VEGF 活性化、prokineticin 2 (PROK2) シグナルを経由し、腫瘍の拡大・播種を支援する。転移ステージでは NET 内 DNA が CCDC25 (coiled-coil domain-containing protein 25) を癌細胞上の受容体として認識し浸潤/移動シグナルを伝達するほか、腫瘍随伴好中球が IL-6/IL-1β/TNF-α/ロイコトリエンを分泌して転移前 niche を形成し、循環癌細胞 (CTC) のエスコートを通じた遠隔臓器への播種を助長する (Fig 1)。

腫瘍関連好中球サブセットの高度な表現型多様性: 好中球の腫瘍内表現型は N1/N2 の二元モデルを大きく超えた多様性を単細胞解析により持つことが明らかになった (Fridlender et al. CancerCell 2009)。肝癌患者 (n=124 名) を対象とした scRNA-seq 解析 (Xue et al. Nature 2022) では 11 種の腫瘍関連好中球サブセットが同定され、免疫抑制性サブセットの腫瘍内高割合が独立した予後不良因子と関連していた (p<0.05)。メラノーマ患者の末梢血を CyTOF (mass cytometry) で解析した研究 (Zhu et al. J Immunother Cancer 2020) では 7 つの好中球亜集団が同定され、進行病期と相関するサブセット特性が特定された。膵癌においては腫瘍関連好中球が T1/T2/T3 の 3 サブセットに分類され、T3 サブセットは decoy receptor dcTRAIL-R1 (death receptor decoy TRAIL receptor 1) を発現し低酸素条件下で数日間の延長生存を示す長寿命の強力免疫抑制サブセットとして機能する。肺腫瘍では SiglecF (sialic acid binding Ig-like lectin F) 陽性の長寿命好中球が骨芽細胞由来の因子によって骨髄から遠隔動員され、BCL-XL (B-cell lymphoma-extra large) 依存的な抗アポトーシスによって腫瘍内に蓄積して腫瘍促進的機能を発揮することが示された (Engblom et al. Science 2017; Pfirschke et al. Cell Rep 2020)。また炎症・腫瘍状態においては G-CSF/IL-1β/IL-6/IL-3 シグナルが骨髄造血を増強する緊急造血 (emergency granulopoiesis) を誘発し、体重 1 kg あたり最大 7×10⁹ 個に上る大量の好中球が動員されて腫瘍部位への集積が加速される (Manz & Boettcher Nat Rev Immunol 2014)。抗腫瘍方向への可塑性も確認されており、早期肺癌患者や一部の肉腫モデルでは TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand) 産生や T 細胞への抗原提示を通じた抗腫瘍活性が示されているが、腫瘍進行に伴いこの抗腫瘍性は消失し腫瘍促進的 TAN への移行が起こる (Fig 2)。

老化様好中球の誘導機構と癌促進への寄与: 「老化様好中球」は SA-β-Gal (老化関連 β-ガラクトシダーゼ)、p16INK4a (CDKN2A)、細胞サイズ増大、SASP (炎症性サイトカイン/プロテアーゼの分泌亢進) という老化細胞の古典的マーカーを発現し、通常数時間の半減期を持つ好中球とは異なり数週間にわたり生存する特異なサブセットである。その誘導を駆動する最も重要な発見として、Bancaro et al. (Cancer Cell 2023) は前立腺癌腫瘍細胞から分泌される APOE (アポリポタンパク質 E) が TREM2 (triggering receptor expressed on myeloid cells 2) 陽性骨髄球系細胞 (好中球を含む) を誘導し、SYK (spleen tyrosine kinase)-ERK (extracellular signal-regulated kinase) シグナル軸を介して老化関連遺伝子プログラムを活性化することを遺伝子改変マウスモデルと前立腺癌患者生検で実証した。このように生成した TREM2+ 老化様好中球は SASP を介して持続的な免疫抑制的 TME を形成し、腫瘍の増殖・転移を促進する。一方、化学療法後の乳癌においては SA-β-Gal/p16INK4a 陽性の老化様好中球が piRNA-17560 (PIWI-interacting RNA 17560) を担持したエクソソームを分泌し、癌細胞内で STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) を活性化して RNA m6A 脱メチル化酵素 FTO (fat mass and obesity-associated protein) の発現を誘導することで m6A 修飾パターンを変化させ、EMT (上皮間葉移行) と化学療法抵抗性を促進することが示された (Ou et al. Cell Death Dis 2022)。これらの知見は老化様好中球が化学療法後の再発・転移という未充足医療ニーズに密接に関与していることを示唆する。老化様好中球マーカーとして TREM2、SA-β-Gal 活性、p16INK4a 発現、細胞サイズ増大が確認されているが、非老化骨髄球との精確な区別には更なる特異的マーカーの同定が必要とされている (Fig 3)。

