• 著者: Young Lim Choi, Manabu Soda, Yoshihiro Yamashita, Toshihide Ueno, Junpei Takashima, Takahiro Nakajima, Yasushi Yatabe, Kengo Takeuchi, Toru Hamada, Hidenori Haruta, Yuichi Ishikawa, Hideki Kimura, Tetsuya Mitsudomi, Yoshiro Tanio, Hiroyuki Mano (for the ALK Lung Cancer Study Group)
  • Corresponding author: Hiroyuki Mano (Division of Functional Genomics, Jichi Medical University, Tochigi, Japan)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-10-28
  • Article種別: Brief Report (Case Report)
  • PMID: 20979473

背景

EML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4)-ALK融合型タンパクチロシンキナーゼはNSCLCの4〜5%に認められるドライバー変異であり、染色体2番短腕内の微小逆位によって生成される (Soda et al. Nature 2007)。EML4のcoiled-coilドメインを介した恒常的二量体化がALKの持続的活性化と発癌シグナルをもたらし、EML4-ALK発現トランスジェニックマウスでは生後まもなく肺腺癌が多発し特異的ALK-TKI (チロシンキナーゼ阻害剤) 経口投与によって急速に消退する。こうした前臨床的根拠に基づき、crizotinib (PF-02341066) などのALK/MET両標的TKIの臨床応用が進められ、crizotinibはA8081001第I相試験 (NCT00585195) においてEML4-ALK陽性NSCLCに対する顕著な奏効を示した。EGFR変異NSCLCではgefitinibが有意なPFS改善をもたらすことが示され (Mok et al. NEnglJMed 2009)、ALK-TKIにも類似の有効性が期待された。

しかしながら、TKI治療においては初期奏効後の獲得耐性が共通の臨床問題となっていた。EGFR変異NSCLCではgefitinib/erlotinib使用中にEGFR T790M二次変異が高頻度に発生することが報告され (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005)、さらにT790M以外にもEGFRキナーゼドメインへの追加変異が獲得耐性を駆動することが示されていた (Pao et al. PLoSMed 2005)。BCR-ABLを標的とするimatinibでも治療中にT315Iをはじめとするkinase domain変異が出現して多剤耐性を生じることが確立されており、TKIによる選択圧が「gatekeeper」変異などの二次耐性変異を誘導するという普遍的機序が提唱されていた。しかし2010年時点では、ALK-TKI治療中の実際の腫瘍検体から獲得耐性変異を同定した報告は皆無であり、EML4-ALK陽性NSCLCにおけるcrizotinib耐性機構の知見は著しく「不足」していた。本研究はこのgap in knowledgeを埋める最初の症例報告として位置づけられる。

目的

Crizotinib (250 mg 1日2回、A8081001試験 NCT00585195) に5ヶ月間奏効した後に再燃したEML4-ALK variant 1陽性NSCLC患者の治療前喀痰および再発後胸水検体を対象に、EML4-ALK cDNAのdeep sequencingおよびSanger sequencingを実施してALK-TKI耐性を付与する二次変異を同定し、BA/F3細胞系を用いた機能実験によりcrizotinibおよびPDD (2,4-pyrimidinediamine derivative) への耐性を実証すること。

結果

Deep sequencingによるALKキナーゼドメイン二次変異の同定: 治療前喀痰検体のEML4-ALK cDNAでは既知SNP (single nucleotide polymorphism) rs3795850のみが検出され、kinase domainに新規変異は認められなかった (Supplementary Table 2)。一方、再発後胸水検体では2つの新規変異が同定された。ALK cDNA position 4374のG→A変換はアミノ酸1156番のcysteine→tyrosine置換 (C1156Y) に相当し、頻度41.8%で検出された。ALK cDNA position 4493のC→A変換はアミノ酸1196番のleucine→methionine置換 (L1196M) に相当し、頻度14.0%で検出された (Fig. 1)。喀痰検体でのみ8.9%の頻度で検出された4230T→Cは後のSanger確認でartifactと判定された。なお内在性野生型ALK mRNAは肺組織に低レベルで存在するが (既報)、PCRにはEML4 cDNA特異的primerを用いたため野生型ALK由来配列の混入は排除されている。

