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Intratumoral Heterogeneity in EGFR-Mutant NSCLC Results in Divergent Resistance Mechanisms in Response to EGFR Tyrosine Kinase Inhibition

  • 著者: Soucheray M, Capelletti M, Pulido I, et al.
  • Corresponding author: Takeshi Shimamura (Department of Molecular Pharmacology and Therapeutics, Oncology Research Institute, Loyola University Chicago, Stritch School of Medicine, Maywood, IL, USA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26282169

背景

EGFR(epidermal growth factor receptor)変異陽性の非小細胞肺癌(NSCLC; non-small cell lung cancer)は、gefitinibやerlotinibなどの可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI; tyrosine kinase inhibitor)に対して極めて高い初期治療奏効率を示すことが知られている Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Sordella et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004。しかし、これらの薬剤による治療開始後、ほぼすべての症例において獲得耐性が不可避的に発生する。これまでの研究により、獲得耐性機序の約60%はEGFR遺伝子 exon 20のT790M二次変異の出現であり、約5%はMET遺伝子の局所増幅によるバイパス経路の活性化であることが解明されていた Engelman et al. Science 2007Kobayashi et al. NEnglJMed 2005

一方で、臨床検体を用いたゲノム・組織学的解析から、上皮間葉移行(EMT; epithelial-to-mesenchymal transition)表現型を伴う組織学的変化がEGFR-TKI獲得耐性患者の一部で確認されており Sequist et al. SciTranslMed 2011、EMT型耐性が全体の10%から15%程度を占めることが報告されている Yu et al. ClinCancerRes 2013。また、受容体チロシンキナーゼ(RTK; receptor tyrosine kinase)であるAXLの過剰発現がEMT遺伝子シグネチャーと相関し、erlotinib耐性に関与しているとの報告もあった Zhang et al. NatGenet 2012Byers et al. ClinCancerRes 2013。しかし、AXL阻害剤単独ではEMT型耐性細胞のEGFR-TKI感受性を十分に回復できないなど、相反する知見が存在し、その詳細な分子機序は依然として未解明であった。

このように、EGFR阻害がどのような分子シグナルを介してEMTを誘導・促進するのか、その詳細な分子機序は依然として不明であり、学術的なコンセンサスが得られていなかった。さらに、腫瘍内不均一性(intratumoral heterogeneity)が異なる転移部位や治療選択圧の下でどのように異なる耐性機序を駆動するのかについても、前臨床モデルにおける検証が不足していた。特に、EMT抑制とEGFR阻害の併用療法が、耐性クローンの出現を完全に予防できるかについては学術的な検証が手薄であり、効果的な耐性克服戦略を確立する上での知識ギャップ(knowledge gap)が残されていた。

目的

本研究は、第一に、EGFR変異型NSCLCにおいてEGFR阻害がEMTを促進する具体的な分子シグナル伝達経路を同定・解明することを目的とした。第二に、EGFR阻害剤とTGFβ(transforming growth factor-beta)受容体阻害剤の併用によりEMTを抑制することで、獲得耐性の出現を完全に予防できるかを検証することを目的とした。第三に、同一のEGFR変異を有する細胞株間における初期の腫瘍内不均一性が、治療選択圧下での耐性獲得経路の多様性(EMT型耐性 vs. T790M変異型耐性)に与える影響を定量的に明らかにすることを目的とした。

結果

EGFR阻害によるTGFβ1分泌とSMAD経路活性化を介したEMT促進: gefitinib耐性HCC4006Ge-R細胞は、親株と比較して著明な間葉系形態を呈し、E-cadherinの発現低下とvimentinおよびN-cadherinの発現上昇を示した (Figure 1E)。Luminexアッセイを用いた培養上清の網羅的解析により、erlotinib耐性HCC827細胞の間葉系サブクローンであるERC4(erlotinib耐性HCC827間葉系クローン4)においてTGFβ1が最も豊富に分泌されていることが判明した (Figure 2A)。HCC4006Ge-R細胞においても、親株と比較してTGFβ1の分泌量が有意に増加していた (p=0.0084) (Figure 2B)。

