- 著者: Ahmed N, Brawley VS, Hegde M, Robertson C, Ghazi A, Gerken C, Liu E, Dakhova O, Ashoori A, Corder A, Gray T, Wu MF, Liu H, Hicks J, Rainusso N, Dotti G, Mei Z, Grilley B, Gee A, Rooney CM, Brenner MK, Heslop HE, Wels WS, Wang LL, Anderson P, Gottschalk S
- Corresponding author: Stephen Gottschalk (smgottsc@txch.org)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 25800760
背景
転移性・再発性肉腫は、骨肉腫・Ewing肉腫・横紋筋肉腫・滑膜肉腫・硬化性小円形細胞腫瘍 (DSRCT: desmoplastic small round cell tumor) などを含む多様な悪性疾患群であり、局所疾患の場合は治癒が期待できるものの、進行期・転移・再発例の予後は依然として不良である。高用量化学療法による自家幹細胞救済療法を含む積極的治療が探索されてきたが、標準化学療法と比べて有意な生存利益は示されていない (Meyers 2004、Linch 2014)。この状況から、従来療法とは異なる機序で殺傷効果を発揮する免疫療法が新たな治療戦略として注目されていた。
キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) を発現するT細胞療法は、CD19陽性血液腫瘍に対して顕著な有効性を示す初期臨床試験が続いた (Porter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013)。しかし固形腫瘍に対するCAR-T細胞の臨床経験はきわめて手薄であり、神経芽腫などにおける小規模試験 (Pule et al. NatMed 2008) にとどまり、適切な投与量や安全性を体系的に評価した試験が gap in knowledge として存在していた。
HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) は骨肉腫を含む各種肉腫で発現するが、乳癌とは異なりHER2遺伝子座の増幅は伴わないため、トラスツズマブなどのMAb (monoclonal antibody) が奏効するほどの高発現ではない。前臨床研究では、低〜中等度のHER2発現腫瘍でもHER2-CAR T細胞が骨肉腫の腫瘍始原細胞を含む腫瘍細胞を効率的に殺傷できることが示されていた。しかし2010年、トラスツズマブ由来のscFv (single-chain fragment variable) と第3世代シグナリングドメイン (CD28.CD137.ζ) を持つHER2-CAR T細胞を1×10^10個 (リンパ球除去化学療法後にIL-2とともに) 投与された患者が急性呼吸不全で死亡した事例 (Morgan et al. MolTher 2010) が報告され、HER2標的CAR-T細胞の安全性に重大な懸念が生じた。この致死的事例を受け、固形腫瘍患者に対してCAR-T細胞を安全に投与できる用量範囲を確立するための体系的な用量漸増臨床試験が不足していたことが、本試験設計の直接的な契機となった。
目的
再発・治療抵抗性HER2陽性肉腫患者を対象に、FRP5 (anti-HER2 scFv clone) 由来の細胞外ドメインとCD28.ζシグナリングドメインを持つ第2世代HER2-CAR T細胞 [FRP5-CD28.ζ (anti-HER2 CAR with CD28 costimulatory domain)] を単剤・超低用量から漸増投与するPhase I/II試験を実施する。Morgan症例との設計上の差異 (異なるscFv、第2世代CAR、リンパ球除去なし、IL-2なし) を用いて安全性・体内持続性・腫瘍部位への集積・抗腫瘍活性を評価し、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の安全な投与量範囲を確立することを目的とした。
結果
最大用量まで用量制限毒性ゼロ — 多サイトカイン上昇なしの高安全性:
