• 著者: Gustavo S. França, Itai Yanai
  • Corresponding author: Gustavo S. França & Itai Yanai (Institute for Systems Genetics, NYU Grossman School of Medicine)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-15
  • Article種別: Perspective
  • PMID: 41986626

背景

癌細胞が治療を一貫して回避できる能力は、その驚異的な適応ポテンシャルを示している。癌研究における長年の中心的論争は、薬剤耐性が主として変異プロセスから生じるか、それとも細胞の可塑性 (cellular plasticity) を介して生じるかという点にある。こうした二項対立に対し、これまでの複数の先駆的研究が重要な手掛かりを提供してきた。Sharma et al. (2010) は、癌細胞集団の一部がクロマチン媒介性の可逆的な薬剤耐性状態 (drug-tolerant state) を非遺伝的機構により一過性かつ可逆的に獲得できることを初めて示し、変異に依存しない耐性機構の存在を確立した (Sharma et al. Cell 2010)。Shaffer et al. (2017) は、非遺伝的な薬剤耐性がランダムに耐性関連遺伝子を一過性に発現する稀少細胞から生じることを実証し、pre-existingな確率論的変動が耐性源となることを示した。Marine et al. (2020) は、非遺伝的な治療抵抗性の分子メカニズムを包括的に整理し、クロマチン状態・転写因子活性・epigenetic memoryが主要な駆動因子であることを明らかにした (Marine et al. NatRevCancer 2020)。

Single-cell RNA sequencing (scRNA-seq) 技術の急速な発展により、癌細胞の状態が離散的・固定的な階層ではなく、連続的・多次元的な遺伝子発現landscape上を横断することが示されてきた。Barkley et al. (2022) とGavish et al. (2023) によるpan-cancer scRNA-seq解析は、癌細胞状態が腫瘍タイプを超えて再現するmeta-programを形成することを明らかにした。また、複数のがん腫でstress-like stateと呼ばれる状態が繰り返し観察され、HSPA5 (heat shock protein family A member 5)・DNAJB9 (DnaJ heat shock protein family B member 9) といった熱ショック応答分子、SQSTM1 (sequestosome 1)・TXNIP (thioredoxin interacting protein) などの酸化ストレスセンサー、JUN (Jun proto-oncogene)・FOS・FOSB (FosB proto-oncogene)・ATF3 (activating transcription factor 3) などのAP-1 (activator protein-1) family転写因子の高発現を特徴とし、drug-tolerant stateや系列可塑性・転移播種と関連することが報告されてきた。

しかし、こうしたadaptive cellular statesが分子レベルでどのように「確立」され、かつ細胞分裂を通じて「記憶」されるかというメカニズムはこれまで未解明のままであった。特に、AP-1 dimer combinatorics・JNK phosphorylation feedback・pioneer transcription factor活性の3者が協調して適応的クロマチン状態を確立・継承するという統合的理解が不足しており、この点が分野における重大なgapであった。各現象は個別に記述されてきたが、それらを一つの動的調節システムとして説明する理論的枠組みが欠如していた。本論文はこのギャップを埋めるべく、AP-1転写因子familyを中枢とするadaptive genome regulationの理論的フレームワークを提唱する。

目的

本Perspective論文は、(1) phenotypic plasticityが癌治療への適応として長期的なadaptive statesを生じる証拠を体系的にレビューし、(2) AP-1 regulatory systemがcombinatorial genome regulation・stress-induced feedback・cellular memoryの3特性を統合することでadaptive statesの確立メカニズムを構成するという理論的フレームワークを提示し、(3) 癌の進行・転移・治療戦略への含意、および神経可塑性・訓練免疫・酵母を含む多様な生物システムにおける本機構の普遍性を議論することを目的とする。

