• 著者: Glickman MS, Sawyers CL
  • Corresponding author: Michael S. Glickman (Infectious Diseases Service and Immunology Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY), Charles L. Sawyers (Human Oncology and Pathogenesis Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY; Howard Hughes Medical Institute)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review / Perspective
  • PMID: 22424221

背景

がん治療において、分子標的薬の登場は劇的な腫瘍縮小をもたらした一方、その効果はほぼ例外なく一時的であり、薬剤耐性の出現が治療失敗の主因となっている。2000年代以降、BCR-ABL阻害薬イマチニブ(CML:chronic myeloid leukemia)、EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor)(EGFR変異陽性NSCLC:non-small cell lung cancer)、BRAF阻害薬ベムラフェニブ(BRAF V600E変異悪性黒色腫)、ALK阻害薬クリゾチニブ(ALK融合遺伝子陽性NSCLC)などの分子標的薬が相次いで承認され顕著な初期奏功を示したが、肺癌・黒色腫などの固形癌では1年以内の再発率が50%を超えることが報告されており、単剤分子標的療法の限界が明確となっている。

感染症分野では20世紀後半に類似の課題を経験し、多剤併用療法による根本的な解決に到達した歴史がある。結核(TB:tuberculosis)は1940年代に抗菌薬治療が始まった後、ストレプトマイシン単剤療法で急速な耐性出現が問題化した。British Medical Research Councilの一連の臨床試験(1947-1952年)を経て、INH (isoniazid)・RIF (rifampicin)・PZA (pyrazinamide)・EMB (ethambutol) の4剤6-9ヶ月療法という現行標準治療が確立し、90%以上の治癒率を達成した。HIV治療においても、1987年のAZT (azidothymidine、ジドブジン) 単剤承認後に急速な耐性化が問題化したが、1996年のHAART (highly active antiretroviral therapy)—プロテアーゼ阻害薬+2種の核酸系逆転写酵素阻害薬の3剤併用—の確立により、ウイルス学的持続抑制と死亡率の劇的低下が実現した。

これらの感染症治療の成功は、独立した耐性機構を持つ複数薬剤の同時投与により耐性変異体の出現を数学的に阻止するという原則に基づいている。しかし、がん治療においては、変異性と非変異性の耐性機構を統合的に整理し、感染症治療の教訓をがん治療に翻訳する体系的フレームワークが2012年時点では確立されていなかった。Engelman et al. Science 2007によるMET増幅耐性、Sharma et al. Cell 2010によるエピジェネティック可逆的薬剤耐性パーシスター細胞、Sequist et al. SciTranslMed 2011による肺癌の系統転換など個別の耐性機構は解明されつつあったが、これらを統合的に体系化し多剤設計に活かすための合理的な原則は未解明のままであり、特に非変異性耐性の根絶策が不足していた。感染症分野の成功事例からがん治療への橋渡し的な体系化が手薄であったことが、固形癌の治癒実現を妨げる知識の空白となっていた。

目的

本レビューの目的は、HIV・結核における薬剤耐性克服の歴史的経験をがん治療に翻訳し、治癒に向けた合理的な多剤併用療法設計のための概念的フレームワークを提示することである。具体的には、(1) がんの薬剤耐性機構を変異性・非変異性の2大カテゴリに体系化し細菌・ウイルスの耐性と対比する、(2) 感染症治療の成功・失敗事例から抽出した原則をがん治療に適用する論拠を示す、(3) 単剤療法が例外的に成功するCML・B型肝炎の事例を分析して成功条件を明確にする、(4) 精密分子診断のがん治療における役割と感染症診断への応用可能性を論じることを意図した。