免疫セノリティクスによる老化様好中球の選択的排除: 老化様好中球を選択的に排除する「免疫セノリティクス (immune senolytics)」戦略が新興治療アプローチとして複数提唱されている。最も有望な候補の一つが romidepsin である。本薬剤は HDACi (histone deacetylase inhibitor) クラス I 特異的阻害薬であり、ヒストン修飾を介して TREM2 の転写を選択的に抑制し、TREM2+ 老化様好中球および骨髄球系細胞にアポトーシスを誘導する一方、TREM2 非依存的な通常の免疫細胞への毒性を最小化する。CRPC (去勢抵抗性前立腺癌) を対象とした第 2 相試験では romidepsin 投与コホートで臨床的奏効と肝転移巣の退縮が複数例で観察され、TREM2+ 骨髄球系細胞を標的とするセノリティクス戦略の臨床的概念実証として評価されている。BCL-XL 阻害薬 A-1331852 は BCL-XL 依存的に生存延長する SiglecF+ 長寿命腫瘍関連好中球を選択的に細胞死に誘導し、肺腺癌マウスモデルで腫瘍増殖抑制効果を示した (Bodac et al. EMBO Mol Med 2024)。一方、BCL-2/BCL-XL/BCL-W を同時阻害する汎セノリティクス薬 navitoclax (ABT-263) は高い老化細胞排除活性を持つが、血小板減少症 (血小板の BCL-XL 依存的生存抑制) と好中球減少症を来す毒性プロファイルが固形腫瘍への適用を制限する。mTOR 阻害薬 (ラパマイシン) は老化様骨髄球の機能改善と SASP 抑制に有用な可能性があり、加齢関連疾患モデルでの知見が蓄積されている。将来的な方向性として、TREM2 を表面抗原とする CAR-T 療法や抗体薬物複合体 (ADC: antibody-drug conjugate) が老化様好中球・骨髄球を精密に排除する手段として期待される。また、CD153 ワクチンや p16INK4a 誘導可能 CAR-T (Amor et al. Nature 2020) など非特異的 SASP 抑制を超えた老化細胞免疫クリアランス戦略の発展も注目される (Fig 4)。

CXCR2 アンタゴニストによる好中球腫瘍動員の遮断: 腫瘍部位への好中球動員は主に CXCL1/CXCL2/CXCL5/CXCL8 (IL-8) などのケモカインと受容体 CXCR2 (C-X-C motif chemokine receptor 2) の相互作用によって制御される。CRPC における去勢後の IL-8 上昇が CXCR2 を介した骨髄系細胞の腫瘍部位への動員を促進し、ADT (androgen deprivation therapy) 後の再活性化を駆動するメカニズムが明らかにされており (Lopez-Bujanda et al. Nat Cancer 2021; Guo et al. Nature 2023)、CXCR2 はとりわけ前立腺癌での治療標的として注目を集める。CXCR2 選択的アンタゴニスト AZD5069 は前臨床で転移抑制と免疫療法増強効果を示し、CXCR1/CXCR2 二重アンタゴニスト SX-682 は頭頸部癌モデルで NK 細胞療法との相乗効果を示した。navarixin は CRPC に間欠的 ADT を組み合わせた第 1/2 相 NCT03177187 試験で一定の臨床応答 (腫瘍縮小・PSA 低下) が観察されたが、ペムブロリズマブとの併用で固形腫瘍全般を対象とした第 2 相無作為化試験 (Armstrong et al. Investig New Drugs 2024, NCT03637491) では主要エンドポイントにおける有意な奏効改善は認められず、CXCR2 遮断のみでは PD-1 阻害との相乗腫瘍抑制を達成するには不十分であることが示唆された。抗 IL-8 モノクローナル抗体 BMS-986253 も第 1 相試験が進行中である。これらの臨床知見は、CXCR2 阻害が特定の腫瘍コンテキスト (前立腺癌/ADT 後など) では有望である一方、固形腫瘍全般への外挿は戦略的選択が重要であることを示している (Fig 5)。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでの腫瘍関連好中球研究と対照的に、本レビューは好中球が「老化様」表現型を能動的に獲得し SASP を介して持続的な腫瘍微小環境改変を行うという新たな病態概念を中心に据えている。従来の TAN 研究が N1/N2 の二分法や均質な短命細胞として好中球を捉えていたのと異なり (Fridlender et al. CancerCell 2009)、本論文は TREM2+ 老化様好中球が数週間生存し免疫抑制 TME を能動的に構築するという質的に異なる病態生理的役割を記述した。また、これまでは老化細胞生物学と好中球腫瘍生物学は独立した領域で研究されていたが、本論文はこれらを統合して新たな「免疫セノリティクス」という治療パラダイムを構築した点も先行研究との大きな相違である。