Sangerシーケンシングによる変異確認と独立サブクローンの実証: 胸水由来のEML4-ALK cDNA 73クローン (n=73) について解析した結果、C1156Y変異を有するクローンが34/73 (46.6%)、L1196M変異を有するクローンが11/73 (15.1%)、いずれの変異も保有しないクローンが28/73 (38.4%) であった (Fig. 1)。重要なことに、C1156YとL1196Mの両変異を同一クローン内に有するものは皆無であり、両変異が腫瘍内の独立したサブクローンでそれぞれ発生したことが実証された。ゲノムDNAのシーケンシングでも両変異の存在が確認され、cDNA解析上のartifactではなく真のゲノムレベル変異であることが証明された (Supplementary Fig. 4)。この結果は腫瘍がcrizotinib選択圧下で少なくとも2系統の独立した耐性サブクローンを形成したことを示す。

BA/F3細胞を用いたALK阻害剤への機能的耐性の実証: BA/F3細胞機能実験では、primary EML4-ALK発現細胞がcrizotinibに濃度依存的な増殖抑制を示したのに対し、C1156YおよびL1196M変異体はいずれも顕著な耐性を示した (Fig. 2A)。crizotinib耐性の強さはL1196M > C1156Yの順であった (Supplementary Fig. 5)。PDD (ALK IC50 < 10 nM、in vitro) に対してもC1156Y・L1196M変異体は共に耐性を呈したが、PDDに対してはC1156Y > L1196Mという逆のパターンを示し、inhibitor-dependentな耐性プロファイルの差異が明確となった (Fig. 2A, Supplementary Fig. 6)。免疫ブロット法ではcrizotinibがprimary EML4-ALKのY1604チロシンリン酸化を強力に抑制したのに対し、C1156Y・L1196M変異体ではほとんど抑制されなかった (Fig. 2B)。PDDも同様にprimary形では濃度依存的なリン酸化抑制を示したが変異体での効果は著明に減弱した (Fig. 2C)。In vitroキナーゼアッセイではcrizotinibによるprimary EML4-ALK酵素活性抑制が最も顕著であり、C1156Yで中等度、L1196Mで著明な耐性が示された (Fig. 2D)。

変異位置の構造的意義: ALKキナーゼドメインの予測結晶構造を参照すると (Fig. 3)、L1196はATP結合ポケット底部に位置し、BCR-ABLのT315・EGFRのT790に相当するいわゆる「gatekeeper」位置に一致する。嵩高い側鎖を持つアミノ酸 (今回のL→Mではメチオニン) がこの位置に導入されると多くのTKIのATP競合的結合が立体的に妨害される (Supplementary Fig. 7)。近縁のNPM-ALKでもgatekeeper位置へのメチオニン人工導入がALK阻害剤耐性を付与することがLuら (Biochemistry 2009) により報告されており、本症例のL1196Mと一致する。一方C1156は予測αCヘリックスのN末端側に隣接しATP結合ポケット上端に位置する。これまでの研究ではがん検体の他のチロシンキナーゼでこの部位の活性化変異は報告されておらず、C1156YはALKに固有の新規な耐性変異位置と考えられる (Fig. 3)。αCヘリックスがセリン-スレオニンキナーゼのアロステリック調節に重要であることから、C1156YがアロステリックなメカニズムによりTKI結合を干渉する可能性が示唆された。

考察/結論

本報告はEML4-ALK陽性NSCLCにおけるcrizotinib獲得耐性の機序として、実腫瘍検体からALKキナーゼドメイン二次変異を初めて実証した画期的な症例報告である。単一症例の深部分子解析から、腫瘍内多様性と薬剤選択圧による耐性進化という普遍的原理がALK-TKI治療においても作動することが明示された。

これまでの研究との相違: 既報においてBCR-ABL T315I・EGFR T790Mのgatekeeper変異取得がTKI獲得耐性の主要メカニズムとして確立されていたのに対し、EML4-ALKにおける同様の現象は本症例以前には実腫瘍で実証されていなかった。L1196Mの位置はABL T315・EGFR T790と対照的なまでに相同であり、「gatekeeper普遍的耐性機構」がALKにも適用されることを直接的に示している。NPM-ALK人工変異実験という既報のin vitro予測が本症例という in vivo観察によって完全に検証された点も重要な意味を持つ。

新規性: 本研究で初めて実腫瘍から同定されたC1156Yは、これまで報告されていないαCヘリックスN末端側隣接位における novel な耐性変異である。gatekeeper位置のL1196Mとは異なるアロステリック干渉機序による耐性を示唆し、ALK-TKI耐性に複数の独立した分子機序が存在することを本研究で初めて示した。また両変異が独立したサブクローンで同時発生するという「polyclonal resistance」様式も、腫瘍内クローン多様性の観点からALK-TKI耐性に関する新規の発見である。この様式はcrizotinib選択圧下で複数の耐性細胞集団が競合・共存しうることを示唆し、後の耐性機序多様性研究の概念的出発点となった。

