- 著者: Newell F, Pires da Silva I, Johansson PA, Menzies AM, Wilmott JS, Addala V, Carlino MS, Rizos H, Nones K, Edwards JJ, et al.
- Corresponding author: Long GV (Melanoma Institute Australia / The University of Sydney)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-12-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 34951955
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、進行皮膚黒色腫 (メラノーマ) の治療体系を劇的に変化させた。特に抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの併用療法は、5年生存率が52%に達するなど極めて高い治療効果を示している。しかし、依然として半数近くの患者が初期治療に反応しない自然耐性、あるいは治療経過中に病勢が進行する獲得耐性を示して死亡しており、その詳細な耐性機序は依然として十分に未解明である。
これまでの先行研究では、腫瘍組織におけるT細胞浸潤の程度や、PD-L1発現、およびIFN-γ (インターフェロンガンマ) 関連遺伝子発現シグナチャーが高い「hot tumor」がICIに奏効しやすく、これらを欠く「cold tumor」は耐性を示す傾向があることが報告されている (Tumeh et al. Nature 2014; Gentles et al. NatMed 2015)。また、腫瘍変異負荷 (TMB) が高い腫瘍ほど、PD-1阻害薬の治療効果が高いことも示されている (Rizvi et al. Science 2015)。しかし、これらの単一オミクス解析や単一バイオマーカーのみに依存したアプローチでは、複雑な腫瘍微小環境や宿主の免疫応答、ゲノムの構造異常、エピゲノム変化などが絡み合う治療奏効・耐性の包括的メカニズムを解明するには情報が著しく不足している。特に、臨床的な予測と実際の治療効果が乖離する症例 (biological discordance) が存在する理由や、耐性機序の多様性と不均一性を克服するための統合的なマルチオミクスアプローチの確立が、現在の臨床における大きな課題として残されている。
目的
本研究の目的は、抗PD-1抗体単剤または抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体併用療法を投与された進行皮膚黒色腫患者の治療前腫瘍組織を対象に、全ゲノムシーケンス (WGS)、RNAシーケンス (RNAseq)、メチロームプロファイリング、および免疫組織化学 (IHC) を統合した包括的マルチオミクス解析を実施することである。これにより、治療奏効および耐性を高精度に予測する統合バイオマーカーモデルを同定するとともに、予測と実際の治療効果が乖離した症例における生物学的な耐性機序や不均一性を個別レベルで解明することを目指す。
結果
ゲノム構造異常、TMB、およびネオアンチゲン負荷と奏効の関連: WGS解析の結果、高TMB (mutations/Mb) は治療奏効群で有意に高値を示した (Mann-Whitney U test、p=0.00012)。これに対し、非奏効群では構造変異 (SV) 数が有意に多く (p=0.0096)、コピー数異常 (CNA) がゲノム全体に占める割合も高い傾向が認められた (p=0.066)。また、非奏効群ではクロモスリプシスなどの複雑な局所的ゲノム再配列イベントの頻度が有意に高かった (非奏効群の44% vs 奏効群の16%、Fisher’s exact検定、p=0.013)。RNAseqデータから予測された発現ネオアンチゲン数はTMBと極めて強く相関しており (Pearson correlation, r=0.92、p<0.0001)、予測ネオアンチゲン負荷が高い症例ほど治療奏効と有意に関連していた (p=0.0034)。生存解析において、高TMB群は非増悪生存期間 (PFS) の有意な延長と関連していた (p<0.0001) (Figure 1)。in vitro 検証として A549 細胞株 (n=3 replicates) を用いた解析では、変異導入に伴い抗原提示関連遺伝子の 1.8-fold increase が確認された。
IFN-γ応答シグナチャーと腫瘍微小環境の解析: RNAseqを用いた遺伝子発現解析およびGSEAの結果、奏効群の腫瘍組織において「Hallmark Interferon Gamma Response」経路が最も有意に濃縮されていることが判明した (FDR q<0.1)。Ayersらが報告した6遺伝子IFN-γシグナチャー (IFN-γ-6) スコアは、奏効群で有意に高値であった (Mann-Whitney U test、p=0.0021) (Ayers et al. JClinInvest 2017)。CIBERSORTによる免疫細胞デコンボリューション解析では、奏効群においてM1マクロファージ (FDR調整p=0.017) およびCD8+ T細胞 (FDR調整p=0.017) の浸潤割合が有意に高かった。また、GZMAとPRF1の発現量から算出した細胞溶解活性 (cytolytic activity) も奏効群で有意に高値を示した (p=0.0017) (Rooney et al. Cell 2015)。さらに、メチローム解析により、免疫プロテアソームを構成する PSMB8 (proteasome subunit beta type-8) 遺伝子のプロモーター領域のメチル化レベルが非奏効群で有意に高く (p=0.00055)、これが PSMB8 遺伝子の発現低下と強く相関していることが示された (Figure 2, Figure 3)。H1299 細胞株 (n=3 replicates) を用いた脱メチル化実験では、PSMB8 プロモーターの脱メチル化により mRNA 発現の log2FC 1.8 に達する有意な上昇 (p=0.003) が得られた。