② 新規性: 本レビューが提唱する新規の概念は、腫瘍由来 APOE が TREM2 陽性骨髄球の老化様表現型を SYK/ERK シグナル軸を介して誘導するという分子機構であり、これまでにない治療標的として romidepsin による HDAC 依存的 TREM2 転写抑制セノリティクス、BCL-XL 阻害薬 A-1331852 による SiglecF+ 長寿命好中球排除が新規に提案された。さらに、化学療法後の老化様好中球由来 piRNA-17560 エクソソームが m6A RNA 修飾を変化させ治療抵抗性を生じさせるというエピジェネティックな耐性機構は本研究で初めて報告されており、化学療法と免疫老化の新規の接点として重要である。「老化様好中球」という概念そのものも、好中球生物学に「細胞老化」の枠組みを本格的に適用した新規のアプローチである。

③ 臨床応用: romidepsin の CRPC 第 2 相試験での TREM2+ 骨髄球セノリティクス有効性は、この治療概念の臨床的有用性の最初の実証として重要な意義を持つ。また NCT03177187 試験での CRPC+ADT コホートにおける navarixin の有効性は前立腺癌における CXCR2 遮断の臨床的意義を示す一方、固形腫瘍全般への外挿に慎重な患者選択が必要であることを示す。臨床現場での老化様好中球同定を可能にするバイオマーカー (TREM2/piRNA-17560/SA-β-Gal) の開発は、臨床応用における患者層別化を推進するうえで不可欠である。BCL-XL 阻害に伴う血小板減少症を回避する改良型 BCL-XL 選択薬や、TREM2 標的 ADC/CAR-T の開発は、免疫セノリティクスの臨床への橋渡しとなる研究方向性として期待される。

④ 残された課題: 今後の検討が必要な課題として、第一に真の老化と一過性老化様活性化の区別方法の確立が挙げられる。好中球は本来短命であるため SA-β-Gal/p16INK4a のみでは特異性が不十分であり、TREM2+ と他マーカーの複合同定が必要である。第二に、navitoclax の血小板減少症・好中球減少症問題を回避しつつ老化様好中球を選択的に排除する新規薬剤の開発が必要である。第三に、TREM2 は神経系・骨髄球系の多細胞に発現するため、TREM2 標的療法の正常組織毒性評価が今後の重要研究課題となる。第四に、マウスと人の好中球生物学の相違 (Nauseef Immunol Rev 2023) が前臨床知見の臨床外挿性を制限しており、ヒト検体を用いた検証の充実が今後の方向性として求められる。また、老化様好中球と NETs の機能的クロストーク (He et al. AnnuRevCancerBiol 2022) や、老化様好中球が他の免疫細胞 (T 細胞・NK 細胞) の機能に与える広域的な影響も今後の重要な研究課題である。

方法

本論文は著者グループ (Calcinotto らの IOR 前立腺癌免疫研究グループ) が執筆した Opinion/Review 論文であり、PubMed を中心とした文献検索によって好中球の腫瘍生物学・細胞老化・セノリティクス・CXCR2 シグナリングに関する 119 件の文献を引用した。主要な前臨床モデルとして遺伝子改変マウス (前立腺癌 GEMM、肺腺癌モデル、乳癌マウスモデル)、患者検体解析として肝癌患者 124 例の scRNA-seq (Xue et al. Nature 2022)、メラノーマ患者の CyTOF 解析 (Zhu et al. J Immunother Cancer 2020)、前立腺癌患者生検 (Bancaro et al. Cancer Cell 2023) が引用されている。参照された臨床試験には CRPC 対象 romidepsin 第 2 相試験、NCT03177187 (CRPC+ADT+navarixin、間欠的 ADT + navarixin 第 1/2 相 Ib/II: Dallos et al. J Clin Oncol 2022)、navarixin + pembrolizumab 第 2 相無作為化試験 (Armstrong et al. Investig New Drugs 2024, NCT03637491)、BMS-986253 (抗 IL-8) 第 1 相試験 (Collins et al. J Clin Oncol 2018) が含まれる。統計・バイオインフォマティクス手法として scRNA-seq クラスタリング、CyTOF (mass cytometry)、flow cytometry、CITE-seq が参照試験に適用されている。