- 著者: Crystal AS, Shaw AT, Sequist LV, Friboulet L, Niederst MJ, Lockerman EL, Frias RL, Gainor JF, Amzallag A, Greninger P, Lee D, Kalsy A, Gomez-Caraballo C, Elamine L, Howe E, Hur W, Lifshits E, Robinson HE, Katayama R, Faber AC, Awad MM, Ramaswamy S, Mino-Kenudson M, Iafrate AJ, Benes CH, Engelman JA
- Corresponding author: Cyril H. Benes; Jeffrey A. Engelman (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 25394791
背景
EGFR変異またはALK再配列を有する非小細胞肺癌(NSCLC)は、それぞれのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に対して顕著な奏効を示す。しかし、ほとんどの患者が1年から2年以内に獲得耐性を発現する。耐性機序の解明には、(1) 感受性細胞株からのin vitro誘導耐性モデル、および (2) 耐性生検の遺伝子解析という2つの主要なアプローチが用いられてきた。しかし、in vitroモデルは臨床的関連性が不明であり、既存の細胞株も限定的であるという課題があった。一方、耐性生検の遺伝子解析は臨床で実際に発生した変異を特定できるものの、組織が非生存であるため直接的な機能評価が不可能であり、また多くの症例で遺伝的耐性機序が未解明なままであるという限界があった。特にバイパストラック耐性においては、ドライバー癌遺伝子と代償的なバイパス経路が同時にAKTやMAPKなどの下流シグナルを活性化するため、単剤治療では効果が限定的であり、両経路を同時に阻害する併用療法のみが有効であると考えられている。しかし、個々の患者に対して最適な薬剤組み合わせを特定するためのツールが不足していることが、治療選択における重要な課題として残されている。これまでの研究では、EGFR阻害薬に対するMET増幅による耐性機序が報告されており (Engelman et al. Science 2007)、またALK阻害薬に対する耐性機序も複数報告されている (Katayama et al. SciTranslMed 2012)。しかし、これらの知見は特定の耐性機序に限定されており、多様な耐性メカニズムに対応する包括的なアプローチが不足していた。
目的
本研究の目的は、EGFRまたはALK阻害薬治療後に獲得耐性を示したNSCLC患者の生検から直接細胞株モデルを樹立し、以下の目標を達成することである。(1) 76種類の標的薬剤を用いた薬理ゲノムスクリーニング(原発ドライバーTKIと各薬剤の組み合わせ)により、患者特異的かつ機序に基づいた有効な薬剤組み合わせを同定する薬理ゲノミクスプラットフォームを確立すること。(2) 遺伝子解析と組み合わせた機能的評価による相補的アプローチの有用性を実証し、遺伝子解析のみでは予測困難な新規の耐性メカニズムと有効な併用療法を特定すること。
結果
プラットフォームの検証と既知耐性モデルにおける特異性: 既知の耐性メカニズムを持つin vitro誘導耐性モデル5種を用いて、本スクリーニングプラットフォームの特異性を検証した。MET増幅を有するEGFR耐性モデルでは、MET阻害薬のみがヒットとして同定された(Fig. 1C)。例えば、HCC827 GR6細胞株ではMET阻害薬のGI50シフトが最大であった。また、FGFRなどの既知のバイパス経路を持つ4種のモデルでも、既知の耐性ドライバーの阻害薬が上位ヒットとして同定された(Fig. S2, S3)。これらの結果は、76薬剤スクリーニングが高い特異性を持つことを確認した。