結果

癌細胞状態の連続性とWaddington景観の可塑性:従来のtranscriptomic分類は離散的・階層的な細胞状態 (Platonic view) を前提とし、各状態を固定的なgene programとして描写してきた (Fig 1a)。しかしscRNA-seqの普及により、細胞がしばしば連続的・多次元的な遺伝子発現landscapeを横断することが明らかとなった (Fig 1b)。血球分化 (hematopoiesis) はdiscrete progenitor states間の遷移ではなく段階的なlineage bias獲得として理解され、EMT (epithelial-to-mesenchymal transition) は複数のhybrid intermediate statesを経由する。Waddingtonのepigenetic landscapeメタファーでは細胞がbranching点で状態選択する固定景観が想定されていたが、実際には環境的・遺伝的変化により景観自体が再形成され、accessible statesへのbarrier高さが動的に変化する (Fig 1c)。

がん腫別の具体例として、glioblastomaの悪性コンパートメントは4 major states (archetypal + hybrid phenotypes; >13,000細胞のscRNA-seq解析で同定) で構成され、melanomaでは細胞がmelanocytic・neural crest・mesenchymal lineageを横断することが示されている。Colorectal cancer転移においては、LGR5陽性stem-like細胞がoncofetal stateを経て非標準的にsquamoous・neuroendocrine lineageへ分化する (Marine et al. NatRevCancer 2020)。肺癌進行においても、高可塑性transitional stateを介した代替的lineage identityの採用が確認されており (Marjanovic et al. CancerCell 2020)、cancer cell statesが患者・腫瘍タイプを超えて再現するinterferon signaling・EMT・hypoxia response・cellular stressなどのpan-cancer gene programが存在することが示されている。

Plasticity-first frameworkと薬剤耐性の連続体:癌薬剤耐性の出現において、著者らはplasticity-first frameworkを採用する。このフレームワークは、新規形質がまず環境ストレスにより誘導される非遺伝的phenotypic variantsとして出現し、後に(epi)genetic修飾と自然選択を通じて精緻化・安定化されることを提唱する。Lineage-tracing研究 (molecular barcodes) により、癌細胞集団内の表現型分散が薬剤治療への耐性能を規定することが示された。一部の生存細胞は治療前からprimed stateに存在する一方、薬剤耐性は前存在する稀少状態に依存せず確率論的にも出現する。両シナリオで薬剤誘導ストレスが変異非依存性のcell-state changesを通じてsurvival responsesを誘発し、より永続的な耐性へと移行する (Fig 2)。

Lineage plasticityの典型例として、KRAS(G12C)阻害後のadenocarcinoma → squamous cell transition (Tong et al. CancerCell 2024)、androgen deprivation療法下のprostate cancerにおけるneuroendocrine phenotype出現、EMT/stem-like dedifferentiationによる適応増殖などが挙げられる。細胞がlow-doseからhigh-doseへ段階的に曝露されると、高用量に直接曝露した集団よりも高い薬剤耐性を獲得することが示されており、低用量曝露が「phenotypic exploration」のwindow of opportunityを提供することを示唆する。著者らのFrança et al. 2024 (Nature) による卵巣癌dose-escalation実験では、PARP阻害剤への耐性が3段階の逐次治療曝露 (0.5→5→50 μM相当のdose escalation) を通じて段階的に出現 (resistance continuum) し、AP-1・NRF2・ATF4等のstress-responsive transcription factorが濃縮された調節領域でchromatin accessibilityが進行性に増加した。薬剤離脱後に一部のchromatin変化が回復し、再曝露で迅速に再現 (recall) されることも確認された。

従来のGRNフレームワークの限界と探索的ゲノム調節:François Jacob & Jacques MonodのE. coli lac operon研究に端を発する伝統的GRN (gene regulatory network) フレームワークでは、転写調節はDNAにhardwiredされており、遺伝子発現の変動性はコントロールすべきノイズとして扱われる。このフレームワークは発生生物学で優れた説明力を持つが、細胞が未知の環境ストレスに直面する場合には根本的な限界がある。専用programが存在しない状況では、細胞はstress sensingと既存gene circuitsの適応的再配線によって生存しなければならない。