結果

変異性耐性メカニズム - 標的変異と遺伝子増幅: 変異性耐性の最も一般的なメカニズムは、薬剤結合部位のアミノ酸置換による薬剤親和性の低下(標的変異)と、標的遺伝子または代替経路の遺伝子増幅である (Table 1、Figure 1A・1B)。標的変異の典型例として、CMLにおけるイマチニブ耐性はBCR-ABLキナーゼドメインの点変異(T315I変異など多数)によるものであり、薬剤結合を立体障害または構造的柔軟性の制限により阻害する。EGFR変異陽性NSCLCにおける第一世代EGFR-TKI耐性の代表的機構であるT790M変異(Pao et al. PLoSMed 2005)も同様に立体障害による薬剤結合阻害である。ALK阻害薬耐性NSCLCではALKキナーゼドメイン変異が認められ(Choi et al. NEnglJMed 2010)、KITキナーゼ阻害薬(消化管間質腫瘍:GIST)、PDGFR阻害薬(好酸球増多症候群)、BRAF阻害薬(悪性黒色腫)耐性でも同様の機構が確認されている。感染症領域では、HIVのRT・プロテアーゼ・インテグラーゼ遺伝子変異による抗ウイルス薬耐性、細菌のPBP (penicillin-binding protein) 変異によるβ-ラクタム耐性、リファンピシン耐性TBにおけるRNAポリメラーゼβサブユニット変異が同じカテゴリに属する。重要な点として、薬剤耐性変異は一部の患者では治療開始前から低頻度クローンとして存在し、選択的増殖優位性を持つ場合があることがCMLや肺癌で示されている。

遺伝子増幅による耐性として、CRPC (castration-resistant prostate cancer、去勢抵抗性前立腺癌) ではAR (androgen receptor) 遺伝子増幅が約30%の症例で観察され、アンドロゲン除去療法への耐性の主要機構となっている (Figure 1B)。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬耐性NSCLCの約20%では、MET受容体チロシンキナーゼの遺伝子増幅が認められ、METがEGFRの下流シグナル経路(PI3K/AKT)を代償的に活性化することで「オンコジーン・バイパス」耐性を形成する(Engelman et al. Science 2007)。この機構は、細菌がスルホンアミドによるチミジン生合成阻害を環境からのチミジン取り込みにより回避するメカニズムと概念的に類似している。また、CMLではBCR-ABL遺伝子の増幅がイマチニブ耐性の一機構として認められるが、キナーゼドメイン変異よりも発生頻度は低い。

薬剤不活性化と非変異性耐性 - パーシスター細胞・がん幹細胞・系統転換: 薬剤不活性化は細菌の抗菌薬耐性における最も一般的な機構であり、β-ラクタマーゼ(β-ラクタム環の開裂によるペニシリン・セファロスポリン系不活性化)やアミノグリコシド修飾酵素(リン酸化・アセチル化・アデニリル化によるリボソーム結合阻害)がその代表例である (Figure 1C)。一方、がん治療においては腫瘍細胞自身による直接的な薬剤破壊は極めて稀であり、宿主代謝酵素CYP2D6 (cytochrome P450 2D6) によるタモキシフェンの活性代謝物エンドキシフェンへの変換不全(CYP2D6遺伝子多型またはSSRI (selective serotonin reuptake inhibitor) 併用による酵素阻害)が治療効果に影響する事例として記されている。結核治療薬のイソニアジドとピラジナミドはプロドラッグであり、それぞれ結核菌の酵素KatGおよびPncAによる活性化が必要なため、これら酵素の変異が薬剤不活性化型耐性を引き起こす。

非変異性耐性(Table 1)の中でも治療的に最重要な概念が薬剤耐性パーシスター細胞である。細菌感染症において、抗菌薬投与後も遺伝子変異なく生存する小集団が存在し、薬剤除去後には感受性集団を再生させる現象(細菌パーシスタンス)が結核菌・大腸菌等で広く観察される。トキシン-アンチトキシン(TA)モジュールやマクロファージ誘導性薬剤流出ポンプがパーシスタンスの分子機構として示唆されている。がん治療においても類似の現象がSharma et al. Cell 2010によって実証されており、HER2/EGFR阻害下でKDM5A (lysine demethylase 5A) が介在するクロマチン修飾による可逆的な薬剤耐性状態が維持されることが示された (Figure 1D)。これらのがんパーシスター細胞は薬剤除去後に感受性細胞集団を再生させる点でも細菌パーシスターと一致する。