n=19例全例においてHER2-CAR T細胞投与は忍容性良好であり、用量制限毒性 (DLT: dose-limiting toxicity) は認められなかった。CAR-T細胞投与に起因する有害事象はDL8 (1×10^8/m²) の患者16のみで、投与12時間以内に発熱 (Grade 1相当) が生じたがイブプロフェン単独で速やかに解熱した (Table A2)。血液毒性は貧血 (Grade 1: 42.1%、Grade 2: 5.3%)、白血球減少 (Grade 1: 26.3%)、好中球減少 (Grade 1: 21.1%) が認められたが、これらはT細胞投与前の化学療法の影響と解釈された (Table A2-A3)。
血漿サイトカイン13種の多重測定では、IL-8のみが投与1週後 (p=0.028)、2週後 (p=0.006)、4週後 (p=0.001) に有意上昇し、これが4週後まで持続した (Fig 1)。IFNγ、TNFα、IL-6を含む他の12種のサイトカインに有意変化は認められなかった。特にMorgan症例で致死的となったようなサイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) 様の多サイトカイン急上昇パターンは観察されなかった。投与6週後の心機能検査ではLVEFは全例で投与前値と同水準に維持されており、HER2発現心筋細胞への毒性は認められなかった。
用量依存的体内持続と腫瘍部位への選択的集積:
DL3 (1×10^5/m²) 以上での評価可能n=16例のうち、投与3時間後の末梢血qPCRにてn=14例 (87.5%) にHER2-CAR T細胞が検出された (中央値6.5 copies/μg DNA、範囲0〜944 copies/μg DNA)。コピー数は投与細胞数と有意に相関した (Fig 2D)。3時間後から急速に減少したが、>1×10^6/m²を投与した評価可能n=9例のうちn=7例 (78%) で投与6週後まで持続が確認された (≤1×10^6/m²投与群との比較でp=0.002、Fig 2E)。長期追跡では、3ヶ月時点でn=4/13例、6ヶ月でn=3/7例、9ヶ月でn=1/2例、12ヶ月でn=0/5例、18ヶ月でn=1/2例に末梢血でのHER2-CAR T細胞が検出可能であった (Fig 2F)。持続性は投与細胞数と相関したが、CD4+T細胞の含有率やセントラルメモリー表現型の比率とは相関しなかった。5例が2回以上の投与を受けたが各投与後の持続パターンは初回と同様であり、累積的な蓄積は認められなかった。ヒト抗マウス抗体 (HAMA: human anti-mouse antibody) は投与6週後時点では全例で陰性であり、murine scFvに対する短期的な免疫原性問題は認められなかった。
腫瘍部位への集積については、投与9〜15週後に腫瘍切除を受けたn=5例のうち2例 (患者10: 軟部組織転移、患者18: 左大腿骨転移) で凍結組織のqPCRによりHER2-CAR T細胞が検出された (Fig 3B, 3D)。重要なのは、同時期の末梢血サンプルではqPCRシグナルが検出されなかったにもかかわらず腫瘍局所に集積していた点であり (Fig 3C, 3D)、HER2-CAR T細胞が腫瘍部位に選択的にホーミング・持続・または局所増殖していることが初めて示された。さらに免疫組織化学では2例の腫瘍内でCD3+T細胞浸潤が確認され、残り3例でも同様の浸潤が観察された (Fig 3A, 3C)。なお末梢血コンパートメントはリンパ球全体の約2%にすぎず、末梢血でのCAR-T細胞減少が治療効果のなさを意味するわけではないという重要な解釈上の視点を提供した。
臨床疾患制御と4/17例のSD達成 — 患者14での組織学的抗腫瘍活性の証明:
17例の評価可能患者のうちn=4例が安定病変 (SD: stable disease) を達成した (12週〜14ヶ月維持、Table 2)。内訳: 患者11 (OS、3×10^6/m²、15週SD後腫瘍切除、壊死なし、以後追加治療なしで6ヶ月緩解維持)、患者12 (DSRCT、1×10^7/m²、9回追加投与、14ヶ月SD維持)、患者14 (OS、3×10^7/m²、2回投与後12週SD、切除標本で≥90%壊死確認、追加2回投与後12ヶ月緩解維持)、患者18 (OS、1×10^8/m²、2回投与、12週SD後腫瘍切除、16ヶ月緩解維持) であった。特に患者14の切除標本で≥90%の腫瘍壊死が確認されたことは (Fig 4B)、HER2-CAR T細胞による直接的な抗腫瘍活性の組織学的証拠となった。