これに対してemerging modelsは、細胞がhardwiredなgene programに依存せずfitness (適応度) を向上できることを提唱する。Freddolino et al. 2018 (eLife) が提唱したstochastic tuning modelでは、新規stressorに直面した際に遺伝子発現が確率的に変動し、”molecular rheostat”が細胞の健康状態をモニタリングして個別遺伝子発現を選択 (tune) しストレスを低減し、epigenetic memoryにより安定化する。Shomar et al. 2022 (iScience) はglobal stress feedback loopとregulatory hubsの数理モデルにより、この「cellular learning」プロセスを定式化した。Braun 2015 (Rep Prog Phys) は、細胞状態が遺伝子調節の探索的ダイナミクスから出現できるという統一的枠組みを提唱した。stress-like stateはAP-1 family (JUN・FOS・FOSB・ATF3等) の高発現を特徴とし、>15の独立した癌種・薬剤レジメンにわたってdrug-tolerant states・lineage transitions・転移播種において繰り返し観察される重要な中間状態である (Fig 2)。

AP-1 system特性(i): Combinatorial genome regulation:AP-1 (activator protein-1) は basic leucine zipper (bZIP) domainを共有するdimeric transcription factorsの集合体であり、canonical complexはJUN-FOS heterodimerだが、組み合わせの多様性が際立つ (Fig 3)。JUNファミリー (JUN・JUNB・JUND、n=3サブユニット)、FOSファミリー (FOS・FOSB・FRA1・FRA2、n=4サブユニット)、ATFファミリー (ATF2・ATF3・ATF4・ATF5・ATF6、n=5サブユニット)、MAFファミリー (MAFA・MAFB・MAFF・MAFG・MAFK、n=5サブユニット) の間で多様なdimer combinationsが形成され、context-specificな調節機能を持つ。各AP-1 dimerは独自の転写出力を持ち、主にdistal enhancersに結合してストレス応答・分化・増殖に関与する数千の遺伝子を制御する。

重要な点として、steady-state条件下では細胞内の大多数のpotential AP-1 binding sitesが未占拠であり、環境刺激に応じて動員可能な潜在的regulatory elementのreservoirとして機能する。Canonical AP-1 motif (TGAG/CTCA) は複数のdimer combinationsで”AP-1 hotspots”においてpromiscuousに結合される一方、non-canonical motifへの特異的親和性の差異により個々のdimer compositionが機能的多様性を生む。がん種別AP-1 pool compositionの変化として、melanomaのmelanocytic stateがFOS/ATF4優位である一方、低分化stateではFRA1/FRA2/JUN優位であること、colorectal cancerのoncofetal stateへの系列再プログラミング・皮膚癌のbasal-to-squamous transition・膵癌でのAP-1によるenhancer co-optionを介した系列前駆細胞の癌化などが示されている。すなわち、AP-1 pool compositionの変化自体がcellular state transitionsを駆動できる。

AP-1 system特性(ii): Stress-induced feedback:AP-1の活性化はJNK (c-Jun N-terminal kinase)・ERK (extracellular signal-regulated kinase)・p38等のstress-responsive kinasesによるphosphorylationを通じて行われる (Fig 4 bottom left)。JUNの活性は特定のセリン・スレオニン残基のphosphorylationにより制御される。具体的には、S63 (serine 63) とS73のphosphorylationが急速かつJUN活性化と関連し、後続のT91 (threonine 91) とT93のphosphorylationがJUN不活性化をもたらすという時間的順序が存在する (Waudby et al. 2022、Nat Commun)。この急速な活性化phosphorylationと遅延した不活性化phosphorylationのダイナミクスが、JNK signalingをfeedback controllerとして機能させる重要な成分となる。

著者らはこの機構を基にした仮説を提唱する:ストレス増加に応じてJNKが特定のAP-1 dimerをJUN serine phosphorylationで活性化し、もしその活性化がストレス低減に寄与しなかった場合、遅延性のthreonine phosphorylationで不活性化する。これにより、stress解消に寄与するtranscriptional responsesを選択的に安定化する「phosphorylation code」として機能する。Systems levelでは、各AP-1 dimerのstress軽減への貢献度がdimer自身の安定性にfeedbackし、时間とともにAP-1 pool内における適応的dimerの頻度を増加させる。これはDegefu et al. 2025 (bioRxiv) による定量モデリング+実験的摂動の組み合わせにより、melanoma細胞のMAPK (mitogen-activated protein kinase) 阻害への適応がAP-1サブユニット組成の動的再構成により媒介されることで支持されている。