がん幹細胞(腫瘍initiating cell)も非変異性耐性の重要な源泉であり、MDR (multidrug resistance) トランスポーターの高発現、腫瘍微小環境・転移ニッチからの生存シグナル(CXCR4/SDF-1軸による骨髄ニッチへの係留)、増強されたDNA修復機構により既存治療への耐性を示す。急性骨髄性白血病(AML)では寛解導入化学療法後も残存するがん幹細胞が後期再発の原因となり、CXCR4阻害薬は造血幹細胞および CXCR4陽性AML細胞を骨髄ニッチから動員して化学療法増感に寄与することが示されている。シグナル伝達フィードバックによる耐性も重要であり、mTOR阻害などの経路遮断が上流RTK (receptor tyrosine kinase) 発現上昇やAKT活性化などのネガティブフィードバック解除を引き起こし代償的シグナル活性化をもたらす。このため、PI3K経路阻害薬の単剤療法は代償経路の同時阻害なしには効果が限定的と予測される。系統転換(lineage switching)もがん特有の非変異性耐性機構であり、Sequist et al. SciTranslMed 2011ではEGFR変異陽性肺腺癌がEGFR-TKI耐性獲得後に小細胞肺癌(SCLC)へ形質転換する症例が報告されており、クローン性解析から同一EGFR変異腫瘍からの転換が確認されている。細菌においても細胞壁合成を標的とする抗菌薬への耐性がL-form(細胞壁欠損細菌)への転換として生じる類似現象が知られている。

HIV・結核における単剤療法の失敗と多剤併用療法の確立: 感染症領域での多剤併用療法確立の歴史は、がん治療への重要な教訓を与える (Figure 2)。HIV治療では、AZT単剤療法は当初顕著なCD4陽性T細胞数の回復と臨床改善をもたらしたが、治療開始後24週でプラセボ群と同レベルに悪化した。核酸系RT阻害薬ラミブジン(3TC)の単剤投与では治療開始後12週でほぼ約100%の患者に耐性変異が生じ、プロテアーゼ阻害薬サキナビル単剤でも24週で効果が消失した。その根本的理由は、HIV感染宿主における1日あたり10^10個という膨大な新規ビリオン産生(Perelson et al. 1996)が多様な耐性変異体を高頻度に生成し、単剤選択圧下での選択的増殖を可能にする点にある (Figure 2A・2C)。

これに対し、AZT・3TC・インジナビルの3剤併用(HAART)は2剤併用と比較してウイルス量を検出限界以下に抑制する割合を劇的に向上させ (Gulick 1997試験でn=97、78% vs 38%、p<0.001)、HIV関連死亡率を大幅に低下させた(Gulick 1997、Hammer 1997)。HAARTの成功の鍵は、複数の独立した耐性機構を同時に遮断することで耐性ウイルスの出現確率を数学的に低下させ、迅速かつ持続的なHIVバーデン最小化を達成する点にある (Figure 2A・2C)。

結核治療においても、ストレプトマイシン単剤は投与開始1-2ヶ月で顕著な臨床改善(発熱消退・X線改善・体重増加)をもたらしたものの、その後の耐性菌出現により効果が失われた。PAS (para-aminosalicylic acid) との2剤併用(British Medical Research Council 1950年)では、同程度の初期臨床改善が得られながらストレプトマイシン耐性の出現が抑制されることが実証された (Figure 2B・2C)。INH単剤療法も初期は同等の効果を示したが最終的にINH耐性菌の出現により失敗し、これらの知見が現行標準治療である3-4剤・6-12ヶ月療法の基盤を形成した。HIVとTBの多剤併用成功には共通点と差異点がある:HIV・HAARTは迅速なウイルス量の相乗的抑制が主要機構であるのに対し、TB多剤併用療法は耐性変異体出現防止が主要な役割を果たす点が異なる (Figure 2)。

単剤療法が成功する例外とCMLの教訓: 感染症領域でも単剤療法が有効な例外が存在する。急性細菌感染症(肺炎・尿路感染症など)では、抗菌薬単剤療法で治癒が得られることが多い。理由として、急性感染症における細菌量の急速かつ大幅な減少が耐性変異体の選択的増殖機会を与えない点が挙げられる。B型肝炎(HBV:hepatitis B virus)は、エンテカビル・テノホビルなどの核酸系アナログ単剤療法でもウイルス量の持続的な抑制が得られる特異な例外であり、ラミブジン耐性HBVの発生率は1年で20%であるのに対し、エンテカビルでは1年後、テノホビルでは5年後のフォローアップで耐性がほぼ観察されない(Chang 2006、Marcellin 2008、Lok 2009)。同じRTを標的とする同一薬剤でHIVには急速に耐性が生じるのにHBVには生じにくいという顕著な差異の生物学的基盤は不明とされている (Figure 2C)。

