- 著者: Migden M.R., Rischin D., Schmults C.D., Guminski A., Hauschild A., Lewis K.D., Chung C.H., Hernandez-Aya L., Lim A.M., Chang A.L.S., Rabinowits G., Thai A.A., Dunn L.A., Hughes B.G.M., Khushalani N.I., Modi B., Schadendorf D., Gao B., Seebach F., Li S., Li J., Mathias M., Booth J., Mohan K., Stankevich E., Daniels G.A., Schulze J., Gyorki D.E., Yuan Y., Lowy I., Fury M.G.
- Corresponding author: Migden M.R. (University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 29863979
背景
進行性または転移性の皮膚扁平上皮癌 (CSCC) は、切除不能あるいは放射線・手術の適応がない場合、有効な全身療法がほとんど存在しなかった。従来の白金製剤ベース化学療法は奏効率が低く、持続的な奏効は期待しにくい状況であった。CSCCは紫外線曝露による高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有し、PD-L1の発現も高頻度であることから、PD-1阻害剤が有効である可能性が示唆されていた。免疫抑制状態の患者におけるCSCCのリスクが劇的に増加することも、免疫監視がCSCCの予防に重要であることを示唆している。これまでのところ、進行CSCCに対するPD-1阻害薬の有効性と安全性に関する大規模な臨床データは不足しており、新たな治療選択肢の開発が喫緊の課題であった。特に、高親和性抗PD-1モノクローナル抗体であるcemiplimabの第1相用量漸増試験において、転移性CSCC患者で深く持続的な奏効が観察されたが、その有効性の詳細な評価は未解明であった。皮膚扁平上皮癌の変異負荷が高いことは、免疫チェックポイント阻害薬への感受性を高める可能性があることが Rizvi et al. Science 2015 や McGranahan et al. Science 2016 の研究で報告されており、また、ミスマッチ修復欠損腫瘍におけるPD-1阻害薬の奏効は Le et al. NEnglJMed 2015 によって示されているが、CSCCにおけるPD-1阻害薬の有効性に関する大規模なデータは不足していた。
目的
進行CSCC(転移性および局所進行性)患者を対象に、cemiplimab(3 mg/kg、2週ごと)の奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) および安全性を、第1相拡大コホートおよび第2相試験において評価することを目的とした。
結果
第1相拡大コホートにおける奏効率と疾患制御: 転移性CSCC患者26例を対象とした第1相拡大コホートにおいて、cemiplimabの客観的奏効率 (ORR) は50% (95% CI, 30-70) であった(Table 2)。奏効が確認された13例のうち、7例 (54%) で奏効期間が6ヶ月を超え、データカットオフ時点で12例 (92%) が奏効を継続していた。疾患制御率 (DCR) は65% (95% CI, 44-83) であった。奏効までの観察期間中央値は2.3ヶ月 (範囲, 1.7-7.3) であった。このコホートでは、追跡期間中央値11.0ヶ月であった。
第2相転移性CSCCコホートにおける奏効率と長期成績: 転移性CSCC患者59例を対象とした第2相試験において、独立中央判定によるORRは47% (95% CI, 34-61) であった(Table 2)。完全奏効 (CR) が4例 (7%)、部分奏効 (PR) が24例 (41%) に認められた。疾患安定 (SD) を含めた持続性疾患制御率 (durable disease control rate) は61% (95% CI, 47-74) であった。奏効までの観察期間中央値は1.9ヶ月 (範囲, 1.7-6.0) であった。追跡期間中央値7.9ヶ月の時点で、無増悪生存期間中央値および全生存期間中央値はいずれも未到達であった。12ヶ月時点の無増悪生存率推定値は53% (95% CI, 37-66) であり(Figure 3)、12ヶ月時点の全生存率推定値は81% (95% CI, 68-89) であった。サブグループ解析では、遠隔転移患者45例中22例 (49%; 95% CI, 34-64) および領域転移患者14例中6例 (43%; 95% CI, 18-71) で奏効が認められ、同様の有効性が示された。
奏効持続性: 第2相試験において、奏効が確認された28例のうち、16例 (57%) で奏効期間が6ヶ月を超過した。データカットオフ時点で、奏効例の23例 (82%) が奏効を継続しており、cemiplimabの投与も継続されていた(Figure 2B)。奏効持続期間中央値は未到達であり、多くの患者で持続的な奏効が示された。奏効までの期間中央値は1.9ヶ月と比較的短く、迅速な治療効果が期待できることが示唆された。