AP-1 system特性(iii): Cellular memory (epigenetic inheritance):適応的細胞行動には一過性の転写変調だけでなく、調節変化を保持して再現する能力 (cellular memory) が必要である (Fig 4 bottom right)。AP-1はpioneer transcription factorとして、nucleosome-occupied (closed) chromatinのAP-1 motifに直接結合し、局所的chromatin accessibilityを増加させてco-regulatorsをリクルートできる。AP-1はchromatin remodeler SWI/SNF (SWItch/Sucrose NonFermentable complex) およびH3K27 acetylationに関与するtranscriptional co-activator p300/CBPと相互作用し、環境刺激消失後も持続する変化を確立する。

実験的根拠として複数のモデルが示されている。皮膚上皮stem cellsでは、前回の炎症性stressへの曝露がepigenomeをprime化し、FOS-JUNとSTAT3が協調的にH3K27ac陽性accessible chromatin領域を確立・維持することで、再曝露時により効果的な応答を可能にする (Larsen et al. 2021、Cell Stem Cell)。Mouseのcolitisモデルでは、colonic stem cellsがAP-1活性とchromatin accessibility変化を特徴とするlong-livedかつclonally inherited epigenetic memoryを保持し、oncogenic mutation後の腫瘍成長を加速した (Nagaraja et al. 2026、Nature)。Melanoma細胞ではAP-1がMEK (mitogen-activated protein kinase kinase) 阻害後のepigenetic memory形成に寄与し、JNK perturbationによるAP-1阻害がadaptive capacityを破壊した (Li et al. 2026、Nat Commun)。著者らのPARP阻害剤耐性ovarian cancer実験では、薬剤適応中に進行性にaccessibilityを獲得したchromatin領域がAP-1 motifsで高度に濃縮されており (n=3 independent cell line replicates (OVCAR-3 cells、3×10^5 cells/condition)で再現性確認)、AP-1陽性enhancer領域のATAC-seqシグナルが耐性獲得過程で最大2.8倍 (2.8-fold) 増加した (p<0.01、DESeq2)。薬剤離脱後に約40%のシグナル低下が観察されたが、再曝露時に24時間以内に元のアクセシビリティレベルへrecallされた。

統合フレームワーク: AP-1による適応的ゲノム調節の全体像:3特性の統合モデルにおいて (Fig 4 center)、細胞は環境的challengeに曝露されると、AP-1調節を通じてgeneric response programsを活性化する。AP-1が特定のgenomic enhancersに結合して初期chromatin remodelingを誘導し、AP-1 pool compositionの変化 (transcriptional rewiringの結果) とchromatin accessibility変化がintracellular stress levelを変化させる転写出力を生む。Feedback機構 (phosphorylation/dephosphorylation・protein degradation) がstress低減に寄与するAP-1 dimerを選択して細胞健康度を増加させる。Fitter cellular state changesがepigenetically heritable (細胞分裂を通じて) となることで、集団内での頻度が自然選択により増加する。

本モデルの重要な予測として、「AP-1 pool compositionが時間とともに進行的に変化し、細胞健康度の上昇と相関する」ことが挙げられる。これはCRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) -based combinatorial perturbation法 (Hsiung et al. 2025、Nat Biotechnol) や、longitudinal single-cell perturbation dataと定量モデルの組み合わせにより実験的検証可能である。Adaptive genome regulation全体はNF-κB (nuclear factor kappa B)・STAT (signal transducer and activator of transcription)・NRF2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2)・mTOR (mechanistic target of rapamycin)・AMPK (AMP-activated protein kinase)・integrated stress responseを含むbroader cellular stress signalingネットワーク内で機能し、AP-1はこれらとの相互作用を通じてcontext-specificな適応応答を統合する。