全体的なスクリーニング成績と新規ヒットの同定: 55モデル全体で合計201個のヒットが同定され、1細胞株あたりの平均ヒット数は3.4個(範囲0〜12個)であった。55細胞株中50株(91%)で少なくとも1つのヒットが同定された(Fig. 2A)。EGFR阻害薬は、既報の所見と一致して、ALK駆動型およびMET駆動型の耐性モデルでもヒットとして検出された。PI3K阻害薬は一部のモデルでヒットしたが、多数のモデルでは無効であり、遺伝子解析のみでは感受性を予測できないことが示された。Aurora kinase阻害薬およびPLK阻害薬(BI2536)は、予期せぬことに多数のEGFR変異細胞株でヒットとして同定された。
ALK陽性耐性モデルにおけるMEK阻害薬の有効性(MAP2K1 K57N変異): セリチニブ耐性患者由来のMGH034-2A細胞株において、MEK阻害薬AZD6244がセリチニブとの組み合わせで最も強力なヒットとして同定された(GI50シフトが最大、Bliss独立モデル比較で平均45%低い生存率、相乗効果)(Fig. 3B, C)。AZD6244とセリチニブの併用は、pAKT、pMAPK、pmTORCの抑制、BIMの上昇、およびアポトーシス誘導をもたらした(Fig. 3E)。in vivoマウス異種移植モデル(n=6 mice/group)では、単剤では効果がなかったが、併用療法により腫瘍の堅固な退縮が確認された(Fig. 3F)。NGS解析により、この細胞株にMAP2K1 K57N変異(既報のMEK活性化変異)が同定された。患者の剖検で得られた10個の耐性病変のうち7個でMAP2K1 K57N変異が確認され、特に急速に増殖した病変に特異的であった(Fig. 3H)。この細胞株は、in vitroでセリチニブ単剤治療では細胞数が増加したが、AZD6244との併用により治療開始時の細胞数と比較して細胞数が約50%減少した(Fig. 3D)。
ALK陽性耐性モデルにおけるSRC阻害薬の広範な有効性: 9種の患者由来ALK陽性耐性モデルのうち6種で、SFK (Src family kinase)阻害薬であるAZD0530(saracatinib)がヒットとして同定された(Fig. 2A)。AZD0530単剤では感受性は認められなかったが、ALK阻害薬との組み合わせにより著明な感受性増強が認められた(平均Bliss超過20%、最大18〜45%)(Fig. 4A, B)。MGH010-1A、MGH025-1A、MGH049-1Aの3種のモデルでは、単剤では6日間増殖が持続したが、併用療法により細胞数減少とアポトーシス誘導が確認された(Fig. 4D)。複数のALK陽性耐性モデルにおいて、ALK阻害後にSRC活性化(p-Paxillin上昇)が確認され、ALKがSRCに対して負の制御シグナルとして機能し、ALK阻害によりその抑制が解除される可能性が示唆された(Fig. 5B)。遺伝子発現解析では、ALK阻害後に「細胞外マトリックス」関連遺伝子群(SRC/インテグリン下流)のlog2FC 1.8の上昇と「細胞周期」関連遺伝子群の低下が認められた(Fig. 5C)。SRC依存性の確認として、kinase-dead SRC K295R過剰発現およびSRC shRNAノックダウンにより、AZD0530と同様のALK-TKI感受性増強効果が示された(Fig. 4C)。in vivoモデル(MGH025-1A細胞株を移植したn=6 mice)では、MGH025-1A(クリゾチニブ耐性)において、クリゾチニブ単剤では34日後に腫瘍が増殖したが、AZD0530の追加により腫瘍退縮と60日を超える持続的奏効が認められた(p<0.0001)(Fig. 5D)。この結果は、SRC阻害がALK-TKI耐性を克服する上で重要な役割を果たすことを強く示唆している。
考察/結論
本研究は、後天性TKI耐性NSCLC患者から直接樹立した患者由来細胞株(PDC)に標的薬剤組み合わせスクリーニングを適用するという、当時として革新的な薬理ゲノミクスアプローチを確立した。
