- 著者: Kodack DP, Farago AF, Dastur A, Held MA, Dardaei L, Friboulet L, von Flotow F, Damon LJ, Lee D, Parks M, Dicecca R, Greenberg M, Kattermann KE, Riley AK, Fintelmann FJ, Rizzo C, Piotrowska Z, Shaw AT, Gainor JF, Sequist LV, Niederst MJ, Engelman JA, Benes CH
- Corresponding author: Cyril H. Benes (Massachusetts General Hospital Cancer Center)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29241554
背景
がんの個別化治療は、患者の腫瘍系統、病理組織、遺伝子発現、DNAまたはRNA解析に基づいて進展している。しかし、腫瘍遺伝子型と薬剤感受性の関係についての理解は依然として不完全であり、遺伝子情報のみによる治療予測には限界があることが指摘されている。特に、稀な例外奏効例への対応は既存の患者選択戦略では困難であり、ゲノム解析を補完する新たな診断ツールの開発が求められている。血液腫瘍においては、生きたがん細胞を用いた機能的薬剤スクリーニングが臨床的に応用可能であることが報告されており、一部では臨床試験も開始されている。しかし、固形腫瘍由来のがん細胞培養は、血液腫瘍に比べて技術的に困難であり、特に針生検由来の少量検体からの樹立には大きな課題があった。
先行研究では、条件付き再プログラミング法により、手術検体や生検検体からがん細胞培養を樹立し、化学療法感受性を試験した例が報告されている。また、Crystal et al. Science 2014は、抵抗性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の生検由来がん細胞を用いて、薬剤スクリーニングにより抵抗性メカニズムを特定し、in vivoでの腫瘍退縮を実証した。さらに、EGFR変異によるゲフィチニブ耐性機構としてMET遺伝子増幅が関与することを示したEngelman et al. Science 2007や、EGFR T790M二次変異が獲得耐性を引き起こすことを同定したKobayashi et al. NEnglJMed 2005およびPao et al. PLoSMed 2005などの報告により、耐性克服のための分子標的薬開発が進められてきた。しかし、これらのがん細胞集団の樹立には多くの場合6ヶ月以上を要し、患者ケアへの迅速な反映は困難であった。このため、生検後数週間以内に薬剤応答を評価できる機能的診断アッセイの開発が強く求められていた。腫瘍生検から得られる細胞は、がん細胞だけでなく、線維芽細胞やリンパ球などの間質細胞を含む混合細胞集団であるため、これらの細胞集団からがん細胞の薬剤感受性を特異的に定量化する技術が不足していた。また、培養条件、特にフィーダー細胞層の存在が薬剤感受性評価に与える影響も未解明な点が残されており、ゲノム解析を補完する個別化診断ツールとしての機能的薬剤スクリーニングの可能性を探る上で、迅速かつ正確な評価系の確立における決定的な知識ギャップ (knowledge gap) となっていた。
目的
本研究の目的は、固形腫瘍生検から樹立した混合細胞培養を用いて、がん細胞の薬剤感受性を特異的に定量化する高スループット機能的薬剤アッセイである FAsT (Functional Assessment of Tumors) を開発することである。さらに、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の生検由来培養における薬剤感受性が、患者の臨床奏効と相関することを実証し、個別化医療における機能的診断の有用性を示すことを目指した。特に、EGFR変異やALK融合遺伝子陽性のNSCLC患者において、迅速に治療薬への感受性や耐性プロファイルを予測できるシステムを構築し、臨床現場での意思決定を支援する基盤を確立することを目的とした。
結果
培養成功率と検体種別・がん種別の差異: 568例の患者検体からのがん細胞培養成功率は全体で26% (148/568) であった (Table 1)。がん種別では、膵臓/胆嚢がんが38%、肺がんが29% (n=373)、大腸がんが25%、乳がんが15%であり、肺がんは乳がんより有意に高い成功率を示した (p<0.01)。肺がん内での比較では、胸水からの培養成功率 (42%) がコア生検 (23%) より有意に高く (p<0.001)、腫瘍細胞をより多量かつ均一に取得できる胸水の優位性が示された。培養失敗の最大原因は、初期組織解離時のがん細胞数不足であった。培養条件では、feeder+TCMが他の培地と比較して、生検由来培養の成功率で77% vs 54%と優れており、平均培養期間は11.5週であった (61例中35例が31日以内)。
