• 著者: Jung Wook Park, John K. Lee, Katherine M. Sheu, Liang Wang, Nikolas G. Balanis, Kim Nguyen, Bryan A. Smith, Chen Cheng, Brandon L. Tsai, Donghui Cheng, Jiaoti Huang, Siavash K. Kurdistani, Thomas G. Graeber, Owen N. Witte
  • Corresponding author: Owen N. Witte (UCLA); Thomas G. Graeber (UCLA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30287662

背景

小細胞神経内分泌がん (SCNC) は、前立腺、肺、膀胱など多くの上皮臓器から発生する極めて高悪性度で予後不良のがんである。近年、標的治療 (EGFR阻害剤、ホルモン療法など) への耐性獲得機序として、がん細胞が上皮系譜から神経内分泌系譜へ転換する「系統可塑性 (lineage plasticity)」が認識されている (SCLC transformation、治療耐性神経内分泌前立腺がん (NEPC) など)。例えば、EGFR阻害剤治療後の肺腺がんにおける耐性獲得機序の一つとしてSCLCへの形質転換がSequist et al. SciTranslMed 2011により報告されている。しかし、SCNCの分子メカニズムは未解明な部分が多く、有効な治療法が限られているのが現状である。異なる臓器起源のSCNCが転写・エピゲノム的に類似していることはGeorge et al. Nature 2015による大規模解析で示されているが、共通の発がんドライバーによる誘導が可能かどうかは実験的に検証されていなかった。がんの進展における表現型の収束は、がん細胞の進化における共通の脆弱性を示唆するがMcGranahan et al. Cell 2017、そのメカニズムは不明な点が多い。特に、正常ヒト上皮細胞からSCNCへの系統可塑性を誘導する共通の遺伝的ドライバーと、それに伴うエピゲノムの変化については、詳細なメカニズムの解明が不足している。

目的

本研究の目的は、定義された癌遺伝子セット (PARCB: TP53DN、myrAKT1、RB1-shRNA、c-Myc、BCL2) が正常ヒト前立腺上皮細胞および肺上皮細胞を小細胞神経内分泌がん (SCNC) に再プログラムできるかを検証することである。さらに、両SCNCに共通する転写・エピゲノム基盤を同定し、そのマスターレギュレーターを特定することを目的とする。

結果

PARCBによる小細胞前立腺がん (SCPC) 誘導とleave-one-out解析: PARCB (TP53DN+myrAKT1+RB1-shRNA+c-Myc+BCL2) の5因子全てが揃ったグラフトのみが、小細胞前立腺がんの組織学的特徴 (高核細胞質比、高分裂/アポトーシス頻度) と神経内分泌分化 (NED) マーカー (CD56、シナプトフィジン、クロモグラニン) の均一な発現を示した (Fig. 1D)。c-MycまたはmyrAKT1のいずれかを欠くと腫瘍形成は認められなかった (n=5匹/群)。BCL2を欠いた場合 (PARC) は腫瘍形成効率が低下したが (約50%の腫瘍形成率)、組織学的SCPCは形成された (fig. S3)。RB1-shRNAまたはTP53DNを単独で除いた場合 (PACB、ARCB、ACB) は低分化前立腺腺がん (PrAd) が形成され、NED表現型は認められなかった。この結果から、p53とRBの同時不活化がSCNC誘導に必須であることが判明した。

PARCBによる小細胞肺がん (SCLC) 誘導: 同じPARCBの5因子を正常ヒト気管支上皮細胞 (NHBE細胞) に導入したところ、SCLCの組織学的特徴 (高N/C比、高分裂活性) とNEDマーカー発現を示す腫瘍が形成された (Fig. 3C)。これらの腫瘍はKi67陽性、p63陰性、CK14陰性というSCLCの特徴を示した (fig. S10B)。一因子でも欠くと腫瘍形成は認められなかった (n=5匹/群)。NHBE-PARCB細胞株は、主成分分析 (PCA) で患者由来SCLC細胞株と転写的に密集し (Fig. 3E)、938種類のがん細胞株との類似性解析ではSCLC細胞株とNCI-H660 (SCPC細胞株) に最も近接した (fig. S8)。CGHおよびWES解析では、前立腺および肺のPARCBモデル間に反復する遺伝的変化は認められず、5因子のみでSCNCを誘導するのに十分であることが示された。