進行病変 (PD) であった患者4 (OS) は化学療法による転移リンパ節切除後に2回目のCAR-T細胞投与 (1×10^5/m²) を受け、部分奏効 (PR: partial response) が9ヶ月間持続した (Fig 4C)。SD達成3例 (患者11、14、18) は追加治療なしでそれぞれ6・12・16ヶ月の緩解を維持した。追跡中央値10.1ヶ月 (範囲1.1〜37ヶ月)、全19例のOS中央値 (median survival) は10.3ヶ月 (範囲5.1〜29.1ヶ月) であった (Fig 4A)。PFS中央値6週間に対するOS中央値10.3ヶ月という乖離は、免疫療法に特有の遅延奏効・持続効果をRECIST基準が十分に反映しきれない可能性を示唆する。Cooperative Osteosarcoma Study Group (COSS) の報告では再発骨肉腫のOS中央値は5.8〜7.6ヶ月であり (Bielack 2009、Kempf-Bielack 2005)、本試験の成績はそれに劣らない水準であった。
考察/結論
本試験は固形腫瘍患者に対してCAR-T細胞を本研究で初めて体系的かつ安全に投与できることを実証した重要な研究である。新規な設計アプローチにより致死的なMorgan症例の教訓を乗り越え、1×10^8/m²までDLT-freeで試験を完遂し固形腫瘍へのCAR-T細胞適用の基礎を確立した。
Morgan症例との比較から明らかな設計上の差異
先行研究 (Morgan et al. MolTher 2010) では第3世代CAR (CD28.CD137.ζ)、トラスツズマブ由来scFv、リンパ球除去化学療法後の大量投与 (1×10^10個)、IL-2補充の組み合わせが致死的な急性呼吸不全を引き起こした。これと異なり本試験では、(1) FRP5由来scFvを使用しHER2の別エピトープを認識させた、(2) CD137/4-1BBシグナルを含まない第2世代CAR (CD28.ζ) を採用し抗原非依存的T細胞活性化を回避した、(3) リンパ球除去前処置を省略した、(4) IL-2補充を行わなかった、(5) 最大用量をMorgan症例比2 log低い1×10^8/m²に設定した、という複合的な安全性配慮が毒性プロファイルの根本的相違をもたらした。CD19-CAR T細胞では末梢血での明確な増殖が観察される (Porter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013) が、本試験ではHER2-CAR T細胞の末梢血増殖は認められなかった。この相違はCD19がB細胞上に共刺激リガンド (CD80、CD86) とともに豊富に発現するのに対し、HER2陽性腫瘍細胞はそうした共刺激特性を持たない点、およびリンパ球除去前処置が欠如したことによる恒常性増殖シグナル不足が主因と考えられる。
新規性と科学的意義
本研究で初めて、固形腫瘍患者を対象とした体系的なCAR-T細胞用量漸増試験を通じて、安全投与量範囲 (1×10^4〜1×10^8/m²) が確立された。腫瘍部位でのCAR-T細胞検出 (末梢血不検出の時点においても) という知見は、固形腫瘍免疫療法の評価において末梢血モニタリングのみでは治療効果を過小評価する可能性を示す。患者14での切除標本における≥90%腫瘍壊死は、HER2-CAR T細胞の直接的抗腫瘍活性を組織学的に証明した初の臨床エビデンスである。これまで報告されていない知見として、用量依存的なCAR-T細胞持続性が固形腫瘍においても投与量選択の重要な決定因子となることが実証された。
臨床応用に向けた展望
これらの知見の臨床応用として、固形腫瘍全般 (肺癌・卵巣癌・脳腫瘍・乳癌など) でのHER2-CAR T細胞試験の拡大が想定される。bench-to-bedside の観点では、本試験で確立した安全投与量範囲が今後の固形腫瘍CAR-T細胞試験の出発点となる。特に安全スイッチ (誘導性アポトーシス遺伝子、DiStasi et al. NEnglJMed 2011) の組み込みで安全性をさらに高めながら、免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1/PD-L1、抗CTLA-4) との組み合わせや腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の抑制克服が有望な次のステップとして示される。また、CAR-T細胞へのケモカイン受容体 (例: CCR2b) の強制発現による腫瘍ホーミング増強や、transgenic cytokine強制発現 (armored CAR) による腫瘍局所での自律的活性化増強も有望な修飾戦略である。
残された課題と今後の検討