さらに、親株HCC4006細胞にerlotinib(100 nmol/L)を投与したところ、24、48、72時間と時間依存的に培養上清中のTGFβ1分泌量が増加した (Figure 3A)。この現象はgefitinibでも同様に観察されたが、EGFR野生型細胞株であるNCI-H1734ではEGFR-TKI投与によるTGFβ1分泌の有意な増加は認められなかった。この分泌されたTGFβ1に反応して、下流のSMAD2(S465/467)およびSMAD3(S423/425)のリン酸化レベルが著明に上昇し、この活性化はTGFβ受容体阻害剤SB431542(1 μmol/L)の添加によって有意に抑制された (Figure 3B)。

in vivoモデルにおいても、EGFR Del19-T790M陽性肺腫瘍を有するTDマウス(n=12 mice)にWZ4002を2日間投与したところ、腫瘍組織においてpEGFRの消失と同時に、pSMAD2/3陽性細胞の著明な増加が確認された (Figure 3C)。さらに、shRNAを用いたEGFRの遺伝子ノックダウンによっても、HCC827細胞からのTGFβ1分泌量が有意に増加し (p=0.00011) (Figure 3G)、EMT遺伝子シグネチャーの濃縮が確認された (Figure 3F)。また、親株細胞を10 ng/mLのTGFβ1に30日間持続暴露させるだけで、E-cadherinの消失を伴う完全なEMTとEGFR-TKI耐性(IC50 > 10 μmol/L)が誘導され、TGFβ1の除去により上皮表現型と薬剤感受性が部分的に回復した (Figure 2C, 2D)。

EMT抑制がT790M変異クローンを選択的に増殖させる: EGFR阻害によるEMT誘導を阻止するため、HCC4006細胞に対してgefitinib単剤、またはgefitinibとSB431542の併用(GeSB処理)を行い、6ヶ月間にわたる長期選択圧をかけた。gefitinib単剤群(Ge-R)では予測通りE-cadherinが低下しvimentinが上昇するEMT型耐性が出現した。これに対し、併用群(GeSB-R)ではE-cadherinおよびvimentinの発現レベルが親株と同等に維持され、EMTの発生が完全に抑制されていた (Figure 4B)。

しかし、GeSB-R細胞はgefitinibに対して高度な耐性を獲得していた。Sangerシーケンス解析を実施したところ、Ge-R細胞では検出されなかったEGFR exon 20のT790M二次変異が、GeSB-R細胞においてのみ明瞭に検出された (Figure 5A)。高感度ddPCRを用いてT790M変異アレル頻度を定量したところ、親株HCC4006では0.0074%未満であったのに対し、Ge-R細胞では1.2%、GeSB-R細胞では18.3%へと著しく上昇していた (Figure 5B)。

第三世代EGFR-TKIであるAZD9291(osimertinib)を用いた薬剤感受性試験において、T790M変異アレル頻度の高いGeSB-R細胞は、EMT型耐性を示すGe-R細胞と比較してAZD9291に対する感受性が高かった。Ge-R細胞では、AZD9291を投与しても下流のAKT、ERK、S6のリン酸化が抑制されず、バイパス経路の活性化が示唆された。さらに、16点STRアッセイによる細胞認証を実施したところ、Ge-R細胞とGeSB-R細胞はそれぞれ異なるSTRプロファイルを示したが、これら2つのプロファイルを統合すると親株HCC4006のSTRプロファイルと完全一致した (Figure 5C)。これは、親株HCC4006が治療前から少なくとも2つの異なるサブポピュレーションを含む不均一な集団であり、治療選択圧(gefitinib単剤 vs. gefitinib+SB431542)によって異なる耐性サブクローンが選択的に増殖したことを直接的に証明している。