臨床的意義: 本知見の臨床的意義として第一に、crizotinib耐性再発時の再生検と胸水等の液体検体を用いた分子プロファイリングの重要性が挙げられる。C1156YとL1196Mのcrizotinibとに対する交差耐性、およびPDD感受性プロファイルの差異 (C1156Y > L1196M) は、耐性変異の種別に応じた次治療ALK-TKI選択の必要性という臨床的含意を示す。実際に本研究は臨床現場における第2・第3世代ALK-TKI (ceritinib、alectinib、brigatinib、lorlatinib) の開発において、各変異に対する阻害プロファイルの差異化設計の先駆的根拠となった。L1196M (gatekeeper) とC1156Y (αCヘリックス隣接) という2つの異なる位置の変異がcrizotinibとPDDに対して逆転した感受性パターンを示すことは、精密医療的アプローチ、すなわちbench-to-bedsideの観点で次世代ALK阻害剤の構造設計に直結する重要な情報であった。

残された課題: 今後の課題として、本症例では治療前の胸水検体が入手できなかったため、C1156Y・L1196M変異を持つサブクローンが治療開始前から微量に存在していたのか (pre-existing subclone)、crizotinib治療中にde novoに発生したのか (true acquired mutation) を判別できなかったことがlimitationである。さらに更なる検討として、ALKキナーゼドメインのC1156Y・L1196M変異を有する結晶構造の実測による阻害剤結合干渉機序の構造的解明、本症例の1例に基づく結論の症例集積による一般化、および他のALK耐性機構 (コピー数増幅・bypass pathway活性化等) との組み合わせの評価も今後の重要な研究課題として残された。本報告はその後のKatayama 2012・Doebele 2012・Gainor 2016等による多様なALK耐性変異同定研究の端緒となり、現在のALK陽性NSCLC治療戦略に不可欠なprecision oncologyパラダイムの形成に貢献した。

方法

症例の概要:対象は28歳男性の非喫煙者で、2008年4月にstage T4N3M1の肺腺癌と診断された。EGFR変異は陰性であり、3種類の2剤化学療法レジメン計6サイクルに不応であった。2008年11月に喀痰のRT-PCR (reverse transcription-PCR) によりEML4-ALK variant 1 mRNAの発現が確認された。右肺門腫瘤・縦隔リンパ節腫大・無気肺・大量右胸水を認め、A8081001試験 (ClinicalTrials.gov: NCT00585195) にcrizotinib 250 mg 1日2回で登録した。開始1週以内に症状が顕著に改善しpartial responseが得られた (右胸水は残存)。治療開始5ヶ月後に腫瘍が急速再燃して右胸水が急増し両肺に新病変が出現したため、2009年5月25日に試験を離脱した。再発時の右胸水検体を分子解析に供した。

Deep sequencing: 治療前喀痰標本および再発後胸水標本からEML4-ALK cDNAを調製し、Illumina Genome Analyzer IIを用いた高カバレッジシーケンシングを実施した。検出感度の評価にはJAK3 (Janus kinase 3) V674A変異を内部対照として用い、最大検出感度は6.50×10^5 total reads中1 mismatched read以内であることを確認した (Supplementary Table 1)。

Sanger sequencingによる確認: EML4 cDNA上流primerを用いた融合cDNA特異的PCRで増幅後、73クローンについてSanger sequencingを実施した。また変異位置を含むゲノムDNA断片をPCR増幅後にシーケンシングし、変異がゲノムレベルで確認された (Supplementary Fig. 4)。

機能解析: マウスインターロイキン-3 (interleukin-3, IL-3) 依存性細胞株BA/F3に、primary EML4-ALKまたは二次変異型EML4-ALK (C1156YもしくはL1196M) を個別に発現させた。5×10^5個の細胞を指定濃度のcrizotinibまたはPDDに48時間曝露後の細胞生存率をvehicle (dimethyl sulfoxide) のみで培養したprimary EML4-ALK発現細胞に対する割合として算出し、3回の独立実験の平均値 (mean ± SD) として表示した。抗Flag抗体免疫沈降後に抗リン酸化ALK (Y1604) 抗体を用いた免疫ブロット法でリン酸化を評価し (Fig. 2B, 2C)、さらに [gamma-32P]ATP・合成基質ペプチドを用いたin vitroキナーゼアッセイも実施した (Fig. 2D)。ALKキナーゼドメインの予測結晶構造はBossiら (Biochemistry 2010) の既報をもとに変異位置を可視化した (Fig. 3)。