新規性: 最も重要な概念的貢献の一つは、SRC阻害薬がALK陽性耐性モデルの約2/3で有効であるにもかかわらず、ALK変異(遺伝子解析)のみではこれを予測できないという発見である。これは、機能的薬剤スクリーニングが遺伝子解析に非依存的な情報を提供し、これまで報告されていない新規の治療戦略を同定できることを明確に示した。ALK阻害後のSRC活性化という機序は、ALKがSRCを通常抑制する負のフィードバックシグナルとして機能し、ALK阻害でその抑制が解除されることを示唆する。MAP2K1 K57N変異によるMEK依存的耐性は患者1例の特定病変に限られるが、剖検で急速増殖病変に特異的に同定されたことは、この変異が耐性および増殖の鍵であったことを事後的に示す「強力な臨床的検証」として機能している。
先行研究との違い: これまでの研究では、主に遺伝子変異の同定を通じて耐性メカニズムを解明しようとしてきたが、本研究は遺伝子解析だけでは捉えきれない機能的な耐性経路を、患者由来モデルを用いた薬理ゲノムスクリーニングによって同定できるという点で、これまでのアプローチと大きく異なる。例えば、SRC活性化は遺伝子変異として検出されにくいバイパス経路であり、機能スクリーニングによって初めてその重要性が明らかになった。
臨床応用: 本研究の成功率(生検からの細胞株樹立約50%、スクリーニングおよびin vivo検証の整合性)は、このアプローチの堅牢性を示す。このプラットフォームは、個々の患者に対する治療選択を導く可能性を示唆しており、将来的な臨床応用が期待される。特に、初回治療からSRC阻害薬とALK阻害薬を組み合わせることで、後天性耐性の出現を遅らせ、より持続的な奏効を誘導できる可能性も示された。
残された課題: 細胞株樹立に2〜6か月を要するため、「リアルタイム治療指針」としてのルーチン利用は困難であるという制限がある。今後の検討課題として、より迅速な細胞株樹立技術、オルガノイドなどの代替系、および新鮮生検からの短期機能アッセイの開発が残されている。これらの技術的進歩により、本プラットフォームの臨床現場への導入が加速されることが期待される。
方法
患者由来細胞株(PDC)の樹立: EGFR阻害薬(11モデル)またはALK阻害薬(9モデル)に対する獲得耐性を示した患者の生検および胸水から、照射済みフィーダー細胞法を用いてNSCLC細胞株を樹立した。細胞株樹立の成功率は約50%であり、生検単独では38%であった。主な失敗原因は、検体中の癌細胞率が低いことであった。合計55モデル(PDC 20例とin vitro誘導35モデル)を解析に用いた。76薬剤スクリーニング: 細胞増殖および生存の主要な調節因子を標的とする76種類の標的薬剤(MET、EGFR、HER2、FGFR、PI3K、AKT、MEK、SRC (Src family kinase)、Aurora、PLK (Polo-like kinase)、Hsp90 (heat shock protein 90)、BCL-2 (B-cell lymphoma 2)阻害薬など)を、原発ドライバーTKIの固定濃度存在下および非存在下で、10,000倍希釈範囲の10濃度で評価した(72時間、CellTiter-Gloアッセイ)。GI50(50%細胞増殖阻害濃度)の変化が4倍以上、かつAUC(用量反応曲線下面積)の変化が10%以上減少した場合を「ヒット」と定義した。遺伝子解析: 1,000遺伝子NGSパネルを用いて患者由来モデルの潜在的な耐性遺伝的変化を同定し、スクリーニング結果との統合的な比較を行った。検証実験: コロニー形成アッセイ(7日間)、ウェスタンブロット解析(pALK、pAKT、pERK、pS6K、BIM (Bcl-2 interacting mediator of cell death)、SRC、p-Paxillinなど)、アポトーシスアッセイ、遺伝子発現解析(ALK阻害後の24時間)、およびマウス皮下異種移植モデル(腫瘍体積測定)を用いて、in vitroおよびin vivoでの薬剤効果を検証した。SRC依存性の検証には、kinase-dead SRC K295R過剰発現および2種類のSRC shRNAノックダウンを用いた。統計解析にはStudent t-testを用いた。in vivo実験では、MGH034-2A細胞株をNOD/SCIDマウスに移植し、腫瘍体積を測定した。