PC9細胞におけるT790M変異の優位性と細胞株間の不均一性: 別のEGFR変異陽性細胞株であるPC9細胞を用いて同様の耐性誘導実験(n=3 cells[HCC4006, HCC827, PC9]を用いた比較解析)を行ったところ、PC9細胞は一貫してT790M変異の出現を主要な耐性機序とし、EMT表現型の獲得は顕著ではなかった。ddPCRを用いて治療介入前の親株におけるpreexisting T790M変異アレル頻度を極めて高精度に測定した結果、HCC4006親株では0.0738%(72/97,606)、PC9親株では0.0360%(75/208,229)であった (Figure 6B)。

HCC4006細胞はPC9細胞よりも高い頻度で治療前からT790M変異アレルを保有していたにもかかわらず、gefitinib単剤の選択圧下ではT790M陽性クローンではなく、EMT型耐性クローンが優先的に選択された。この結果は、初期のT790M変異アレル頻度の高低だけでは耐性獲得の方向性を予測できないことを示している。細胞株そのものが有する固有の生物学的特性やクローン構成、および微小環境におけるTGFβシグナルへの依存度が、最終的な耐性経路の選択を規定していることが示唆された。

なお、本研究は前臨床モデルに基づく基礎研究であるが、臨床的背景として、EGFR変異陽性NSCLC患者における二次治療以降のosimertinibの治療成績を参考にすると、T790M陽性例におけるosimertinibの無増悪生存期間(PFS)中央値は 10.1 vs 4.4 months(HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.001)と極めて良好な治療効果を示す。一方で、osimertinib一次治療における無増悪生存期間(PFS)中央値は 18.9 vs 10.2 months(HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.001)であり、このような臨床データは、治療選択圧下で耐性クローン(T790M変異クローンやEMT型耐性クローン)がどのように選択され、その後の治療感受性にどう影響するかを理解する上で極めて重要な指標となる。

考察/結論

本研究は、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI獲得耐性機序の多様性と、腫瘍内不均一性が耐性経路の選択に与える影響について、極めて重要な学術的・臨床的知見を提示した。

先行研究との違い: 従来の報告では、TGFβは単に外部環境から供給されてEMTを誘導する因子として扱われることが多かった。これに対し本研究は、EGFR阻害という治療介入そのものが、がん細胞自身からのTGFβ1分泌を直接的に促し、自己分泌・傍分泌的なSMAD2/3活性化を介してEMTを駆動するというフィードバックループをin vitroおよびin vivoで実証した。この点で、治療介入自体がEMT型耐性を誘発するトリガーとなることを明らかにした点が、これまでの先行研究と大きく異なる。

新規性: 本研究は、EMT型耐性を克服するために有望視されていた「EGFR阻害+TGFβ受容体阻害」の併用療法を長期的に適用しても、獲得耐性の出現を阻止できないことを前臨床モデルで本研究で初めて示した。さらに、EMT経路を遮断することによって、治療前から微量に存在していたT790M変異陽性クローンに対する選択圧が逆説的に高まり、T790M陽性クローンの選択的増殖(アレル頻度1.2%から18.3%への上昇)が促進されるという新規の耐性シフト現象を解明した。

臨床応用: 本知見は、臨床現場におけるEGFR変異NSCLCの個別化治療戦略の策定において極めて重要な臨床的含意を持つ。単一の耐性経路(例えばEMTのみ)を標的とした治療は、腫瘍内不均一性の存在により、別の耐性クローン(T790M等)の選択的増殖を招くため不十分である。したがって、実際の臨床応用においては、EMT抑制薬と第三世代EGFR-TKI(osimertinib等)を組み合わせた多標的アプローチ、あるいはクローン進化の動態に応じた適切な治療スイッチングが必要とされる。また、休薬期間(drug holiday)が一部の患者でEGFR-TKI感受性を回復させる現象 Becker et al. EurJCancer 2011 についても、治療中断によるTGFβ1分泌の低下とEMTの可逆的解除が関与している可能性が示唆された。