CMLのイマチニブ単剤療法は、他の固形癌(EGFR変異陽性NSCLC・BRAF変異悪性黒色腫等)における単剤標的薬と対照的に、第1年の再発率が約4-5%と極めて低い優れた長期奏功を示す。6年追跡でも再発リスクが低下し横ばいとなる長期経過が示されており(Hochhaus 2009・IRIS試験)、多くの患者が単剤療法で長期管理可能と考えられている。CML単剤療法成功の鍵は、治療開始後3-6ヶ月以内にBCR-ABL転写産物の血中レベルで「3 log reduction (1000-fold の腫瘍量減少)」を達成することにあり、これを達成した患者では以後の再発リスクが極めて低いことがIRIS解析で確認されている(Hughes 2010)。第二世代ABL阻害薬ダサチニブ・ニロチニブは、この3 log reductionを達成する患者割合をさらに増加させる(Kantarjian 2010・Saglio 2010)。CMLの成功はHIVにおけるウイルス量の急速かつ持続的な低下と類似した機構を示しており、固形癌においても同様の深い腫瘍量減少を初期から達成できれば類似した長期成功が期待されるという視点は、がん治療パラダイムへの重要な示唆となる。去勢抵抗性前立腺癌では、前立腺癌が標準アンドロゲン除去療法への耐性獲得後もAR依存性シグナルを維持することが示され(Chen et al. 2004)、アビラテロン(CYP17阻害によるアンドロゲン産生遮断)とMDV3100(エンザルタミド、強力AR拮抗薬)の2剤が耐性設定での有効性を示した。

精密診断の役割と感染症診断への示唆: がん治療では、分子標的薬の恩恵を受けられる患者サブセットを同定するための精密分子診断が不可欠となっている。代表例として、HER2/Neu増幅(トラスツズマブ感受性)、EGFR変異(エルロチニブ/ゲフィチニブ感受性)、BRAF V600E変異(ベムラフェニブ感受性)の診断が標準化されている。感染症領域でも類似の精密診断が部分的に導入されており、CCR5指向性HIV-1とマラビロク(CCR5アンタゴニスト)、PCRベースのリファンピシン耐性検出(TB)、HIV遺伝子型耐性検査が実例として挙げられる。しかし多くの感染症では精密診断が普及しておらず、比較的無害な広域スペクトル抗菌薬への依存が診断特異性の追求を妨げており、抗菌薬の過剰使用が多剤耐性菌の選択・伝播という公衆衛生上の重大な脅威をもたらしている。がん薬剤耐性は当該患者個人のみに影響するのに対し、感染症での薬剤耐性は耐性菌の感染伝播を通じて未感染者にも影響する点が本質的に異なる。循環腫瘍DNA(ctDNA:circulating tumor DNA)の定量技術は、HIVのウイルス量モニタリングに類似した固形癌の治療効果評価を可能とする潜在力を持ち、CML PCRアッセイやHBVウイルス量モニタリングに匹敵する早期治療評価エンドポイントへの活用が期待される(Leary et al. 2010)。

考察/結論

本総説は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)の感染症学者GlickmanとCML/イマチニブ研究者Sawyers(Howard Hughes Medical Institute)が異分野融合の視点から執筆したCell誌の論文であり、感染症治療の成功・失敗の歴史からがん治療の「治癒戦略」を導出しようとした点で、2012年当時の腫瘍学に新たな概念的枠組みを提供した。

これまでの研究との違い: 先行研究では、がん薬剤耐性の研究はEGFR T790M変異・BCR-ABL T315I変異・MET増幅などの個別の耐性メカニズムの同定に特化する傾向があり、耐性機構全体を統合した体系的分類や感染症の歴史と対照的に比較する包括的視点は乏しかった。また、固形癌における多剤併用療法の必要性は感覚的には認識されていたが、感染症治療の数学的・生物学的根拠を援用した論理的フレームワークとして提示された例はなかった。本論文は変異性・非変異性の2大カテゴリ・8サブタイプという整理を新規に提示した点で先行研究の個別耐性記述とは根本的に異なる。