安全性プロファイル: 第2相試験の転移性CSCCコホートにおいて、全グレードの治療関連有害事象 (TRAE) は全患者 (100%) に認められた(Table 3)。最も頻度の高かった有害事象(発現率15%以上)は、下痢 (27%)、疲労 (24%)、悪心 (17%)、便秘 (15%)、発疹 (15%) であった。グレード3以上のTRAEは25例 (42%) に認められた。有害事象により治療を中止した患者は4例 (7%) であった。免疫関連有害事象として、甲状腺機能低下症 (8%)、肺臓炎 (8%) などが報告されたが、全体として管理可能であった。死亡に至った有害事象は3例 (5%) であったが、これらは肺炎、原因不明の突然死、および高カルシウム血症と深部静脈血栓症の合併症によるものであり、直接的な治療関連性は不明であった。
考察/結論
本研究は、進行CSCC患者に対するcemiplimabが、転移性集団において47〜50%という高い客観的奏効率と良好な奏効持続性を示したことを報告した。この結果は、これまで有効な全身療法が限られていた進行CSCC患者にとって画期的な進歩である。
先行研究との違い: 進行CSCCは、紫外線による高頻度の体細胞変異を特徴とし、高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有するが、これは免疫チェックポイント阻害薬に対する高い感受性と生物学的に合理的な関連がある。Chalmers et al. GenomeMed 2017 や Goodman et al. MolCancerTher 2017 が示すように、高TMB腫瘍は免疫チェックポイント阻害薬に奏効しやすい。本研究で示された47〜50%のORRと12ヶ月OS 81%という成績は、従来の化学療法ではほとんど持続的奏効が得られなかったこの集団において、劇的な改善であり、これまでの治療成績と対照的である。
新規性: 本研究は、進行CSCCに対する抗PD-1抗体cemiplimabの有効性と安全性を大規模な臨床試験で初めて実証した。特に、転移性CSCC患者における高い奏効率と持続的な奏効は、これまで報告されていないものであり、新規の治療選択肢としての可能性を強く示唆する。
臨床応用: 本知見は、cemiplimabが進行CSCCの新たな標準治療となり得ることを示しており、その後の米国FDAによる転移性CSCC(2018年9月)および局所進行CSCC(2018年9月)への承認の根拠となった。これは、臨床現場における患者の治療成績を大きく改善する臨床的意義を持つ。同様の有効性は、先行するKEYNOTE-629試験(pembrolizumab)でも確認されており、抗PD-1療法が進行CSCCの標準治療として確立されたことを裏付ける。
残された課題: 今後の検討課題として、局所進行性CSCC(手術・放射線適応なし例)における有効性のさらなる精緻化が残されている。また、PD-L1発現やTMBなどのバイオマーカーによる奏効予測因子の同定、および化学療法や放射線療法との併用療法の可能性についても、今後の研究で検討する必要がある。本研究のlimitationとして、免疫抑制状態の患者が除外されているため、そのような集団におけるcemiplimabの有効性については言及できない点が挙げられる。
方法
本研究は、cemiplimabの第1相拡大コホート(REGN2810-001試験、NCT02383212)および第2相試験(Group 1、転移性CSCCコホート、NCT02760498)の結果を報告する多施設共同非盲検試験である。 第1相拡大コホートには、転移性または局所進行性CSCC患者26例が登録され、cemiplimab 3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与された。 第2相試験の転移性CSCCコホートには、転移性CSCC患者59例が登録され、同様にcemiplimab 3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与された。 主要評価項目は、独立中央判定による奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、奏効持続期間、無増悪生存期間、全生存期間、および有害事象プロファイルが含まれた。腫瘍評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づき8週ごとに実施された Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。PD-L1発現の評価も探索的に実施された。治療は最大48週(第1相)または96週(第2相)まで、あるいは許容できない毒性または疾患進行が確認されるまで継続された。統計解析にはKaplan-Meier法が用いられ、無増悪生存期間および全生存期間の推定が行われた。第2相試験では、奏効率が15%以下であるという帰無仮説を棄却するために、50例のサンプルサイズで真の奏効率が34%以上の場合に85%の検出力を持つと計算された。