SCPC-SCLC間の転写的収束: 正常前立腺基底細胞とNHBE細胞は独自の転写プロファイルを持つが、PARCB再プログラム後はPARCBおよびNHBE-PARCB細胞株が、起源臓器に関わらず同一の転写クラスターに集積した (Fig. 4A)。患者サンプルの解析でも、SCPCとSCLCは各自の正常上皮組織と比較して共通の転写的収束を示した (Fig. 4B)。このことは、PARCBによる再プログラムが臓器の転写的アイデンティティを消去し、共通のSCNC転写状態へ収束させることを意味する。PARCB細胞株におけるSCNC関連遺伝子の発現は、正常細胞と比較して平均log2FC 3.5以上の上昇を示した。この転写収束は、異なる組織起源から発生するSCNCが共通の分子基盤を持つことを強く示唆する。

共通エピゲノム基盤:ATAC-seqによる横断的解析: PARCB、NHBE-PARCB、患者由来SCPC、SCLC細胞株のATAC-seqデータは、同一のクロマチンアクセシビリティクラスターに集積し (Fig. 4C)、正常前立腺基底細胞、NHBE細胞、非神経内分泌前立腺がん (ACB/PACB/ARCB) 細胞株とは明確に区別された。p53とRBの同時不活化 (PARCB vs ACB比較) が、プロニューラル遺伝子関連領域のクロマチンアクセシビリティを著明に増加させ (Fig. 2D, p<0.05)、上皮分化・PrAd関連遺伝子 (Gene Ontology: 上皮発達・細胞接着関連) 領域のアクセシビリティを低下させた (Fig. 2E)。SCNCに特異的に高アクセスな領域のHOMERモチーフ解析では、プロニューラル転写因子 (TF) (ASCL1、NEUROD1、NEUROG2、OLIG2) とNKXホメオドメインTF (NKX2.1/TTF-1、NKX2.2、NKX2.5、NKX6.1) のモチーフが高濃縮していた (Fig. 4E)。ASCL1とNEUROD1はSCLCの生存と発生に必須であり、NKX2.1はSCLCとSCPCの両方のバイオマーカーとして臨床的に使用される。逆に、p53ファミリー (p53、p63、p73) とETSファミリー (ELF3、ELF5、ERG) モチーフは低アクセス状態にあった。TFモチーフアクセシビリティと対応するRNA-seq発現量の統合解析で分子的整合性が確認された (Fig. 4F、one-way ANOVA p<0.001〜p<0.0001)。単独ではp53またはRBのみの不活化 (PACB、ARCB) ではクロマチン再プログラムは生じず、両者の同時不活化が必須であることも示された。

考察/結論

本研究は、定義された5因子 (PARCB) が異なる起源の正常ヒト上皮細胞 (前立腺、肺) を共通のSCNC系譜に再プログラムするという驚くべき事実を実験的に証明し、プロニューラルTF (ASCL1、NEUROD1) とNKXファミリーを主要な共通マスターレギュレーターとして同定した。

先行研究との違い: これまで、異なる臓器起源のSCNCが転写・エピゲノム的に類似していることは大規模解析で示唆されていたが、共通の発がんドライバーによって正常上皮細胞からSCNCが誘導されることを実験的に示した研究は本研究が初めてである。特に、p53とRBの同時不活化が系統可塑性の誘導に必須であるという知見は、マウスモデルでの報告とは異なり、ヒト細胞系譜における詳細なメカニズムを明らかにした点で重要である。

新規性: 本研究で初めて、TP53不活化、RB1ノックダウン、c-Myc、myrAKT1、BCL2の5因子 (PARCB) が、正常ヒト前立腺および気管支上皮細胞を共通のSCNC系譜に再プログラムできることを新規に同定した。さらに、この再プログラムされたSCNCが、組織起源に関わらず、プロニューラル転写因子 (ASCL1、NEUROD1) とNKXファミリーの共通エピゲノム基盤を持つことを初めて明らかにした。これは、異なる上皮組織由来の神経内分泌がんが共通の脆弱性を共有しうるという新規の概念を提示する。