新規性: 本論文が本研究で初めて系統的に提示した概念として、がん細胞の「drug-tolerant persister(薬剤耐性パーシスター)」を細菌の薬剤耐性パーシスター細胞と対比し、非変異性耐性として体系化したことが挙げられる。Sharma et al. Cell 2010によるエピジェネティック可逆的薬剤耐性状態の発見を援用し、これらの細胞が後期再発の根源的温床となるという新規の概念的枠組みを構築した。また、CMLにおける「3 log reduction」という深い腫瘍量減少の達成が、HIV・HAARTにおけるウイルス量の持続的抑制と類似した成功機序を持つという類比も、固形癌における治療目標設定への新規な示唆を与えた。

臨床応用: 本論文の知見は、がん治療における臨床応用に直結する。臨床的意義として最も重要なのは、現在のがん薬剤開発パラダイム—単剤承認を先行させ、その後に併用試験を行うビジネス・規制的慣行—が治癒実現を遅らせているという指摘である。FDAは2010年に未承認薬の組み合わせ共同開発に関するガイダンス草案を発表し、その方向性を支持している。臨床現場における具体的な応用として、垂直阻害(BRAF+MEK阻害薬併用)、水平阻害(EGFR+MET二重阻害)、フィードバック阻害(mTOR+PI3K同時阻害)、標的療法と免疫療法の組み合わせ(イピリムマブ:抗CTLA-4抗体、Robert et al. 2011での転移性悪性黒色腫でのイピリムマブ+ダカルバジン併用の生存延長)が提示された。bench-to-bedsideの橋渡しとして、ctDNA等のリキッドバイオプシー技術は固形癌の微小残存病変(MRD)モニタリングを可能とし、CML・HIV・HBVの治療効果評価モデルをがん治療に実装する基盤となる。

残された課題: 今後の検討として最重要な課題は、非変異性耐性の根源である薬剤耐性パーシスター細胞とがん幹細胞を根絶するための治療標的の同定と薬剤開発である。これらの細胞は静止状態にあるため増殖依存的な既存治療の効果が及びにくく、エピジェネティック修飾薬・微小環境阻害薬・免疫療法の組み合わせ探索が今後の研究課題として残された。また、多剤併用療法に伴うtoxicityマネジメント—単剤の用量・スケジュールを前提とした開発では見えにくい副作用の組み合わせ—も、臨床開発上のlimitationとして認識する必要がある。さらに、異なる製薬企業間での特許を越えた共同開発体制の構築、CML PCRアッセイやHIVウイルス量測定に匹敵する固形癌向け高感度腫瘍量モニタリング技術の開発、そして抗菌薬の精密診断における更なる検討による narrow-spectrum 使用の推進は、future researchとして優先的に取り組むべき課題である。

方法

本論文はナラティブ・パースペクティブ形式のレビューであり、システマティック・レビューではない。感染症学(Glickman MS、結核研究、Memorial Sloan Kettering Cancer Center感染症・免疫学部門)と腫瘍学(Sawyers CL、CML・イマチニブ研究者、MSKCC腫瘍学・病態生理学部門・Howard Hughes Medical Institute研究員)という異分野の著者2名が共同で執筆した。PubMed/MEDLINEおよびCochrane Libraryを含む主要な学術検索データベース(検索カットオフ2011年12月)を用い、感染症治療とがん治療における薬剤耐性メカニズム・多剤併用療法の成功事例・分子標的療法の耐性に関する文献を広く対比解析した。引用した主要臨床試験はKaplan-Meier法とlog-rank検定による生存解析およびCox比例ハザードモデルを採用した試験を優先的に参照した。

解析対象として、結核の歴史的臨床試験(British Medical Research Council 1947-1952年)、HIVのHAART確立試験(Gulick et al. 1997、Hammer et al. 1997)、CMLにおけるイマチニブ長期追跡(Hughes et al. 2010のIRIS (International Randomized Study of Interferon and STI571) 試験、Hochhaus et al. 2009)、B型肝炎の核酸アナログ単剤長期フォローアップ(Chang et al. 2006、Marcellin et al. 2008、Lok and McMahon 2009)、がんパーシスター細胞(Sharma et al. Cell 2010)、系統転換(Sequist et al. SciTranslMed 2011)を含む。耐性出現確率の数学的モデルでは、各薬剤の独立した耐性変異頻度の積として多剤併用時の耐性出現確率の劇的な低下を理論的に示した。HIVにおける1日あたり10^10個の新規ビリオン産生(Perelson et al. 1996)という数値と耐性変異率の組み合わせから、単剤療法下での急速な耐性クローン選択の必然性を定量的に論じた。