本試験のlimitationとして、単施設・小規模 (n=19) 試験であること、奏効率が低く (4/17例SD) 完全奏効がなかったこと、末梢血でのCAR-T細胞増殖が限定的で持続が不十分であったこと、腫瘍部位でのCAR-T細胞確認が2/5例のみにとどまったことが挙げられる。今後の検討として、(1) リンパ球除去前処置の追加 (安全性との慎重なバランスが必要)、(2) 免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせによる免疫抑制腫瘍微小環境の解除、(3) armored CARや腫瘍微小環境耐性化CAR (inhibitory CAR技術との統合) の開発、(4) より大規模なコホートでの腫瘍集積・抗腫瘍効果の確認、(5) RECISTでは捉えにくい免疫療法特有の遅延奏効・持続効果に対応した評価基準の整備、が課題として残されている。更なる検討を通じて、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の真の臨床的有用性を実現するためにはこうした複合免疫療法アプローチとの統合が不可欠である。
方法
試験デザインと患者選択
本試験はBaylor College of Medicine (ヒューストン、テキサス州) で施設内倫理審査委員会およびFDAの承認を受けて実施された (ClinicalTrials.gov: NCT00902044)。対象は再発・治療抵抗性のHER2陽性 (免疫組織化学 [IHC: immunohistochemistry] 陽性) 肉腫患者で、少なくとも1種類の従来療法が無効であること、外科的切除不能であること、Karnofsky/Lansky PS≥60、正常LVEF (left ventricular ejection fraction) を満たすことが条件とされた。登録n=19例の内訳は骨肉腫 (OS: osteosarcoma) 16例、Ewing肉腫 (ES) 1例、PNET (primitive neuroectodermal tumor) 1例、DSRCT 1例。中央値年齢17歳 (範囲7.7〜29.6歳)。全例が再発・転移の時点でT細胞投与を受け、17/19例が転移切除術 (中央値4回)、11/19例が放射線療法、18/19例が1種類以上の救済化学療法 (中央値3レジメン) を受けていた。2010年6月〜2013年3月に投与、追跡は2013年9月1日まで。
HER2-CAR T細胞の製造
末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cells) を抗CD3抗体 (一部はCD3+CD28抗体) 固相化プレートとIL-2 (100 U/mL) で活性化後、3日目にFRP5 scFvを組み込んだHER2.CD28.ζ-CARをコードするγレトロウイルスベクターで形質導入した。その後IL-2 (50〜100 U/mL) 存在下で増殖させ、製造所要日数中央値13.5日 (範囲10〜21日) で目標用量に到達した。製品特性: CD3+≥97.8% (平均99.2%)、CD3+/CD8+ 平均62.7%とCD3+/CD4+ 平均31.5%が共存、CAR発現率中央値65.2% (範囲36.2〜88%)。クロム-51放出細胞傷害性アッセイでHER2陽性標的細胞 (NCI-H1299、LM7) に対する特異的細胞傷害活性を確認 (p<0.001 vs 非形質導入T細胞)、HER2陰性標的細胞 (K562、MDA-MB468) に対しては殺傷活性なし。
投与プロトコールと評価
8段階の用量レベル (DL1〜DL8): 1×10^4、3×10^4、1×10^5、1×10^6、3×10^6、1×10^7、3×10^7、1×10^8/m²。リンパ球除去化学療法なし・IL-2補充なしの単剤投与。DL1に3例、DL2〜7に各2例、DL8に4例を登録し、最大耐用量 (MTD: maximum-tolerated dose) の決定にはmodified continual reassessment methodを用いた。安全性評価として血漿サイトカイン13種 (GM-CSF、IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-13、TNFα) を多重測定パネルで投与3時間後、1・2・4・6週後に定量した。体内動態評価はPBMCのqPCR (FRP5特異的プライマー、TaqManプローブ) で定量的に追跡した。奏効評価はRECIST基準に基づくCT/MRI/PETを投与6週後に実施した。統計解析はt検定またはFisher’s exact test (群間比較)、Kaplan-Meier法 (生存曲線) を使用した (p<0.05を有意とした)。