FAsT assayの技術的検証: CK8・CK18二重抗体カクテルは、上皮系がん細胞を正確に識別し、フィーダー線維芽細胞は一切染色しなかった。384ウェルプレートで1ウェルあたり n=100 cells という少量でも有意な用量反応曲線を取得でき、標準的なCellTiter-Gloアッセイと高い相関を示した (Figure 1)。EGFとインスリンはTCM培地中でEGFR変異・ALK転座NSCLC細胞の薬剤感受性を低下させ、IC50が右方向にシフトすることを確認し、スクリーニング前の除去が必須条件であることを明示した。共培養系においても、照射済みフィーダー線維芽細胞の存在はがん細胞の増殖を促進したが、EGFRまたはALK阻害剤に対する感受性には影響を与えなかった (Figure 2)。
EGFR変異 (T790M) 症例の臨床相関: 3例 (MGH707-1、MGH721-1、MGH748-1) において、第三世代EGFR阻害薬rociletinibまたはosimertinibへの臨床部分奏効 (PR) とin vitroでの高感受性 (IC50一桁〜二桁nM) が一致した (Figure 3)。これらの患者は、第一世代または第二世代EGFR阻害薬で病勢進行後、T790M変異が検出され、第三世代TKIに切り替えられていた。in vitroでは、gefitinibに対しては中等度〜低感受性を示し、T790M耐性変異に対するTKI選択のin vitro根拠を提供した。例えば、MGH707-1ではosimertinibのIC50が約7 nMであり、臨床PR (49.9%) と一致した。MGH707-1およびMGH721-1の生検培養では、非CK8/18陽性細胞が多数存在し、これらは薬剤に非応答性であった。n=250 cells/well という少数でも、低用量と高用量治療間の有意差を検出可能であった。また、ALK阻害剤lorlatinibはこれらのEGFR変異培養の増殖を抑制しなかった。
EGFR変異 (MET増幅) 症例の臨床相関: 1例 (MGH832-1) でafatinib単剤はin vitroで無効 (IC50 >1 μM) であり、患者でも腫瘍増殖制御不能と一致した (Figure 4)。この患者はafatinib治療後にMET増幅が検出され、erlotinibとcrizotinibの併用療法が処方された。in vitroでは、afatinib+crizotinib併用で有意な増殖抑制効果を示し (各IC50約41 nM)、MET増幅を有するEGFR変異NSCLCに対する臨床的な組み合わせ投与の妥当性をin vitroで支持した。この培養は8週間で n=4,000,000 cells に達した。
ALK転座症例の臨床相関とTKI世代選択: 3例 (MGH021-2、MGH051-1、MGH092-1) で評価した (Figure 5)。MGH021-2およびMGH051-1では、第一世代ALK阻害薬crizotinibで病勢進行後、第二世代ALK阻害薬ceritinibが投与され、臨床PRを示した。in vitroでは、ceritinibのIC50が約90 nMであり、crizotinib IC50 (約1300 nM) に比べ14.4-fold の感受性差を示した。MGH092-1では、crizotinibおよびceritinibで病勢進行後、ALK G1202 deletion変異が検出され、第三世代ALK阻害薬lorlatinibが投与され臨床PRを示した。in vitroでは、lorlatinibのIC50が約2 nMであり、crizotinib (166 nM) およびceritinib (268 nM) に比べ83-fold 以上感受性が高く、第三世代ALK-TKIへの切り替えを支持する結果となり臨床反応と一致した (p<0.001)。生検後9〜15週の早期培養凍結検体を用いても同等のin vitro薬剤感受性評価が可能であることを確認した。これらの培養は13〜20週間で n=1,500,000 cells から n=4,000,000 cells に達した。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、純粋ながん細胞単独培養の樹立に6ヶ月以上を要していたCrystal et al. Science 2014などの先行研究と異なり、生検後9週前後という極めて短い期間での薬剤感受性評価を可能にした。この迅速性は、進行期がん患者の治療選択に直接介入できる時間枠を提供し、機能的診断の臨床応用可能性を飛躍的に高めるものである。