臨床応用: 本知見は、SCNCの治療戦略開発に重要な臨床的意義を持つ。第一に、SCLCがEGFR阻害剤治療後の獲得耐性機序の一つとして肺腺がんから出現する現象 (例: Sequist et al. SciTranslMed 2011) の分子基盤として、p53とRBの同時不活化およびMyc活性化の重要性を提示する。第二に、ASCL1、NEUROD1、NKX2.1 (TTF-1) が異なる起源のSCNCで共通に活性化するという知見は、臓器横断的なSCNC治療戦略 (ASCL1、NEUROD1阻害、Myc阻害など) の設計根拠を提供する。第三に、耐性小細胞がんの出現前の予防的介入として、p53・RBシグナリングの維持やMyc阻害が有効である可能性がある。これらの結果は、SCNCの臨床現場における新たな治療標的の探索に繋がる。

残された課題: 今後の検討課題として、PARCB因子による再プログラムが誘導するSCNCの治療応答性や薬剤耐性プロファイルを詳細に解析する必要がある。また、本研究で同定されたマスターレギュレーターであるプロニューラルTFやNKXファミリーTFを標的とした新規治療薬の開発と、その有効性の検証が残された課題である。さらに、in vivoでのSCNC発生におけるPARCB因子の詳細な役割や、他の上皮組織からのSCNC誘導の可能性についても検討が必要である。

方法

前立腺変換アッセイ: 8名のヒトドナー由来の正常前立腺基底上皮細胞を、PARCBの5因子をコードするレンチウイルスで形質転換した。具体的には、TP53DN (dominant negative p53)、myrAKT1 (myristoylated AKT1)、RB1-shRNA (RB1 short hairpin RNA)、c-Myc、BCL2の各遺伝子を導入した。その後、オルガノイド培養を行い、免疫不全NOD/SCID-IL2Rγcノックアウトマウス (n=60匹) へ移植し、腫瘍形成を評価した。leave-one-out解析により、各因子のSCNC誘導における必須性を検証した。

肺変換アッセイ: 正常ヒト気管支上皮細胞 (NHBE細胞) をPARCB因子で形質転換し、異種移植モデルを用いて腫瘍形成を評価した。NHBE細胞は、正常な気管支上皮細胞株として広く用いられる。形成された腫瘍の組織学的特徴と神経内分泌分化 (NED) マーカーの発現を免疫組織化学染色で確認した。

マルチオミクス解析:

  1. RNA-seq: 転写プロファイリングを実施した。患者由来の小細胞前立腺がん (SCPC) および小細胞肺がん (SCLC) データセット (Beltran et al. Nat Med 2016, TCGA) と統合し、遺伝子発現の類似性を評価した。
  2. ATAC-seq (Assay for Transposase-Accessible Chromatin sequencing): ゲノムワイドなクロマチンアクセシビリティ解析を実施した。これにより、転写因子結合モチーフ解析をHOMER (Hypergeometric Optimization of Motif EnRichment) で行いHeinz et al. MolCell 2010、SCNCに特異的なクロマチン状態を特定した。
  3. 統合解析: PARCB、NHBE-PARCB、患者由来SCPC、SCLC細胞株のRNA-seqおよびATAC-seqデータを統合し、共通の転写・エピゲノム基盤を特定した。遺伝子発現とクロマチンアクセシビリティの相関をone-way ANOVAを用いて評価した。
  4. 遺伝子リストエンリッチメント解析: PARCB細胞株で上方制御される遺伝子を用いて、938種類のがん細胞株の転写プロファイルとの類似性を評価したBarretina et al. Nature 2012
  5. 比較ゲノムハイブリダイゼーション (CGH) および全エクソームシーケンス (WES): 前立腺および肺のPARCBモデルにおける遺伝的変化を解析し、5因子のみでSCNCを誘導するのに十分であるかを確認した。