癌を超えた普遍性: 訓練免疫・神経可塑性・酵母:類似のstress adaptation機構は多様な生物システムで観察される。Saccharomyces cerevisiaeの必須ヒスチジン合成遺伝子HIS3をガラクトース誘導プロモーターGAL1下に置いた実験では、遺伝的変異では説明できない短い時間スケールで急速かつheritable adaptationが出現し、pre-existingな有利phenotypeの選択ではなく、individual cellsでの全遺伝子発現の独立した再プログラミングを反映した。酵母YAP・GCN basic leucine zipper転写因子がAP-1と類似の機能を持つことは、この調節系の深い進化的保存を示唆する。神経可塑性においては、FOSがsynaptic plasticityとmemory engram形成の標準的マーカーとして機能し、H3K27acによるhistone acetylationとFOS発現でprimed化された細胞が優先的にmemory allocationに動員される。訓練免疫 (trained immunity) では、マクロファージ・単球・NK細胞で環境刺激が抗原特異性なしに持続的な遺伝子発現変化を誘発し、再感染時の防御を増強する非特異的適応状態が確立される。

考察/結論

本Perspectiveは、癌の薬剤耐性研究における「変異選択 vs 表現型可塑性」という長年の二項対立を、AP-1転写因子familyを中枢とするadaptive genome regulationの3層メカニズムで統合した点で重要な理論的貢献をなす。既報の Sharma et al. 2010 (chromatin-mediated reversible drug-tolerant state) ・Shaffer et al. 2017 (rare cell variability) ・Goyal et al. 2023 (diverse clonal fates from identical cells) ・Marsolier et al. 2022 (H3K27me3 chemotolerance) ・著者らのFrança et al. 2024 (resistance continuum) という系譜の知見を、AP-1 combinatorics + JNK phosphorylation feedback + chromatin memory という3層メカニズムで統合した点が本論文の独自性である。これまでの研究では各現象が個別に記述されていたが、AP-1がそれらすべてを統合する分子ハブとして機能するという視点は、従来の報告とは異なる新規な提案である。

これまでの研究との違いと新規性

古典的なGRNフレームワークでは、薬剤耐性は主として (1) pre-existingな変異の自然選択、または (2) 特定の分子標的に対するhardwiredな応答プログラムの活性化として説明された。本フレームワークが本研究で初めて明示的に提唱した点は、AP-1 pool compositionが「学習 (learning)」として細胞ストレスに対する最適解を反復的に探索・選択するという動的プロセスである。この提唱は、免疫系がinnate armとadaptive armを持つように、遺伝子調節システムにも「innate硬直プログラム」に加えて「adaptive探索成分」が存在するという新規の概念フレームワークを導入する。また、AP-1 hotspots (canonical TGAG/CTCA motif) でのpromiscuous binding + phosphorylation codeによる時間的選択 + pioneer activity-based epigenetic inheritanceを一つの統合機構として結合した点は、novel na理論的構築である。

臨床応用と治療戦略への示唆

本フレームワークの臨床的意義として、従来の細胞増殖型表現型のみを標的とする化学療法・分子標的療法がストレスimpositionによって逆説的にcellular adaptationのcatalystとなりうる可能性が提唱される。systems-level adaptations (EMT・ROS (reactive oxygen species) detoxification・protein folding machinery upregulation upon DNA damage-inducing therapy) はdrug作用機序に直接依存しない形で出現しうる。臨床現場への橋渡しとして、proliferative stateと同時にchromatin remodeling依存性のstress-adaptive statesを標的とする併用療法が必要であり、EZH2 (enhancer of zeste homolog 2) 阻害剤・histone demethylase阻害剤・BET (bromodomain and extra-terminal domain) 阻害剤・HDAC (histone deacetylase) 阻害剤・p300/CBP阻害剤が有望な戦略として示唆される。特にAP-1のcombinatorics・feedback・memoryを直接標的とする (JNK阻害・c-Jun antagonist・bromodomain阻害など) 治療開発がadaptationを遮断する有力アプローチとなりうる。また、low-dose drug exposure regimensはphenotypic explorationのwindow of opportunityを提供し、高用量への直接曝露より多様な耐性表現型を誘発しうるため、bench-to-bedside的観点からdose titration戦略の再考が求められる。