新規性: 本研究で初めて、CK8/18免疫蛍光法を用いた機能的診断プラットフォーム (FAsT) を開発し、混合細胞培養内で上皮系がん細胞のみを特異的に識別・定量することに成功した。これにより、フィーダー線維芽細胞や腫瘍間質細胞が共存する環境下でも、がん細胞特異的な薬剤感受性を正確に測定できることが新規に実証された。また、TCM培地中のEGFとインスリンが阻害薬のIC50をシフトさせるため、機能試験時にはこれらを除去する必要があるという重要な知見を初めて明らかにした。
臨床応用: 本研究で得られた知見は、ゲノム解析だけでは予測困難な薬剤感受性を機能的に評価する個別化医療の臨床応用に直結する。特に、EGFR T790M変異に対するosimertinibの有効性や、MET増幅に対するEGFR/MET阻害薬併用の必要性、ALK G1202耐性変異に対するlorlatinibの選択など、臨床での治療奏効とin vitroでの感受性データが極めて強く相関したことは、本アッセイが治療選択の意思決定を支援する臨床的有用性を持つことを示している。
残された課題: 今後の検討課題として、化学療法や免疫療法など、異なる作用機序を持つ薬剤に対する本アッセイの適用性検証が残されている。また、他の種類のがんに対する適用性、およびより大規模なコホートでの前向き臨床試験によるバリデーションが必要である。さらに、腫瘍微小環境の複雑性をより忠実に再現するための3D培養モデルやオルガノイド培養との比較検討も今後の研究方向性として挙げられる。
方法
本研究では、2016年6月までに568例の患者検体 (コア生検、細胞診、胸水、切除、剖検) を処理し、がん細胞培養の樹立を試みた。培養条件としては、照射済み線維芽細胞フィーダー層と腫瘍培養培地である TCM (tumor culture media) を採用した。TCMの組成は、F-12 (Ham’s nutrient mixture F-12) とDMEM (Dulbecco’s Modified Eagle Medium) を3:1の比率で混合し、FBS (fetal bovine serum)、ヒドロコルチゾン、EGF (epidermal growth factor)、インスリン、コレラ毒素、アデニン、およびROCK (Rho-associated protein kinase) 阻害剤である Y-27632 を添加したものである。この培養条件を、他の標準培地である RPMI (Roswell Park Memorial Institute) 1640、DMEM、ACL4 (adenocarcinoma cell line medium 4) と比較して培養成功率を評価した。培養成功の定義は、がん細胞がフィーダー層なしで増殖し、間質線維芽細胞を含まず、凍結保存・再増殖が可能で、元の生検検体と同じドライバー変異を保持することとした。
技術的コントロールとして、肺がん細胞株である A549 および H1299 を用いてアッセイの最適化を行った。薬剤スクリーニングのため、混合細胞集団中の上皮系がん細胞を特異的に識別・定量する免疫蛍光ベースのアッセイを開発した。具体的には、サイトケラチン8 (CK8) およびサイトケラチン18 (CK18) に対する二重抗体カクテルを用いてがん細胞を染色し、核染色剤Hoechst 33342と組み合わせて、Molecular Devices社のImageXpress Micro XL高含量イメージャーおよびMetaXpressソフトウェアで細胞数を定量した。このアッセイは384ウェルプレートフォーマットで実施され、1ウェルあたり100 cellsという少量でも用量反応曲線を取得できることを確認した。
その後、EGFR変異またはALK転座を有するNSCLC患者7例について、生検後に投与されたチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対するin vitro薬剤感受性と、患者の臨床反応 (RECIST: Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) を比較した。生検後9〜15週で凍結保存された早期培養検体を用い、解凍後にフィーダー+TCM培地で培養し、EGFとインスリンを除去したTCM培地で薬剤スクリーニングを実施した。統計解析には、培養成功率の比較に Fisher’s exact 検定を用い、2群間の比較には Student t-test を用いた。用量反応曲線にはGraphPad Prismソフトウェアによる非線形回帰分析を実施した。