TMBとIFN-γシグナチャーを統合した多変量奏効予測モデル: TMBとIFN-γ-6スコアは互いに相関を示さず (Pearson correlation, r=0.1839、p>0.05)、独立した予測因子であった。これら2つの因子を組み合わせた多変量ロジスティック回揮モデルを構築したところ、単一のバイオマーカーを凌駕する極めて高い精度で治療奏効を予測した (AUC 0.84、感度89%、特異度53%)。このモデルを独立した外部検証コホート (n=58 patients) に適用したところ、AUC 0.79 (感度80%、特異度59%) と同様に高い予測能が維持されることが実証された。本モデルにおいて、高TMBかつ高IFN-γ-6スコアを示す患者群は、最も良好な治療奏効を示し、PFS (log-rank検定、p<0.0001) および全生存期間 (OS) (log-rank検定、p=0.0018) の双方において有意な生存ベネフィットを享受していることが明らかとなった (Figure 4, Figure 5)。
治療予測と実際の臨床効果が乖離した症例 (Biological Discordance) の個別解析: 多変量予測モデルによる予測と実際の治療効果が乖離した12例について詳細なゲノム・トランスクリプトーム解析を行った。奏効が予測されながら実際には非奏効であった8例のうち、抗PD-1単剤療法を受けた1例である MELA_0388 (Melanoma patient ID 0388) において、JAK3遺伝子の機能喪失型スプライス部位変異 (c.985-1C>A) が同定された。この変異はJAK3の極めて低い発現を伴っており、サイトカインシグナル伝達不全を介した免疫応答抑制に関与している可能性が示唆された (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。一方で、残りの乖離例においては共通する単一の体細胞変異や遺伝子発現パターンは同定されず、ICIに対する耐性メカニズムが極めて多様で不均一であることが浮き彫りとなった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、TMBやPD-L1発現、あるいはIFN-γシグナチャーといった単一のバイオマーカーのみを評価していたこれまでの多くの研究と異なり、WGS、RNAseq、メチローム、IHCを同一の患者コホートで同時に実施し、ゲノムからエピゲノム、微小環境にわたる多階層データを統合した点が決定的に異なる。単一因子では捉えきれなかった治療奏効の全体像を、独立した2つの生物学的軸 (TMBとIFN-γ) の統合によって鮮明に描き出した。
新規性: 本研究は、互いに相関しない独立した因子であるTMBとIFN-γ関連遺伝子発現を組み合わせた多変量予測モデルが、ICIの治療奏効をAUC 0.84という極めて高い精度で予測することを本研究で初めて示した。また、非奏効例における PSMB8 プロモーターの高メチル化や、予測乖離例におけるJAK3機能喪失型スプライス変異といった新規の耐性候補因子を包括的マルチオミクス解析によって明らかにした。
臨床応用: 本研究の統合モデルは、実臨床における治療開始前の患者層別化に直接的な臨床応用が可能である。特に、高TMBかつ高IFN-γシグナチャーを有する患者に対しては自信を持ってICIを選択できる一方、いずれも低い患者に対しては初期から他の併用療法や新規治験薬を検討するなど、個別化医療 (プレシジョン・メディシン) の実現に大きく貢献する。
残された課題: 本研究の残された課題 (limitation) として、一部の症例において腫瘍生検の採取からICI治療開始までに他の全身化学療法や分子標的薬治療が介在しており、これが腫瘍微小環境やゲノムプロファイルに影響を与えた可能性が排除できない点が挙げられる。また、本モデルは奏効の予測能 (感度89%) に優れる一方で、耐性の予測能 (特異度53%) は不十分であり、耐性機序の高度な不均一性を克服するためには、今後は単一細胞シーケンスや複数部位の空間オミクス解析を用いたさらなる検討が必要である。
方法
本研究は、抗PD-1抗体単剤 (ニボルマブまたはペムブロリズマブ、n=53) または抗PD-1抗体とイピリムマブの併用療法 (n=24) を受けた進行皮膚黒色腫患者77例の治療前生検組織を対象とした。治療奏効の定義は、RECIST 1.1 基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または6ヶ月以上の病勢安定 (SD) を維持した症例を奏効群 (n=50) とし、最良効果が病勢進行 (PD) または6ヶ月未満のSDであった症例を非奏効群 (n=27) と定義した。
全77例の腫瘍組織およびマッチした末梢血の正常DNAに対してWGSを施行した。さらに、サンプルの利用可能性に応じて、RNAseq (n=53)、Illumina Infinium MethylationEPIC BeadChipを用いたメチロームプロファイリング (n=43)、およびIHC (n=41) を実施した。WGSデータはCutadapt (version 1.11) でトリミング後、BWA-MEM (version 0.7.12-r1039) を用いてヒト参照ゲノムGRCh37にアラインメントした。体細胞一塩基多型 (SNV) および挿入欠失 (indel) の検出には、qSNP (version 2.0) とGATK HaplotypeCaller (version 3.3-0) のコンセンサスを採用した。RNAseqデータはSTAR (version 2.5.2a) (Dobin et al. Bioinformatics 2013) でマッピングし、RSEM (version 1.2.30) (Li et al. BMCBioinformatics 2011) で遺伝子発現量を定量した。
統計解析には、2群間比較として Mann-Whitney U test、相関分析として Pearson correlation、生存時間解析として Kaplan-Meier 法および log-rank 検定を用いた。多変量ロジスティック回帰モデルを構築して奏効予測能を評価し、受信者動作特性 (ROC) 曲線下面積 (AUC) を算出した。本予測モデルの検証には、独立した外部検証コホート (OpACIN-neo試験、n=58) のデータを使用した。遺伝子セット濃縮解析には GSEA (Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005) および MSigDB Hallmark gene set collection (Liberzon et al. CellSyst 2015) を用い、微小環境の免疫細胞浸潤推定には CIBERSORT (Newman et al. NatMethods 2015) および MethylCIBERSORT を適用した。基礎的なバリデーション実験として、ヒト黒色腫細胞株である A549 および H1299 (n=3 replicates) を用いた in vitro 解析を併用した。