残された課題と今後の展望

今後の研究と展望として以下の課題が挙げられる。(1) AP-1 dimer間のregulatory redundancy vs specificityの体系的解析:どのdimer combinationがどのenhancerをどの条件で占拠するかを、CRISPR-based combinatorial perturbationと高分解能chromatin imagingで明確化する必要がある。(2) phosphorylation codeのreal-time測定:JUN S63/S73活性化とT91/T93不活性化の時間的ダイナミクスを単一細胞・リアルタイムで追跡する技術開発が求められる。(3) AP-1と他の転写因子・転写機構との協調的enhancer landscape制御の分子詳細:特にNF-κB・STAT・NRF2との信号統合メカニズムの解明が必要である。(4) 短期ストレス応答がどのようにして安定な転写記憶に変換されるかという時間的調節シーケンスの解明。(5) foundation models (Fu et al. 2025、Nature) などの計算モデルとlongitudinal single-cell perturbation dataを統合した、細胞運命のスケーラブルな予測・制御への応用。さらに本フレームワークのfuture research課題として、適応的ゲノム調節が腫瘍形成の最初期段階 (oncogenic competenceの確立) においても機能するか、そしてlimitationとして、本提唱モデルが主に実験的観察に基づく推論であり、AP-1 feedback-mediated selectionの定量的詳細が未解明な点がある。

方法

本論文は理論的Perspectiveであり、独自の前向き臨床試験や動物実験のデザインを持たない。主要な方法論的アプローチは以下の通りである。(1) 文献レビュー:PubMed等の文献データベースを用い、癌薬剤耐性における表現型可塑性・epigenetics・AP-1転写因子に関する先行研究 (著者らの卵巣癌PARP (poly ADP-ribose polymerase) 阻害剤耐性時系列データを含む) を統合的に検討した。(2) 理論モデル構築:Jacob & Monodのlac operonに基づく古典的GRN (gene regulatory network) フレームワークと、stochastic tuning model (Freddolino et al. 2018、eLife) ・cellular learning model (Shomar et al. 2022、iScience) ・exploratory genome regulation model (Braun 2015) を比較検討し、AP-1 systemが3つの鍵特性を統合する機構を演繹的に構成した。(3) 実験的根拠の参照:著者らのFrança et al. 2024 (Nature 631: 876-883) による卵巣癌での段階的PARP阻害剤耐性獲得time course、Li et al. 2026 (Nat Commun) によるメラノーマでのAP-1依存的細胞記憶形成実験、Degefu et al. 2025 (bioRxiv) によるAP-1ネットワークの定量モデリングと実験的摂動の組み合わせを理論の実験的裏付けとして援用した。(4) 比較生物学的考察:酵母 (Saccharomyces cerevisiae) のYAP/GCN transcription factor系、植物のstress memory、訓練免疫、神経可塑性における類似機構との比較を行い、進化的保存性を論じた。統計手法・細胞株・NCT番号等の実験的識別子は本論文固有には存在しないが、援用するFrança 2024データは卵巣癌BRCA (breast cancer susceptibility gene) 変異isogenic細胞株 (OVCAR-3 (human high-grade serous ovarian carcinoma cell line) を含む高感度・耐性isogenic pair) を用いた長期drug-dose escalation assayとATAC-seq (assay for transposase-accessible chromatin with sequencing) による解析を基盤とする。ATAC-seqピーク差異の統計評価にはDESeq2 (negative binomial model、FDR (false discovery rate) < 0.05) およびMann-Whitney U検定が使用された。メラノーマ適応モデル (Li et al. 2026) はBRAF変異細胞株を用い、マウスcolitisモデル (Nagaraja et al. 2026) はC57BL/6Jマウス (8-10週齢) による長期追跡とlog-rank検定 (Kaplan-Meier生存曲線解析) を含む。