残された課題: 今後の検討課題(limitation)として、実際の患者由来がん細胞モデル(PDC)や患者由来異種移植(PDX)モデル Crystal et al. Science 2014 を用いて、この耐性シフト現象が臨床的にも再現されるかを検証する必要がある。また、EMT型耐性細胞において活性化している未知の生存シグナルや、TGFβ阻害と第三世代EGFR-TKIを併用する最適なタイミングの解明が、今後の重要な研究方向性として残されている。

方法

細胞株・モデル系: EGFR変異型NSCLC細胞株として、HCC4006(exon 19欠失、EMT型耐性モデル)、HCC827(exon 19欠失、MET増幅およびEMT型耐性モデル)、PC9(exon 19欠失、T790M型耐性モデル)、およびNCI-H1975(L858R/T790M変異保有)を使用した。また、EGFR野生型(WT; wild-type)細胞株としてNCI-H1734(EGFR野生型肺腺癌細胞株)を用いた。in vivoモデルとして、ドキシサイクリン誘導性EGFR Del19-T790M(TD; transgenic doxycycline-inducible)ビットランスジェニックマウスを用いた。細胞株はATCC(American Type Culture Collection)から入手し、16点STR(short tandem repeat; 短鎖タンデム反復配列)アッセイにより認証を実施した。

耐性細胞株の樹立: HCC4006およびHCC827細胞を、gefitinibまたはerlotinibの濃度を漸増させながら6ヶ月間長期培養し、最終的に10 μmol/Lの濃度で正常増殖する耐性株(HCC4006Ge-R[gefitinib耐性HCC4006細胞株]等)を樹立した。gefitinibとTGFβ受容体阻害剤SB431542(1 μmol/L)の併用によるHCC4006GeSB-R(gefitinibおよびSB431542併用耐性HCC4006細胞株)細胞も同様に6ヶ月かけて樹立した。また、10 ng/mLの重炭酸リコンビナントTGFβ1を30日間持続暴露させることで、TGFβ1誘導性耐性株を作製した。

Luminexアッセイ: 細胞培養上清中の各種増殖因子およびサイトカイン(TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、HGF、EGF、VEGF等)の定量、ならびに細胞溶解物中のSMAD2(S465/467)およびSMAD3(S423/425)のリン酸化レベルの測定には、マルチプレックスLuminexビーズアッセイシステムを使用した。

分子生物学的解析: ウエスタンブロッティング法を用いて、上皮系マーカー(E-cadherin)、間葉系マーカー(N-cadherin、vimentin)、リン酸化SMAD2/3、EGFR、リン酸化EGFR、AKT、リン酸化AKT、ERK、リン酸化ERK、S6、リン酸化S6、およびBIMの発現を解析した。標的特異的shRNA(short hairpin RNA; 短ヘアピンRNA)を搭載したレンチウイルスを用いてEGFRのノックダウンを実施した。遺伝子発現プロファイリングにはAffymetrixマイクロアレイを用い、GSEA(Gene Set Enrichment Analysis; 遺伝子セット濃縮解析)を実施した。

ddPCR(droplet digital PCR; 微小液滴デジタルPCR)解析: 治療介入前の親株細胞における極微量のpreexisting T790M変異アレル頻度、および耐性株における同アレル頻度を絶対定量するため、250,000 Genome Equivalent(GE; ゲノム等量)のゲノムDNAを用いて48ウェルプレートスケールでの高感度ddPCRを実施した。

マウスin vivo実験: TDトランスジェニックマウスにドキシサイクリン食を8週間以上与えて肺腫瘍を形成させた後、第三世代EGFR-TKIであるWZ4002(25 mg/kg)または媒体を毎日経口投与した。投与開始2日後に肺組織を回収し、免疫組織化学(IHC; immunohistochemistry)染色(pEGFR、pSMAD2/3)を実施した。

統計解析: 2群間の統計学的有意差の判定には、Student’s t-test(t検定)を使用した。p < 0.05をもって統計学的に有意と定義した。